ここしばらく、高校2年生向けにFacebook上で実施するオンラインサマーキャンププログラム「Socla」の仕込みに追われています。
http://www.facebook.com/BEAT.Socla
そのせいもあって、高校時代に自分はどういう感じで過ごしていただろうか、とふと仕事帰りに考えながら歩いていることが最近よくあります。というのも、仕事帰りに聴くiPodのプレイリストに90年代前半の作品を多くいれているせいで、音楽とともによく当時のことを良く思い出すのです。
高校生だった当時は、ちょうどバンドブーム真っ最中でしたが、その頃好きだったのは、Mr.Big、Winger、Extreme、FireHouse、Steelheart・・などのアメリカンなハードロック勢と、あとは北欧やドイツの・・・と濃いところをあげていけばきりがない感じです。
その頃は、将来どうなるかなど訳も分からず、大学もイメージで選んで、あとはとにかく東京に出てこれればいいやくらいに考えていたように思います。田舎の高校ではどういう選択肢があるかもよくわからず、実際、進学した慶應SFCも浪人で東京に出てきてから初めて知ったような状況でした。将来を考える手がかりもなく、ロールモデルにできる大人にもうまく出会えず、どこか空回りして過ごしていたような感覚が残っています。
そんなことを思い出しつつ当時の音楽を聴きながら、今準備しているプログラムのような機会を、当時の自分が得られたらどうだったろうと考えました。どんなテーマで将来を考えたかわかりませんが、普段は考えないようなことを考えるきっかけにできたのかな、という気がします。
今の高校生はもっと情報にアクセスしやすく、当時の自分とは状況も違うところがありますが、心のどこかで、あの当時の自分のような高校生が、もっとポジティブに将来のことを考える手がかりや一緒に考えてくれる存在を得てほしいという思いがありますし、そういうプログラムをお届けしたいと思っています。
今回のプログラムに参加する高校生の学びを支えてくださるボランティアサポーターをFacebook上で募集したところ、すぐに予定数を超える応募をいただきました。皆さんの参加に向けた抱負を拝見すると、皆さんそれぞれに、今の高校生に何か手を差し伸べられる存在となることの意味を大切に考えてくださっている様子が伝わってきます。
関わる人それぞれに、将来を考える高校生の助けになることへの思いがあり、その思いをつなぐ役割としてFacebookのようなソーシャルメディアが機能することになるのでしょう。学校という組織は、社会に対して子どもたちを守るために保守的になりがちで、こうしたソーシャルメディアを率先して利用しにくいところがあります。そのため必ずしもその生徒が在籍する学校自体が主体とならずとも、その周辺で学校の教員や親が安心できるようなソーシャルメディア利用の形を確立することが重要であり、これからの情報社会を生きていく子どもたちのために必要なことだと思います。このプログラムの試みが、その糸口になるようにがんばって取り組みたいと思います。
投稿者「tfuji」のアーカイブ
38歳になりました
今日で38歳になりました。
今年は新しい職場に移って自分を取り巻く状況が大きく変わりましたが、昨年と比べて今年ずいぶん変わったと感じることは、多くの人とつながった感じがすることと、自分がこれまで学んできた知識が役に立っているのを感じることです。研究を主として仲間と力いっぱい仕事できて、同じ分野で研究を進めようとしている人たちに自分の知識を提供できることで、毎日充実感を感じています。
いろいろなことが始まったばかりで、まだゆっくり振り返るタイミングでもない感じですが、とにかく今は走り続けて、よい成果を出すべくさらに力を入れて仕事に励んでいこうと思います。
別府と宇治の実家から届いた差し入れ
5年間のキャッチアップ
新しい職場に勤め始めて2週間余りが過ぎました。今日ようやく新しい名刺が届いたり、IDカードの発行待ちだったり、仕事の仕込みに追われて机周りの整理が全然追い付いてないままの状態だったりと、落ち着く間もなく端から仕事を片付けるうちに一日が過ぎていきます。忙しいと言っても苦痛ではなくて、良い環境で力いっぱい研究ができるということがとてもありがたく、どこをとっても充実した楽しい仕事の時間を過ごしています。
今日は同じ東京大学所属の同僚となった中原先生のお誘いでランチをご一緒してきました。中原さんに初めてお会いしたのは彼が東大に完全に移る前で、たしか2005年に一時帰国した時だったと思いますが幕張のNIMEでお会いしました。そして、僕の現所属のBEATが主催するBEATセミナーに呼んでいただいたのが2006年夏なので、ほぼ5年前のことです。呼んでいただいた当時、そういえばこんなことを書いていました。
http://www.anotherway.jp/archives/000726.html
彼はもう、僕が当時予想した以上のペースで着実に自分の研究分野を切り拓いて、オンリーワンな研究者キャリアを歩んでいて素晴らしいことです。BEATセミナーの時以降も、何度か学会の会場でお会いすることはあったのですが、二言三言話す程度でなかなかゆっくり話す機会もないままだったので、今回久々にゆっくり話せる機会でした。
いつも中原さんと話す時に面白いなと思うのは、普通は誰かとしばらくぶりに話をする時は、会ってすぐの話し始めはエンジンがかかるまで、かみ合わせを整える時間を経て調子が上がってくるわけですが、中原さんと話す時はなぜかすぐにトップギアに入って、しょっちゅう会って話す相手と話すような感じがすることです。これは僕側の感じなので、中原さんからは違った感じを持たれていると思いますが、そういう感じで話せる人は少ないので、つい話し込んでしまいます。
今回は5年分のキャッチアップなので、話したいことがたくさんあってあれもこれも話したかったんですが、昼飯の間だけではとても足りずに、そのまま研究室まで押しかけてしまいました。結局、ごく近況の話や職場環境の話を一通り話したら時間切れという感じで、研究の話でいろいろお聞きしたかったことは聞けず仕舞いでした。それで、オフィスに戻ってツイッター見てみたら、中原さんは昨日の僕の授業の話を読んで、落ち合う直前にリツイートしていただいてたようで、リツイートがすごいことになってましたが、出がけにチェックしそびれてたせいでその話題もできず仕舞いだったのも残念でした。
この5年間でお互いの研究の見え方が変わっているところとか、もっと議論してみたいのですが、そういうことを語り尽くすにはもう少し時間が必要そうです。同じ大学でも別部局で仕事に追われているとなかなか話す機会を作るのも気を遣ってしまいます。用事を作ったとしても、たいがい用事を済ますくらいの時間しかないわけで、歳を取るにつれて学生の頃のようにとことん話す機会というのはなかなか作りづらくなってくるのかなと思います。でもまた次回、また中原さんとお話しする機会を作れるのを楽しみにしています。
2011年度「シリアスゲーム論」開講
今年も東京工芸大学で担当している「シリアスゲーム論」が開講しました。この授業も3年目になるので、これまでのスタイルからかなりバージョンアップを試みました。
授業の構成はこれまで通り、シリアスゲームに関する講義とデザインワークショップ、グループプロジェクトを基本にしてますが、今回は「クエスト型授業」というコンセプトを新たに取り入れました。
クエストというのは、ロールプレイングゲームなどではおなじみの、プレイヤーがあちらこちらに行って、敵を倒したり、アイテムを集めたり、村人に頼まれてお遣いをしたりといった、ゲームシナリオ上の目的達成のための活動です。ゲームによってはミッションとかタスクとか呼ばれたりします。
クエストを授業の文脈で言えば、要は「課題」のことです。とはいえ、課題や点数をクエストや経験値と言い換えてるだけではなくて(そういう安易な迎合には学生たちは手厳しいです)、授業デザイン的にかなり込み入ったことをしています。下記にシラバスを抜粋して掲載しますが、特徴としては、
・課題(クエスト)の選択肢を大量に用意して、選択の自由度を高めている
・企画とデザインとプログラムの3つの専攻の学生がいるので、それぞれに合わせて課題の内容を調整している
・課題の達成と評価の透明性を高めて、自分や他の受講生の達成度を把握できる
などを意識して授業を組み立てています。せっかくゲームについて教えているのに、授業はオーソドックスな大学の授業の形式では面白くないので、授業での活動そのものからゲームを経験できるような作りにしたいと考えています。
これまでのスタイルを踏襲して、講義の時間を極力減らして、ワークショップやプロジェクトを通して学ぶことを重視していますが、教える側が慣れてきた分、もっと先鋭化させて、学習の密度を濃くすることに注力しています。それと今回は、あえてゲスト講師の力を借りずに、ソロでどこまで内容を充実できるか挑戦しています。
初年度からこういうアプローチでやりたかったんですが、いかんせん授業に不慣れだったのと、準備が追い付かなくて見送ってました。今年度実施に踏み切ったのは、米国でこの手の事例が出始めたので、勇気づけられたというか、背中を押されたところがありました。それと昨年から「ゲーミフィケーション」という言葉が一気に拡がっているのですが、数年前の「仮想世界」ブームの時のように、コンセプト先行で、実体が伴わずに失速しそうな感があるので、そうならないためにもここで「教育のゲーミフィケーション」の形を一つ示しておきたいという気持ちもあります。
準備と運営が落ち着くまでは普通の授業よりもかなり負荷がかかることもあって、まだクエストのラインナップがそろってないし、昨年度の内容のアップデートが追い付いてません。まだ骨組みだけで走りながら中身を作っている感じでかなり心もとないのですが、今までにない大学の授業の一つの形を生み出すことを目標に、7月末まで走り切ってみたいと思います。
またそのうち、どんなことをやっているかご報告したいと思います。
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東京工芸大学 芸術学部 ゲーム学科(2011年前期)
「シリアスゲーム論」 シラバス
時間:火曜5限(16:40~18:10)、
場所:042教室(厚木キャンパス本館4F)
★授業の趣旨と目的:
この授業では、次のような学習機会を提供する。
・従来のエンターテインメントにとどまらない社会的目的で開発・利用されるデジタルゲーム「シリアスゲーム」に関心を持ち、関連する知識をより深く学ぶ
・シリアスゲームに自らの見識を持ち、将来クリエイターとしての自身の仕事に役に立つ知識を身につける
・ゲームと社会のつながりへの関心を高め、社会のためになるゲームの開発を実際に経験する
これらの学習機会をより楽しく、より密度の濃い形で提供するために、授業全体をゲームデザインのアイデアを取り入れた「クエスト型授業」として構成している。さまざまなクエストを達成しながら、実際にシリアスゲームを企画・デザインする過程を通して、シリアスゲームが社会に果たす役割や可能性を理解できる。従来の授業とは異なる運営方法や評価方法を採用しているため、本シラバスをよく読み、担当講師の指示をよく聞いて授業に参加すること。
★ルール:
・クエスト:この授業は数多くのクエスト(課題)で構成されている。当初から示されているクエストのほかに、途中で開放される隠されたクエストも用意している。
・レベルと職業:受講生は全員「レベル1見習い」からスタートし、「職業選択クエスト」で自らの職業を策師、技師、絵師の3種類から選択する。各種クエストをクリアして経験値を貯め、レベルを上げていく。授業の最終期限までにどれだけレベルを上げられるかでこの授業の評価が決まる(詳細は後述)。
・クエストの選択の自由度:クエストには取り組み易い順序や期限付きのものが含まれるが、基本的に受講者の好みに応じてどの順番で取り組んでもよい。つまり、従来の授業よりも授業で取り組む課題の選択肢の自由度を高く設定している。
・前提スキル:履修の前提条件は特にない。プログラミング、グラフィック制作等のスキルはグループプロジェクトにおいて有用だが、必須ではない。
・授業外のコミュニケーション:担当教員は非常勤のため、キャンパスには授業時にしか来ていない。そのため授業のアナウンスや課題提出にはコウゲイ.netやツイッター等のオンラインツールを最大限に活用する。
★勝利条件(成績評価方法と基準)
・受講者の貯めた「経験値」は、最終的な成績評価に直結している。上位1割程度(人数は履修者数と全体のレベルによって変動)に最高ランク「秀」の称号を与える。同様に、下位1割には本授業の称号は付与されない(つまり「不可」)。
・経験値に対応してレベルが上昇する。各自のレベルは不定期にアナウンスされる。各レベル到達に必要な経験値は次のように設定されている。
0~700pt Lv01~10
701~800pt Lv11~15
801~900pt Lv16~20
901~950pt Lv21~25
951~1000pt Lv26~30
・レベル30が通常の上限だが、各クエストの達成度によって得られるボーナスポイントによって、レベル上限を超えることができる。
・レベル10以上で称号が得られるようにバランス調整しているが、受講者全体がハイレベルな場合は、下位1割ルールが適用されて称号が得られない場合もあるので注意すること。
★クエストで得られる経験値:
・当初から公開されているクエストと、各クエストから得られる基本経験値は以下の通りである。授業の展開に応じて、隠しクエストが解除されて公開される。また、各クエストの達成時間の速さや内容の充実度によって加算されるボーナス経験値が個別に設定されている。
◆ソロクエスト:
・授業出席:10pt×15回
・授業課題:20pt×15回
・ゲームレビュー:10-20pt/回
・文献レビュー:20-30pt/回
・ソロ企画:50-70pt
◆グループクエスト:
・ギルド結成:30pt
・プロジェクト企画書:70-100pt
・プロジェクトデモ:100-120pt
※上記に加え、達成度に応じて加点される
★ボーナス経験値の付与基準例:
A:自分の考えを詳しく丁寧に論じている、かつ独創的な視点やアイデアを示している (+10pt)
B:自分の考えを詳しく丁寧に論じている、または独創的な視点やアイデアを示している (+5pt)
C:課題で求められている最低限の基準は満たしている (標準)
D:課題で求められている基準を満たしていない (ポイントなし)
★授業スケジュール:
第1回(4/12)
・ガイダンス
・ワークショップ(1)ゲームトークバトル ・クエスト:リフレクション
第2回(4/19)
・シリアスゲームとは
・ワークショップ(2)ゲームクリエイター/ゲーマーの証 ・クエスト:リフレクション、職業選択
第3回(4/26)
・シリアスゲームの事例研究(1)教育への利用
・ワークショップ(3)シリアスゲームの発想 ・クエスト:リフレクション、選択クエスト
第4回(5/10)
・シリアスゲームの事例研究(2)社会問題とゲーム
・ワークショップ(4):ソロ企画グループ発表セッション ・クエスト:選択クエスト
第5回(5/17)
・シリアスゲームのデザイン(1)
・ワークショップ(5)企画トレーニングその1
第6回(5/24)
・オンラインクエスト(1)
第7回(5/31)
・オンラインクエスト成果発表セッション ・クエスト:相互レビュー、選択クエスト
第8回(6/7)
・シリアスゲームのデザイン(2)
・ワークショップ(6)企画トレーニングその2 ・クエスト:選択クエスト
第9回(6/14)
・シリアスゲームの企画各論(1)学習要素の理解
・ワークショップ(5)学習要素の整理 ・クエスト:選択クエスト
第10回(6/21)
・シリアスゲームの企画各論(2)目的とデザイン
・ワークショップ(6)経験から次の実践へ ・クエスト:選択クエスト
第11回(6/28)
・オンラインクエスト(2)
第12回(7/5)
・シリアスゲームの企画各論(3)成果の評価
・ワークショップ(7)評価項目の作成 ・クエスト:選択クエスト
第13回(7/12)
・オンラインクエスト(3)
第14回(7/19)
・グループプロジェクト成果発表会
・クエスト:プロジェクト成果、プロジェクト相互レビュー
第15回(7/26)
・まとめ、振り返りセッション
・結果発表
(※スケジュールは授業の進捗状況などの都合で日程や内容を変更する場合があります。)
新しい職場で活動開始
本日4月1日付で、東京大学大学院情報学環特任助教に着任して活動開始しました。
BEAT(ベネッセ先端教育技術学講座)所属で、ソーシャルメディアなどのテクノロジーを利用した学習環境デザイン研究プロジェクトを担当します。シリアスゲーム、ゲームの教育利用についても、ようやく国内で腰を据えて研究できる環境で仕事ができるので、これまで以上に力強く進めていきます。
昨年度の所属先のNPO法人産学連携推進機構の方でも、引き続き客員研究員としてお世話になります。東京工芸大学芸術学部ゲーム学科と慶應義塾大学環境情報学部で非常勤で担当していました授業につきましても、今年度も引き続き担当いたします。
新しい環境というのはいろいろと覚えたり慣れたりする必要のあることが多くて、情報量に圧倒された感じで初日を過ごしました。大きな組織に所属して働くのは初めてなので、申請書類を提出するようなちょっとしたことも新鮮な経験であります。民間企業とも違うし、米国の大学とももちろん違うし、国内でも私立大学とも違う組織のカルチャーがあって、ルールや慣習に馴染むまでしばらくかかりそうですが、楽しくやっていこうと思います。
これまで以上に研究に励んで、よい成果を出せるようがんばります。
これからもよろしくお願いいたします。
九州大学シリアスゲームプロジェクトシンポジウム参加報告と講演スライド
15日に開催された、福岡市委託事業 九州大学シリアスゲームプロジェクトシンポジウムに講演者として参加してきました。
シンポジウム参加者の皆さま、関係者の皆さま、おつかれさまでした。また、震災で直接被災された皆さま、さまざまな形で影響を受けて心を痛めておられる皆さまへ心よりお見舞い申し上げます。
今回は開催自体の判断が迫られる状況の中、もうひとつ福岡市で予定していたゲーム関連のイベントは中止となったそうですが、このシンポジウムについては開催していただいて本当によかったです。
シンポジウムでは、まずオランダのシリアスゲーム分野(オランダでは「Applied Games」と呼ばれているそうです)の動向についての講演に続いて、藤本の講演、そして九州大学のシリアスゲームプロジェクトの2年目の成果報告、最後にシリアスゲームのビジネスをテーマとしたパネルディスカッションが行われました。今回の目玉として、九州大学のシリアスゲーム開発事例としてリハビリゲームの「リハビリウム」、iPhoneアプリを利用した観光ARG「福ぶら」のこれまでの進捗と活動成果が紹介されましたが、とても興味深い事例が生まれており、3年目のプロジェクトの取り組みがさらに楽しみになりました。
藤本講演については、当初はシリアスゲームサミットGDCの話をもっと盛り込みつつ、ビジネス寄りの話をする予定でいたのですが、シリアスゲーム、さらにはゲーム全般の開発や普及に携わる立場の私たちが、この状況でどのような役割を担っていけばよいか、社会との関わりとして何ができるのか、といったことを考えるための話題を提供する内容に変更して話をしてきました。
拙い話でうまく自分の思いを伝えきれてないところもあると思いますが、ゲームに関わる人々に何か少しでもこのようなテーマで考えるきっかけを提供できたら幸いです。当日使用した講演スライドを公開しますのでご覧ください。またシンポジウムの模様は、Ustreamの録画を下記でご覧いただけます。
シリアスゲームプロジェクトシンポジウム; Ustreamアーカイブ
コンテンツ開発のための非営利資金確保の話(2)
引き続き、非営利資金確保の話題で、今度は少し視点を変えて教育機関関連の話。
まず、米国のチャータースクールの資金調達は、不景気な中でも落ち込まずに順調に推移しているというニュース。米国のチャータースクールの運営には、寄付や助成が運費の重要な資金源になっているが、景気悪化で落ち込んだ2009年度にも、チャータースクールへの寄付は増加傾向を続けていたことが調査結果で明らかになった。オバマ政権の教育予算や非営利財団の支援を受けてチャータースクールの設置数は全米で軒並み伸び続けている。
Despite Tough Funding Environment, Charter Schools Gain Momentum
http://foundationcenter.org/pnd/news/story.jhtml?id=323200011
次も同じような話で、2010年度(09年7月~10年6月)の米国の高等教育機関への寄付が11.9%伸びて回復傾向にあるという調査結果が公表された。National Association of College and University Business OfficersとCommonfund Instituteによる調査で対象となった850大学からの回答で、09年度に落ち込んだ寄付が戻ってきたことが示された。09年には予算不足で学部の閉鎖に追い込まれるなどの不景気なニュースが続いたものの、一番厳しい状況は脱した様子。11年度前半もよい状況は続いているようで、さらなる回復に期待しているというコメントも出ている。たしかに教育工学系の大学教員公募のアナウンスも一時期ぱったり途絶えていたのが、最近求人情報が流れているのを目にするようになったし、そういうところからも状況改善の様子は伺える。
Educational Endowments Grew 11.9 Percent in 2010, Study Finds
http://foundationcenter.org/pnd/news/story.jhtml?id=324000006
最後におまけで、大学スポーツと寄付集めの話。僕の留学先だったペンシルバニア州立大学(ペンステート)のスポーツビジネスの稼ぎ頭であるアメフトチームの寄付獲得のニュース。
ペンステートのアメフトチームを率いて45年、大学アメフト界の「生ける伝説」として知られるジョー・パターノ監督が昨シーズンで通産400勝を達成した記念として、ナイキが同大学図書館に40万ドル寄付を贈った。
http://live.psu.edu/story/51057
パターノ監督は、大学図書館の支援に積極的で、寄付キャンペーンを行って図書館の拡充に長年貢献してきた。個人でもすでに大学に累計400万ドルも寄付しており、大学図書館への寄付集めに貢献したことを称えて、拡張した図書館は「Paterno Library」と命名されるなど、パターノ監督が活躍すれば大学の寄付につながる流れが確立されている。
ペンステートの放送局PBSが開催したチャリティオークションで、パターノ監督が400勝目を挙げた試合で着用していたネクタイの直筆サイン入りが約1万ドルで落札され、この他にもパターノ監督のフォトフレームやアメフトチーム関連グッズが高額で落札されたというニュースもあった。ペンステートのアメフトは大学スポーツ興行として成功していて、毎試合10万人以上の観客を集め、卒業生向けサービスにもしっかり組み込まれていて、大学スポーツ興業に絡めた寄付集めのキャンペーンが定常的に行われている。
・・・と、いくつか米国の非営利財団の支援活動や教育機関への資金の流れのニュースを見てきた。単にバラマキ予算を確保する話ではなくて、みんな苦労して付加価値をアピールして、必要な活動資金を集める活動がその背景にある。営利的には採算が合わなくても、大事だと思う活動を支援するための資金を確保するために、賛同したくなるような事業の企画を練って、資金のある主体へ働きかけをしていることが伺える。
こういう話を聞いても、アメリカは非営利の資金規模が大きいからいいよね、とか、日本の大学でもそんなのとっくにやってるよ、とか、日本の大学スポーツなんて貧弱だからね、などと片付けられがちなのだが、残念ながらそういうレベルの話で納得していてはいつまでたっても状況は改善しない。派手さに目を奪われて、背景や状況を考えずに表面的に枠組だけ真似てもうまくいかない。
米国にもそういう状況がはじめからあったわけではないし、資金が回っているところでは、みんな激しく資金獲得競争をしている。ロビイストは山ほどうごめいているし、金持ちのところには寄付の要請ラッシュが押し寄せるので、一度資金をおさえたからと言って、その先ずっと安泰ではない。価値を打ち出せないところは厳しくなればバッサリ予算カットされるし、知恵を出さないで金出せと言っている人のところには金は回らないので、決して楽ではない。
金融危機の影響で、当たり前に流れていた資金が詰まるという状況があちこちで起きたが、そのこと自体は必ずしも悪いことばかりではなかったと思う。当たり前に同じルートからお金が入ってくると、そのルートからしかお金を確保できないと思ってしまいがちだし、気が緩みがちなのが人の性分だ。米国にももちろん「人は低きに流れる」状況は普通にあるし、放っておけば腐敗も起きるから、それを前提にした評価システムが組まれている。
経済が悪くなって研究や活動のための資金が足りないと嘆く向きはあるわけだが、それは既存のルートが細っていてパイが小さくなっているから仕方がない。外に目を向けて、知恵を絞って付加価値を示していけば、まだまだやりようはあるわけで、その努力をやり尽してはいないと思う。少なくとも自分自身への戒めとしては、どんな立場になっても不遇をあれこれ言い訳をする前に、他にやれることはないか、もう一歩可能性を探るだけの真剣さは持ち続けたい。
コンテンツ開発のための非営利資金確保の話(1)
後で書こうと思っているうちに少しネタが古くなってしまったけど、先日たまたま非営利財団の助成公募や寄付で興味を引くニュースがいくつか目に触れたので、興味を持って少し読み進めてみた。
まず、フォード財団が次世代のドキュメンタリー映画振興に5年間で5000万ドル助成というニュース。年間1000万ドル(約8億2000万円)を助成し、人権や権利保護など社会問題を題材としたドキュメンタリー映画制作者の発掘と支援を行うとのこと。
この規模でどれだけのことができるのかイメージがわかないし、この助成事業単体では波及効果は弱いかもしれない。しかしこれが食えずにいる腕のよい制作者がヒット作を出すきっかけになるかもしれないし、ドキュメンタリー映画制作が地域振興や他の社会活動事業によい効果をもたらすことも期待できそうだ。
こういう取り組みは、予算を使い切るまでやったらバイナラ、という意識の人が動かしていてはダメで、継続して行うための仕組みづくりを合わせて進めるためのシード資金であることを理解している人とやれるかどうかにかかっているだろう。
Ford Foundation Announces $50 Million for Documentary Film Initiative
http://foundationcenter.org/pnd/news/story.jhtml?id=322100022
次は、ナイト財団がフィラデルフィアのアート振興に3年間で900万ドルの助成を行う一環で行われている企画コンテストの話題。フィラデルフィア地域のシアターやミュージアムが特別展示やイベントの企画を出して、63件が最終選考残ったというアナウンスが出ていた。地域の文化芸術振興の取り組みに大手の財団が結構な規模の支援をしている。
Knight Foundation Announces Finalists for 2011 Knight Arts Challenge Philadelphia
http://foundationcenter.org/pnd/news/story.jhtml?id=322900018
同じく地域の文化振興事業で、ドライハウス財団がシカゴのシアターやダンスカンパニーへの助成公募のアナウンス。シカゴ地域で活動する年間予算15万ドル以下の規模の小劇団やダンスカンパニーを対象にしており、最低1回はシカゴ市内で公演すること以外は用途に制約なしで、最大1万ドルが助成される。教育活動やアマチュア劇団の支援ではなく、プロの商業劇団への支援に焦点を当てている。
こちらはマッカーサー財団の助成公募で確保した資金を活用している、とあるので、フィラデルフィアの方と同じく、全米規模の大手非営利財団の支援を受けて個別課題に取り組む財団が地域ニーズに合った支援枠組を提供するという構成になっているのだろう。自分のところの基金だけでは賄えない規模の事業でも、賛同してくれる外部の組織から集めてくるという形で実施していることが伺える。
Richard H. Driehaus Foundation Invites Applications From Chicago Small Theater and Dance Companies
http://foundationcenter.org/pnd/rfp/rfp_item.jhtml?id=324200016
次は、小規模な個別の企画普及の取り組みで、多額の予算がその後どういう事業企画に配分されているかという話。クーリッジ・コーナー・シアターとスローン財団が科学技術啓発のための映画観賞会企画を展開する劇場への助成を行うというニュース。マサチューセッツ州の非営利劇場「Coolidge Corner Theatre」が開催している「Science On Screen」を各地の非営利劇場で実施するための企画に7000ドル×8件の公募を行っている。
Science On Screenは、科学技術を扱った映画の上映と専門家によるレクチャーをセットにしたイベント。科学技術と行っても「ファイトクラブ」を生物学者と見る、「ハッカー」をゲーム研究者と見るというものもあるので結構幅広い感じ。構成的にはテレビでよく採られている手法で、たとえばヒストリーチャンネルでも、古い戦争映画を放映する時に戦史家が解説入れたりしているので珍しくないが、トークライブイベントとして、専門家と一緒に映画を見て、語り合える場がセットになった上映会、というところに価値がありそうな話。
Coolidge Corner Theatre and Alfred P. Sloan Foundation Announce National Science on Screen Initiative
http://foundationcenter.org/pnd/rfp/rfp_item.jhtml?id=324200014
Science On Screen
http://www.coolidge.org/science/
ネタがもう少しあるので、いったんここまでにして、次回に続く。。
2011年の抱負など
だいぶ遅くなってしまいましたが、今年もよろしくお願いいたします。
今年は、博論に苦しみながら先行き不透明な状態で過ごしていた昨年の冒頭よりもはるかに希望に満ちた新年を過ごしています。これまで以上にどんな1年になるかとても楽しみです。4月からは自分の活動の幅が広がる多くのチャレンジができそうです。今までやってきたことがどれだけ通用するか、どんな貢献ができるか試しつつ、さらに腕を磨いていきたいと思います。
具体的なタスクは新年度からの状況を見て優先順位を決めていく必要がありますが、今年の方針としては次のようなことを考えています。
「場数を踏む」
とにかく新ネタを書くためにインプットを続けること。既存のネタのブラッシュアップを図ること。そして、小規模なライブ活動で腕を磨き続けること。質を語るにはまず数をこなして経験値を積み上げていくことが不可欠なので、教育と研究の両面で活動のペースを上げていきます。具体的には、昨年担当した東京工芸大と慶應SFCの授業のバージョンアップ、新たなワークショップやデザイン活動に着手すること、学会発表機会を増やすことです。たとえば、昨年試しにやってみた「シリアスゲームデザインワークショップ」が面白くなってきたので、もっと磨いていって次のレベルに高めたいと思います。
「急がば回れ」
自分の生き方の基本姿勢として「善き手抜き主義」というのがあって、義務的なタスクはなるべく効率よく、自分がやらなくてよいことをいかにやらずに済ませるか、というようなことを信条にしてきたところがあります。これはこれで処世術としてはいろんな局面を切り抜けるために地味に機能してきましたが、その反面じっくり腰を据えてやるべきことが疎かになったままになった部分も結構あって、それが弱みとなっている部分も認識しています。一つには、基礎文献の読み込みや考察の徹底ができてないところが足を引っ張っているので、そこをリカバーしていくことが今年の課題です。ただ読むだけだと続かないので、アウトプットと関連付けて読み進めていくことを自らに課したいと思います。
この点、新年早々に一つテーマが見つかりました。正月休みに90年代中盤のマルチメディア学習やエデュテインメントの開発事例や文献をいくつかあたっていたのですが、ゲームデザイン的にも研究の論点的にも、今シリアスゲームの文脈で議論されていることは当時盛り上がった時にかなり議論されていることに改めて気づきました。前に読んだ時は理解が浅かったのだなと思い知ったのと同時に、読み直すことで得るものが大きそうだと感じました。
教育工学分野では新しい技術が出てくるたびに同じような無駄な研究が繰り返されているという批判がありますが、実際、技術の目新しさだけ追っていると見えてこないことがあります。また、研究分野の違いや関わる人の入れ替わりのせいで、以前の研究のせっかくの知見が活かされずに埋もれてしまっているものもあります。新しい技術を基点に、古い文献に立ち戻って捉え直すことで、以前は越えられなかった壁を越えることのできる研究ができるのではないかと思います。こういうことは前からやりたいと思いつつも自分の手に負えなそうで二の足を踏んでいましたが、ようやく着手する意志が持てるくらいには自分のベースができてきたというところでしょうか。今年一年かけて、何か世に問えるようなものを準備していきたいと思います。
「海外に出続ける」
博論執筆に入ってから2年あまり、海外での活動が不活発になっている状況を打開したいと思います。当面は、海外の学会へ論文投稿と発表各一本を目標にします。まずはウォーミングアップとして、今年は久々にシリアスゲームサミットに参加してきます。他にもチャンスがあれば出てきたいと思います。留学先だったこともあってこれまで主戦場はアメリカだったのですが、今後はアジア向けの活動が増えてくるのかなと予想します。アメリカで活動していたことが呼び水になってアジアでお声がかかることが何度かあったので、良いサイクルができるように海外を見据えた活動を続けたいところです。
他にも考えるうちにやりたいことはいくらでも出てくるのだけど、あれもこれもはできないので、地道に成果につながることをやってくかなという感じです。何も成果と関係ないこともたくさんあって、たとえばいつかヒストリーチャンネルとディスカバリーチャンネルの好きな番組を見て丸一日過ごしたいのですが、そういうことは病気した時かリタイアしてからの話になりそうです。
それと、今のままではゲーム研究者の名折れになるので、ゲームはもう少しプレイ時間を増やしたいです。Red Dead Redemption とか、StarCraft IIとか研究に関係なくやってみたいゲームもいっぱいあるんですが、Civilization Vに手を出せれば上出来でしょう。まずは研究につなげやすそうなKinectを必須課題にして、Restaurant Empire IIとかいくつかSim系を中心に試してみたいタイトルに手を出せるようにがんばります。
当ブログも徐々に更新頻度が減ってきてますが、その時々で考えたことや近況など書きながら地道に続けていきたいと思います。今年も当ブログをどうぞよろしくお願いいたします。
2010年の振り返り
2010年も幕を閉じようとしていますが、皆さんどんな1年だったでしょうか。
留学中から何となくブログで年末に振り返りの記録を残すようになって何年も経ちますが、良い習慣なのでこのまま続けていこうと思います。ブログを書き始めた頃は独り言のように気ままに書いていましたが、いつからかだんだんと読み手に語りかける感じで、です・ます調で書くようになってからは、内省的な文章を書くのが何となく唐突な感じがして、書きづらさを感じることがあります。書き手の表現技術的な問題もあるのでしょうけど、何か気持ちよく書けるようにできないかなと思います。
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この1年を振り返ってみて、年初は博士論文の追い込みで死にそうな毎日が続いていたのをまず思い出す。かなり論文提出がずれこんでしまい、この頃には終わってるだろうとたかをくくって入れていたシンガポール出張の最中にアドバイザーから修正連絡が入って、夜中にホテルでひぃひぃ言いながらようやく論文を提出する羽目になった。
論文提出でひと段落したものの、ディフェンスが終わるまでヒヤヒヤしながら神経衰弱な日々が続いた。人生崖っぷちもいいところで、我ながらよく乗り切れたなと思う。もう一回同じ目にあっても乗り切れるかどうかは自信はないけど、もう一回やるとしたら、そういう窮地に陥らないように、もう少しうまくやれるんじゃないかという気はしている。
もともと大した力量もないのに、人の縁と運に恵まれて留学できたというのに、何か自分の力を過信していたところがあって、そのせいで留学生活全般にいろいろとダメなところが多かった。自分への過信に足を引っ張られた留学生活だったと言ってもいいくらいだ。博論も変なところで独自色を出そうとして、結果として大事なことがおろそかになって無駄なことが多くて、最後まで苦しむ羽目になってすごく反省させられた。とにかく終わってよかった。
ディフェンスを終えて帰国してすぐ、今の職場での仕事が始まったので忙しなかったけれど、”Life after dissertation”を満喫してきた。博士論文を抱えていない人生はこんなにも平穏で幸せなのかと、肩の荷が下りるとはまさにこのことか、というくらいに生きるのが楽になった。仕事でかなり厳しい局面もあったはずなのだけど、それもあの苦難の日々に比べれば大したことではない気がする。きっと以前は苦難に感じていたであろうことも、たいした苦難には思えなくなった。
今年の後半は、自分の研究アジェンダを前進させるための試行錯誤の日々だった。給料の出ている仕事を優先しつつ、給料の対象外の自分の研究時間を確保すべく模索する毎日が続いた。今の仕事は面白く、それ自体は何も不満はない。しかし、たとえ研究者として駆け出しであっても、自分の掲げた研究を前進させる使命を置き去りにした生活を送ることは苦痛だし、使命を放置した毎日を送ることを余儀なくされるのであれば、研究者の看板を下ろして普通に組織人として生きた方がよほどよい人生を送れるだろう。
かといって、時間がなくても工夫次第で何とかなることもあるし、逆に無制限に時間があっても無駄遣いしてしまうだろう。とにかく何とか前に進もうと、無理やりに学会発表にエントリーしたり、講演を引き受けたりして、やらざるを得ない状況を作ってきた。本気で求めれば何とかなってくるもので、だんだんとよいペースができてきた。むしろ限られた時間だからこそ大事に時間を使うようになったし、そういうなかでやってきたことで得るところも大きかった。非常勤で大学で教えている経験や、業務で担当した研修運営の経験がうまくつながってきて、よい具合に学ぶことができたのもありがたかった。
そんなこんなで1年が過ぎて行った。あまりに変化が大きくて今年一年のこととは思えないほどだ。昨年も一昨年も、1年前や半年前の自分がわからなかったことを分かるようになった感じがしていたけど、今年はさらにそういう感じが強い。つい最近までそんなこともわからなかったのかという気にさせられることもあるけど、そういうわかるようになったことの一つ一つが成長なのだろう。前の年よりも自分が成長した気がするのはずっと続くのだろうか、それともある時点で成長の終わりを感じるのだろうか。研究者という仕事は、探究し続ける意志が仕事に直結しているところがあるので、自分のような性分の人間には向いているのだと思う。
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などと、今年を振り返ってこんなことをつらつらと考えながら、年の瀬を迎えております。
今年も多くの方にお世話になりました。お世話になりっぱなしの方も、ご期待にこたえきれない方もいて、心苦しい限りです。来年はさらに精進して、これまで積み重ねてきた取り組みの成果をアウトプットにつなげていこうと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。