しばらくブログから遠ざかっていたら、もう1年を振り返る時期が来てしまった。1日はあっという間に過ぎていき、今年の前半の出来事は何年も前のことのように感じ、秋のことでさえも、ほんの数か月前のこととは思えないような時間感覚の中で毎日を過ごしてきた。単に昔よりも日々の情報量が多くなったからそう感じるだけで、みんなそう感じているのだろうか。ごく私的な振り返りだけども、今年の最後に考えたことを記しておこうと思う。
年初の自分は、山にこもっていた修行僧が、もう十分、と勝手に判断して最後まで修行を終えずに山を下りてきたようなものだった。山から下りてしばらく活動してみて、自分の進もうとした方向や自分がおかれた状況、それまでやってきた諸々のことがちぐはぐになっていたことに気づかされた。何かできるようになった気がしていたのは、肝心な修行から逃げ回って、自分の得意なことをやっていただけだったことを思い知らされた。このまま行って何年かは適当に立ち回れたとしても、5年や10年のスパンで考えると、今の自分は非力に過ぎた。実力不足で失速して食い詰めるか、間違って下手に出世でもしようものなら、そのポジションに見合う成果を出す力がないのに虚勢を張って政治力に頼って生きるような生き方をしないといけなくなる。
シリアスゲームにしても、最初考えていたように個人オフィスから小さく始めたところで、その努力の方向が社会を変えるほどの力に至るには、よほどのことがなければ行きつかない。一社や一組織の力で一つの市場を形成できるわけではなく、正しい方向で相応のリソースを投入できなければ何を仕掛けても必ず失速する。いずれにしても、このまま進んでもうまくいかない、今のうちに仕切り直そう、と思ったのが今年の前半のこと。
そしてあれこれやる前に、まずは仕掛っている博士論文を書き上げることを優先した。今年も講演や授業や学会発表をやって、ようやく翻訳書も出して、それなりの成果は出したのだけども、それらがかすんで遠い昔のことに思えるほどに論文執筆に没頭した。夏には山籠りまでして、一人デスマーチ状態で全精力をかけてのたうちまわって、とにかくようやく書き切った。
人によってゴール設定やアプローチや状況が異なるので、それぞれにその意味が異なるが、博士論文研究とは、研究者が自ら寄って立つ研究者としての信念を構築する営みではないかと思う。そんなことを従来の活動の延長線上の努力で片づけられると高をくくっていたのが甘かった。今の自分がこれをやるには最大限のストレッチが必要で、ストレッチし過ぎて筋が切れるくらいにストレッチして書き切れるかどうか、という性質のものだということに途中で気付いた。そもそも英語で百何十ページもの論文を書いたことがない上に、今までやったことのないレベルの研究成果を出すことが求められているのだ。それを翻訳やら何やら手間のかかることをやりながら並行してやれると考えていたこと自体に問題があった。
なんとかなるだろう、と誤った認識を持ったのは、それまでの成功体験が足かせになっていたところがある。留学前の社会人経験で身につけた、自分のできる範囲で要領よく仕事を片付けるスキルは留学中も結構役に立って、留学中もいろんな局面を乗り切ってきた。修士レベルで終わる分には気づかなかったかもしれないが、より大きなストレッチに臨む際には、それまで頼っていた要領の良さが邪魔をしてしまうこともあると理解した。今回の課題は、自分のできる範囲に落とし込めばなんとかできる程度のものではなかった。RPGにたとえれば、低レベルの敵を倒せるからといって十分なレベル上げもせずに軽装備で大ボスを倒せると勘違いするようなものだった。どんなに要領よくやったつもりでも、自分が直面したことのない大きな問題の前では通用しなかった。そういう誤った前提で組んだ研究計画には、いろいろと問題があってそれらが制約になった。それでなお時間がかかった。もし将来僕自身が学生の論文指導をするようなことになったら気をつけるべきところだろう。
この修行の過程で、1年前はおろか、半年前でも3か月前の自分にも見えなかったものが見えるようになって、これまで表現したくてもどうしてもできなかったことを形にできたのは喜ばしいことではあるけれども、こんなことのために長いこと巻き添えにしてしまった妻や身内、周りの人々に申し訳なかった。以前、行きつけの飲み屋の大将に「嫁とったんなら坊主の修行みたいなことすんな。日本にいてできんことじゃないだろ」と喝破されてその通りだと猛省して、その時点でこんなことはもうやめようかと思ったのだが、妻に励まされて支えられながらなんとかここまで来れた。ここに至るまでのことは思い返せばいろいろとあるが、まだ口頭試問も終わってないので、すべて終わらせてからゆっくり振り返ることにする。今はただ、迷惑をかけた人たちに感謝したい。
長くなるので、新年の抱負は例年通り年が明けてからということで。今年もいろいろとありがとうございました。このブログを読んでくださる皆さんに感謝をこめて。よいお年をお迎えください。