JSET参加記: Day 3:教育工学分野のゲーム研究について(1)

 もう一週間以上経ってしまいましたが、JSET全国大会参加記の最終回です。最終日の3日目は、自分の発表が午前と午後にそれぞれあって、それを中心に動いた日程でした。今回は次の論題で発表しました。一般研究の方は発表資料を公開します。課題研究の方はまだ研究途上なので、成果がまとまってからの発表までお待ちください。
藤本徹 (2009.9) 「オンラインゲームの教育利用:実践上の課題」, 日本教育工学会 第25回全国大会講演論文集(一般研究), pp.869-870, 東京:東京大学. (論文PDF発表スライドPDF
藤本徹, Smith, B. K. (2009,.9) 「歴史探究学習プログラムにおける物語型教授エージェントを介した学習支援方法の研究-デジタルゲーム設計手法とオンライン学習環境設計の接点-」, 日本教育工学会 第25回全国大会講演論文集(課題研究), pp.87-90, 東京:東京大学.
 今回、この二つの発表について自分に課していたミッションは「教育工学分野でのゲーム研究の議論の水準を一段高めるための貢献」でした。教育とゲームについての研究は、この5年ほどでかなり拡大していて、海外ではあちこちの学会で特集や特別セッションが組まれるなど、多くの研究者がこのテーマに参入してきましたが、国内の研究コミュニティではまだこれからというところです。海外の研究者もこのテーマをどこまで深めてるかによって言ってることが全然違っていて、議論が錯綜している感もあるので、キャッチアップするのがけっこう大変です。国内のこのテーマに関心のある人たちがすでに海外で一通りやってきたような議論を一から辿るのは時間がもったいないし面倒なので、無駄なところは端折って、素早くキャッチアップできるよう少しでも貢献できればと考えて発表に臨みました。


 午前の一般研究セッションでは、2007年後半~2008年前半の約1年ちょっと行った「大航海時代オンライン」を利用した教育実践について発表しました。発表時間が10分しかなかったので、研究のポイントに絞って説明しようと思って準備したんですが、研究の背景とか過程とかポイントを盛り込みすぎて結局後半の大事なところを説明しきれず、消化不良な説明になってしまいました。人と接しない山籠り生活が長かったせいか、スピーチのスキルが落ちてたようで、頭の回転が悪くて話すのにえらく難渋しました。それとセッション座長がこの学会の重鎮の清水先生だったこともあって、緊張感倍増でかなり疲れました。
 たぶんこの発表を聞いてくださった方にはなんでこういうセッティングでやってるんだろう?なんでこうしなかったんだろう?という疑問の多い内容だったと思うんですが、そういうセッティングにせざるを得なかったこと自体がこの研究の制約でした。質問もいただきましたが、MMOなのに教室のみ利用というのは可能性半減のもったいない話だったし、実験の設定も提供していただいた授業の枠や利用できるコンテンツの制約上、実験として成立するような形にできなくて不十分なものになってしまいました。
 もちろん成果と言える良い面もあったので、そういうところだけうまく体裁を整えて説明すればもう少し研究発表らしくやれなくはなかったのですが、この研究に関してはうまくいかなかったところを共有することの意味の方が大きいと思ったので、拙かったところも含めて、このアプローチの実践上の課題について学んだところを説明しました。
 この研究を通してまず考えたことは、同じPCやネットワーク環境があれば他にもローコストで手間をかけずに学習効果をあげられる方法はあるわけで、この発表で取り上げたような課題がうまく消化できる形でかつ、MMOを使うメリットや他の方法にない良さを説明できない限りは普及にはつながらないだろうという点です。そこは前日のサスティナビリティとスケーラビリティの話に通じるところで、研究した延長線上によりよい実践や仕組みの改善につながるという道筋がない研究の意義は薄いわけで、それなら意義がある方法はなんだろうかと考えた結果、昨年のパイロット授業を終えた時点でこのアプローチでの研究は中断しました。その後、MMOの世界観やプレイ要素を再構成して学習環境をデザインするというアプローチに変更して、次の研究を行うことにしました。
 ただ、自分の研究のやり方が芳しくなかったからといって、このアプローチ自体がダメだと一般化するつもりは全くなくて、うまいやり方はあると思います。たとえば、教科カリキュラムに合わせる形で大幅にゲームをカスタマイズして、綿密に授業計画や教育手法を練り上げたものをセットにして導入するとか、教科カリキュラムではなく課外活動的なところに導入するなどの方向性は大いにありだと思います(実際海外のこのテーマの主要研究者はそのような方向に進んでいる向きがあります)。ただ、そのような方向で進むにしても、導入すればすぐに成果が出るという話には程遠く、まだ研究すべきことが山積している現状は認識しないといけません。
 10分の発表ではほんの一部しか話せませんでしたが、このような内容の発表でした。ご興味ある方は上記の発表スライドもご参照ください。この分野の研究をしたい方のために、引用した参考文献リストも付けてます。
 長くなってきたのでいったん区切って、後半は次のエントリーで。