ASTD国際会議の感想の続きで、基調講演について。
一つ目の基調講演は、ASTD会長のスピーチに続いて、「Tipping Point (邦題:急に売れ始めるにはワケがある)」、「Blink (邦題: 第1感 「最初の2秒」の「なんとなく」が正しい)」の著者のマルコム・グラッドウェル氏が登場した。
グラッドウェル氏は次回作「Outliers – Why Some People Succeed and Some Don’t」で、才能の開花する時期の違いとそれがいかに見落とされているかについて書いているそうで、その内容について話していた。若くして才能を花開かせて注目され続ける人もいれば、何年も下積みを続けて年をとってからようやく才能が開花する人もいる。日本で言うところの大器晩成と同じようなことで、そのような人材を見つけ出す仕組みもサポートする仕組みもないことが問題だということを指摘していた。
プロスポーツのドラフトでは、体力測定などの指標が参考にされるが、それらの指標が優秀な選手はプロになってもパッとしないことが多く、逆にプロとして成功する選手の多くはそれらの指標では下位にランクされているというような例を出していた。また、映画監督やロックバンドの成功する時期の話を引き合いにして、みんなビートルズのようにはじめから大当たりするバンドばかりでなく、何作も駄作や失敗を繰り返してようやくすばらしい作品を作って成功するバンドもいることもその例として示していた。能力の評価のあり方を考えるのに示唆の多い話だった。
二つ目の基調講演では、マネジメントコンサルタントのパトリック・レンシオーニ氏が著書の「The Five Dysfunctions of a Team」に書いている「5つの機能不全(five dysfunctions)」の話を、実際の経営の現場で起こりがちなケースを豊富に盛り込みながら語っていた。この5つの機能不全とは、信頼の欠如、対立への恐れ、参加意欲の欠如、説明責任の回避、結果への不注意、のこと。信頼が一番ベースにあって、それが欠如することで、その後の機能不全が広がる悪循環へとつながるという話だった。レンシオーニ氏はこのほかにも、「The Five Temptations of a CEO (邦題: 意思決定5つの誘惑―経営者はこうして失敗する)」とか「Four Obsessions of an Extraordinary Executive (邦題:あなたのチームは、機能してますか?)」のように、「○個の~」のようなポイントを挙げたわかりやすい切り口で書いたビジネス書のベストセラーをいくつも出している。テレビ番組などでもコメンテーターとしても活躍しているそうで、たしかに話がうまかった。
「The Five Dysfunctions of a Team」は「なぜあなたのチームは力を出しきれないのか」というタイトルで訳書が出ているのと、原著書のオーディオブックが出ているので、こちらも英語のリスニング練習もかねたマネジメントの勉強に使えそう。
最終日の最後に行われた三つ目の基調講演では、ケーブルテレビのUSAネットワーク創始者のケイ・コプロビッツ氏が、メンタリングについて語った。女性初の放送会社社長になり、いくつもの人気ケーブル局を立ち上げ、女性ベンチャーを支援するファンドを立ち上げ、という同氏の成功の過程が語られ、その背景には彼女を支えてくれたメンターの存在が不可欠だった、という話。話のほとんどは米メディア業界交遊録のような、有名人が「徹子の部屋」か何かのトークショーに出て話す自慢話ともなんともいえないような密度の薄い感じの話だったため、途中で退席する人も目立った。大会場の基調講演でなくて、インタビューか何かで、成功者のメンターネットワークのつながりを考察するネタとして聞けば興味深い話ではあったかと思う。
このASTDの国際会議の魅力のひとつは、この業界では普通に基調講演で招待されるレベルの著名なスピーカーによるセッションが豊富に提供されているところだろう。どのセッションも、グルだとか重鎮だとか呼ばれるような大物が話していて、そういう人は話もうまいので、プレゼン自体が面白いセッションが多い。この分野で活動する人からすればお得感の高い参加機会なのは確かだろう。