私が世話人をやっているSerious Games JapanのWebサイトに教育用ゲーム関連情報を掲載。本家Serious Gamesで発行しているニュースレターの日本語版。参照しているネタ元まで訳せないのは残念だが、こういう情報がもっと日本語で流通するようになると、この分野への関心も高まってくるんじゃないかと思う。翻訳は骨が折れる作業だが、記事はどれも読んでて面白かった。
「Games for Learning」カテゴリーアーカイブ
アメフトゲーム
一つ片付いて、何もする気力がないので、うちで久々にPS2を引っ張り出して、ぼやっと遊んだ。買ってきて以来まだ一回もやってなかった、NCAA Football 2003をようやく試せた。このゲームは大学フットボール(アメフト)ゲームで、ひいきの大学を選んで遊び倒せるところが肝。スタジアムやマスコット、ユニフォームやチアリーダーのコスチュームまでしっかり再現している。試合中はESPNの中継を見ているような感じで細かい解説も入る。プレイの方も、フォーメーションが細かく選べて、動きもかなりリアル。練習モードで同じフォーメーションを何度も繰り返し練習できる。アメフトは操作が多く、コントローラーのボタンも総動員で、なかなか操作を覚えられない。
30分ほど試行錯誤しているうちにりんが帰ってきた。面白そうにしていたので、簡単にやり方を教えてバトンタッチ。さすが元タッチフット選手だけあって、フォーメーションの意味とか各選手の動きも理解しており、10分ほどでタッチダウンパスを連発できるようになった。ゲーマーでないりんが楽しめるかどうかが、ゲームクオリティ評価の一つの私の評価軸になるのだが、このゲームはその点はクリアしていた。しかし、アメフトのルールや勝ち方をよく知らない素人にはこのゲームはしんどい。ゲームにはそうした周辺知識が提供されていないからだ。操作法の段階的なチュートリアル、フォーメーションの意味と活用法などがPerformance Support System的に提供されれば、このゲームの価値もすごく上がり、アメフトファンのレベルアップにもつながると思う。
ゲームデザインとISD
午後、数ヶ所に仕事のメールを送った後、School of Information Science and Technology主催のフォーラムへ。プレステ2のスポーツ系ゲームなどをいくつも手がけたプロのゲームデザイナーのプレゼンに続いて、ISTの教授陣が加わってのパネルセッション。John Carrollというユーザビリティデザインの大御所と、若手のゲーム研究者二人。議論自体はそんなに盛り上がらなかったものの、話は面白かった。いつも思うが、とにかくこっちのプロデューサー系の仕事をする人たちは言語能力が高い。
ゲームデザイナーの思考のプロセスはインストラクショナルデザイナーのそれと方向はほぼ同じだが、基軸になるものが違う。ゲームデザイナーはまず”Fun”がきて、IDerは”Learning”がくる。それを軸にして、展開するところや、目的指向であるところは共通。教育系ゲームを研究する我々は、Funではなく、Engagementを軸に考える。教育以外の分野のデザインについて触れるのはいつも勉強になる。
最近感じるのは、自分はいわゆる教師、あるいは学校教育の関係の人たちよりも、エンジニアの方が発想が近いのだなということだ。教育系のカンファレンスに出るよりも、このセッションのような内容の方がよほど興味深い。また、自分は教えることは楽しいと思うが、すごく楽しいかというとそれほどでなくて、教えるよりも、ものごとの効率をよくしたり、効果を高める仕組みを作る方が断然楽しい。
教師とエンジニアといえば、同じ研究科にいても、教師あがりの人は細かい要件定義とか、詳細な仕事のつめが得意でない人が多く、オンライン教材開発などをチームでやる場合は情報系や工学系のバックグラウンドがある人への依存度が高くなりがちだ。テクノロジーを利用した教育が普及してきた今日において、インストラクショナルデザイナーたるもの、自分がエンジニアやプログラマーをやる必要はなくても、エンジニアやプログラマたちに自分たちのやろうとしていることを伝えられるだけのコミュニケーション力はつけておく必要があると思う。そうでないと、専門家としての市場価値はずいぶん下がってしまう。Face-to-Faceの研修のみ対応、というのでは守備範囲が狭まってしまうからだ。何を売りにするかは人それぞれでいいのだが、傾向としては、テクノロジーがらみのことを強みにしている人の方が有利なのは間違いない。
4/18(日) ネットゲーム
追い込み期に疲れて現実逃避モードになるのはしょっちゅうなのだが、毎回逃避する先は違う。今日はふと、ネットゲームをやってみようと思い立ち、前に登録したインフォシークゲームをのぞいて見た。ゲームをやる時には当然ユーザ認証があるのだが、ユーザー種別が3種類もあって、どれで登録したんだか覚えてない。しかも楽天IDに関連付け済とか言われて、楽天のサイトにとばされた。前の登録確認メールを探し回ったり、パスワード再発行したりして、ようやくログインできた。ログインしたと思ったら、実に閑散としていて、閑古鳥状態だった。まあ、日本時間は月曜の早朝だからこんなもんかと思って、ちょっとオセロで遊んで退散した。
ふとハンゲームというのもあったな、と思い出してWebサイトをのぞいて見た。するとこっちは2万人だかのユーザーが遊んでいて、にぎやかなものだった。オセロも200人以上が遊んでいる。マージャン、パチンコなんてのは2000人以上。おい、月曜の朝からなんでこんなに遊んでいるんだ、この人たちは何者だといぶかしく思いながらも、とりあえずユーザー登録してみた。これは簡単。住所とかなんとか余計な情報を取らないので、すぐに登録できて遊べるのがいい。とりあえずまたオセロ。っていうかルールを知らんゲームが多く、知っててもちょっと遊ぶには時間がかかりそうか、いまいち興味がないものがほとんどで、消去法でオセロ。自信があったのに、詰めが甘くあえなく負け。弱っ。パチンコもやってみたら、素人目には、最近のデジタル化されたパチンコ屋のをやっているのと変わらない。金もかけてないのに2000人も遊んでいるというのだから、これはたいしたものだ。
様子としては、チャットしながらやってる人たちもたまにいるけれど、基本的にはゲーセンで見知らぬ人が会話も交わさずただ対戦しているのと同じ感じ。自分もあまり話しかけられても難だなーと思いながら黙々とゲームしただけ。対戦成績700勝300敗みたいな人たちがたくさんいたが、この人たちはどこのゲーセンにもいた名人級の人々なのだろう。ネットだと場所に左右されずに強い人同士で切磋琢磨してたりするのだろうか。その境地まで達してないのでよくわからん。
楽天もハンゲームも友達が勤めているので、どちらに肩入れするわけでもないけれど、ユーザーの支持の差は明らかだった。たしか楽天はたいそうな金を払って、このサイトのネットゲーム会社を買収したんだったと思うが、このゲームサイトだけ見ると、あまり活用できてない様子だ。まあ、込み入った話は抜きにして、楽天もハンゲームもどっちもがんばれ。
体感系ゲーム
日本でEyeToyってどれくらいはやってるのだろうか。ヨーロッパでバカ売れ、アメリカでもまずまずらしいのだが、日本ではどんな様子なんだろう。ふとPSのサイトを見たら、後続ソフトがいくつか出るらしい。MLB2004がEyeToyカメラ対応っていうのは面白そう。EyeToyカメラのゲームは、これからいろいろ拡がりが出てきそうでよい。あと、カラオケレボリューションとか、しばいみちとか、素でやるのはちょっと恥ずかしそうだけど、みんなでやると楽しそうなゲームって、どういう風に遊ばれているのだろうか。そういえば、先月のゲーム開発者カンファレンスで、カラオケレボリューションの洋楽版みたいなのが出展されていて、来場者が遊んでいたが、一人でA-HAのTake On Meを熱唱しているGeekもいたが、興味があるけどちょっと自分でやるには恥ずかしくて遠慮している人たちが多かった。大学院のテクノロジーのクラスでEyeToyのデモをやった時も、みんなに遠慮された。でも後で台湾人のクラスメートが購入したと言っていた。なんだ、やっぱりやりたかったんじゃんか。
この手の体感ゲームは、古くはモグラたたきから、脈々と進化し続けている。そして技術が高度になるにつれて、娯楽用ゲームと訓練用シミュレータのようなものとの境界がなくなってきつつある。市販のゲームレベルの機能でも十分に、基礎訓練に有効な職種はいろいろあると思う。フライトシミュレータがパイロットの訓練に有効だという例はよく知られているが、それ以外にも今後出てくるだろう。面白い市場だと思うので、参入者がどんどん現れてくることを期待している。
ゲーム脳と熟練脳
前にゲーム脳騒動について書いたが、先月のゲーム開発者カンファレンスで、日本人がこの問題について紹介したらしく、研究者のメーリングリストでも話題になった。かいつまんでどういう研究なのかを紹介したところ、大いに反応があって、今も議論が続いている。ゲーム脳の兆候として、何も考えずに反射だけで操作できる状態で長時間ゲームすることで、ベータ波の低下が生じる、ということが問題視されている、という点を説明したところ、「何も考えずに反応できる」というのは、重要なスキルなのではないか、という指摘があった。車の運転であれ、判断業務であれ、どんなスキルにおいても、適切に即時判断ができるようになることが熟達するということであり、むしろポジティブに捉えるべきことではないかということである。確かにその通りで、熟達者の脳がどんな状態になっているかを調べれば、ゲーム脳は危ないというだけではない結論につながる可能性がある。
認知科学の分野では、Automaticity(自動性)という概念があって、これは熟練した状態になると、脳のプロセス処理が自動化されて短縮されるというものである。必要十分な学習ができるとこの状態に達するのだが、いったんこの状態に達すると、これ以上の学習は起こらない。ゲーム脳が脳によくないのだとすれば、学習のない状態で長時間脳を放置することにあるのであって、単純なパズルゲームやシューティングゲームなんかだとそれが起こりやすい、ということなのだろう。それなら、ゲームそのものに問題があるというよりは、長時間やらせてしまう家庭環境に問題があるのであって、親や教師が恥ずべき問題である。ゲーム脳の研究は、研究者のゲームに対する偏見から始まっているようなので、そうした問題には余り目が行ってない。誰か対抗して、類似の研究をポジティブな観点からやろうという研究者は現れないだろうか。ゲーム世代の脳生理学者、医学者たちに期待。
Serious Games Japan 始動
教育用途のシミュレーション&ゲーム研究者をサポートするSerious Games Initiativeというプロジェクトがある。先月、サンノゼのゲーム開発者カンファレンスの中でSerious Games Summitという会合を開催し、私もこれに参加した。ここのリーダーのBen Sawyerとメールのやり取りをしていて、日本でも我々のコミュニティを広めたいという話になった。喜んで手伝うよと申し出たら、早速メーリングリストを立ち上げてくれた。近日公開なので、教育用途のシミュレーション&ゲーム研究に興味がある人にはぜひ参加してもらいたい。これから段階的にウェブの立ち上げ、リリース送付など、活動促進を行なっていく予定。
この話に前後して、Simulation and Future of Learningの著者のClarkが、次回作の草稿を送ってくれた。この次回作もこの分野の研究を発展させるのに大きく貢献する内容だ。彼はコンサル出身らしく、ロジックを一から組み立ててシミュレーションゲームと既存のメディアを比較分析できる。いい作品なのでぜひ日本でも出してくれと頼んでおいた。今年はこの研究分野を日本でも認知させるための活動をあれこれやっていくことになりそうだ。
3/23(火)Serious games summit Day 2
6時過ぎ起床。3時間の時差がちょうどよいことを再確認。9時過ぎにカンファレンス会場へ。遅くに行くと、もう朝飯がほとんど残っていない。ドーナツとコーヒーで軽く朝食を済ませ、開式を待つ。隣に座った体格のよいおじさんに話しかけたら、シリコンバレーのゲーム会社の社長だった。開発中のRPGを紹介してくれた。いまいちよくわからなかったが、コンセプトが新しいらしい。その隣に座っていたおじさんも教育ゲーム会社の社長だった。スペイン語学習ソフトなど出しているそうだ。反対側にいたのは、テキサスの大学のゲームデザイン教育プログラムのディレクター。向かいに座っていた若者はペンステートのISTからだった。二人とも喜びつつ情報交換。
セッションは、ウィスコンシン大の研究者二人のプレゼンでスタート。年配の教授と、Ph.D.取りたての若い研究者で、いいコンビという印象。若い方はKurt Squireといって、市販のゲームを教育の場に活用する研究ではおそらく第一人者だろう。彼の博士論文では社会科教育でCivilization III使ったらどんな学びが生じるか、というもの。プレゼンはスピード感があって、これから成功していくのは間違いないといった印象だ。「ゲームでよく遊んでいる今の子どもたちは、ラムズフェルド(国防長官)よりも戦争をわかっている」というジョークはかなり受けていた。また、ある市長の「シムシティをやったことのない都市デザイナーのデザインした都市には住みたくないが、シムシティしかしていないデザイナーの都市にも住みたくない」というコメントの引用も当を得ていた。彼の研究をフォローすれば、かなり研究がはかどりそうだ。
次のセッションは、ゲーム開発者らによる、Design Rules of Serious Gamesというテーマのパネル。この分野のゲーム開発を進めていく上でのデザインノウハウやクライアントとの連携のコツなどが議論された。次に、軍が推進するゲームプロジェクトの関係者によるパネル。America’s Armyの開発プロジェクト責任者の大佐が、このゲームが新兵募集にいかに効果的だったかということを数字を挙げて紹介していた。
昼食時、みんなネットワーキングに熱心な中、ひとりぽつんと食事を取っているひげ面の青年がいたので、彼と食事をとることにした。彼の名はEric、大学で働くプログラマーで、このセッションは自分のボスの領域だからと、セッションはまあまあだと言っている。いい機会なので、プログラマーにとって、いいプロジェクトマネジャーはどんな人かとか、ゲームの研究をやるのにどれくらい開発のことがわかっているべきかとかいろいろ質問した。彼はニコニコとして、わかりやすい言葉を選んで説明する。ネットスケープが200人のプロジェクトでブラウザ開発していたのに対して、マイクロソフトは優秀な30人でIEを作った。一人の優秀なプログラマの生産性は平均なプログラマの10~15倍で、給料はせいぜい5倍くらいだから、優秀なプログラマでプロジェクトを構成することがいかに大事かは明らかだろう?と、例を挙げて説明してくれた。また、彼の親父さんが経営していたソフトウェア会社は大手が買収されて、MBAホルダの経営者が引き継いだのだが、その経営者はそれまでのプログラマを首にして、コストの低いインドに開発拠点を移したそうだ。するとノウハウが移管されていないので、あっという間にその会社は傾いて、首にしたプログラマを高額で雇いなおした、とか、彼の話は一つのセッションに値するくらいに話が面白かった。
その後のセッションは、デジタルゲームベースドラーニングの著者で、教育ゲーム会社の社長をやっているMark Prenskyをモデレータに、Serious Gamesの取り組みをいかに普及させるかというテーマでのパネル。休憩時間にMarkに話しかけたら、私が日本人と見るや「そうですか、これはどうもどうも」と返してきた。奥さんが日本人で、片言の日本語がしゃべれるそうだ。彼の著書も奥さんが翻訳中だそうだ。自分の研究に彼のプロダクトを使いたいという申し出と、日本関連の仕事への協力を約束して、うまくつながりをつけることができた。
次はBen SawyerによるSerious Games Funding 101と題した、プロジェクト立ち上げノウハウに関するプレゼン。グラントリサーチの常識的な話が多かったのだが、彼の熱意がこもっているので聴いていてエンパワーメントされた。こういう話は、知識として知っているだけではダメで、彼のように気合を持ってやれるかどうかという性質のものだ。彼のプレゼンの後、MITのEducation Arcadeプロジェクトの教授が登壇して、5月にE3でやるカンファレンスの紹介。そっちのカンファレンスも、Sim Cityや、Civilizationのデザイナーのようなビッグネームがパネルをやるそうで、楽しみである。今回来ている参加者はみんな来るんじゃないかという勢いである。
最後のセッションは会場全体でのディスカッション。さっきのEricが、教育関連の開発をやるときはSCORMという規格があって、その対策をしないと後で面倒になるから、興味があれば話をしよう、と申し出ていた。Benが、SCORMは重要なテーマだと自分も認識しているからその申し出はありがたい、とフォローしていた。ディスカッションに続いて、Ernest AdamsによるSummation。この二日間で議論された内容をうまく引用しつつ、このサミットがいかに実り多いものであったかを解説し締めくくった。
セッションの終了後、Benをつかまえて、Serious Gamesの日本での普及を申し出ると、ぜひ頼むと言いつつ、日本人で参加している人が他にもいるので協力するといいと言っている。誰だろうと思いながら名刺交換すると、彼は何だ君だったのかと合点がいった様子で、その日本人とは私のことだった。彼は以前に私が日本事情をメーリングリストへ投稿したのを覚えていて、その調子で日本のことを紹介してくれ、と励まされた。とりあえずこのコミュニティにはまだ日本人はいないらしい。来年の今頃には、さて100人くらい仲間を増やせるだろうか。
3/22(月) Serious games summit Day 1
6時ごろ起床。早起きのようだが、ペンシルバニアだと9時ごろ。昨日やりかけの課題をもう少し進めた。出かけようとエレベータに向うと、ラウンジで朝食サービスをやっている。ホテルの会員は無料なのだそうだ。今回たまたまここのホテルチェーンのサイトが一番安かったので会員になったのだが、思わぬ厚遇。でもカンファレンスで朝飯が出るので今日は果物だけつまんで会場へ向った。会場は早くもGeekであふれかえっていて、秋葉原へ来たような雰囲気。日本人もかなり来ている様子。でもなんか話しかけづらい。ドーナツなどつまみつつ、コーヒーを飲んで開始時間が来るのを待った。
今回参加したSerious Games サミットというのは、エンターテイメント目的以外のゲーム&シミュレーションの普及を目指す人たちの会合。この分野の主要な研究者が顔をそろえている。ゲーム開発者、研究者、スポンサー、ユーザーそれぞれから出てきている。大学関係者の割合が多い。この分野の一番のスポンサーは米軍で、軍関係のプロジェクトの人たちも結構来ている。大学生とかはあまりいない様子で、この会場だけ平均年齢がずいぶん高い。会場の前半分が円卓席になっていたのでそちらに陣取った。隣に座ったいい面構えの若者と目が合って、挨拶した。彼の名はWilliam。コロンビア大でインストラクショナルテクノロジーを学ぶ大学院生。こちらと似たような立場である。このコミュニティのアクティブメンバーらしく、いろんな人を知っている。彼もビッグネームのそろったこのセッションに期待があふれている様子だ。会話が弾むほど英語ができないのが残念。
ホストでこのコミュニティ主宰者のBen Sawyerが壇上に立ち、挨拶とSerious Gamesの現状についてのブリーフィング。彼は大学経営シミュレーションVirtual U開発プロジェクトのリーダーで、そのプロジェクトを通していろいろなノウハウを身につけてきたようだ。彼はもともとリーダー気質なのだと思うが、ここまでの成功の積み上げからくる自信と、さらにこのイベントを成功させようという強い意志がにじみ出ていた。
会場は200人以上入っていて満員御礼。予想以上に盛り上がっている。ゲーム開発者カンファンレンス内で実施したのも功を奏したのだろう。近くにオフィスを構えているというゲーム開発者も何人か見かけた。午前のセッションは医療福祉系の財団、米政府法務省など、Serious Gamesを開発したクライアント側がパネルになってのディスカッション。Serious gamesで何をやろうとしたか、プロジェクトの様子はどうだったか、将来のプロジェクトではパートナーたちに何を求めるかなどの議論が行なわれた。昼食をはさんでの午後いちのセッションは、分科会方式でテーマごとにテーブルを囲んでのグループディスカッション。私は「今後の研究課題検討」グループに参加。インストラクショナルデザイン系、認知科学系、ゲームデザイン系の大学教授たちと、数人のゲーム開発者がいた。心理的影響、身体的影響、学習効果測定などのテーマ出しを行なって、それぞれについて議論した。
休憩時間中に、日本人が二人、話しかけてきた。一人はゲーム関係のライターの人で、もう一人は東大の院生だった。いずれも興味本位でちょっと顔を出してきたという感じ。それ以外に日本人は見かけなかった。本格的にこの分野で研究しようという人にもっと出てきてもらいたい。ゲーム大国日本がこの分野の盛り上がりを共有できないのは残念だ。
休憩を挟んで、事例発表。消防士訓練、ロンドンタクシー運転手の語学訓練、恐怖症治療、ホームデザイン啓蒙、軍の作戦遂行訓練、テロ対策、ハワードディーンの選挙運動といった、数々のゲーム&シミュレーションが紹介され、いずれもかなりの成果を挙げている。ゲームが組織の問題解決ツールとして有効であるということが示された。そのあと、マイクロソフトのゲーム部門のGMだった人がAge of Empireやフライトシミュレータなどの数々の成功作の開発に関する話と、マイクロソフトのユーザーテストの特徴など。Age of Empireは私がこの分野に目を向けた最初のきっかけみたいなものだったので、その開発者である彼の話を聴けたのにはかなりしびれた。
Benのまとめで今日のセッションは終了。盛りだくさんで疲れた。何人かの開発者や研究者の知り合いができた。ホテルに戻ると、またラウンジで今度は夕食サービスをやっている。酒まで出ている。まじでタダなのかと聞くと、この階の客はみんなタダで利用できますよと、気さくなフィリピン人の女性従業員がニコニコと答える。今日はあまり客がいないらしく、好きなだけ部屋に持っていけという。赤ワインとハイネケン、リブにサンドウィッチをいただいた。夕飯はこれで十分だ。ありがたい。まだ引っ張っている授業の課題を進めつつ夕食をとった。ネット接続ができたので、メールを読んだら、課題の出ている授業の講師から、金曜まで延期のオファーが出ている。ありがたい。安心したところで、別のホテルでカンファレンスの参加者が集まっているというのでのぞいてみた。豪華なホテルのラウンジが、Geekの溜まり場になっている。残念ながら、ちょっと時間が遅かったため、Serious gamesの人たちはもうあまり見かけなかった。帰り道にシーフードレストランがあったので、牡蠣を食べに立ち寄った。さすがIT成金の多いシリコンバレー、レストランはやや高め。違った6種類の産地の生牡蠣サンプラーと、白ワインを頼んだ。牡蠣は産地で味が微妙に違う。身の大きさはずいぶん違う。というかそれは個体差もあるか。満足してホテルに戻った。気候がよくて外を歩くのが心地よかった。
教育研究者とゲーム
毎日新聞のWebサイトMainichi Interactiveのゲーム関連ニュースは結構充実していてたまに読むと結構面白いニュースが出ていたりする。今日はそのページではないのだが、毎日のサイトでオンラインゲームに関して教育研究者と称する人が書いた記事を読んだ。
ひきこもりに大流行の兆し インターネットゲーム
教育研究者を自称して、全国紙にこういう記事を出すのはやめてもらいたいと言いたくなるような低レベルの内容である。オンラインゲームがひきこもりを助長するということがその趣旨なのだが、研究者を名乗りながらもアプローチがまるで分析的ではなく、ひたすら情緒的である。人気のオンラインロールプレイングゲームをプレイして、自分の主観でよしあしを判断しているだけ。「やり始めて3カ月、私には何がおもしろいのか、さっぱり分らない。」のだそうだ。しかも結びのフレーズがこうくる。「そこには、自分よりも力の弱い者を襲い、ストレスを発散する”悪魔の心理”があった。」ルポライターがこういうものを書いているなら、別にどうでもいいのだが、この人は教育研究所所長を名乗っている。失礼ながらこういう人ほど、自分の経験の範囲外のものを理解する力がない。自分が理解できないものに「悪魔の~」とか「心の闇」とかネガティブなレッテルを貼って思考停止に陥る。分析的にものを考えられなければ、ひきこもりの子どもを助けようとしても、合理性を欠いた、民間療法的なものしか提供できないだろう。自分が思考停止するだけなら勝手にしてもらって構わないが、読者にまでそれを伝染させてしまうので有害としか言いようがない。こういう人にメディアで教育を語らせていたら、親たちはますます子どものことを理解できなくなる。
この教育研究所所長が述べるネットゲームがひきこもりを助長するというのは、現象面を一面的に捉えたに過ぎない。弱いものいじめを助長するとか、暴力性を増すというのはネットゲームがもたらすものではない。昔からある不登校やおやじ狩りは、ネットゲームによって生じたものではない。また、ネットゲームとひきこもりを結び付けているが、そうしたゲームの性質は、ネットにつながっていることとは関係がない。オンライン同時プレイの環境が、今までにないコミュニケーションスタイルを生みつつあり、それが新しい教育につながる可能性があるのだが(たとえばこういうもの)、そうした視点はこの記事にはない。逆に、この記事をゲームを知らない親などが読むと、どのゲームも暴力的で害があると曲解するだけである。これを読んで、喜んで曲解をしてしまうような親たちが彼のお客さんなのだろうが、彼らと子どもたちの距離は離れていくばかりだろう。
日本の自称教育評論家や教育研究者が「非ゲーム世代」に施したマイナスの教育は相当根が深い。しかし、ゲームが教育の敵ではなく、逆に最強の武器になり得るということを社会に示すいい例を提供できれば、流れも変わっていくことだろう。