音楽マーケットに迫る転換期

 ミュージックダウンロードはAppleのひとり勝ちという記事を読んだ。確かにこの市場はアップルがブレイクスルーを起こしたんだが、実際使ってみると、Dellと提携しているMusicmatchの方が断然よい。Penn StateがNapsterと提携して、学生用Napsterを提供しているので、そっちも試してみたが、やはりMusicmatchの方がよい。まず、インターフェースがよい。タダで聴ける曲のバリエーションも多い。試聴曲の音質がよい。無料ラジオの曲を聴いて、ほしい曲を見つけた時にスムーズに買える。月5ドルで、好きなアーティストの曲を聴き放題(曲に限りがあり、曲順は選べないという制約はあるが)というサービスも便利がよい。わざわざ買いたくないが、しょっちゅう聴きたいアーティストはいつでもパソコンで聴ける。CDに焼いたりしたい時は、1曲99セントで買うことができる。iTuneの方がイメージがいいのだが、雰囲気に飲まれて何となくiTuneユーザーになるのはもったいない。
 このサービスを使っていて自分の消費者行動の変化がいくつか生じた。まず、CDはもはや第一の音楽メディアではなくなった。街のCD屋にはほとんど用がなくなった。タワーレコードが破産するのも仕方がない気がする。
 購入時にアルバムという縛りがなくなった。以前は好きな曲だけ聴きたいのに、どうでもいい曲の入ったアルバムを買わざるを得なかったが、今は好きな曲だけ選んで1曲99セントで買える。これは買いやすい。買いやすくてつい買い過ぎそうになる。以前、Napsterを訴えたMetallicaというバンドは私の好きなバンドの一つなのだが、彼らはなぜか曲のばら売りをしていない(ちなみにNapsterでは1曲も売ってない(笑))。ばら売りしていればほしい曲が何曲もあるのに、これでは買えない。アルバムという作品の価値の尊重という考え方もあるが、それはファンのことを考えないアーティスト側の欺瞞というものだ。
 音楽を聴く幅が広がった。FMラジオと違って、自分の聴いてみたいアーティストを名指しで選べる。テレビで見て興味を持ったら、その名前で検索すれば試聴ができる。その日の気分にあわせて音楽を選ぶのも、自分の好みのジャンル以外に手が伸びやすい。
 知る限りでは、日本ではまだこの手のサービスは普及してなさそうだ。レコード業界の抵抗が強いのだろうか。ただ、もうCDや店頭でのダウンロード販売というようなサービスは、間違いなく廃れる。CD屋は早めに業態換えや撤退を考えた方がいいだろう。これはもう時代の流れだからしょうがない。CDを売るためのオンラインサービスというのも無力化するから、早めに縮小するなり、ダウンロード配信サービスに業態転換を考えた方がいい。粘っていればきっと運が回ってくるとか、客が帰ってくるとか、そういう淡い期待もしないほうがいい。一度ダウンロード販売の便利さを味わった客は、CDというメディアは単に流通業界の都合でその形を取っているだけのものだと気づいて、CD屋から足が遠のいていくだろう。この波はすぐ来る。しかも津波のようにあっという間にマーケットをさらっていく。自分のレーベルのアーティストだけ自社のウェブサイトで売るようなサービスも中途半端で、消費者行動の流れにのることはないから、それでは儲からないだろう。レコード会社にとっては、利益拡大のチャンスだが、既存の販売ルートに縛られていると、CD屋と共倒れになるだろう。

音楽マーケットに迫る転換期」への2件のフィードバック

  1. とても興味のある話です。
    インターネットの普及は従来の書店・レコード店(ほぼ死語)にとって致命的だけど、彼らも生き残りを図ろうと懸命のようです。いわゆるチェーン店ではない個人経営の「街の本屋さん・レコード屋さん」が無くなっていくのはとても複雑な気分です。代表者さんの郷里にあった某H名曲堂もとっくに店を閉めました。2軒の書店は細々と生き存えています。
    個人経営の書店は、学校など大口の顧客があるので何とかやっていけるのでしょうが、これも無くなってしまえばもう無理でしょうね。店を閉めたらどうするんだろう。
    音楽に話を戻しましょう。日本の音楽ソフト小売り業界では、まだ店頭販売が生き残ってますね。まだ日本人には「CDを買いに行く」という習慣があるようだし、CDやMDでなくカセットテープの段階でストップしている人も高齢者を中心にまだ多く残っています。
    代表者さんや私の祖父はカラオケが大好きで、時々寄ってみると歌声が聞こえてきます。使用しているハードはいまだにカラオケ用の8トラックのやつです。新しい媒体は便利とはいっても、操作方法を覚えるだけでもかなりの労力が要るので、そこまでしないのでしょう。母はようやくCDの再生ができるようにはなりました。車載ハードはカセットテープですが。
    かく言う私もMDまでで進化がストップしています。店頭でCDを買うことも時々やっているし、主にレンタルCD店で借りて編集するという作業をまだ行っています。CDよりもMDの方が小型で使い勝手がまだよいですしね。メモリスティックのウォークマンも出ているようですが、なかなか手が出せません。携帯電話と合体させたものも最近売り出されるようになりました。
    しかし、日本の場合新しい媒体の開発が急激すぎて、CD・MD・メモリスティック・カセットテープなど多くの種類のハードが乱立していて統一性がなく、使う側の能力にもまだ限界があります。パソコンで音楽ソフトをダウンロードしたり、編集してCDを焼いたりという作業ができる人は、日本の人口の中でおそらく半数にも満たないでしょう。まだビデオ録画の操作さえもできない人がいるのが現実です。すごく身近にいますよ(笑)
    高校教育の現場にも最近新しい教科「情報」が登場してました。私が専門としている現代社会という科目にも情報化社会の単元があります。
    その中に「メディアリテラシー」や「デジタルデバイド」など用語が出てきており、情報化社会の問題点・課題として取り上げられています。この問題は、経済や社会など多様な面に影響を与える社会問題として、日本でも直面しているのでしょう。
    新しい技術開発のスピードに、それを用いる側の人間の能力が追いついているとは言い切れないため、様々なミスマッチが生じています。日本の音楽業界にまだ古い販売形態が残っているのはそのためなのでしょうね。とはいえ、企業にとってはまさに転換が迫られている時期なのでしょう。
    先日、音楽業界最大手の会社で革命的な人事が起こりました。あの交代劇はまさに革命そのものでした。かつてその経営手腕で一時代を築き上げた年配の経営者が退き、新しい感性を持った若いプロデューサーがその会社のトップに立つことになり、経済の新たな流れに漕ぎ出そうとする企業の姿を見たような気がしました。
    このように、インターネットの登場は、企業や自営業者、またそこで働く人々を取り巻く環境に、さらなる急激な変革の流れをもたらしたしたといえるでしょう。全体を見渡すと、そこには様々な人間模様が見られます。
    その波に乗って大成功を遂げる者、波に乗り遅れる者、波に逆らって行こうとする者…
    しかし、この新しい流れによって、日本の経済や社会がいったいどこに向かっているんだろうと思うことがあります。
    商品の技術開発の進化、企業経営や商品流通の合理化は時代の流れなのかも知れません。たしかに1つの国や国際間のレベルでで見ようとすれば、活発な経済活動といえるでしょう。しかし、田舎に居を構え、地方の地域経済という視点で見ると、全く異なるものが見えてきます。冒頭に挙げた小規模小売店の窮状にも話がつながると思います。
    道具が便利になることによって、人々がバラ色の生活を手に入れるということも必ずしも正ではないと思うのです。
    持つ者と持たざる者の格差は様々なものさしで見ることができます。
    お金、職、時間、能力…
    利便性の高まりによって、全ての人間が幸せを手にすることは可能なのでしょうか。
    最近思っていることを含めて、ちょっと真面目に考えてみました。
    長い休暇が取れたのでチャップリンの『モダンタイムズ』を久しぶりに見ようと思います。

  2. ・雰囲気に飲まれて何となく i-Pod  のユーザーになりました。
    7月に i-Pod mini を購入しました。日本発売は、当初4月の予定だったのですが、米国市場が好調なため、日立製HDの生産が間に合わず、7月発売となったようです。日本ではいまだに、入荷に1ヶ月くらいまたされる状況が続いています。
    使用して思ったのですが、やはり i-Pod は iTuneの性能を十分に引き出せる、iTune Music Storeを利用しなければ、利便性は半減しますね。米国では1曲99セントで買えるのはうらやましい限りです。
    >日本では・・・・。レコード業界の抵抗が強いのだろうか。
    確かに、日本のレコード業界の抵抗は強いようです。既得権があって参入障壁をつくっているので、
    日本国内のネットでの音楽流通は、まだ ずいぶん先になるような感じです。
    この既得権に風穴を空けようと、日本経済新聞の記者が頑張っているような気がします。
    最近、音楽のネット流通に関する記事がよく掲載されます。
    7月24日朝刊の特集
    転調音楽ビジネス-上-
    「欧米、ネット配信に急傾斜 日本は立ち後れ」
    (24日の  i-Pod mini の日本発売を受けての記事 いかに日本がネット配信が遅れているか等)
    8月27日朝刊 3面
    「「着うた」公取委立ち入り 音楽ネット配信抱え込み揺らぐ」
    (携帯電話の着うた配信は、事実上 大手レコード会社が共同出資している配信会社が独占しており、
    新規参入を阻害しているとのこと。公正取引委員会が立ち入り調査を行った)
    この記事での日経の記者のコメントは以下の通りです。「米国ではレコード各社が楽曲を広く提供する「開放戦略」が普及。
    ネット配信の拡大がCDの低落を補いつつあるだけに、国内各社も法的な問題や外資系の動きを機に
    抱え込み戦略を見直す機運が出るかもしれない。」
    9月6日 朝刊 13面
    米 アップルコンピュータ副社長 前刀氏の  i-Pod mini のマーケッティング戦略についてのインタビュー記事
    (i-Pod mini を大きく取り上げている。 めずらしく 副社長の顔写真入りの記事。)
    音楽配信については触れていないが、ファッション性を重視した日本市場でのマーケッティング戦略について語っている。
    モデルに試用してもらい、その感想をメディアで流したことが当たったとのこと。
    前刀氏はインタビューの中で「製品を使って何ができるかより、とにかく「所有したい」と思ってもらうことに注力しました。」と語っています。
    確かに、私もこのメディア戦略にのってしまった感があります。
    実物を手にとらず、アップルのネットストアで予約受付開始日にすぐに予約を入れて、発売日に手に入れました。

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