6時過ぎ起床。3時間の時差がちょうどよいことを再確認。9時過ぎにカンファレンス会場へ。遅くに行くと、もう朝飯がほとんど残っていない。ドーナツとコーヒーで軽く朝食を済ませ、開式を待つ。隣に座った体格のよいおじさんに話しかけたら、シリコンバレーのゲーム会社の社長だった。開発中のRPGを紹介してくれた。いまいちよくわからなかったが、コンセプトが新しいらしい。その隣に座っていたおじさんも教育ゲーム会社の社長だった。スペイン語学習ソフトなど出しているそうだ。反対側にいたのは、テキサスの大学のゲームデザイン教育プログラムのディレクター。向かいに座っていた若者はペンステートのISTからだった。二人とも喜びつつ情報交換。
セッションは、ウィスコンシン大の研究者二人のプレゼンでスタート。年配の教授と、Ph.D.取りたての若い研究者で、いいコンビという印象。若い方はKurt Squireといって、市販のゲームを教育の場に活用する研究ではおそらく第一人者だろう。彼の博士論文では社会科教育でCivilization III使ったらどんな学びが生じるか、というもの。プレゼンはスピード感があって、これから成功していくのは間違いないといった印象だ。「ゲームでよく遊んでいる今の子どもたちは、ラムズフェルド(国防長官)よりも戦争をわかっている」というジョークはかなり受けていた。また、ある市長の「シムシティをやったことのない都市デザイナーのデザインした都市には住みたくないが、シムシティしかしていないデザイナーの都市にも住みたくない」というコメントの引用も当を得ていた。彼の研究をフォローすれば、かなり研究がはかどりそうだ。
次のセッションは、ゲーム開発者らによる、Design Rules of Serious Gamesというテーマのパネル。この分野のゲーム開発を進めていく上でのデザインノウハウやクライアントとの連携のコツなどが議論された。次に、軍が推進するゲームプロジェクトの関係者によるパネル。America’s Armyの開発プロジェクト責任者の大佐が、このゲームが新兵募集にいかに効果的だったかということを数字を挙げて紹介していた。
昼食時、みんなネットワーキングに熱心な中、ひとりぽつんと食事を取っているひげ面の青年がいたので、彼と食事をとることにした。彼の名はEric、大学で働くプログラマーで、このセッションは自分のボスの領域だからと、セッションはまあまあだと言っている。いい機会なので、プログラマーにとって、いいプロジェクトマネジャーはどんな人かとか、ゲームの研究をやるのにどれくらい開発のことがわかっているべきかとかいろいろ質問した。彼はニコニコとして、わかりやすい言葉を選んで説明する。ネットスケープが200人のプロジェクトでブラウザ開発していたのに対して、マイクロソフトは優秀な30人でIEを作った。一人の優秀なプログラマの生産性は平均なプログラマの10~15倍で、給料はせいぜい5倍くらいだから、優秀なプログラマでプロジェクトを構成することがいかに大事かは明らかだろう?と、例を挙げて説明してくれた。また、彼の親父さんが経営していたソフトウェア会社は大手が買収されて、MBAホルダの経営者が引き継いだのだが、その経営者はそれまでのプログラマを首にして、コストの低いインドに開発拠点を移したそうだ。するとノウハウが移管されていないので、あっという間にその会社は傾いて、首にしたプログラマを高額で雇いなおした、とか、彼の話は一つのセッションに値するくらいに話が面白かった。
その後のセッションは、デジタルゲームベースドラーニングの著者で、教育ゲーム会社の社長をやっているMark Prenskyをモデレータに、Serious Gamesの取り組みをいかに普及させるかというテーマでのパネル。休憩時間にMarkに話しかけたら、私が日本人と見るや「そうですか、これはどうもどうも」と返してきた。奥さんが日本人で、片言の日本語がしゃべれるそうだ。彼の著書も奥さんが翻訳中だそうだ。自分の研究に彼のプロダクトを使いたいという申し出と、日本関連の仕事への協力を約束して、うまくつながりをつけることができた。
次はBen SawyerによるSerious Games Funding 101と題した、プロジェクト立ち上げノウハウに関するプレゼン。グラントリサーチの常識的な話が多かったのだが、彼の熱意がこもっているので聴いていてエンパワーメントされた。こういう話は、知識として知っているだけではダメで、彼のように気合を持ってやれるかどうかという性質のものだ。彼のプレゼンの後、MITのEducation Arcadeプロジェクトの教授が登壇して、5月にE3でやるカンファレンスの紹介。そっちのカンファレンスも、Sim Cityや、Civilizationのデザイナーのようなビッグネームがパネルをやるそうで、楽しみである。今回来ている参加者はみんな来るんじゃないかという勢いである。
最後のセッションは会場全体でのディスカッション。さっきのEricが、教育関連の開発をやるときはSCORMという規格があって、その対策をしないと後で面倒になるから、興味があれば話をしよう、と申し出ていた。Benが、SCORMは重要なテーマだと自分も認識しているからその申し出はありがたい、とフォローしていた。ディスカッションに続いて、Ernest AdamsによるSummation。この二日間で議論された内容をうまく引用しつつ、このサミットがいかに実り多いものであったかを解説し締めくくった。
セッションの終了後、Benをつかまえて、Serious Gamesの日本での普及を申し出ると、ぜひ頼むと言いつつ、日本人で参加している人が他にもいるので協力するといいと言っている。誰だろうと思いながら名刺交換すると、彼は何だ君だったのかと合点がいった様子で、その日本人とは私のことだった。彼は以前に私が日本事情をメーリングリストへ投稿したのを覚えていて、その調子で日本のことを紹介してくれ、と励まされた。とりあえずこのコミュニティにはまだ日本人はいないらしい。来年の今頃には、さて100人くらい仲間を増やせるだろうか。