「デジタル教材の教育学」刊行

 先日お知らせした「デジタル教材の教育学」が刊行されました。先週からアマゾンなどネット書店でも購入できるようになりましたので、あらためてご紹介します。
 デジタル教材研究の歴史的な経緯や主要な論点、開発と評価の実際などを網羅的に論じてます。デジタル教材開発に携わる方にはもちろんのこと、シリアスゲームに関心のある方にも、教育学分野の知識を得るための基礎文献としてお使いいただくとよいかと思います。ぜひご一読いただければ幸いです。
主要目次
序章 デジタル教材と教育学(山内祐平)
第I部 デジタル教材の歴史と思想
1章 個人差に対応する:CAI(重田勝介)
2章 学びの文脈を作る:マルチメディア教材(西森年寿)
3章 議論の中で学ぶ:CSCL(望月俊男)
第II部 デジタル教材の活用と展開
4章 第2言語習得での活用:CALL(山田政寛)
5章 企業内教育での活用:eラーニング(古賀暁彦)
6章 学びと遊びの融合:シリアスゲーム(藤本 徹)
第III部 デジタル教材のデザイン論
7章 デジタル教材を設計する(松河秀哉)
8章 デジタル教材を評価する(北村 智)
9章 デジタル教材の開発1:おやこdeサイエンス(中原 淳・山口悦司)
10章 デジタル教材の開発2:なりきりEnglish!(島田徳子)
終章 デジタル教材と学びの未来(山内祐平)

近況&今後の活動

最近ブログの更新ペースが落ちてて、書きたいこととか全然書けてませんので、ちょっとまとめて近況などお知らせします。
近況1:最近の活動など。
 3月上旬に参加してきたシンガポールでのSerious Games Conference 2010 は、論文の提出時期と重なってしまったせいでえらい苦労して、発表もとちりまくりでなかなか大変でしたが、会そのものは現地関係者の間でとても好評だったようです。来年の開催決定に加えて、今年の7月にまたゲームズ・フォー・ヘルス関連のカンファレンスが企画されています。さすがシンガポール、動き出すとすごくスピードが早いです。
 その後は、先日お知らせしたように、ペンステートに飛んで、博士論文ディフェンスしてきました。こちらも無事に乗り切り、幸い修正も少なめで済んだので、5月の修了に向けて鋭意修正作業を進めてます。
近況2:本が2冊出ます。
 1冊目は、東京大学出版会より、「デジタル教材の教育学(山内祐平 編)」で「6章 学びと遊びの融合:シリアスゲーム」を執筆しました。4月中旬発売予定とのことです。
http://www.utp.or.jp/bd/978-4-13-052079-9.html
 2冊目は、ソフトバンククリエイティブより4月に出版予定のデジタルゲームに関する教養書で、シリアスゲームについての章を担当してます。こちらも発売情報出たらまたお知らせします。
 それぞれ教育業界向け、ゲーム業界向けに、シリアスゲームの基本的な考え方をコンパクトに解説してます。拙著「シリアスゲーム」をお読みいただいた方にはあまり目新しい内容はないのですが、機会がありましたら手に取っていただければと思います。
近況3:今年も大学で授業担当します。
 昨年に引き続き、東京工芸大学ゲーム学科で「シリアスゲーム論」を非常勤で担当します。今年は昨年よりも内容を濃くして、さらに深い学びの場になるようにアップデートしています。毎週木曜5限(16時40分~)やってます。厚木キャンパスなので都心からはやや距離がありますが、気軽に聴講にいらしてください。
 それと今年は新たに、慶應SFCで村井純学部長が担当する「環境情報学の創造」で、授業の課題でシリアスゲーム開発を行うための補佐役として非常勤講師を務めます。新入生向けの必修授業で400人規模の大教室授業でプロジェクト型学習をやるのはなかなか骨が折れそうですが、SFCでの学生生活の良いスタートが切れるように、楽しくてしっかり学べる仕掛けを用意したいと思います。
今後の活動について:
 今後についてですが、上記の授業に加えて、この4月からNPO法人産学連携推進機構にて、主任研究員として活動します。
 NPOではこれから産学官連携で行われる各種人材育成事業や調査研究に関わっていきます。先週から徐々に仕事を始めているのですが、プロジェクトが多岐にわたっており、新鮮な経験の連続であります。
 これまで取り組んできたシリアスゲームの国内展開についても、新たな要素を取り入れながら引き続き模索して行くつもりです。シリアスゲームそのものが産学官連携で取り組まれやすい性質でもあり、今後このNPOでの活動を通してどういう動きができるか楽しみにしています。ここでの仕事がメインになるので、これまでの研究活動とどうバランスを採っていくか、新しいものを自分のミッションの中でどう位置づけていくか、というところが当面のチャレンジであります。
 博論をまとめている間は外で動きまわる活動をかなり控えていましたが、今後はあちこちの学会やセミナーなどにもランダムに出没すると思いますので、どこかでお会いした時は気軽に声をかけてくだされば幸いです。シリアスゲームの国内外のつなぎ役的な役割は、今後も引き続き担っていこうと思います(何か話があると巡り巡って結局自分のところに戻ってくるという状況は最初の頃からあまり変わらないので、そういう状況を何とかしたいです。もっと自分のあずかり知らぬところで面白いことが動いてたりする方が嬉しいのですが。まだそこまで定着しきれてないということでしょうね)。なので今後もシリアスゲーム方面でご用の方は気軽にご連絡ください。
 これからも思いついた時にブログに書いていきますし、ツイッターでもたまにつぶやいてますので、そちらの方もあわせてご覧ください。どうぞこれからも当ブログをよろしくお願いいたします。

ディフェンス終了

 久々のブログ更新になりましたが、なかなか更新に至らなかった最大の要因となっていた大きなヤマを先日ようやく越えました。
 先週一週間、博士論文ディフェンスのために留学先のペンステートの大学院に戻ってました。ディフェンスは無事に終えて、これで晴れて長かったABD(All But Dissertation:日本だと単位取得退学みたいな身分ですが、留学生は在学状態を保たないといけないので、これまで在学し続けてた)生活を終え、全部で足掛け8年弱に渡った留学生活もこれでようやく幕を引くことができます。
 アドバイザーのDr. Smithは前日のフライトがキャンセルになったため、ロードアイランドから会議電話での参加でした。彼に論文提出までみっちり絞られていたおかげもあり、ディフェンスミーティングそのものはそこまで厳しいものにはならず、よい雰囲気で研究成果の意義や現場での活用、今後の展開についての議論が中心でした。審査委員は主査のDr. Priya Sharma(下記写真中央)、副査のDr. Susan Land(写真右)、外部副査のDr. Greg Smits(写真左)、それとアドバイザーのDr. Brian Smith(写真右端の挿入写真)の4名でした。
 研究内容を簡潔に説明すると、歴史教育のためにマンガやアニメ、ゲームなどを教材とする際にストーリーの中で登場するキャラクターを教授エージェントとして捉え、そのエージェントに組み込む学習支援方法についての研究です。簡単な歴史アドベンチャーゲーム風の日本史ウェブ教材を制作して、デザイン研究のアプローチでその教材の改良と効果の評価を行いました。従来のこの手の研究で語られる、学習者の関心を高める、ということ以上の効果を出すためにどういう要素を取り入れて、その学習面の効果や阻害がどのような形で表れたかを議論しています。
 今後は国内での諸活動と並行して、この研究の成果を国内外で発表するための執筆活動も進める予定です。ここまで研究を継続するために多くの方にお世話になりました。心より御礼申し上げます。この研究の過程の振り返りやあれこれについては、またぼちぼちと書いこうと思いますが、まずは無事生還のご報告まで。
IMGP0928_2.jpg

ツイッターの件など

 気がついたらひと月半もブログ更新してなかった。余裕がないせいもあったのだけども、先月から遅まきながらツイッターを使い始めて、ちょっと何か書きたいなという欲求やちょっとしたお知らせはそちらの方で満たされてしまっていたせいでもあった。
 ツイッターに移行して更新が滞っているブログを見かけるけど、当ブログまでそういうことになるとは。たしかにツイッター使いだすと、ブログを立ち上げるのが重たい感じになる。あと、ある程度文章を書くことが前提になるので、ツイッターで軽く書くのに慣れてしまうと、さらにブログが面倒な感じになってしまうところがある。でも大事なことは引き続きブログで。でもブログ復活宣言して、次の更新がまた滞ってるブログもあるし、ほどほどにがんばります。
 あと、ツイッターのウィジェット設置しました。@tfujimt ですので使ってる方お気軽にフォローください。っていうのを書こうとひと月くらい前から思っていたのだけど、やってしまえば何分もかからないのに、ブログ更新がここまで億劫になっていたことがやや驚き。メディアやシステムが人の行動を規定するというのを実感。

2010年を迎えて

 新年あけましておめでとうございます。
 今年は昨年ずっと手掛けてきた研究成果の発表と、それを土台にした国内のシリアスゲーム振興のための働きかけに取り組んでいきたいと思います。ここしばらく研究優先で地下に潜っていたような状態でしたが、研究を進める傍らで仕込んできたネタをプロジェクトとして始動させて面白い仕事をして、それを形にする一年としたいと思います。
 今年は自分のキャリア的にも変化の一年となるでしょうし、関わるプロジェクトも一層チャレンジしがいのあるものになりそうです。論文や講演等の研究発表、授業やセミナー等の教育活動をフル回転で行いながら、一つ一つの仕事の質を高めていく努力を怠らないように心がけたいと思います。
 本年もよろしくお願いいたします。

2009年を振り返って

 しばらくブログから遠ざかっていたら、もう1年を振り返る時期が来てしまった。1日はあっという間に過ぎていき、今年の前半の出来事は何年も前のことのように感じ、秋のことでさえも、ほんの数か月前のこととは思えないような時間感覚の中で毎日を過ごしてきた。単に昔よりも日々の情報量が多くなったからそう感じるだけで、みんなそう感じているのだろうか。ごく私的な振り返りだけども、今年の最後に考えたことを記しておこうと思う。

続きを読む

博物館疲れの研究

 RSSで送られてきた論文概要にふと目が留まったのだけども、「博物館疲れ(Museum Fatigue)」という研究テーマがあるそうだ。1910年頃から研究されているようで、下記の2本の論文で先行研究がレビューされている。なんでこの博物館疲れは起きるのか、と考えるといくつか原因が思い当たるし、それらを研究する枠組みや方向性としてどんなことが面白そうかアイデアが浮かんでくる。
 ところでこれらの論文は、Visitor Studiesという学術誌に掲載されている。今まで知らなかったのだけど、このVisitor studies(来館者研究?)という研究分野も興味深い。スケールや動作の内容が変わるだけで、ビジター研究はユーザー研究と重なるところも多いだろう。教育工学分野で研究されているような、博物館で利用されるアプリケーションの開発であれば、その対象ユーザーはそのまま博物館ビジターなわけで、そうするとビジター研究者と一緒に研究することで得られる知見や一つの研究の深みが増していくのだろう。
 教育工学分野は、ヒューマン・コンピュータ・インタラクションのような分野の研究者とは関心が近い感じがするけれども、逆にこのような博物館やテーマパーク研究のような利用者に近いところの研究に関心を移すことで得られる知見も多そう。なのでこれらの博物館疲れに関する論文も、今の追い込みが終わったら、ゆっくり読んでみたい(死亡フラグ?)。
Bitgood, S. (2009). Museum Fatigue: A Critical Review. Visitor Studies, 12(2), 93-111.
Davey, G. (2005). What is Museum Fatigue?. Visitor Studies, 8(3), 17-21.

シリアスゲーム論文募集中

 これまでも各所でお知らせしてきましたが、今度、日本デジタルゲーム学会の学会誌「デジタルゲーム学研究」でシリアスゲーム特集を組むことになり、不肖私めが特集エディターを担当してます。
 現在投稿論文を大募集していますので、関連する研究成果を発表されたい方、どうぞご応募ください。〆切は来年2010年1月31日です。
 「こういうネタがあるのだけど、投稿してOK?」「まだ・・・の段階なのだけども、これくらいでも大丈夫?」など、当募集に関するご質問やご相談等ございましたら、tfuji <at> anotherway.jp までお気軽にお問い合わせください。
募集の詳細は、シリアスゲームジャパンでご紹介してますのでご参照ください。
http://seriousgames.jp/2009/11/post-87.html

「面倒くささ」と仕事の価値

 「エンゼルバンク」の8巻が出てたので買って息抜きに読んだ。「エンゼルバンク」は、大学受験合格指南マンガ「ドラゴン桜」の外伝の転職指南マンガ。
 著者の三田紀房氏は本作のほかに就活指南マンガ「銀のアンカー」と起業指南マンガ「マネーの拳」の3作品を連載中で、どれもよくできた大人向け学習マンガとして読める。娯楽マンガとしての質を保ちながら学習要素をうまく配合していて、細かい知識を扱っていても説明臭くなっていない。学習マンガとして書かれたものはこの辺が弱く、ストーリーが説明のための添え物になっているものが多い。シリアスゲームのデザインの方向性がわからないという人は、よく書けた学習マンガを参考にすれば、学びと遊びのバランスをどこに置けばよいかが見えてくる(テレビや映画からもヒントは豊富に得られる)。ただし方向だけ見えても、技術的に追いついていかなければ実践ができないというのは、学習臭くて読みにくい学習マンガが多い中にごく一握りの優れた学習マンガが存在するという状況に現れている。
 シリアスゲームと学習マンガの話はまたの機会におくとして、本題は今回読んだ「エンゼルバンク」8巻に出てくる一節について。

続きを読む

Training of Trainerが泣いている

 というタイトルだと、人材開発系の人はぎょっとするかもしれないですが、なんのことはない、ささいな小ネタです。
 ネットで調べ物していてふと、「Training of Trainer (ToT)」という表記に目がとまった。真面目な教育系のウェブサイトなのに顔文字つけて何を訴えてるんだろうかと思ったら、単に略称だった。ついでに、Googleで Training of Trainer ToT で検索して見た。すると真面目な国際機関や教育機関のページばかり表示されて、みんな講師養成でえらい目にあったのか、講師養成がそんなに嫌なのか、よほどいい研修して感動したから(ToT)なのか、とつい想像が膨らんでしまう。
 真面目な話題のはずなのに、脱力な顔文字が並ぶというコードの逸脱感がちょっと笑えます。業界の片隅ではとっくにネタにされてるかもしれないですが、気晴らしが必要な方、お試しください。