京都府八幡市の中学校の英語の授業でニンテンドーDSソフト「中学英単語ターゲット1800DS」を使った実証研究の結果について各紙で報道されている。
携帯型ゲーム機使い英語学習 八幡市内4中学校で始まる(京都新聞)
英単語学習:ゲーム機で語彙力4割アップ 京都・八幡(毎日新聞)
子供の脳も鍛えます…ニンテンドーDS、中学教材に活用(産経新聞)
京都は任天堂のお膝元だけあって、このような取組みをやりやすい面があるのか、以前からも病院の待合室にDS設置とか、立命館大学でDSゲーム開発の共同研究といった活動が行われている。この八幡市での取り組みは、実際の授業の場での実証研究として行われていて、結果も「語彙力4割増」という具体的な数字で成果が示されているので、一般からも注目されやすいのだろうし、教育行政でも話がしやすそうだ。
ここでは、ニンテンドーDSというゲーム端末を使用しているから「テレビゲームで英語学習」と見る人には映りそうだが、やっていることは従来からある「電子メディアを使ったドリル学習」だと思う。使っているソフトウェアは、ゲームの要素は加味されても基本的には従来のドリル学習教材の延長線上にあって、単語帳を電子メディア化して使いやすくしたものだ。DSというメディアの新奇性や、単語暗記という学習内容、それにモジュール学習というカリキュラム上のニーズにこの教材が適していたことなどの要素も気にとめておいた方がよいだろう。
このような報道が出ると「教師がいらなくなってしまうのではないか」とか「こんなやり方で楽しい勉強に慣れてしまったら苦しい勉強ができなくなるのではないか」といった否定的な意見が出る。だが、この程度のことで成果が出るというのは、これまでの教育の効率が低すぎたのであって、ドリル学習のような単純作業がうまく指導できていなかったことや、教師というリソースの使い方に問題があったのではないか、と考えるべきだろう。ゲーム機でも何でも、このような形で学習の効率化が進めていけば、教師はさらに重要なことに注力できるのだから、そのような利点に着目した方がよい。それに学習すべてが苦しい必要はなくて、単純なドリルは楽しく効率よくやれた方がよい。それで基礎的で面倒なところはマスターしてしまって、さらに高度で面白いところ、しかもこのようなドリル教材ではカバーできないことに生徒たちが取り組めるようになれば、学習の質そのものが変わってくる。そこでは教師の役割はさらに重要になるはずだ。
逆に「英語学習は全部ゲームでやってしまえばいい」「他の科目もどんどんやれ」といった肯定的な意見を促すことにもつながるだろう。それ自体は悪いことではないが、この研究では単語の暗記という単純な学習の成果をあげるというところしかカバーしていないことに留意する必要がある。おそらく、ある程度高度なものでも成果の出せるものは作れると思うが、より高度で複雑な学習内容に対応しようとすると、教材の質が左右する面が大きくなるし、授業への導入も難しくなる。そのような難しさを理解せずに安易にやろうとすると失敗するだろう。
いずれにしても、ゲーム機だからといって特別視したり、頭から拒否してしまうのではなく、よりよい学習の場を提供するためには使えるものはなんでも使う姿勢で臨み、よし悪しを冷静に見ながら判断していくことが大切だと思う。