今日はカンファレンス3日目、エキスポが今日から始まる。9時過ぎに会場に行くと、エキスポは11時半からだった。ワイヤレスネット接続が使えるというので利用しようと思ったらこれがなかなかつながらない。ibookを使っている連中は何の支障もなくつながっているのに、安物のワイヤレスカードを使っている自分は、電波の状態のよいところを求めてさまよう難民状態である。どうにかメールだけ読んだところでとりあえず天気のよい会場の外へ出た。近くを散歩し、エキスポが始まるころを見計らって会場へ。エキスポ自体は日本でやっているのと様子はあまり変わらない。大手メーカーのデモ展示のゲームに列ができている。日本人のグループもよく見かけた。彼らはどういうセッションに出ているのだろう。このカンファレンスでは彼らが主役で、こちらはマイナーな存在である。会場内のブースでは、3Dエンジンや開発ツールの紹介プレゼンをあちこちでやっていた。私は開発者ではないので詳しいことはさっぱりわからないが、ビジネスの構造は対して変わらないので起こっていることの類推は可能だ。会場の端の方では、キャリアコーナーがあって、大手から中小まで数十の会社が採用活動を行なっていた。大学生らしい若者たちが熱心に出展者の話を聴いている。そういえばホテルのトイレで会った気さくな黒人学生は、就職活動に来たと言っていた。彼らにとっては大事な就職活動機会なのだろう。この辺はあまり用がないので、隣のコーナーに移動すると、AOLがスポンサーのゲームコンテストをやっていた。戦略シミュレーションタイプのゲームからパズルゲームまで出展され、来場者が気に入ったゲームに投票する形式のコンテストだ。自分の好きな戦略シミュレーションゲームを中心に見た。南北戦争のシミュレーションゲームのデモが空いていたのでプレイしていると、開発者が声をかけてきた。史実に沿ってかなり凝った作りなのだが、3人で開発したそうだ。3Dエンジンは出来合いのものを使っているので、開発コストはだいぶ抑えられたのだそうだ。よくよく聞くと、彼はPenn StateのIST出身だった。ゲームの操作性などにやや難ありかなと思いつつも、かなり遊べるし、Penn State卒業生ということで彼に一票入れてあげた。
3/23(火)Serious games summit Day 2
6時過ぎ起床。3時間の時差がちょうどよいことを再確認。9時過ぎにカンファレンス会場へ。遅くに行くと、もう朝飯がほとんど残っていない。ドーナツとコーヒーで軽く朝食を済ませ、開式を待つ。隣に座った体格のよいおじさんに話しかけたら、シリコンバレーのゲーム会社の社長だった。開発中のRPGを紹介してくれた。いまいちよくわからなかったが、コンセプトが新しいらしい。その隣に座っていたおじさんも教育ゲーム会社の社長だった。スペイン語学習ソフトなど出しているそうだ。反対側にいたのは、テキサスの大学のゲームデザイン教育プログラムのディレクター。向かいに座っていた若者はペンステートのISTからだった。二人とも喜びつつ情報交換。
セッションは、ウィスコンシン大の研究者二人のプレゼンでスタート。年配の教授と、Ph.D.取りたての若い研究者で、いいコンビという印象。若い方はKurt Squireといって、市販のゲームを教育の場に活用する研究ではおそらく第一人者だろう。彼の博士論文では社会科教育でCivilization III使ったらどんな学びが生じるか、というもの。プレゼンはスピード感があって、これから成功していくのは間違いないといった印象だ。「ゲームでよく遊んでいる今の子どもたちは、ラムズフェルド(国防長官)よりも戦争をわかっている」というジョークはかなり受けていた。また、ある市長の「シムシティをやったことのない都市デザイナーのデザインした都市には住みたくないが、シムシティしかしていないデザイナーの都市にも住みたくない」というコメントの引用も当を得ていた。彼の研究をフォローすれば、かなり研究がはかどりそうだ。
次のセッションは、ゲーム開発者らによる、Design Rules of Serious Gamesというテーマのパネル。この分野のゲーム開発を進めていく上でのデザインノウハウやクライアントとの連携のコツなどが議論された。次に、軍が推進するゲームプロジェクトの関係者によるパネル。America’s Armyの開発プロジェクト責任者の大佐が、このゲームが新兵募集にいかに効果的だったかということを数字を挙げて紹介していた。
昼食時、みんなネットワーキングに熱心な中、ひとりぽつんと食事を取っているひげ面の青年がいたので、彼と食事をとることにした。彼の名はEric、大学で働くプログラマーで、このセッションは自分のボスの領域だからと、セッションはまあまあだと言っている。いい機会なので、プログラマーにとって、いいプロジェクトマネジャーはどんな人かとか、ゲームの研究をやるのにどれくらい開発のことがわかっているべきかとかいろいろ質問した。彼はニコニコとして、わかりやすい言葉を選んで説明する。ネットスケープが200人のプロジェクトでブラウザ開発していたのに対して、マイクロソフトは優秀な30人でIEを作った。一人の優秀なプログラマの生産性は平均なプログラマの10~15倍で、給料はせいぜい5倍くらいだから、優秀なプログラマでプロジェクトを構成することがいかに大事かは明らかだろう?と、例を挙げて説明してくれた。また、彼の親父さんが経営していたソフトウェア会社は大手が買収されて、MBAホルダの経営者が引き継いだのだが、その経営者はそれまでのプログラマを首にして、コストの低いインドに開発拠点を移したそうだ。するとノウハウが移管されていないので、あっという間にその会社は傾いて、首にしたプログラマを高額で雇いなおした、とか、彼の話は一つのセッションに値するくらいに話が面白かった。
その後のセッションは、デジタルゲームベースドラーニングの著者で、教育ゲーム会社の社長をやっているMark Prenskyをモデレータに、Serious Gamesの取り組みをいかに普及させるかというテーマでのパネル。休憩時間にMarkに話しかけたら、私が日本人と見るや「そうですか、これはどうもどうも」と返してきた。奥さんが日本人で、片言の日本語がしゃべれるそうだ。彼の著書も奥さんが翻訳中だそうだ。自分の研究に彼のプロダクトを使いたいという申し出と、日本関連の仕事への協力を約束して、うまくつながりをつけることができた。
次はBen SawyerによるSerious Games Funding 101と題した、プロジェクト立ち上げノウハウに関するプレゼン。グラントリサーチの常識的な話が多かったのだが、彼の熱意がこもっているので聴いていてエンパワーメントされた。こういう話は、知識として知っているだけではダメで、彼のように気合を持ってやれるかどうかという性質のものだ。彼のプレゼンの後、MITのEducation Arcadeプロジェクトの教授が登壇して、5月にE3でやるカンファレンスの紹介。そっちのカンファレンスも、Sim Cityや、Civilizationのデザイナーのようなビッグネームがパネルをやるそうで、楽しみである。今回来ている参加者はみんな来るんじゃないかという勢いである。
最後のセッションは会場全体でのディスカッション。さっきのEricが、教育関連の開発をやるときはSCORMという規格があって、その対策をしないと後で面倒になるから、興味があれば話をしよう、と申し出ていた。Benが、SCORMは重要なテーマだと自分も認識しているからその申し出はありがたい、とフォローしていた。ディスカッションに続いて、Ernest AdamsによるSummation。この二日間で議論された内容をうまく引用しつつ、このサミットがいかに実り多いものであったかを解説し締めくくった。
セッションの終了後、Benをつかまえて、Serious Gamesの日本での普及を申し出ると、ぜひ頼むと言いつつ、日本人で参加している人が他にもいるので協力するといいと言っている。誰だろうと思いながら名刺交換すると、彼は何だ君だったのかと合点がいった様子で、その日本人とは私のことだった。彼は以前に私が日本事情をメーリングリストへ投稿したのを覚えていて、その調子で日本のことを紹介してくれ、と励まされた。とりあえずこのコミュニティにはまだ日本人はいないらしい。来年の今頃には、さて100人くらい仲間を増やせるだろうか。
3/22(月) Serious games summit Day 1
6時ごろ起床。早起きのようだが、ペンシルバニアだと9時ごろ。昨日やりかけの課題をもう少し進めた。出かけようとエレベータに向うと、ラウンジで朝食サービスをやっている。ホテルの会員は無料なのだそうだ。今回たまたまここのホテルチェーンのサイトが一番安かったので会員になったのだが、思わぬ厚遇。でもカンファレンスで朝飯が出るので今日は果物だけつまんで会場へ向った。会場は早くもGeekであふれかえっていて、秋葉原へ来たような雰囲気。日本人もかなり来ている様子。でもなんか話しかけづらい。ドーナツなどつまみつつ、コーヒーを飲んで開始時間が来るのを待った。
今回参加したSerious Games サミットというのは、エンターテイメント目的以外のゲーム&シミュレーションの普及を目指す人たちの会合。この分野の主要な研究者が顔をそろえている。ゲーム開発者、研究者、スポンサー、ユーザーそれぞれから出てきている。大学関係者の割合が多い。この分野の一番のスポンサーは米軍で、軍関係のプロジェクトの人たちも結構来ている。大学生とかはあまりいない様子で、この会場だけ平均年齢がずいぶん高い。会場の前半分が円卓席になっていたのでそちらに陣取った。隣に座ったいい面構えの若者と目が合って、挨拶した。彼の名はWilliam。コロンビア大でインストラクショナルテクノロジーを学ぶ大学院生。こちらと似たような立場である。このコミュニティのアクティブメンバーらしく、いろんな人を知っている。彼もビッグネームのそろったこのセッションに期待があふれている様子だ。会話が弾むほど英語ができないのが残念。
ホストでこのコミュニティ主宰者のBen Sawyerが壇上に立ち、挨拶とSerious Gamesの現状についてのブリーフィング。彼は大学経営シミュレーションVirtual U開発プロジェクトのリーダーで、そのプロジェクトを通していろいろなノウハウを身につけてきたようだ。彼はもともとリーダー気質なのだと思うが、ここまでの成功の積み上げからくる自信と、さらにこのイベントを成功させようという強い意志がにじみ出ていた。
会場は200人以上入っていて満員御礼。予想以上に盛り上がっている。ゲーム開発者カンファンレンス内で実施したのも功を奏したのだろう。近くにオフィスを構えているというゲーム開発者も何人か見かけた。午前のセッションは医療福祉系の財団、米政府法務省など、Serious Gamesを開発したクライアント側がパネルになってのディスカッション。Serious gamesで何をやろうとしたか、プロジェクトの様子はどうだったか、将来のプロジェクトではパートナーたちに何を求めるかなどの議論が行なわれた。昼食をはさんでの午後いちのセッションは、分科会方式でテーマごとにテーブルを囲んでのグループディスカッション。私は「今後の研究課題検討」グループに参加。インストラクショナルデザイン系、認知科学系、ゲームデザイン系の大学教授たちと、数人のゲーム開発者がいた。心理的影響、身体的影響、学習効果測定などのテーマ出しを行なって、それぞれについて議論した。
休憩時間中に、日本人が二人、話しかけてきた。一人はゲーム関係のライターの人で、もう一人は東大の院生だった。いずれも興味本位でちょっと顔を出してきたという感じ。それ以外に日本人は見かけなかった。本格的にこの分野で研究しようという人にもっと出てきてもらいたい。ゲーム大国日本がこの分野の盛り上がりを共有できないのは残念だ。
休憩を挟んで、事例発表。消防士訓練、ロンドンタクシー運転手の語学訓練、恐怖症治療、ホームデザイン啓蒙、軍の作戦遂行訓練、テロ対策、ハワードディーンの選挙運動といった、数々のゲーム&シミュレーションが紹介され、いずれもかなりの成果を挙げている。ゲームが組織の問題解決ツールとして有効であるということが示された。そのあと、マイクロソフトのゲーム部門のGMだった人がAge of Empireやフライトシミュレータなどの数々の成功作の開発に関する話と、マイクロソフトのユーザーテストの特徴など。Age of Empireは私がこの分野に目を向けた最初のきっかけみたいなものだったので、その開発者である彼の話を聴けたのにはかなりしびれた。
Benのまとめで今日のセッションは終了。盛りだくさんで疲れた。何人かの開発者や研究者の知り合いができた。ホテルに戻ると、またラウンジで今度は夕食サービスをやっている。酒まで出ている。まじでタダなのかと聞くと、この階の客はみんなタダで利用できますよと、気さくなフィリピン人の女性従業員がニコニコと答える。今日はあまり客がいないらしく、好きなだけ部屋に持っていけという。赤ワインとハイネケン、リブにサンドウィッチをいただいた。夕飯はこれで十分だ。ありがたい。まだ引っ張っている授業の課題を進めつつ夕食をとった。ネット接続ができたので、メールを読んだら、課題の出ている授業の講師から、金曜まで延期のオファーが出ている。ありがたい。安心したところで、別のホテルでカンファレンスの参加者が集まっているというのでのぞいてみた。豪華なホテルのラウンジが、Geekの溜まり場になっている。残念ながら、ちょっと時間が遅かったため、Serious gamesの人たちはもうあまり見かけなかった。帰り道にシーフードレストランがあったので、牡蠣を食べに立ち寄った。さすがIT成金の多いシリコンバレー、レストランはやや高め。違った6種類の産地の生牡蠣サンプラーと、白ワインを頼んだ。牡蠣は産地で味が微妙に違う。身の大きさはずいぶん違う。というかそれは個体差もあるか。満足してホテルに戻った。気候がよくて外を歩くのが心地よかった。
3/21(日) San Joseへ
10時前の飛行機に間に合うように、8時ごろ起床し、旅行の支度をして空港へ。State College~Pittsburgh~Dayton~Chicago~San Joseと、空港の職員から「ずいぶん変なルートで行くのね」と言われるような3回乗り換えのルートをたどった。途中、雪のために遅れが出たので3時間ほど待たされた。約15時間後にカリフォルニア州San Joseへ到着。ホテルはダウンタウンのど真ん中、コンベンションセンターの斜め前の便利なところにあった。着いてみて、ここはシリコンバレーなのかと気づいた。シリコンバレーとSan Joseは、自分の頭には日本語で記憶されていたためか、英語ではつながってなかったらしい。
夕飯をまだ済ませてないので何か食べようと思って外に出たが、日曜の10時過ぎではどこもやっていない。仕方なしに売店でペットボトルの水とマフィンを買って食べた。ホテルの部屋からDSLネット接続ができるようになっているのだが、どうもつながらない。今日はあきらめて、火曜提出の課題を少し進めて寝た。
3/15(月) ISDの実証研究
昨日早く寝たので、今日は朝5時から活動開始。アシスタントの仕事で、教授やら他キャンパスの担当者やらに数本メールを書いた。面倒なトラブルになっているのだが、この手の調整業務は慣れている。この仕事、まあ興味はあるし忙しさもほどほどで、来年も続けられそうなのだが、自分としては早く資金を確保して自分の研究を始めたいので悩ましいところだ。
3時過ぎまであれこれこなして、Dr. Dwyerのリサーチデザインのクラスへ。今日はTAのドクターがリサーチのReliabilityとValidityについての解説をする回だった。どうでもよくないのだけど、自分にとってはReliabilityもValidityもなんか学校の校則みたいなもんで、積極的に学ぶ気にはあまりなれない。変数の多い教育効果の実証研究では、ハードサイエンスのように実験環境を完全にコントロールすることなどできない。実際、研究の過程では妥協も多く、無作為抽出の方法など、これっていい結果が出るかどうかはかなり運任せじゃん、っていうことも多い。しかも再現性を重視してあれこれ科学的手法を用いてやっているのだが、結局は人相手の実験なので、材料や動物を使ってやる実験のようには統制はできない。心理学や認知科学のような人相手の実験と比べても、教育内容や指導方法や学習者のレベルなど、ちょっとしたことに影響を受けやすい変数が存在していて、それらを妥当な形で統制することにかなりのエネルギーをとられる。まだ学んでいる途中なので本質が見えていないだけなのかもしれないが、どうもこういう実験研究は、研究のための研究のような感があって、ここに力を入れても教育の質を高める本質はつかめないんじゃないかという気がしている。
教育は技術であって、技術化されてなくて特定の人しかできないものはアートだ。そして、普通の人が名人芸レベルに近いパフォーマンスを出すための方法論を確立したり、再現性のある技術にしたりするのが教育研究の目的だと思う。しかし、ISDの実証研究の中には、アニメーションは教育効果を高めるか、とか、メディアは教育効果に影響するか、とか、そんなのやり方次第じゃないか、と言いたくなるような命題を立てて多くの研究者が研究している。たしかにそうした研究から意味のある研究成果も得られるだろう。でもそれだけでは教育の質を高めるための研究は完結しないと思う。この部分が今自分がこの分野の研究に対して感じている違和感の一番大きいところのような気がしている。
教育研究者とゲーム
毎日新聞のWebサイトMainichi Interactiveのゲーム関連ニュースは結構充実していてたまに読むと結構面白いニュースが出ていたりする。今日はそのページではないのだが、毎日のサイトでオンラインゲームに関して教育研究者と称する人が書いた記事を読んだ。
ひきこもりに大流行の兆し インターネットゲーム
教育研究者を自称して、全国紙にこういう記事を出すのはやめてもらいたいと言いたくなるような低レベルの内容である。オンラインゲームがひきこもりを助長するということがその趣旨なのだが、研究者を名乗りながらもアプローチがまるで分析的ではなく、ひたすら情緒的である。人気のオンラインロールプレイングゲームをプレイして、自分の主観でよしあしを判断しているだけ。「やり始めて3カ月、私には何がおもしろいのか、さっぱり分らない。」のだそうだ。しかも結びのフレーズがこうくる。「そこには、自分よりも力の弱い者を襲い、ストレスを発散する”悪魔の心理”があった。」ルポライターがこういうものを書いているなら、別にどうでもいいのだが、この人は教育研究所所長を名乗っている。失礼ながらこういう人ほど、自分の経験の範囲外のものを理解する力がない。自分が理解できないものに「悪魔の~」とか「心の闇」とかネガティブなレッテルを貼って思考停止に陥る。分析的にものを考えられなければ、ひきこもりの子どもを助けようとしても、合理性を欠いた、民間療法的なものしか提供できないだろう。自分が思考停止するだけなら勝手にしてもらって構わないが、読者にまでそれを伝染させてしまうので有害としか言いようがない。こういう人にメディアで教育を語らせていたら、親たちはますます子どものことを理解できなくなる。
この教育研究所所長が述べるネットゲームがひきこもりを助長するというのは、現象面を一面的に捉えたに過ぎない。弱いものいじめを助長するとか、暴力性を増すというのはネットゲームがもたらすものではない。昔からある不登校やおやじ狩りは、ネットゲームによって生じたものではない。また、ネットゲームとひきこもりを結び付けているが、そうしたゲームの性質は、ネットにつながっていることとは関係がない。オンライン同時プレイの環境が、今までにないコミュニケーションスタイルを生みつつあり、それが新しい教育につながる可能性があるのだが(たとえばこういうもの)、そうした視点はこの記事にはない。逆に、この記事をゲームを知らない親などが読むと、どのゲームも暴力的で害があると曲解するだけである。これを読んで、喜んで曲解をしてしまうような親たちが彼のお客さんなのだろうが、彼らと子どもたちの距離は離れていくばかりだろう。
日本の自称教育評論家や教育研究者が「非ゲーム世代」に施したマイナスの教育は相当根が深い。しかし、ゲームが教育の敵ではなく、逆に最強の武器になり得るということを社会に示すいい例を提供できれば、流れも変わっていくことだろう。
3/5(金) スイートポテトケーキ
今日は春休み前の週末で、大学全体が気楽な雰囲気に包まれている(自分がそういう気分なので世の中がそう見えたのだが)。図書館も閑散としている。休みはどこに行くかと聞かれ、「フロリダへドライブ旅行」と答えると、みんなうらやましそうにしている。日本で言えば、沖縄旅行に行くといっているのと似たようなものだ。大学院生は半分は休みなしだ。宿題を鬼のように出す授業を取っている人は、休みどころではない。自分も独りで来ていたら休みなしで文献の山に立ち向かっていたことだと思うが、妻が人生を楽しむことを奨励する人なので、この環境を尊重すると自然と出かける機会が増える。
仕事を終えて、うちに帰ると近所の韓国人の奥さんSuk-Heeが、うれしそうにたずねてきて、何だろうと思ったら、手作りケーキのおすそ分けだった。スイートポテトのケーキで、韓国で人気だが高いのだそうだ。食べてみると、これが美味い。今までのSuk-Heeの手製ケーキの中でも最高傑作、いくら食べても効用が落ちない美味さだ。すぐまた作ってもらおう。
シミュレーションとISD
今日はデザイナーインタビューの課題の提出日でもあった。自分のはインタビュー相手に恵まれたおかげでなかなかいいプロジェクトになった。インタビューをしたクラーク・アルドリッチ氏はもともとe-learning関連のコンサルタントで、e-learningを普及させる立場にいたのだが、普及に値するいい製品がないということで、自分がいっちょお手本になる質の高い製品を作ってやろうということで、コンサル会社をやめて自分の会社を立ち上げて、リーダーシップトレーニングのシミュレーションを3年かけて開発した。彼の努力は実って、昨年のe-learningベストプロダクトに選ばれた。彼の気合は並大抵でなく、リーダーシップモデルも、シミュレーションのエンジンとなるAIも、インターフェースも、すべて一から作り上げた。既存の専門家やコンテンツはすべてリニアなコンテンツのための専門家であって、シミュレーションのような非リニアコンテンツを作るには用を足さなかったからだ。残念ながらISDの専門性も、かなりリニアな教育コンテンツの開発が前提であり、シミュレーションの開発には不十分だ。これからシミュレーションのような非リニアなコンテンツを利用した教育の重要性が増すのは自明であるから、日本で普及すべきISDはそうした非リニア性も取り入れたものにしていくべきだろう。
音楽マーケットに迫る転換期
ミュージックダウンロードはAppleのひとり勝ちという記事を読んだ。確かにこの市場はアップルがブレイクスルーを起こしたんだが、実際使ってみると、Dellと提携しているMusicmatchの方が断然よい。Penn StateがNapsterと提携して、学生用Napsterを提供しているので、そっちも試してみたが、やはりMusicmatchの方がよい。まず、インターフェースがよい。タダで聴ける曲のバリエーションも多い。試聴曲の音質がよい。無料ラジオの曲を聴いて、ほしい曲を見つけた時にスムーズに買える。月5ドルで、好きなアーティストの曲を聴き放題(曲に限りがあり、曲順は選べないという制約はあるが)というサービスも便利がよい。わざわざ買いたくないが、しょっちゅう聴きたいアーティストはいつでもパソコンで聴ける。CDに焼いたりしたい時は、1曲99セントで買うことができる。iTuneの方がイメージがいいのだが、雰囲気に飲まれて何となくiTuneユーザーになるのはもったいない。
このサービスを使っていて自分の消費者行動の変化がいくつか生じた。まず、CDはもはや第一の音楽メディアではなくなった。街のCD屋にはほとんど用がなくなった。タワーレコードが破産するのも仕方がない気がする。
購入時にアルバムという縛りがなくなった。以前は好きな曲だけ聴きたいのに、どうでもいい曲の入ったアルバムを買わざるを得なかったが、今は好きな曲だけ選んで1曲99セントで買える。これは買いやすい。買いやすくてつい買い過ぎそうになる。以前、Napsterを訴えたMetallicaというバンドは私の好きなバンドの一つなのだが、彼らはなぜか曲のばら売りをしていない(ちなみにNapsterでは1曲も売ってない(笑))。ばら売りしていればほしい曲が何曲もあるのに、これでは買えない。アルバムという作品の価値の尊重という考え方もあるが、それはファンのことを考えないアーティスト側の欺瞞というものだ。
音楽を聴く幅が広がった。FMラジオと違って、自分の聴いてみたいアーティストを名指しで選べる。テレビで見て興味を持ったら、その名前で検索すれば試聴ができる。その日の気分にあわせて音楽を選ぶのも、自分の好みのジャンル以外に手が伸びやすい。
知る限りでは、日本ではまだこの手のサービスは普及してなさそうだ。レコード業界の抵抗が強いのだろうか。ただ、もうCDや店頭でのダウンロード販売というようなサービスは、間違いなく廃れる。CD屋は早めに業態換えや撤退を考えた方がいいだろう。これはもう時代の流れだからしょうがない。CDを売るためのオンラインサービスというのも無力化するから、早めに縮小するなり、ダウンロード配信サービスに業態転換を考えた方がいい。粘っていればきっと運が回ってくるとか、客が帰ってくるとか、そういう淡い期待もしないほうがいい。一度ダウンロード販売の便利さを味わった客は、CDというメディアは単に流通業界の都合でその形を取っているだけのものだと気づいて、CD屋から足が遠のいていくだろう。この波はすぐ来る。しかも津波のようにあっという間にマーケットをさらっていく。自分のレーベルのアーティストだけ自社のウェブサイトで売るようなサービスも中途半端で、消費者行動の流れにのることはないから、それでは儲からないだろう。レコード会社にとっては、利益拡大のチャンスだが、既存の販売ルートに縛られていると、CD屋と共倒れになるだろう。
3/4(木) Chris Hoadley
今週は朝からアシスタントの仕事のメール処理をやり、落ち着いたところで課題の読書をやるというパターンが続いている。読書という作業は英語の文献なのでどうしてもスピードが遅くなる。ざーっとスキミングして授業に出るというのが続く。1年後輩に韓国人のWonseokというのがいて、木曜のChrisのEmerging Techのクラスを一緒に取っているのだが、彼も今日は宿題のウェブサイト作りに時間をとられて、まったく課題文献にまったく手がつかなかったといっている。彼に、「今日はプレステ2のゲームのデモをやるから、多分文献の議論はなくなるよ」と気休めを言ったら、実際に文献の議論はできなかった。
さて、今日は先日購入したプレステ2のEyeToyをクラスに持参し、デモをした。講師のDr. Chris HoadleyはTechnology Geekなのでノリノリなのだが、クラスメートは平均年齢が高めの、ゲームとは縁のなさそうな大学院生たちなので、みんな自分が試すのは遠慮している。たしかにこのゲームは自分がモニターに写るので、いきなり人前でやるのはやや恥ずかしい。私とChrisとで15分ほど遊んだあと、Chrisが技術解説した。かなり気に入ったらしく、今日に余裕がないことを忘れて、画像認識技術の実用化に関する話をしばらく続けた。彼いわく、「このゲームはぜひ手に入れたいが、PS2を買ってしまうとゲームをやりすぎてテニュアが取れなくなってしまうからやめておく」のだそうだ。
ChrisはComputer Supported Collaborative Learningの分野ではかなり主要な研究者であり、博識で好奇心旺盛なところにはいつも感心させられる。しかも彼は姿勢が常に支援的で、学ぶ側の意欲を引き出すのがうまい。コラボレーティブとはこういうことであると体現しているような人である。みんな居心地がよいと感じるのか、彼のプロジェクトは大人気だ。彼自身はかなり額の大きなグラントプロジェクトを回していて忙しいはずなのだが、そういうところは微塵も見せず、余裕な様子である。
Chrisと同じく、テニュアトラックの教員の中には、テニュア取得のための仕事が忙しすぎて授業がおろそかになる人もいる。一生懸命やっていても、手を抜いていたり、準備が間に合ってないのが透けて見えると受講者のモチベーションも下がる。大学院生たちも自分自身、ぎりぎりのスケジュールでやっているのでその辺りは手厳しい。その一方で、休講が多く、授業の構成も大雑把なのに、Chrisに対しては不満は起きない。今は明確な理由が思いつかないが、一つには、彼が受講者の学びを促すツボをうまくおさえているからだと思う。彼の授業は、これからの私の研究にとって、とても重要な示唆を与えてくれている。こういう学びの場を自分が提供できるようになりたいものだ。