RSSで送られてきた論文概要にふと目が留まったのだけども、「博物館疲れ(Museum Fatigue)」という研究テーマがあるそうだ。1910年頃から研究されているようで、下記の2本の論文で先行研究がレビューされている。なんでこの博物館疲れは起きるのか、と考えるといくつか原因が思い当たるし、それらを研究する枠組みや方向性としてどんなことが面白そうかアイデアが浮かんでくる。
ところでこれらの論文は、Visitor Studiesという学術誌に掲載されている。今まで知らなかったのだけど、このVisitor studies(来館者研究?)という研究分野も興味深い。スケールや動作の内容が変わるだけで、ビジター研究はユーザー研究と重なるところも多いだろう。教育工学分野で研究されているような、博物館で利用されるアプリケーションの開発であれば、その対象ユーザーはそのまま博物館ビジターなわけで、そうするとビジター研究者と一緒に研究することで得られる知見や一つの研究の深みが増していくのだろう。
教育工学分野は、ヒューマン・コンピュータ・インタラクションのような分野の研究者とは関心が近い感じがするけれども、逆にこのような博物館やテーマパーク研究のような利用者に近いところの研究に関心を移すことで得られる知見も多そう。なのでこれらの博物館疲れに関する論文も、今の追い込みが終わったら、ゆっくり読んでみたい(死亡フラグ?)。
Bitgood, S. (2009). Museum Fatigue: A Critical Review. Visitor Studies, 12(2), 93-111.
Davey, G. (2005). What is Museum Fatigue?. Visitor Studies, 8(3), 17-21.
「Diary 2009」カテゴリーアーカイブ
Training of Trainerが泣いている
というタイトルだと、人材開発系の人はぎょっとするかもしれないですが、なんのことはない、ささいな小ネタです。
ネットで調べ物していてふと、「Training of Trainer (ToT)」という表記に目がとまった。真面目な教育系のウェブサイトなのに顔文字つけて何を訴えてるんだろうかと思ったら、単に略称だった。ついでに、Googleで Training of Trainer ToT で検索して見た。すると真面目な国際機関や教育機関のページばかり表示されて、みんな講師養成でえらい目にあったのか、講師養成がそんなに嫌なのか、よほどいい研修して感動したから(ToT)なのか、とつい想像が膨らんでしまう。
真面目な話題のはずなのに、脱力な顔文字が並ぶというコードの逸脱感がちょっと笑えます。業界の片隅ではとっくにネタにされてるかもしれないですが、気晴らしが必要な方、お試しください。
JSET参加記: Day 3:教育工学分野のゲーム研究について(2)
前回のエントリーの続きで、JSET最終日午後の課題研究セッションの話です。午後の課題研究セッションでは、午前に話したオンラインゲーム利用教育の研究を発展させて昨年から進めてきた、歴史探究学習における学習支援方法の研究について発表しました。
こちらの発表も、この研究の趣旨として説明が必要なところと、面白いところとして押さえておきたいところなど、トピックを盛り込みすぎてしまったようで、どんなものを作ってどんな結果を得たかを説明する時間が足りずに終わりの方がアタフタとかけ足の説明になってしまったのが残念でした。
後半の総合討論で補足する話ができたので、最後まで参加していただいた方には少しは納得がいったかもしれませんが、発表を聴いただけでは、この研究がなぜゲーム研究の枠内で扱われるのかすらわかりにくかったかもしれません。今回は説明のツボをやや外したかなと反省しました。
コーディネーターの山田先生にうまく趣旨説明から発表後のリードまで進行していただいたおかげもあり、とてもよい議論ができました。セッション全体の様子については、山田先生がブログでうまくまとめて紹介されてますので、そちらもご参照ください(記事リンク)。
JSET参加記: Day 3:教育工学分野のゲーム研究について(1)
もう一週間以上経ってしまいましたが、JSET全国大会参加記の最終回です。最終日の3日目は、自分の発表が午前と午後にそれぞれあって、それを中心に動いた日程でした。今回は次の論題で発表しました。一般研究の方は発表資料を公開します。課題研究の方はまだ研究途上なので、成果がまとまってからの発表までお待ちください。
藤本徹 (2009.9) 「オンラインゲームの教育利用:実践上の課題」, 日本教育工学会 第25回全国大会講演論文集(一般研究), pp.869-870, 東京:東京大学. (論文PDF、発表スライドPDF)
藤本徹, Smith, B. K. (2009,.9) 「歴史探究学習プログラムにおける物語型教授エージェントを介した学習支援方法の研究-デジタルゲーム設計手法とオンライン学習環境設計の接点-」, 日本教育工学会 第25回全国大会講演論文集(課題研究), pp.87-90, 東京:東京大学.
今回、この二つの発表について自分に課していたミッションは「教育工学分野でのゲーム研究の議論の水準を一段高めるための貢献」でした。教育とゲームについての研究は、この5年ほどでかなり拡大していて、海外ではあちこちの学会で特集や特別セッションが組まれるなど、多くの研究者がこのテーマに参入してきましたが、国内の研究コミュニティではまだこれからというところです。海外の研究者もこのテーマをどこまで深めてるかによって言ってることが全然違っていて、議論が錯綜している感もあるので、キャッチアップするのがけっこう大変です。国内のこのテーマに関心のある人たちがすでに海外で一通りやってきたような議論を一から辿るのは時間がもったいないし面倒なので、無駄なところは端折って、素早くキャッチアップできるよう少しでも貢献できればと考えて発表に臨みました。
JSET参加記: Day 2
JSET全国大会2日目です。2日目午前の一般研究発表は、サイバー大学の教務や運営部門の皆さんの発表、ワークショップセッションの発表数本、それと専修大学の望月先生の発表を聞いてきました。午後は中原先生プロデュースのシンポジウム、夕方から懇親会とその後に催されたワカモノ飲み会という日程でした。
JSET参加記: Day 1
9月19~21日までの3日間、日本教育工学会(JSET)の全国大会が東京大学で開催されました。今回は2本の研究発表をしてきました。今回新たに知り合った方、久しぶりに再会できた方、この分野で活躍する多くの研究者の皆さんとお会いすることができ、また自分の発表や他の方の発表、シンポジウムなどで多くを吸収した、実りのある3日間でした。運営がとても配慮が行き届いていて、参加者が混乱なく気持ちよく参加できるように入念に配慮されている様子が伺えました(大会関係者の皆さまお疲れさまでした)。
これから何回かに分けて、参加中のメモを整理しつつ大会の様子を記録しておこうと思います。とりあえずは初日分から。
山籠り生活
ここ3週間ほど、熊本と大分の県境近くの山中にこもって、ひたすら論文を書く生活を続けていた。山深く、自然は豊かでとても静かなところだが、周りには何もなく、ネットにはつながらない。ケータイの入りも悪く、しばらくトライしないとつながらない。娯楽はテレビが見られるだけ。ひたすら執筆作業を続けて、夕方暗くなる前に気晴らしを兼ねて、1キロほど離れた小さな銭湯へ歩いて行く。帰ってテレビを見ながら晩飯を食べて、眠くなるまでまた作業。この繰り返し。
普段と全く異なる生活を送ってみて、日常がいかに「つながっている」かをつくづく意識させられた。ネットにつながっていればどこにいても同じようにコミュニケーションが取れる。調べ物も思いついた時にすぐできて、必要な情報はすぐに集めてくることができる。娯楽も過剰なほどに提供されている。そういう生活に慣れていたので、つながってない状態に身を置いたすぐは、つながっていない感覚がどうにも居心地悪く、世の中から取り残されたような気もした。負荷の高い思考に集中できる時間も短く、10分かそこらで何かネットにつなぐ用事を思い出したり、メールチェックしたくなったりして、考える作業が長続きしない。
それが数日たってくるとつながってないことの心地よさのようなものを感じるようになり、思考を深掘りしてまとめる作業が進むようになった。集中する時間が次第に長くなって、今まで考えつくせなかったところまで考えが及んで、言葉にできてなかった思考を言葉にすることができた。数日前の気の散り具合や落ち着かなさと比べると、なんというか、依存症状が抜けたような感覚だろうか。当たり前になっていたので気付かずにいたが、何気にネット依存のような状態で日々を送っていたようだ。
思えば普段は、考え抜く作業がうまくいかないと、ネットで何か作業して、メールの返事をして、RSSチェックして、とやっているうちに頭も疲れて何か仕事をした気になってしまって、肝心の難題が終わらないままに一日が過ぎ、また明日にしよう、という感じで、乗り越えられない壁の前でウロウロしているような状況が続いていた。今回、乗り越えられない壁に向き合う以外は他にすることがない状況で四苦八苦して、何とか手ごたえをつかんで、今までとは違う景色が見えてきた。そういう経験をしてみて、どこでもつながれる今の便利な情報社会では、健全な無接続状態の方がむしろ貴重な時間なのではないかという気がしてくる。
今回取り組んでいた作業は、できてしまうと案外単純なことのように見えてきて、何でこんなことで行き詰まっていたのか、という気もするし、そもそもこんなものに意味があるのかという気もしてくる。それにここまで追い込まれないと前に進めない自分の力不足を情けなく思ったりしつつも、とにかく一歩前進。ゴールはもう少し先で、厳しい日々はまだまだ続く。
PCカンファレンス 2009 参加
早いものでもうひと月近く経ってしまいましたが、8月9~11日に愛媛大学で開催された、CIEC(コンピュータ利用教育協議会)の年次大会「PCカンファレンス2009」に参加してきました。学部時代の研究の発表をして以来だったので10年ぶりくらいの参加でした。今回はシンポジウムのパネリスト参加と、自分の研究発表のための参加でした。
飛行機も高い時期だということもあって、今回は前日夜から夜行バスで移動して、当日の午前に松山に入り。午前に行われた学会長の妹尾堅一郎先生の基調講演を目がけて到着する予定だったのですが、夜半からかなり雨が降っていたのと高速割引の影響もあってか、関西近辺のどこかで渋滞に巻き込まれてバスが遅れてしまい、残念ながら間に合わず聞き逃してしまいました。
午後一番で出番のシンポジウムでした。「デジタルネイティブが学ぶ情報」というテーマで、4人のパネリストそれぞれの立場からデジタルネイティブの学びや情報行動について話題提供がありました。僕の方からは、拙訳書「テレビゲーム教育論」と「デジタルゲーム学習」ででてくる「デジタルネイティブ」と「デジタル移民」の話を中心に、次のような要旨の話をしてきました。
・デジタルネイティブやネット世代と呼ばれる世代は、タプスコットの分類によると1977年以降生まれで、生まれた時からデジタルメディアが身の回りにある環境で育った人々のことを指している。デジタル移民はそれ以前の生まれで、後からデジタルメディアに触れた人々のことで、メディアに触れる過程で身に着いたアクセント(メールを印刷して読む、「チャンネルを回す」と言ってしまうなど)を持っている。
・デジタルネイティブ」は、成長過程において触れたメディアの影響が上の世代と異なっており、その影響の違いがスピードや思考プロセス、関係性やテクノロジーに対する態度など、情報活動のさまざまな特徴として捉えられている。
・デジタルネイティブは、上の世代のメディア史と異なるメディア史を経験しているのであって、単純な「今の若い者は・・」という議論とは切り分ける必要があるし、影響を与えたメディアの性質からくる質的な変化に着目する必要がある。
・すべての若者たちが同じメディア経験をしているわけではなく、同じ世代の中でも育った環境によって「ネイティブ度」に格差が存在するし、日米でもデジタルネイティブの持つ性質には差があることに留意する必要がある。
・映画やマンガ、アニメなど、デジタルネイティブを理解するための手段は豊富にあるので、うまく活用しながらネイティブたちとどう接していくかを考える機会を持つとよいのではないか。
このPCカンファレンスは大学教員だけでなく、小中高の教員、生協の職員の方たちも多く参加していることもあって、質疑応答で出てきた出席者の論点もさまざまで、それぞれの立場でこのテーマのとらえ方が変わるのだなと興味深いところでした。
翌日の研究発表の方は「探索型歴史学習プログラムにおける相互学習原理を用いた学習支援方法の研究」というタイトルで発表してきました。ここ数年、シリアスゲームの話をする機会はしょっちゅうありましたが、実は自分の研究を学会発表したのはかなり久しぶりでした。まだデータ分析が追いついてなくて、説明がもうひとつ消化不良な感じになってしまいましたが、聞いていただいた先生方からいくつかよい指摘をいただいたので、今月のJSETの方での発表の時には改善して臨もうと思います。
ただいま帰省中
先週から今週にかけて、eラーニングワールド@東京、PCカンファレンス@松山、に参加したのち、松山から早朝のフェリーで大分に移動、別府市の実家に帰省中です。論文まとめ合宿等々の諸事情でしばらくこちらに滞在してます。せっかくお声掛けいただいても、お応えできない感じがしばらく続くかもしれません。当面、おそらく今年いっぱいは動きが悪い状況になります。ご期待に添えず、ほんとに申し訳ないです。
eラーニングワールドとPCカンファレンスの感想はのちほど追って(関係者の皆さま、おつかれさまでした)。たまにネットなし環境に数日籠って合宿してたりして連絡が悪くなりますが、つながるときにたまに更新します。
近況と研究発表予定
ブログに書きたいネタはいくつもあるのですが、研究資料の読み込みなどで果てしなく時間を取られていてなかなか書く時間が作れないので、近況をざっとダイジェストで。
先週はイベントが二つ。お知らせしたようにビジネスブレークスルーの「ITライブ」出演して慶應義塾大学の村井純教授とシリアスゲームについて語ってきました。来月にはネット配信で内容が見れるようになるそうなので、その時はまたお知らせします。
もう一つは東京工芸大学の「シリアスゲーム論」の授業の最終回で、グループプロジェクトの最終報告会を行いました。8グループ49名の学生たちの発表は、それぞれに見どころがあって、担当していてとても楽しい授業でした。新米教員としてのチャレンジやそれに伴う気づきも豊富な機会でした。来年度もおそらく担当させていただくことになりそうなので、次はさらにアップグレードした学びの場を提供したいと思います。
そのほかには、たまに呼ばれて打ち合わせなどで出ていく以外は、日々ひたすら研究資料やデータと格闘してますので、近況というほどのことはなかったりします。ブログネタが日々たくさんたまっているのをいつ消化できるんだろうかという毎日です。この間帰国の時に買ってきたKindle2のこととかマンガネタとか書きたいんですが、なかなか人生は思うようにいかないものです。
これから当面の予定としては、来月~再来月にかけて、しばらくぶりに学会で研究発表してきます。研究者としての国内活動第一弾であります。
まず8月9~11日に愛媛大学で開催されるPCカンファレンスで、分科会発表とシンポジウムのパネリストとして話をしてきます。分科会の発表は昨年夏から地道に進めてきた博士論文研究の中間報告的な内容で、シンポジウムではデジタルネイティブの話をします。
藤本徹, Smith, B. K. (2009.8) 「探索型歴史学習プログラムにおける相互学習原理を用いた学習支援方法の研究」 PCカンファレンス2009, 愛媛大学
分科会発表詳細
シンポジウム2「デジタルネイティブが学ぶ『情報』 」(シンポジウム概要)
日時:2009年8月9日(日) 14:15-16:30
パネリスト:
藤本 徹 ペンシルバニア州立大学大学院/東京工芸大学
虎岩 雅明 NPO法人TRYWARP
武沢 護 早稲田大学大学院教職研究科/高等学院
占部 弘治 新居浜工業高等専門学校
司会: 森 夏節 酪農学園大学環境システム学部
その後、9月19~21日に東京大学で開催される日本教育工学会全国大会で、課題研究発表と一般研究発表をします。発表論文の差し替えも先日の〆切前に何とか終えました。十分な出来とは言えないところもあったのですが、これも実力のうちということで観念して、えいやっと提出しました。
藤本徹, Smith, B. K. (2009.9) 「歴史探究学習プログラムにおける物語型教授エージェントを介した学習支援方法の研究-デジタルゲーム設計手法とオンライン学習環境設計の接点-」日本教育工学会第25回全国大会(課題研究), 東京大学
藤本徹 (2009.9) 「オンラインゲームの教育利用:実践上の課題」日本教育工学会第25回全国大会(一般研究), 東京大学
課題研究発表は「ゲーム・シミュレーションを利用した教育:現状とこれから」というテーマのセッション(セッションテーマ概要)なので、教育工学分野の研究者の方たちとこのテーマでじっくり議論できるので楽しみです。内容はPCカンファレンスで発表するのと同じ研究からですが、PCCの方が教科教育寄りの内容で、こちらでは教授エージェント研究寄りの内容にしています。
一般研究の方は、一昨年から昨年にかけて行ってきた「大航海時代オンライン」を利用した教育研究の実践報告的な内容です。着手してはみたものの、いろいろと制約があって博士論文を書くところまで持っていけなかった突っ込みどころ満載な研究ですが、議論するには面白そうな話題が豊富なので、あえてまな板の上に出してみようと思いました。今書き進めている学位論文の方がひと段落したら、こちらもきちんと整理しなおして論文にまとめたいと思います。
今年は都内での開催ですし、学会員以外の一般の方も、このテーマに関心のある方はどうぞお越しください。
日本教育工学会 第25回全国大会(大会ウェブサイト)
2009年9月19日(土)~ 21日(月)
会場:東京大学(本郷キャンパス)