ASTDが終わった翌週も、ASTDのエキスポ出展企業から期限を逸した「ドボンDM」が何通か届いた。郵便事情などの不運な影響もあると思うが、気の毒なことにこれらのDMは何の役にも立たない。仮に1通30円くらいしかかからないとしても、安いからいいやという気持ちで場当たり的に送られたDMは、ちょうど狙ったタイミングに届いたとしてもたいした効果はないし、どうせほとんど読まれない。
今回初めて訪れたASTDのエキスポは、想像以上に規模が大きくて、にぎやかな印象を受けた。広い会場に連なる企業出展ブースでは、いろんなサービスや製品を紹介していた。製品パンフレットやデモを展示しながら、会社のロゴの入ったシャツを来た説明員たちが熱心に話をしていた。
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ASTD国際会議感想(3): おまけの滞在記
ASTD国際会議の感想の残りは、さらに個人的な滞在記を少しだけ。
サンディエゴは寒かった。出発前にチェックしたら案外気温が低かったのだが、メキシコ国境近くだし暖かいだろうとたかをくくって実際行ってみると、やはり寒かった。シャツだけだと長袖でも肌寒く、上着を着てちょうどよいくらい。なぜかかなり北に位置するステートカレッジの方がだんぜん暖かいくらいで、サンディエゴから戻ってみると30度を超える暑さになっていた。屋内については、米国どこでも共通だが、夏はどこに行っても冷房が効きすぎていて寒い。やせ型の東洋人ではなくて、お肉の厚い人々を標準にしているので、半袖ではとてもいられない。ASTDの会場でも同じ。周りの人たちはTシャツだけとかでやたら薄着だが、とても真似できない。長袖にするか羽織るものが必須。
ASTD国際会議の感想(2): 基調講演の話
ASTD国際会議の感想の続きで、基調講演について。
一つ目の基調講演は、ASTD会長のスピーチに続いて、「Tipping Point (邦題:急に売れ始めるにはワケがある)」、「Blink (邦題: 第1感 「最初の2秒」の「なんとなく」が正しい)」の著者のマルコム・グラッドウェル氏が登場した。
ASTD国際会議の感想: タレントマネジメントと人材部門の求心力
サンディエゴで開催されたASTDの年次国際会議に参加してきた。
1万人以上の集まる巨大なイベントで、アジアからの参加者も数多く、日本人参加者も話に聞いて想像していたよりも多い印象だった。(会場の様子や各セッションの内容については、東京大学の中原先生がブログにライブレポートを書いておられる。4日間もセッションを続けて聞いているだけでも疲れるのに、聞きながらすぐにいくつも記事をまとめるというのはとてもたいへんなこと。この分野に関心のある人には有益な情報が満載なので読んでみてください。)
ASTD出展企業の気休めマーケティング
明日はASTDの国際会議に参加するためにサンディエゴへ向かう。ASTDは初参加。一度は参加してみたいと思いつつ出ないまま帰国かなと思っていたら、ちょうどよくお誘いをいただいて参加することになった。
開催一週間前くらいから、エキスポ出展企業からのDMが大量に送られるようになった。毎日10通くらい受け取ってポストがすぐにいっぱいになる。LMSの会社やROIがどうしたとかビジネスコミュニケーションをどうするとか、いろんな教育研修会社の案内で、いずれもブース出してるから来てね、というメッセージ。どれもこれも見かけのデザインばかり凝って中身のメッセージは大して工夫していない。WiiやiPodや何やらかにやら、抽選で差し上げますからぜひブースに立ち寄ってくださいというプレゼントで釣るようなDMも多い。
名簿集めのためなのかもしれないが、果たしてWiiに釣られてくるような人がその企業の見込み客として適しているのだろうか。開催日前の関心の高い時を狙ってDM攻撃というのは、教育業界では昔ながらの伝統のDM手法で、きちんしたノウハウを持ってやらないと効果が出ない。こういう適当なDMは機能しないというのはとっくにわかっていて、もうほかの手法に置き換わっているのかと思ったら、ASTDの出展企業(の一部)はみんな一生懸命やっている。こういう企業は、隣のブースでパーミッションマーケティング(ちょっと古いが)やマーケティングコミュニケーションの講座を売ってたら、受講した方がいいかもしれない。
DMのコストが安いからといって、こういう何の工夫もないDMを送るのは逆効果になるというのを考えないのだろうか。ポッドキャスティング講座やってる会社がiPod配ってるとか、その程度であってもその会社の製品に関連したプレゼントやキャンペーンの一環ならわかる。でもその会社の製品とは何の関係もないプレゼントで印象付けても「あぁ、Wiiで釣ってた会社ね」とか、いい印象はまず持たれない。これでブースで何か通行客をひきつける仕掛けをしているならまだよいが、こういう工夫のないDMを送る会社はそこまで気が回らない。抽選でWiiあげるから登録してね、と名刺を入れる箱を持ってうろうろしているだけだったりする。ただ集めただけの名簿など、ヒット率の低い質の悪い名簿にしかならない。
そんなことはわざわざMBAとかマーケティング講座とか受けなくても、普通に客として接する立場になって想像できれば、あまり意味のない販促活動だということを普通の感覚で判断できる性質のものだろう。それでもやっているというのは、もうずっと長年やっている惰性からくるものか、何かやらないと不安だからという提供者側の事情からくるものが案外多いのではないか。DMを送られる相手のことを考えてのことではなく、送る側の自分たちの気休めのために送っている。気休めマーケティングとでも言うほかない。
ほかの同じような会社のDMに埋もれてしまうようなDMを送っても、販促予算の無駄遣いでしかない。その予算でちょっと気の利いた製品デモか何か製作するか、説明員を増やすなどした方がよほど費用対効果は高いだろう。ゴミ箱に直行するようなDMをいちいち見てわざわざ訪ねてくるような暇な来訪者は、どうせぶらぶら展示会場を回っているのだから、前を通りかかった時に捕まえる方がよほど効率があがる。それにその方が質のよい見込み客に当たる確率も、その会社の製品について知ってもらえる度合いも上がるだろう。そういう意味では、よくあるような気の利かないノベルティグッズもいらない。そのノベルティの販促内での位置づけが明確ならともかく、それらもたいていは提供者側の何か手軽に効果的な販促をやった気になりたいという気休めでしかない。
そんなわけで、若干事前の期待値を下げられつつのASTD参加になってきた。こんなことを書いていると、ぜんぜん期待していないように見えるかもしれないが、実は結構楽しみにしている。米国のトレーニング業界の最新事情を見てきて、何か面白いことを吸収してきたい。
失敗の効能と弱さの強さ
35歳になった心境の続きで、若い頃よりも「生き易さ」を感じるようになった理由について。
「生き易さ」を感じる二つ目には、失敗に対する見方が変わったことだろうか。前回書いたように、人は自分のことで手一杯なので、ちょっとやそっとの失敗をしたところで、自分が思うほどに人は気にしてない。いちいちあげつらって失敗を笑う人がいたとしても、それは不幸な自分を慰めるためにやっていることで、失敗した人自体を見てのことではない。
35歳になりました
この夏で渡米から丸6年になる。だんだんとまだいるのかという気もしてきたが、紆余曲折を経つつどうにかここまできた。
今は留学生活の総仕上げの段階で、年初に立てた計画から見れば概ね計画通りといってよいのだけど、かろうじて前に進んでいるという感じで推移しているところ。
肝心の博士論文は、あわよくば日本で集めたデータで無理やりを承知でとにかく終わらせてしまいたかったのだが、博士論文の水準に持っていくにはいろいろと無理があった。日本での実験で得た知見をもとに、もう一段階掘り下げた実験を今度はこちらで行って、そのデータで論文を仕上げることにした。集めたデータはとりあえずそのまま放置で、デザイン的な知見を次の学習環境デザインに使って、早く次の実験のセットアップをして終わらせてしまうのが一番早く終わるという判断。この判断が正しいかどうかはともかく、追加3ヶ月の延長戦で終わらなければもうアウト。そこまでやってダメなときはもうずっとやってもダメだろうと腹をくくってやることにした。状況的に焦りを感じることもあるのだが、研究としてはいいものになる期待を持っているので、希望を胸にがんばろうというところ。日本に残している妻にはほんとに申し訳ない。
今年の計画的なことは、あとは自分のがんばり次第、という状態なので、あとは35歳になった心境でも書いておこうかと思う。
ベネッセのDS新作「くうトレ」「なぞトレ」
ベネッセコーポレーションの新作DSタイトル「空間☆図形 ひらめきトレーニング くうトレ」「ふしぎ?かがく なぞときクイズトレーニング なぞトレ」が今週発売されるのでご紹介します。
この2タイトルは、昨年発売されてヒットした「読みトレ」「えいトレ」に続く「ベネッセ 遊び×学びDSシリーズ」の最新作です。
僕もこの2作品の開発過程で、企画協力のような立場でささやかながら関わらせていただいたので、この2作品にはちょっとした思い入れがあります。ベネッセさんの開発チームの皆さんとこの2タイトルのゲームの仕様やデザインについてディスカッションしたり、シリアスゲームデザインの観点からデザインのヒントになりそうな題材を提供したりしながら、開発の舞台側を拝見させていただいてました。
プロトタイプのバージョンが上がるたびにアイデアが形になり、ゲームの楽しさが増していく様子を拝見するのはとても楽しい経験でした。マスターアップの段階で完成したバージョンを拝見した際、ソフトを手渡された時の担当プロデューサさんたちの嬉しそうな表情に、いいものができたという実感があふれていました。プレイしてみて、作り手側から見ているという贔屓目を割り引いても、ここまでしっかり作りこんで、プレイヤーへのこまやかな配慮もされた子ども向け学習ゲームは今までにないと言っていいくらいの完成度だと思います。
先日のGames for Healthカンファレンスのセッションの中で、日本のDSの学習・実用系タイトルの市場動向について話した際、「よくできた製品」「よい顧客ベースや流通チャネル」「十分な販促、マーケティング予算」の3つがそろっていないこのジャンルのタイトルはことごとく失敗していて、大半がうまくいっていないと指摘しました(これはどんな製品にも言えることですが)。そのような状況で、この2タイトルはこれら3つの要素がそろっていて、これから市場に出てどのような展開になるかとても楽しみです。
どちらのゲームも主に子ども向けに作られていますが、大人がプレイしてもなかなか手ごたえのある内容でしっかり遊べます。「くうトレ」の方は空間パズルゲームで、「なぞトレ」はさまざまなジャンルのクイズゲームです。どちらもボリュームがあって、飽きずに続けて楽しむための工夫が数々施されています。僕の幼い頃には、雑誌の付録のパズルやなぞなぞの冊子を大事に持ち歩いて何度も繰り返し遊んでいたものですが、今の子たちにはこのDSのゲームがそういう存在になるのかなと思います。このゲームを介して親子のコミュニケーションがはずんで、みんなで楽しめるように作られているので、お子さんをお持ちの方にはぜひおすすめです。
ベネッセさんのウェブサイトには、ゲームの詳しい紹介や体験版もあるのでチェックしてみてください。
「くうトレ」
http://www.benesse.co.jp/ds/kutore/
「なぞトレ」
http://www.benesse.co.jp/ds/nazotore/
「キャリアショック」を久しぶりに読んだ
最近、うちの書棚の整理を少しずつ進めていて、昔読んだ本に手が伸びる機会が多い。高橋俊介著「キャリアショック ―どうすればアナタは自分でキャリアを切り開けるのか?」を手にとって、何気なく目を通していたら、結局ひと通り読んでしまった。
この本は2000年12月に出ていて、今アマゾンを見たら、2年前に文庫本になっていた。本を開くと「日本人のキャリアの常識が変わろうとしている!」というキャッチコピーが書いてある。初版から8年ほど経った現在は、本書が指摘した変化の時代が来て、キャリアの常識が変わった世界なのかどうかはわからないが、今も本書で指摘された変化の時代のキャリアの考え方やキャリア構築の考え方は古くなっていないと思う。だから文庫本化されて引き続き売られているのだろう。
初めて本書を読んだのは本書が出てすぐの2001年頃だったと思うが、その頃は書いてあることは何となくわかった気がしても、今一つ腹に落ちてなかった。キャリアの潮目にあって目の前の問題で手一杯で、自分のキャリアのことを全体感を持って落ち着いて考える余裕も思考力も足りてなかったのだと思う。
今あらためて読んでみると、20代後半の自分には頭でしかわかってなかったことでも、歳を重ねて30代半ばとなった今の自分には多少なりともわかることが増えたのだなという気がする。今もその傾向はあるが、当時は自分の実力以上に背伸びして、できないこともやらない方がいいこともやみくもに無理やりがんばって、何かと「生き急いでいた」のだと思う。何をやるべきでやるべきでないかなど、経験不足でよくわからなかったし、自分の大事にしたいものが何なのかも、何を優先すれば自分は幸せなのかも、わかったようなわからないようなままに進んでいたような気がする。
本書では、幸福なキャリアを築くには動機とコンピタンシーのマッチングが必要だという考え方を示している。自分の動機を理解するにはパーソナリティの理解が必要で、そのアセスメントツールが利用されていることが解説されている。また、企業が求めるハイパフォーマンスを出せる人材になるにはコンピタンシーとスキルが必要だが、求められるコンピタンシーやスキルを追い求めていっても、必ずしも幸福なキャリアを歩めるわけではなく、自分の動機にあったキャリアを作っていく必要があるということだ。
そしてキャリアを切り開く人の行動、発想、アクションのパターンやポイントを整理して解説している。たとえば、「キャリアを切り開く人の発想」として、次の7つのポイントをあげている。
・「横並び・キャッチアップ」か「差別性・希少性」か
・「同質経験」を活かすのか「異質経験」を活かすのか
・「過去の経験」にこだわるのか「今後の動向」に賭けるのか
・「指導してもらえる」のか「好きなようにできる」のか
・「社会的自己意識」か「私的自己意識」か
・「合理的判断」か「直感」か
・「会社の論理」か「職業倫理」か
いずれも、どちらがよいとかどうすべきというのではなく、個人の動機やその時のニーズで判断するポイントとして示されている。
本書で語られている内容には、自分の転職や仕事選びの時にはそういえばそういう判断軸で考えていたなというのがいくつかあって、これまでの自分のキャリアのよい振り返りができた気がする。自分自身、これからまたキャリアの節目がくるというのもあるのだが、これからを考えるには、これまでの自分のことを振り返って少しでも今の自分を理解するための材料をもっておいた方が良いと思う。他者のことを理解するのが難しい以前に、自分のことを完全に理解することは難しいし、その時は理解したつもりでも、後で思えば実はよくわかってなかったりする。若くて経験がなければなおさらのことだ。
このようなことを考えるきっかけを与えてくれる本というのは良い本であって、その意味では本書は良い本だと言える。10年後や20年後、これからまた変化を経た時代になって、本書で語られていることはどんな風に見えるだろうか。
公衆トイレゲーム続き(シリアスなドイツ版)
前のエントリーで紹介したベルギーの用足しゲーム、実はドイツ人エンジニアがすでにもっとまじめなテーマで取り組んでいるという情報があったので続報。
ベルギーの「Place to Pee」ゲームの前のバージョンとして紹介したゲームは、実はドイツのフランクフルトで2年前から開発が進められている「The Piss-Screen」という別のゲームだった。
The Piss-Screen
http://www.piss-screen.de/
このゲームは、飲酒運転の増加に対して、飲酒運転をしようとするドライバーにタクシーを利用するように勧めるメッセージを効果的に伝えるためにデザインされたゲーム。操作方法はベルギーのゲームと同じく、便器の左右に圧力を感知するセンサーが設置されていて、その感知具合で操作する。
このゲームの内容は、飲酒運転防止の目的と関連したドライビングゲームになっている。用を足しながら普通のレーシングゲームのように車を操作して、用を足し終わるとメッセージとともにフランクフルトのタクシー会社の電話番号が表示される。酔っ払っているとコントロールが甘くなってゲームの結果に影響し、それだけ事故りやすいということを伝えられるということらしい。
ベルギーのエンジニアたちは酒飲みの思いつきの延長で出てきたようなゲームだったが、こちらはいたって真面目な動機で制作されている。普及しやすいように、普通のトイレにはめ込む形のセンサー付きパッドとして開発している。ウェブサイトには製作過程を紹介するメイキングビデオやブログもあって、細かいデザイン過程を紹介しているところにエンジニアたちのこだわりがうかがえる。YouTubeにもプロモーションビデオを載せている。
この同じテーマのドイツとベルギーの二つのゲームを対比してみると、ここからも多くの示唆が得られるのだが、長くなるのでそれはまあそれとして、用足しゲームネタはこの辺で。