「消えた年金」問題を題材に

 最近、「消えた年金」問題報道で賑わっているが、これはビジネススクールの問題解決やリスク管理などの授業では恰好の議論ネタになる。たぶんもうやっているところもあることだろう。自分が安部首相や柳沢大臣のような立場にいたとしたら、まず何を考えてどう対処するか。テレビを見て怒ったり萎えたりしているだけでなくて、自分が当事者だったらどうするのかを考えた方が有意義だろう。
 ビジネススクールなどでやっているケースメソッドのような教育法は、基本的には仮定のシナリオの中でどう対処するかを当事者の立場で本気で考え、教師や他の学習者とのやり取りの中で学びを深めていく作業だ。その作業に熟練していくに従って、自然と普段からそういう思考スタイルが身について、問題を切り分けたり段取りをつけて考えたりすることができるようになる。ビジネススクールなどの社会人教育機関は、何かを教えてもらう場というよりも、気づきや学びにつながる作業を真面目に一緒にやれる場として価値があるのだと思う。
 ビジネススクール的な問題解決思考法も少しは一般に広まってきたような気もしていたが、みんな5000万件のインパクトに飲まれて、問題の実態に切り込んで考えている当事者は報道で見る限りは出てこないところをみると、あまり普及していないのか、それとも当事者たちが目にしている問題はそれ以上にものすごく深刻なのか。いずれにしても、社会的な問題を題材に、もし自分が当事者になったらどう対処するかを考えておかないと、いざという時にはあたふたして大臣たちと同じようなヘマをしてしまうだろう。

「テレビゲーム教育論」7月に出版

 出版準備中の翻訳書の校正作業が終わって、ようやく訳者の仕事はひと段落。
 原題の訳を副題にして下記のようなタイトルに決まり、7月10日発行予定で進行中です。お楽しみに。
「テレビゲーム教育論 - ママ,勉強してるんだからジャマしないでよ」
(原題:Don’t Bother Me Mom-I’m Learning!: How Computer And Video Games Are Preparing Your Kids for Twenty-First Century Success – And How You Can Help!)
マーク・プレンスキー 著/藤本 徹 訳
発行元:東京電機大学出版局
ISBN978-4-501-54230-6
発行 2007年7月10日

34歳になりました

 今日は平日だったので普通に仕事をしつつ、自分の現状と少し先のこれからのことを考えつつ過ごした。日本にいると、直接人に会ってものごとを進められる分ペースが速い。時差ぼけはなおったけど、その速さにまだ慣れていないせいか、よそ見したり振り返ったりするとコケたり壁にぶつかったりしそうな感じがして、前を向いたままちょっとだけ振り返るような感覚だ。

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Jasag春季大会所感

 先日、日本シミュレーション&ゲーミング学会(Jasag)の春季全国大会に参加してきた。今回は初日のセッションだけの参加。この日は大会シンポジウムと二日目のポスターセッションの予告プレゼンと学会総会、それに懇親会という流れだった。
 シンポジウムは『JASAG1.9:新しい理論と実践に向けて』というテーマで、教育、都市計画、ビジネス、社会心理、の各分野の研究者がパネリストとしてこれまでの取り組みを紹介し、今後の展望を議論するといった内容だった。この学会の学際性を意識した人選になっていたため、各分野でどのようなことが行われるのかをおさらいするには良いセッションだった。各分野それぞれに長年の取り組みの中で実践の型のようなものができているような様子だったし、ゲーミングシミュレーションという枠組みで共通認識が形成されていることも伺えた。

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新しい情報環境への適応

 日本に帰国してから、新しい作業環境に慣れるプロセスが続いている。まず、Vistaのマシンを使い始めてOSのインターフェイスがだいぶ変わったこと。最初は再起動のアイコンが分からなかったりしていちいち手間を取っていたが、いったん慣れてしまうとXPよりも使い易い。
 次にメールをすべてGmailで管理することにしたこと。今まではEudoraで管理していたが、複数のマシンでメールを読むときのメールの管理が煩わしくなったので、この際すべてWebmail上で管理する形を試してみた。Gmailはフォルダ管理ではなくて、タグと検索で管理する形で今までとは管理方法が大幅に変わったのでまだ完全には慣れていない。一番大きな変化は、今まではメルマガやあまり読まないMLの投稿等も惰性で貯め込んでいたのを、即座にザクザクと削除しながら管理する形にした点だ。ファイルのサイズがたいしたことないからといって余計なものまで貯めていくと後で結構な分量になって整理もままならなくなる。郵便で広告DMを受け取ったのをすぐにゴミ箱に捨てるように受信した不要なメールをすぐに削除する形にして、気分的にかなりすっきりした。今まで貯め込んでいたメールの9割以上は後で参照することもない不要なものだと実感した。
 環境が変わるというのは、古い習慣を見直して、最新の自分の状況に合った習慣を構成しなおすよいタイミングだと知った。また自分のペースに慣れてくるとあまり考えずに効率の悪いことをしがちなので、こういう感覚を忘れないようにしたい。

ニンテンドーDSで中学英語

 京都府八幡市の中学校の英語の授業でニンテンドーDSソフト「中学英単語ターゲット1800DS」を使った実証研究の結果について各紙で報道されている。
携帯型ゲーム機使い英語学習 八幡市内4中学校で始まる(京都新聞)
英単語学習:ゲーム機で語彙力4割アップ 京都・八幡(毎日新聞)
子供の脳も鍛えます…ニンテンドーDS、中学教材に活用(産経新聞)
 京都は任天堂のお膝元だけあって、このような取組みをやりやすい面があるのか、以前からも病院の待合室にDS設置とか、立命館大学でDSゲーム開発の共同研究といった活動が行われている。この八幡市での取り組みは、実際の授業の場での実証研究として行われていて、結果も「語彙力4割増」という具体的な数字で成果が示されているので、一般からも注目されやすいのだろうし、教育行政でも話がしやすそうだ。
 ここでは、ニンテンドーDSというゲーム端末を使用しているから「テレビゲームで英語学習」と見る人には映りそうだが、やっていることは従来からある「電子メディアを使ったドリル学習」だと思う。使っているソフトウェアは、ゲームの要素は加味されても基本的には従来のドリル学習教材の延長線上にあって、単語帳を電子メディア化して使いやすくしたものだ。DSというメディアの新奇性や、単語暗記という学習内容、それにモジュール学習というカリキュラム上のニーズにこの教材が適していたことなどの要素も気にとめておいた方がよいだろう。
 このような報道が出ると「教師がいらなくなってしまうのではないか」とか「こんなやり方で楽しい勉強に慣れてしまったら苦しい勉強ができなくなるのではないか」といった否定的な意見が出る。だが、この程度のことで成果が出るというのは、これまでの教育の効率が低すぎたのであって、ドリル学習のような単純作業がうまく指導できていなかったことや、教師というリソースの使い方に問題があったのではないか、と考えるべきだろう。ゲーム機でも何でも、このような形で学習の効率化が進めていけば、教師はさらに重要なことに注力できるのだから、そのような利点に着目した方がよい。それに学習すべてが苦しい必要はなくて、単純なドリルは楽しく効率よくやれた方がよい。それで基礎的で面倒なところはマスターしてしまって、さらに高度で面白いところ、しかもこのようなドリル教材ではカバーできないことに生徒たちが取り組めるようになれば、学習の質そのものが変わってくる。そこでは教師の役割はさらに重要になるはずだ。
 逆に「英語学習は全部ゲームでやってしまえばいい」「他の科目もどんどんやれ」といった肯定的な意見を促すことにもつながるだろう。それ自体は悪いことではないが、この研究では単語の暗記という単純な学習の成果をあげるというところしかカバーしていないことに留意する必要がある。おそらく、ある程度高度なものでも成果の出せるものは作れると思うが、より高度で複雑な学習内容に対応しようとすると、教材の質が左右する面が大きくなるし、授業への導入も難しくなる。そのような難しさを理解せずに安易にやろうとすると失敗するだろう。
 いずれにしても、ゲーム機だからといって特別視したり、頭から拒否してしまうのではなく、よりよい学習の場を提供するためには使えるものはなんでも使う姿勢で臨み、よし悪しを冷静に見ながら判断していくことが大切だと思う。

新生活準備中

 先週末に帰国しました。
 日本での生活のセットアップをしつつ時差ボケ調整中。帰国前にいくつか片付けないといけない仕事があってかなり詰めていたので、週末をはさんでスロー調整。
 今回の帰国からは、軸足を日本において、日本での生活を中心に考え始めた。なので、これまでの一時的滞在と違って、近々の本格的な帰国に向けた生活のセットアップのつもりでいるので、店に行って買うものや見るものも変わってくる。まだ当面は日米を行ったり来たりの生活が続くのだけど、今後徐々に日本で過ごす時間の方が長くなる。長期的な視点がシフトするとものの捉え方がこうも変わるのかというのを体験している。
 毎日の食事、スーパーや100均での買い物、近所の散歩、どの瞬間も久々の日本での生活を満喫している。テレビのニュースを見ていると、日本社会が迷走している様子が垣間見える。日本のいいところも、そうでもないところも見えてくる。そんなことが浮かび上がって見えてくるのは、異なる環境を行き来して生活することの楽しさの一つだ。

eラーニングデザインの10大チョンボ

 英国のeラーニング開発会社のEpicが「eラーニングに関する20項目のトップ10リスト」というのを出している。eラーニングの開発や導入に関するさまざまなトップ10が紹介されていて、そのなかに「Top 10 Design errors in e-learning」というのがある。そこであがっているのは次のようなものだ。

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セカンドライフ vs. ゼア

 日本でも注目されているオンライン3D仮想世界「セカンドライフ」と同様の仮想世界を提供するサービス、「ゼア」のファンが制作したセカンドライフとゼアの比較パロディCMがYouTubeに掲載されている。

 見てわかる通り、Mac vs. PC(パソコン)のCMのパロディ。セカンドライフのキャラクターの変なところを切り取って茶化しつつ、キャラクターのグラフィックはゼアの方がきれいだし、動きもなめらかだし、こっちの方がよいよというファン自作CM。
 実際、ゼアとセカンドライフの両方のユーザーからは、ゼアの方がよいという声を良く耳にする。技術的にはゼアの方が優れているし、友達と交流するための仮想世界としてはゼアの方が楽しいらしい。ただ、セカンドライフのユーザーの創作支援のような機能など、コンセプトの打ち出し方の部分でセカンドライフの方に注目が集まり、今ではすっかり差がついてしまっている。
 ゼアの方は当初は注目されていたが、30数億円だかの資金を使い果たして、大リストラの後、業務用シミュレーションの開発会社フォーテラシステムズに衣替えして、ゼアのサービスは別会社で継続という形になった。フォーテラ社もゼアを開発した技術力でその後順調に推移しているようなので、会社としてはそういう展開の仕方もありだとは思うけれども、コアの技術力で勝っていても、コンシューマ向けサービスは売り方やビジネスモデルができなければ技術力の劣る会社に遅れをとってしまうということを示している。ゼアも引き続き、コアユーザーたちの交流の場として機能している。ノリ的には数年前のセカンドライフのマイナーさがそのまま続いているような感じなのかもしれない。

ポケモンを使った小学生向けオンライン講座

 ポケモンラーニングリーグ(Pokemon Learning League)という小学生向けオンライン学習ウェブサイトがあると聞いたので見てみた。
 このウェブサイトは、小学校のカリキュラムに対応した学習内容をポケモンのアニメを使って学習する、小学生向けeラーニングサイトだ。算数、理科、ライフスキル、読み書きの4科目あって、各科目の単元ごとにポケモンアニメと問題演習が収録されている。
 各科目二コマずつ無料コンテンツが提供されているので、内容がどんなものかを試してみることができる。ひとコマのボリュームは、10分程度のアニメと、アニメで出てきた知識を確認する練習問題と、応用問題、学習時間はひとコマ30~40分程度で完結する構成になっている。

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