2011年度「シリアスゲーム論」開講

 今年も東京工芸大学で担当している「シリアスゲーム論」が開講しました。この授業も3年目になるので、これまでのスタイルからかなりバージョンアップを試みました。
 授業の構成はこれまで通り、シリアスゲームに関する講義とデザインワークショップ、グループプロジェクトを基本にしてますが、今回は「クエスト型授業」というコンセプトを新たに取り入れました。
 クエストというのは、ロールプレイングゲームなどではおなじみの、プレイヤーがあちらこちらに行って、敵を倒したり、アイテムを集めたり、村人に頼まれてお遣いをしたりといった、ゲームシナリオ上の目的達成のための活動です。ゲームによってはミッションとかタスクとか呼ばれたりします。
 クエストを授業の文脈で言えば、要は「課題」のことです。とはいえ、課題や点数をクエストや経験値と言い換えてるだけではなくて(そういう安易な迎合には学生たちは手厳しいです)、授業デザイン的にかなり込み入ったことをしています。下記にシラバスを抜粋して掲載しますが、特徴としては、
・課題(クエスト)の選択肢を大量に用意して、選択の自由度を高めている
・企画とデザインとプログラムの3つの専攻の学生がいるので、それぞれに合わせて課題の内容を調整している
・課題の達成と評価の透明性を高めて、自分や他の受講生の達成度を把握できる
などを意識して授業を組み立てています。せっかくゲームについて教えているのに、授業はオーソドックスな大学の授業の形式では面白くないので、授業での活動そのものからゲームを経験できるような作りにしたいと考えています。
 これまでのスタイルを踏襲して、講義の時間を極力減らして、ワークショップやプロジェクトを通して学ぶことを重視していますが、教える側が慣れてきた分、もっと先鋭化させて、学習の密度を濃くすることに注力しています。それと今回は、あえてゲスト講師の力を借りずに、ソロでどこまで内容を充実できるか挑戦しています。
 初年度からこういうアプローチでやりたかったんですが、いかんせん授業に不慣れだったのと、準備が追い付かなくて見送ってました。今年度実施に踏み切ったのは、米国でこの手の事例が出始めたので、勇気づけられたというか、背中を押されたところがありました。それと昨年から「ゲーミフィケーション」という言葉が一気に拡がっているのですが、数年前の「仮想世界」ブームの時のように、コンセプト先行で、実体が伴わずに失速しそうな感があるので、そうならないためにもここで「教育のゲーミフィケーション」の形を一つ示しておきたいという気持ちもあります。
 準備と運営が落ち着くまでは普通の授業よりもかなり負荷がかかることもあって、まだクエストのラインナップがそろってないし、昨年度の内容のアップデートが追い付いてません。まだ骨組みだけで走りながら中身を作っている感じでかなり心もとないのですが、今までにない大学の授業の一つの形を生み出すことを目標に、7月末まで走り切ってみたいと思います。
 またそのうち、どんなことをやっているかご報告したいと思います。
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東京工芸大学 芸術学部 ゲーム学科(2011年前期)
「シリアスゲーム論」 シラバス
時間:火曜5限(16:40~18:10)、
場所:042教室(厚木キャンパス本館4F)
★授業の趣旨と目的:
 この授業では、次のような学習機会を提供する。
・従来のエンターテインメントにとどまらない社会的目的で開発・利用されるデジタルゲーム「シリアスゲーム」に関心を持ち、関連する知識をより深く学ぶ
・シリアスゲームに自らの見識を持ち、将来クリエイターとしての自身の仕事に役に立つ知識を身につける
・ゲームと社会のつながりへの関心を高め、社会のためになるゲームの開発を実際に経験する
 これらの学習機会をより楽しく、より密度の濃い形で提供するために、授業全体をゲームデザインのアイデアを取り入れた「クエスト型授業」として構成している。さまざまなクエストを達成しながら、実際にシリアスゲームを企画・デザインする過程を通して、シリアスゲームが社会に果たす役割や可能性を理解できる。従来の授業とは異なる運営方法や評価方法を採用しているため、本シラバスをよく読み、担当講師の指示をよく聞いて授業に参加すること。
★ルール:
・クエスト:この授業は数多くのクエスト(課題)で構成されている。当初から示されているクエストのほかに、途中で開放される隠されたクエストも用意している。
・レベルと職業:受講生は全員「レベル1見習い」からスタートし、「職業選択クエスト」で自らの職業を策師、技師、絵師の3種類から選択する。各種クエストをクリアして経験値を貯め、レベルを上げていく。授業の最終期限までにどれだけレベルを上げられるかでこの授業の評価が決まる(詳細は後述)。
・クエストの選択の自由度:クエストには取り組み易い順序や期限付きのものが含まれるが、基本的に受講者の好みに応じてどの順番で取り組んでもよい。つまり、従来の授業よりも授業で取り組む課題の選択肢の自由度を高く設定している。
・前提スキル:履修の前提条件は特にない。プログラミング、グラフィック制作等のスキルはグループプロジェクトにおいて有用だが、必須ではない。
・授業外のコミュニケーション:担当教員は非常勤のため、キャンパスには授業時にしか来ていない。そのため授業のアナウンスや課題提出にはコウゲイ.netやツイッター等のオンラインツールを最大限に活用する。
★勝利条件(成績評価方法と基準)
・受講者の貯めた「経験値」は、最終的な成績評価に直結している。上位1割程度(人数は履修者数と全体のレベルによって変動)に最高ランク「秀」の称号を与える。同様に、下位1割には本授業の称号は付与されない(つまり「不可」)。
・経験値に対応してレベルが上昇する。各自のレベルは不定期にアナウンスされる。各レベル到達に必要な経験値は次のように設定されている。
0~700pt   Lv01~10
701~800pt  Lv11~15
801~900pt  Lv16~20
901~950pt  Lv21~25
951~1000pt Lv26~30
・レベル30が通常の上限だが、各クエストの達成度によって得られるボーナスポイントによって、レベル上限を超えることができる。
・レベル10以上で称号が得られるようにバランス調整しているが、受講者全体がハイレベルな場合は、下位1割ルールが適用されて称号が得られない場合もあるので注意すること。
★クエストで得られる経験値:
・当初から公開されているクエストと、各クエストから得られる基本経験値は以下の通りである。授業の展開に応じて、隠しクエストが解除されて公開される。また、各クエストの達成時間の速さや内容の充実度によって加算されるボーナス経験値が個別に設定されている。
◆ソロクエスト:
・授業出席:10pt×15回
・授業課題:20pt×15回
・ゲームレビュー:10-20pt/回
・文献レビュー:20-30pt/回
・ソロ企画:50-70pt
◆グループクエスト:
・ギルド結成:30pt
・プロジェクト企画書:70-100pt
・プロジェクトデモ:100-120pt
※上記に加え、達成度に応じて加点される
★ボーナス経験値の付与基準例:
A:自分の考えを詳しく丁寧に論じている、かつ独創的な視点やアイデアを示している (+10pt)
B:自分の考えを詳しく丁寧に論じている、または独創的な視点やアイデアを示している (+5pt)
C:課題で求められている最低限の基準は満たしている (標準)
D:課題で求められている基準を満たしていない (ポイントなし)
★授業スケジュール:
第1回(4/12)
・ガイダンス
・ワークショップ(1)ゲームトークバトル  ・クエスト:リフレクション
第2回(4/19)
・シリアスゲームとは
・ワークショップ(2)ゲームクリエイター/ゲーマーの証 ・クエスト:リフレクション、職業選択
第3回(4/26)
・シリアスゲームの事例研究(1)教育への利用
・ワークショップ(3)シリアスゲームの発想  ・クエスト:リフレクション、選択クエスト
第4回(5/10)
・シリアスゲームの事例研究(2)社会問題とゲーム
・ワークショップ(4):ソロ企画グループ発表セッション ・クエスト:選択クエスト
第5回(5/17)
・シリアスゲームのデザイン(1)
・ワークショップ(5)企画トレーニングその1
第6回(5/24)
・オンラインクエスト(1)
第7回(5/31)
・オンラインクエスト成果発表セッション ・クエスト:相互レビュー、選択クエスト
第8回(6/7)
・シリアスゲームのデザイン(2)
・ワークショップ(6)企画トレーニングその2  ・クエスト:選択クエスト
第9回(6/14)
・シリアスゲームの企画各論(1)学習要素の理解
・ワークショップ(5)学習要素の整理 ・クエスト:選択クエスト
第10回(6/21)
・シリアスゲームの企画各論(2)目的とデザイン
・ワークショップ(6)経験から次の実践へ   ・クエスト:選択クエスト
第11回(6/28)
・オンラインクエスト(2)
第12回(7/5)
・シリアスゲームの企画各論(3)成果の評価
・ワークショップ(7)評価項目の作成  ・クエスト:選択クエスト
第13回(7/12)
・オンラインクエスト(3)
第14回(7/19)
・グループプロジェクト成果発表会
・クエスト:プロジェクト成果、プロジェクト相互レビュー
第15回(7/26)
・まとめ、振り返りセッション
・結果発表
(※スケジュールは授業の進捗状況などの都合で日程や内容を変更する場合があります。)