前にゲーム脳騒動について書いたが、先月のゲーム開発者カンファレンスで、日本人がこの問題について紹介したらしく、研究者のメーリングリストでも話題になった。かいつまんでどういう研究なのかを紹介したところ、大いに反応があって、今も議論が続いている。ゲーム脳の兆候として、何も考えずに反射だけで操作できる状態で長時間ゲームすることで、ベータ波の低下が生じる、ということが問題視されている、という点を説明したところ、「何も考えずに反応できる」というのは、重要なスキルなのではないか、という指摘があった。車の運転であれ、判断業務であれ、どんなスキルにおいても、適切に即時判断ができるようになることが熟達するということであり、むしろポジティブに捉えるべきことではないかということである。確かにその通りで、熟達者の脳がどんな状態になっているかを調べれば、ゲーム脳は危ないというだけではない結論につながる可能性がある。
認知科学の分野では、Automaticity(自動性)という概念があって、これは熟練した状態になると、脳のプロセス処理が自動化されて短縮されるというものである。必要十分な学習ができるとこの状態に達するのだが、いったんこの状態に達すると、これ以上の学習は起こらない。ゲーム脳が脳によくないのだとすれば、学習のない状態で長時間脳を放置することにあるのであって、単純なパズルゲームやシューティングゲームなんかだとそれが起こりやすい、ということなのだろう。それなら、ゲームそのものに問題があるというよりは、長時間やらせてしまう家庭環境に問題があるのであって、親や教師が恥ずべき問題である。ゲーム脳の研究は、研究者のゲームに対する偏見から始まっているようなので、そうした問題には余り目が行ってない。誰か対抗して、類似の研究をポジティブな観点からやろうという研究者は現れないだろうか。ゲーム世代の脳生理学者、医学者たちに期待。