ASTD国際会議の感想: タレントマネジメントと人材部門の求心力

 サンディエゴで開催されたASTDの年次国際会議に参加してきた。
 1万人以上の集まる巨大なイベントで、アジアからの参加者も数多く、日本人参加者も話に聞いて想像していたよりも多い印象だった。(会場の様子や各セッションの内容については、東京大学の中原先生がブログにライブレポートを書いておられる。4日間もセッションを続けて聞いているだけでも疲れるのに、聞きながらすぐにいくつも記事をまとめるというのはとてもたいへんなこと。この分野に関心のある人には有益な情報が満載なので読んでみてください。)


 カンファレンス全体としては、「タレントマネジメント」が今年のメインテーマのように扱われていて、ASTD会長のスピーチでその重要性が説かれ、関連のセッションはたくさんの聴衆が集まり盛況だった。個人的に企業内教育のマネジメントの話は詳しくないので、タレントマネジメント、パフォーマンスコンサルティング、といったこの業界で最近話題になっている概念をキャッチアップするにはとてもよい機会だった。
 タレントマネジメントは、簡単に言えば、従来のように組織が必要とする人材をどうするか、という考え方からさらに組織が必要とする能力や才能に焦点を当てて人材戦略を構築しましょう、という考え方らしい。従来よりもより人材育成の機能が組織のビジョンや経営戦略に直結して統合することが重要になる。パフォーマンスコンサルティングや学習する組織やCLO設置のような最近のこの分野の流行りの考え方やアプローチと目指す方向は同じで、よりマネジメントの全体像をカバーしようとする概念のようだ。
 聞いた範囲で各セッションで繰り返し語られていたのは、もはや企業の教育担当者は、教育だけ見ていてはダメで、その組織のビジョンやその業界の動向まで理解し、その組織の必要とする能力を集めたり育てたりすることに長けていなければならない、ということだった。考え方そのものは至極当たり前でとくに新しいものとは思わないが、それをわざわざ持ち出してくるのは、実際にはうまくやれてないからなのだろう。
 もうひとつ、タレントマネジメントが注目される背景には、ASTDを取り巻く研修業界自体が厳しい状況にあることがあるように伺えた。組織の期待する成果の出せない人材部門はその組織での影響力が保てない。人材部門の組織内での影響力が低下すると、ASTDの求心力も低下して衰退する。eラーニングだなんだと新しいテクノロジーやアプローチを持ち込んでも成果が出ない。現場レベルの改革には限界があって、このままでは業界全体が求心力低下と衰退の流れに向かう。ゆえにより組織の必要とする成果に直結するシステム作りに乗り出す必要がある。そういう危機感も背景にあるのだろうと思う。
 タレントマネジメントは、組織に対してより必要な能力の育成や維持に主眼を置いた組織のルールやシステム作りを求めるものである一方、ASTD参加者である人材部門の人々にチャレンジを投げかけている。この考え方をもとに組織作りを進めると、人材部門が組織内での影響力を拡大に向かうことを意味する。これは経営のことがわからない人事屋や教育屋をやっている限りは実現不可能で、どんな組織においても、人材部門の担当者は大きな一歩踏み出すことが求められる。あちこちのセッションでコーチングやメンタリングの重要性が語られていて、エキスポでもコーチングサービスの会社がいくつも出展していたが、タレントマネジメントに取り組む組織においては、誰よりも人材部門の人々がコーチングを必要なのではないかと思う。
 このカンファレンスでは技術的な話はそれほど中心でない印象で、Eラーニング系のセッションはいずれも数年前から言われているようなことを繰り返しているだけのものが多かった。セカンドライフなどの仮想世界についてのセッションがいくつかあった以外には特に目新しいものはなかった。マイケル・アレンやマーク・ローゼンバーグのようなEラーニング業界の著名人のセッションは、数年前に書かれた著書の内容からあまり進展していない内容で、いずれも「これからの学習テクノロジーとしてシミュレーションやゲームの重要度が高まってくる」と言及するだけで詳しく踏み込まず、あまりキャッチアップできていない感じだった。
 書店コーナーでは、セッションの講師の著書がたくさん並べられていて、著者サイン会も行われていた。ASTDコーナーには「ASTD Handbook For Workplace Learning Professionals」というのが出ていた。ワークプレイスラーニング、人材開発に関する諸理論や方法論が詳しく体系的にまとめられていてかなりボリュームがあるので、しっかり勉強したい人にはよい教科書になりそう。
 長くなってきたので、続きはまた次回に。