変容を起こすゲームデザイン解説書「The Transformational Framework」

9月にETC Pressから出版されたSabrina Culyba著「The Transformational Framework」がとても良い文献ですので紹介します。本書は多くのシリアスゲーム開発を手掛けたゲーム開発会社Schell Games(カーネギーメロン大学ETC教授でゲームデザイナーのJesse Schell氏が設立)でゲームデザイナーとして活動する著者が、同社のこれまでに蓄積してきた開発ノウハウを体系的に整理した解説書です。

教育/学習ゲーム、研修ゲーム、教育シミュレーション、シリアスゲーム、アプライドゲーム、ゲーミフィケーション、ゲームズ・フォー・ヘルス、ゲームズ・フォー・チェンジなど、さまざまな呼び方で広がってきた、娯楽を超えた用途や効果のためのゲームのことを「トランスフォーメーショナルゲーム」(変容を起こすゲーム)と総称して、そのデザインフレームワークとして8つの要素に整理して解説しています。

・上位目的:そのゲームの目指す変容
・オーディエンスとコンテクスト:そのゲームの対象者と利用される状況
・プレイヤーの変容:そのゲームを通して生じる変容
・障壁:なぜその変容が起きにくいのか
・領域概念:変容を起こすためにゲームが扱う知識
・専門知識源:ゲームに取り入れる知識をどこで手に入れるか
・先行事例:関連する先行事例から学ぶ
・効果測定:ゲームが起こした変容の測り方

ゲーム開発の基礎知識から、企画段階の心得的な留意点、ターゲットの絞り込み方、扱う知識の選び方、領域専門家との付き合い方、先行事例の調べ方や効果測定の方法の選び方など、シリアスゲームや学習ゲームの開発において役に立つ実用的なアドバイスが豊富に盛り込まれています。

これまでにも同様の開発ガイドブック的な文献は出てますが、「シリアスゲーム開発の参考書のおすすめはないでしょうか」と聞かれた時に、ちょうどよく勧められる文献は多くありませんでした。本書は、この分野の開発に着手したい方からそういう質問が来た時に、まずこれを読んでください、と力強くお勧めできます。

本書のPDF版は無料でダウンロードできますので、シリアスゲームやゲーミフィケーションデザインを扱う授業で参考文献にしたり、本書で輪読会をやってみんなで議論したり、ゲームジャム参加前の予習文献にしたりと、さまざまな用途で活用できると思います。

11/25 追記:”transformational” の訳語を教育学分野の定訳に合わせて”変容”に修正しました。

投稿中のMOOC研究論文がEducational Media Internationalに採録されました

edX Global Forum参加のための出張でボストンに来ています。こちらはすっかり冬模様で、日暮れも早く、今日の最高気温は2度とのことです。投稿中の論文の修正や月末から始まる高校での授業実践の準備など、あれこれ急ぎの仕事が重なってきているので、会議に出席しながら空き時間に進めつつ滞在する感じです。

今週、ひとつ嬉しい知らせがありました。東大がCourseraで開講中のMOOC「Studying at Japanese Universities」についての論文が国際論文誌のEducational Media Internationalに採録されました。

この論文では、日本留学に関心のある世界の学習者が留学実現のための準備を進めながらお互いに学び合えるコミュニティとして開発したコースの意義やデザインの特色を説明して、開講当初の成果について考察しました。

現在、最終稿の校正対応しているところで、完了後速やかにオンライン公開されるとのことです。(11/28 追記:公開されました)

Fujimoto, T., Takahama. A., Ara. Y., Isshiki, Y., Nakaya, K., & Yamauchi, Y. (2018). Designing a MOOC as an Online Community to Encourage International Students to Study Abroad. Educational Media International. DOI: 10.1080/09523987.2018.1547545

 

「貧すれば鈍する」ということ

この2年ほど、日々の業務に疲弊して、精神的リソースが枯渇したような状態が続いていることもあって、週末はなるべく予定を入れずに休養優先で過ごすことが増えた。こちらが休みかどうかに関係なく、査読の依頼とか、何かの締切のリマインドは遠慮なく入ってくるので仕事はしているのだけど、仕事している感じにならない程度の量にとどめている。

そういう日曜の午後、何もする気がせず何となくテレビをつけたら、プロゴルフの試合をやっていたので何となく見ていた。トッププロゴルファーの見事なプレイの脇で、クラブを磨いて手渡した先からすぐにバンカーをならして、すぐにグリーンに上がってピンを持ち、ホールアウトしたらプレイヤーと言葉をかわすキャディの姿に目が止まる。それにプロトーナメントを行うゴルフ場は、丁寧に整備されており、ゴルフ場の支配人や運営スタッフもレベルの高い仕事をしていることが想像できる。スポーツにさほど興味のない私だが、ゴルフは子どもの頃に多少かじった経験があり、高校時代は田舎のゴルフ場でキャディのバイトもやった。なのでスポーツのアナロジーで考える時、プレイヤーとしての感覚で考えるにはゴルフが一番イメージしやすい。

物事をアナロジーで考える私の習性は、もはや職業病の域にあり、こうして週末のゴルフ番組をぼんやり見ていても、今の自分の仕事の文脈がこのゴルフの世界に浮かび上がってくる。今の私の仕事上の役割は、プロゴルファーとキャディやゴルフ場の他の仕事の関係として見ていくとどうなのか、そういう事を考えているうちにテレビの方は目で追っているだけになってくる。

プロプレイヤーは、トッププロであれば国際メジャー大会に出て勝ち星を上げ、スポンサー契約を取り、プロのプレイヤーとして成果が出ることにフォーカスして日々の活動を組み立てていく。トップでない普通のプロでも、国内試合で良い成績を上げるべく腕を磨き、来年のシード権を取り、所属クラブでレッスンプロとしてアマチュアの指導をしたりしながらも、プレイヤーとしての活動が中心の生活を送る。

それではそういう文脈における私はどういう立場か。大学の研究者として、研究や教育で業績を積み上げていくことが期待されており、それが評価の中心だという点において、プロスポーツ選手のように「プレイヤー」としての役割が期待されているはずなのだが、どうも違う状況にいる。

時間を作って練習ラウンドしていると、ゴルフ場のオーナーや支配人から「練習する暇があるなら運営の仕事を手伝ってくれ」とばかりに、運営スタッフの雇用やシフト管理のような仕事を任され、他のプロがラウンドするのに人手が足りないからとキャディの仕事も手伝い、支配人が不在がちで荒れたゴルフ場のメンテ作業をやり、自分のプレイヤーとしての活動は、日が暮れてみんなが帰ってからやることになる。がんばって海外遠征を増やそうにも、ゴルフ場の仕事が手薄になることに不満を持たれる。資金不足だからスポンサー契約をとってこいとオーナーが言うので、新規の契約を取ってきても、内部で煩雑な手続きを嫌がられて仕事が進まず、成果が出なくてかえってスポンサーに迷惑をかけるような、誰も報われない、さえない状況が続く。傍目から見れば、名門ゴルフクラブで仕事もらってるんだからまだマシでしょ、世の中もっと大変なんだよね、と内部の事情には微妙な同情くらいしか集めない。

プレイヤーとしての活動が後回しになり、9割方がキャディやら支配人やらの仕事で時間を取られていても、続けていれば要領を得て、それなりに効率よくこなせるようになる。そうすると、こっちもお願いとばかりに、さらに問題の多い仕事が回ってくる。やる人がいなくて組織が傾いても困るので、不承不承対応する。するとまたさらにやり手のいない仕事が回ってくる。かくして、プレイヤーとして自分の腕を磨く以前の状況が続き、たまに打ちっぱなしで玉を打つだけのアマチュアプレイヤーのような状態で、プロとして精彩を欠いた状態が定常化した。

言うまでもなく、プレイヤーの仕事以外にもゴルフ場には仕事があり、それらがプレイヤーの仕事に比べて価値が低いということではない。トッププロがしのぎを削る試合で勝てるパフォーマンスを発揮するには、優れたキャディがきちんと仕事を果たすことが不可欠となる。プレイヤー本人の実力や努力が必要でも、それだけで勝てるものではなく、キャディや裏方の仕事がきちんと果たされないと、プレイヤーは成果につながるパフォーマンスができない。キャディにはキャディとしての専門性があり、トップの世界のキャディが持つ価値はもっと評価されてよいが、それは別の問題である。

ここでの問題は、大学の研究者としての私の仕事はプレイヤーとして評価され、キャディや支配人の代わりにどれだけ仕事をしたかとか、組織を立て直すことに貢献したかで評価される立場ではないことだ。大学の研究者としての評価は、どれだけ良いスコアを出して、いくつ勝ち星をあげるか、賞金ランク上位に入ってシード権を取れるかという、プレイヤーとしての立場で評価される。たとえ組織のために働くことが求められても、試合に出る準備ができない、ゴルフ場が荒れていて練習にならない、プロ契約が結べない、道具が揃わないなどのさまざまな事情に翻弄されて、プレイヤーとして勝てない状況に陥っていても、最終的にはプレイヤー個人として評価される。

もちろん、レッスンプロとして評価されて生きる道もあり、プレイヤーの他にもゴルフ場には多くの仕事とさまざまな生き方がある。誰しもどこかのタイミングで、自分の生き方を選択しなければならない時が来る。私自身もそういう段階にいるのかもしれないが、未だプレイヤーとしてやりきっていない以上、とにかくプロとして練習時間も取れないこの拙い状況を立て直す必要がある。

ここしばらく、前向きなアイデアが出なくて枯渇した状態で、支配人業務が忙しくて回らないからと出場試合の数を減らすようなさえない状態だったが、このあり方が根本的にダメで、これを続けていたら私の選手生命はこのまま終わる。どこかのゴルフ場の支配人の仕事くらいはできるかもしれないが、そこを目指してプレイヤーになったわけではない。錆びついた腕はこれから磨き直す必要があるが、少なくともこういう危機的な状況に気づいて、前向きに捉え直せる程度には回復してきたのかと思う。

誕生日の近況など

今日で45歳になりました。メッセージくださった皆さま、ありがとうございました。

昨年の今頃からこれまでを振り返ってみると、組織の管理業務の割合がだいぶ増えていて、その分研究や対外的な活動が減った状態で推移しています。今年の前半は所属組織でいろいろと変化があり、調子の悪い部分の応急処置に、事業提案に、執行計画に、スタッフの雇用にと、研究者としての時間よりも、組織の中間管理職や、幕府の奉行のような立ち回りの時間の方が多い状況が続きます。補給の見通しもなく、手持ちのリソースで出城を守っているような状態で、周囲も余裕のない状況なので、これでは日本の大学の研究力が低下するのも無理はないなと思いやられます。

1年前に44歳の私が書いたことを見返してみると、考えていることはそんなに変わっておらず、その時考えていたことや今年の年初に見据えていたチャレンジングな状況の途中にいます。この1年で仕事上の面倒事はさらに増え、ややこしい話がさらにややこしくなり、自分の手に負えないような状況をいかに乗り切るか、悩みながら毎日が過ぎていきます。がんばったおかげで持ち直したことや片付いた問題もありますが、まだこの状況が落ち着くまでにはもう少しかかりそうです。

昨年の今頃も相当大変だと思って毎日を送っていましたが、今思えば、まだ全然余裕がありました。仕事量が増えてもどうにか対応できているのは、慣れて効率が上がって、スキルが上がったおかげもあると思います(提案書の作文やポンチ絵を描くのもだいぶ早くなりました)。昔やってきたことが今の自分を助けてくれているように、今やっていることがそのうち活きてくるだろうと、ある意味修行のように割り切って考えているところもあります。

こういう厳しい状況にあっても、幸いと言ってよいのか、自分の性分として、リソースの限られた状態で知恵を絞って難局を乗り切らないといけない状態で仕事をすることは嫌ではないので、何とかやれているかなというところです。むしろ自分の立てた策がどういう結果になるか試せる楽しさがあるおかげで、退屈せずに過ごせているのはありがたいです。

ほどほど健康を保っていられるのは、時間の自由が利くおかげもあって、力を抜くところで抜きながら活動できるのも大きいです。もしラッシュ時に毎日通勤する生活であればとうに体調を崩して寝込んでいたことと思います。もともとアクティブに活動する方ではないので、休みもあまり出掛けず静かに過ごす日が多いですが、同年代で体調を崩す方も増えているので、自分の状態を意識的にモニタリングして、無理な状況が続かないように過ごしています。

仕事のストレスの多い状況が続いても、ある種のプレイフルな感覚を保てるのは、ゲームで繰り返し負けながら、思いついた戦法やアイデアを試す経験をしてきたことも少なからず影響していると思います。たとえば最近、アニメの「三月のライオン」に影響されつつ、HEROEZ上場のニュースに影響されて、久しぶりに「将棋ウォーズ」をプレイしています。素人のヘボ将棋ですが、それでもしばらくプレイしていると、日々の仕事と詰将棋が重なって見えてきます。

これまでプレイしてきたリアルタイムストラテジーやアクションゲームやソーシャルゲームでもそうですが、ゲームで繰り返し試す感覚が日々の仕事と重なってくると、何となく前に進む手掛かりが見えてきたり、違うやり方に気が付いたりして、気持ちの粘りが戻ってくる感じがします。そういう感覚は昔はそれほど意識できなかったので、歳をとることでいろいろな経験がつながっていくなかでゲームの経験もつながっているのでしょう(ちなみに最近ほかにプレイしているのは「旅かえる」「ねこあつめ」「ほしの島のにゃんこ」「スプラトゥーン2」、それともうすぐ「ねこあつめVR」。ついでに本文とは関係ないけど、読んでるマンガは「週刊モーニング」、コミックで「キングダム」「センゴク権兵衛」「アルキメデスの大戦」「ダンジョン飯」「アンゴルモア」「進撃の巨人」「闇金ウシジマくん」「死役所」)。

最近は発信する活動が減っていますが、もう少し研究のことやゲームのことも書いて発信したいと思います(余計なことを書いているうちに、忘れていた書く楽しみを少し思い出しました)。これからもよろしくお願いいたします。

LudixLab公開研究会「教育のゲーミフィケーション、これまでとこれから」を開催しました

一昨日の2月13日、久々にLudix Labで公開研究会を開催しました。ご参加者の皆様ありがとうございました。

「教育のゲーミフィケーション、これまでとこれから」と題して、教育分野のゲーミフィケーションの概要と最近の事例やデザイン理論など「これまで」の状況について話題提供して、参加者の皆さんと「これから」についてディスカッションする構成でした。

私からは「教育のゲーミフィケーションとテクノロジー」について、特にデジタルバッジとVRやARの話題でお話ししました。今回あらためて思いましたが、この二つのテクノロジーを取り巻く最近の状況はとても面白くて追及する意義があります。この分野は米国が先導している状況が続いていますが、国内でも今後、開発のリソースや普及のプラットフォーム作りに向けた動きをどうとっていけるかというところです。

海外で研究事例も論文も増えているためなかなかフォローしきれないのですが、このような発表の機会があることで、少しずつ集めた情報や文献を整理してキャッチアップしています。整理しきれず盛り込めなかった話題もありますので、今後も継続的に発表の機会を持ちたいと思います。

気が付けば、LudixLabの結成は2013年1月ですので、もう5年が過ぎました。フェローたちがそれぞれに忙しくなっていて、以前ほど集まれなくなってますが、今後も程よいペースでイベントを企画したいと思います。


Ludix Lab 公開研究会「教育のゲーミフィケーション、これまでとこれから」

■趣旨
2010年に「ゲーミフィケーション」という用語が登場してから8年、教育分野でも様々なゲーミフィケーションの活用が展開され、研究分野ではそのデザイン理論も生まれてきました。

今回の公開研究会では、ゲーミフィケーションとは何か、どう教育へ導入されていったのかを解説しつつ、最新の事例や展開を紹介していきます。また、研究分野で構築されたデザイン理論についても紹介し、教育とゲーミフィケーションの「これまで」を俯瞰的に見ていきます。

フロアディスカッションではこれまでの展開を踏まえた上で、教育とゲーミフィケーションの「これから」を議論し、登壇者と共に今後の展開を考えていきます。

教育のゲーミフィケーションに興味がある方、教育にゲーミフィケーションを導入したいと考えている方、この分野の今後の展開に興味がある方はぜひご参加下さい。

<タイムテーブル>
(1)イントロ
(2)ゲーミフィケーションと教育への導入
(3)教育のゲーミフィケーションとテクノロジー:デジタルバッジとVR/AR
(4)教育のゲーミフィケーションのデザイン理論と評価理論
(5)フロアディスカッション「教育のゲーミフィケーションのこれからを考える」
(6)ラップアップ

■登壇者:
藤本徹(東京大学 大学総合教育研究センター 特任講師)
福山佑樹(東京大学 総合文化研究科 特任助教)
池尻良平(東京大学 大学院情報学環 特任講師)

■日時:2018年2月13日19:00-21:00

■会場: 東京大学本郷キャンパス福武ラーニングスタジオ1と2(B2F)
■参加費:一般:前売3000円、当日4000円(軽食、飲み物付き)
■定員:25名(定員に達し次第〆切)

■登壇者プロフィール
藤本 徹(ふじもと とおる): 慶應義塾大学環境情報学部卒。民間企業等を経てペンシルバニア州立大学大学院博士課程修了。博士(Ph.D. in Instructional Systems)。専門は教授システム学、ゲーム学習論。ゲームの教育利用やシリアスゲーム、ゲーミフィケーションに関する研究ユニット「Ludix Lab」代表。著書に「シリアスゲーム」(東京電機大学出版局)、訳書に「幸せな未来は「ゲーム」が創る」(早川書房)など。

福山 佑樹(ふくやま ゆうき): 早稲田大学人間科学部卒。東京大学大学院学際情報学府を経て、現在にいたる。首都大学東京での非常勤講師や研修用ゲームの開発などにも取り組んでいる。ゲームを利用した社会問題の学習手法など、ゲームと教育・学習の関係性について研究している。分担執筆に「職場学習の探究」、「対人援助のためのグループワーク2」など。

池尻 良平(いけじり りょうへい): 東京大学大学院学際情報学府で修士・博士課程を経て、2013年より現職。専門は教育工学、歴史学習、転移、ゲームデザイン。社会の問題解決に応用できる歴史のゲーム教材を開発している。共著に『ゲームと教育・学習(教育工学選書Ⅱ)』(ミネルヴァ書房)、『歴史を射つ』(御茶の水書房)、訳書に『学習科学ハンドブック[第二版]第2巻 効果的な学びを促進する実践/共に学ぶ』(北大路書房)、『21世紀型スキル: 学びと評価の新たなかたち』(北大路書房)など。

■主催: Ludix Lab(NPO法人Educe Technologies)

 

大規模公開オンライン講座(MOOC)におけるラーニング・アナリティクス研究の動向

日本教育工学会論文誌41巻3号に、査読付資料「大規模公開オンライン講座(MOOC)におけるラーニング・アナリティクス研究の動向」が掲載されました。

MOOCのコース開発と運営を続ける中で、少しずつ調べてきた論文などの知見を整理した論文です。J-Stage上で全文公開されていますので、このテーマにご関心のある方はどうぞご覧ください。

藤本徹, 荒優, 山内祐平(2017) 大規模公開オンライン講座(MOOC)におけるラーニング・アナリティクス研究の動向. 日本教育工学会誌. 41(3), 305-313.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjet/41/3/41_41037/_article/-char/ja

抄録
2012年以降,世界のトップ大学が一斉に大規模公開オンライン講座(MOOC)の提供に参入したことで,グローバルなオンライン教育プラットフォームとして急速に普及し,研究テーマとしての関心も急速に高まった.この動きの当初は,コース提供した大学による教育実践報告や,将来の可能性を展望する議論が中心だったが,近年では具体的な実証研究も進展しており,ラーニング・アナリティクスを取り入れた研究も見られるようになった.本稿では,MOOC に関するラーニング・アナリティクスの先行研究をレビューし,この分野の研究動向を概観したうえで,今後研究を進めていく上での論点や課題を検討する.

 

HEVGAによるWHOのゲーミング障害指定への反論抄訳

昨日、ゲーム研究者の国際団体「Higher Education Video Game Alliance(HEVGA)」が、先日WHOが発表した「ゲーミング障害」を指定する方針について、共同で反対声明を出しました。この分類指定の趣旨は理解するが、限定的な証拠をもとに早急な結論を出してゲームを不当に貶めることは、この問題への歪んだ見方を広め、問題の改善にはつながらないという趣旨の声明です。

Higher Education Video Game Alliance Opposes World Health Organization’s ‘gaming disorder’

国内メディアでもこのWHOの指定について報道されていますが、特に反論の動きもなく、またいつものゲーム批判かという冷めた目でスルーしている向きも多いと思います。とはいえ、こういう公的機関の動きはゲーム産業や関連分野にダメージにつながりかねず、反論すべきところはきちんと反論しておくべきところです。米国を中心とする研究者コミュニティのこの辺りの動きは速いところは見習いたいです。

声明のプレスリリースは短いものでしたので、正月休み明けのウォーミングアップを兼ねて抄訳を作成しました。ざっと訳したため、細かい用語の言い回しなど間違いがあるかと思いますがご了承ください。

(以下、前掲のHEVGAのプレスリリース訳)

高等教育ビデオゲームアライアンス(HEVGA)は、世界保健機関の「ゲーミング障害(Gaming Disorder)」指定に反対します。

WHOが提唱する「疾病問題の国際分類(ICD)」での指定は、十分な学術研究の証拠に基づかず、何の解決策や予防法も示さずに世界中の何十億人ものプレイヤーに不当な汚名を着せるものです。

ワシントンDC発-2018年1月4日
ホリデーシーズンのさなか、WHOがICDの分類に「ゲーミング障害」を新たに追加するという提案についての報道は、非常に落胆させられるものでした。既に、大手メディアはこの提案の分類について「精神疾患」や「精神衛生状態」といった表現で報道してます。WHOの提案は、この障害の性質を「ゲームをしたい衝動の抑制ができない」、「重大な問題が生じてもゲームを続ける」と明示して、「再発性のある」ゲーミング行動に限定した慎重な指摘であるものの、ゲーミングを依存障害分類に追加することは、個人的行動に根差した乱用への対策にはなりませんし、特定メディアでの症候ではありません。とりわけ懸念されるのは、ゲーミングを障害として分類することで、世界中で何十億人ものプレイヤーが何の問題もなく楽しむ娯楽に不当な汚名を着せる動きが広がることであり、偏見のない公明な研究が進まず、この分類を所与のものとして証拠を求める歪んだ研究が続けられることです。ゆえに私たちは、WHOのこの分類について最大限に強く反対します。

私たちは、ゲームコミュニティ、ゲーム産業、ゲームメディアの形態や効能についての学術研究コミュニティを代表して、WHOの責任ある計画やコミュニティへの関与、市民行動への関与の考えを強く支持するものの、WHOの提案した分類を支持する論拠となる研究結果は、ごく限られたものでしかありません。むしろ、このような動きは、存在が確認されていないゲームと他のメディアの消費行動(例:過度な視聴のような消費パターン)を区別するものです。さらに、「ゲゲーミング」という表現は、通常意味するギャンブル行動とデジタルビデオゲームのプレイ行動を混同させるものです。おそらく最も重要なことは、この分類は何の予防や改善策を提示していないことです。

何世紀もの間、私たちはこのようなゲームや他のメディアをスケープゴートにする動きを目にしてきました。デジタルゲームの前にも、チェスやソリティア、ペンと紙で遊ぶロールプレイングゲーム、他の形態のメディアや娯楽、放送がこのような扱いを受けてきました。18世紀から19世紀にかけて、性的不平等を維持するために、女性は小説の架空と現実の区別を付ける能力がないと見做されていました。それは今日のさまざまな特定の集団や市場が、社会を騒がす問題として扱われているのと同様です。これまでにもゲームは、暴力や子どもの肥満、教育政策の失敗などの現代社会の抱える問題の原因であると批判されるのを目にしてきました。しかし、ゲームがそうした社会的な問題状況を生み出しているという明確な証拠もなく、より重大で社会構造に内在する要因について慎重に検討することもないままに批判を受けているのです。多くの研究が相反する結果を示しており、科学や医学の専門家コミュニティにおいて統一見解が得られていないにも関わらず、ゲームには「依存性がある」と言われています。世界中で20億もの人々がゲームを楽しんでいるという事実があり、STEM教育や人文社会科学分野での良い効果が示されているにも関わらず、特定のグループや報道機関は、ゲームを名指しで危険なメディアであると意図しているようです。

この分類は保険の役に立ち、正しい名称で定義されればさらに有用なのは確かでしょう。しかし、懸命な集団を社会から分断させて被害を与えるおそれがある形で不十分な結論を性急に出すよりも、まずゲームが文化的、象徴的なメディアとして、私たちの生活に与える影響を明らかにするための研究を継続することを推奨します。現代世界におけるデジタルメディアの役割は次世代教育の政策面でも重要なことは明らかです。慎重で中立的でバイアスのない研究報告や、感情的な扇動への批判的な眼を持つことで、このメディアの私たちの生活への影響や、害となりうる行動を抱える人々へのケアについてより良く理解することにつながると考えます。しかし、最善のケアを真に必要とする人々へ提供し、誤りや過度な診断による被害を避けるためには、ゲーミングに障害という無用な汚名を着せることはあってはなりません。限定的な証拠をもとに、特定のデジタルメディアを名指しすることは不当であり、必要とする人々へのケアや対策の発展や、このメディアの社会的、文化的な役割や影響についてのより良い理解にはつながりません。

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HEVGAについて
HEVGAは、専門学校や大学におけるビデオゲーム教育の文化的、科学的、経済的な重要さを支持する高等教育分野のリーダーが集うプラットフォームを形成することをミッションに活動しています。鍵となるのは、21世紀の学習環境におけるこのコミュニティの影響を育てて活かすためには、統一見解の発信や政策立案への関与、メディア広報、外部資金獲得も含む堅固なリソース共有ネットワークを作り出すことです。詳しい情報は、hevga.org, HEVGA のFacebookページへのいいね、または@theHEVGA のTwitterページをフォローして参照してください。

2018年を迎えて

皆さま、新年あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。

今年の帰省はパソコンを持たずに帰って、温泉に入りテレビを見てゆっくり過ごしました。東京に戻ってもう少し休みがありますが、週明けから重い案件が続くので、そろそろ休みモードから頭を切り替えようかというところです。

昨年は組織人としての自分を考えさせられることが多い年でした。管理職的な役回りが多く、組織内での調整ごとも増えて、起案して話をつけて前に進めることの繰り返しでした。書いた原稿量より、業務的な提案書や報告書を書いた量が遥かに多いというのは研究者として望ましい状態とは言えません。よく研究できた一年とは言い難いものの、大いに悩みながら、よく働いた一年でした。

今年は早々に、組織人として大きな仕事の山場が待ち構えており、良い形で乗り切れるように手を尽くすことが第一のチャレンジです。無事乗り切ったところで、これまで任された役目は段階的に整理しながら、研究者として次のテーマに着手する一年にします。

自分の性分として、自分でなくてもよいことや自分がやらない方がうまく回りそうなことは、出しゃばってやりたくないし、さっさと他の人に渡したいと思って生きてきましたが、他にできる人がいないことや行きがかり上引き受けたことが積み上がってきて、大事なことに力を尽くせず残念な思いをすることが増えてきました。年齢的にも40代半ばになったこともあり、これから残りのキャリアや仕事の仕方自体を捉え直したい。この何年か考えてきたことを形にして、大事にしたいことに舵を切って前に進む一年を送りたいと思います。

2017年の振り返り

気が付けばもう今週で2017年も終わりです。昨年末も一昨年末も、年末は休みに入ったとたんに疲れが出て、振り返りの記事を書く気が起きなかったのですが、今日は仕事納めのスローペースな仕事の締めに、何か書ける程度の元気が残っていました。

例年通り、今年一年で書いた原稿や発表を整理しました。主なものは来年出版される年初に書いたレビュー論文が1本と、国際会議のフルペーパー発表2本、共著の書籍やその他発表などというところです。ジャーナル論文3本投稿を目標にしていましたが、3本いずれも詰め切れずに仕掛りのまま来年に持ち越してしまうのが反省点です。改稿や査読対応など急ぎの案件に少しずつ時間が削り取られて、ソロ作業が後回しになってしまうのが相変わらずの状況です。

年初に出したものは、今年のこととは思えないように以前のことのように感じます。9月の島根とナポリの連投も、ほんの3か月前とは思えません。良いことも悪いことも詰め詰め濃縮な一年でした。

私は今日で仕事納めで、明日から年末休みに入ります。冬休みの自由研究として、ようやく買えたニンテンドーSwitchのゲーム数本と、PS4の「サドンストライク4」を買い込んできたので、ゲームの時間を確保しながら、年明けから走り出すためにしっかり休養を取りたいと思います。

今年も多くの皆さまにお世話になりました。良いお年をお迎えください。

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JSET全国大会@島根大学での研究発表予定

今週末15日から島根大学で開催される日本教育工学会全国大会での発表予定をお知らせします。

私は大会最終日9月18日の午前の一般研究発表枠で、コーセラで東大が開講中のMOOC「Studying at Japanese Universities」の受講者の状況についての発表と、共同発表で同じく東大でMOOC開発を担当している荒さんの発表の2件を予定してます。

9月18日(月) 11:10〜13:10 会場:2号館603
3p-603-01
MOOCの学習パスの複線化に伴う学習行動の変化
荒 優,藤本 徹,一色 裕里,山内 祐平(東京大学)

3p-603-02
日本留学準備支援のためのMOOC受講者の参加状況
藤本 徹,高濱 愛,荒 優,一色 裕里,仲谷 佳恵,山内 祐平(東京大学)

同じく18日午後には、私が代表として参加している「SIG-05 ゲーム学習・オープンエデュケーション」のSIGセッションを行います。

 

また、今年で第3号になる「SIGレポート2017」の会場配布を行いますので、大会参加される方は受付近くのSIGブースへお立ち寄りください(PDF版も公開しました。下記のリンクからダウンロードできますのでご覧ください)。私は「デジタルバッジの研究動向」を執筆しました。SIGセッションでもデジタルバッジについて話しますので、このテーマに関心のある方は是非SIGセッションへお越しください。国内研究の展望を一緒にディスカッションしましょう。

日本教育工学会 SIG-05 ゲーム学習・オープンエデュケーション レポート2017
https://goo.gl/NwFcWa

目次
1章 両分野が交差するテーマ
デジタルバッジの研究動向
2 章 両分野の研究動向
学習ゲームにおけるログデータの利用動向
高等教育におけるゲーム学習の動向
世界におけるオープンエデュケーションの動向:Open Textbook の普及と
Open Pedagogy の提案に着目して
3 章 両分野の実践事例
学習ゲーム制作を題材とした産学連携による教員養成教育の試み
数学的ゲーム・パズル「碁石拾い」を題材とした数学的活動の実践
早稲田大学におけるグローバルMOOC への取り組み
早稲田大学におけるJMOOC の講座への取り組み
4 章 研究リソース集

SIG-05 ゲーム学習・オープンエデュケーション
9月18日(月・祝)14:10~16:10 会場:2 号館 603
コーディネーター:藤本 徹(東京大学),重田 勝介(北海道大学),福山 佑樹(東京大学),池尻 良平(東京大学)
本SIGでは,ゲーム学習とオープンエデュケーションの研究動向や研究リソースをまとめた「SIGレポート2017」発行に向けた調査と執筆を進めてきました.
本セッションでは,全国大会開催に合わせて公開するSIGレポートの内容をベースとして,この分野の研究動向やこれまでに取り組まれた研究を紹介し,今後の研究課題や議論すべき点について検討を行います.

では、全国大会される皆さま、島根でお会いしましょう。