9月19~21日までの3日間、日本教育工学会(JSET)の全国大会が東京大学で開催されました。今回は2本の研究発表をしてきました。今回新たに知り合った方、久しぶりに再会できた方、この分野で活躍する多くの研究者の皆さんとお会いすることができ、また自分の発表や他の方の発表、シンポジウムなどで多くを吸収した、実りのある3日間でした。運営がとても配慮が行き届いていて、参加者が混乱なく気持ちよく参加できるように入念に配慮されている様子が伺えました(大会関係者の皆さまお疲れさまでした)。
これから何回かに分けて、参加中のメモを整理しつつ大会の様子を記録しておこうと思います。とりあえずは初日分から。
初日は、午前中の一般発表の終わりの方から参加しました。一般発表は400件以上あって、論文集も電話帳のような厚さでかなりのボリュームです。論文集CD-ROMがついていて、こちらは検索機能やプログラムとのリンクが便利で使いやすいです。
午後のシンポジウムは「ICTを利用した教育・学習システムの目標設定と評価法-研究の「モザイク」から「るつぼ」への発展を目指して-」に参加しました。教育工学分野は多様な立場の専門家が参加していて、評価についても観点や理解の仕方がそれぞれ異なるので、シンポジウムは論点設定や進行が難しそうな印象で、今回はそれが如実に出ている感がありました。パネリストが交代で話すたびに議論が拡散して、コメンテーターのまとめでさらに論点が広がっているような印象で、自分に評価について十分な知識がないせいもあって、よく整理できないまま聞いていました。開発者と実践者の立場、学問領域的な違いで評価というテーマでもこれだけ論点の捉え方が違うので議論をどう方向づけるかが難しかったかなと思います。
質疑応答の最後の方で、この学会の重鎮の水越先生が「ICTのITの話しかしてないけどCはどうした」といった趣旨の質問をされて、パネリスト一同がやや困惑してましたが、その時の様子がこのセッションに臨んだ参加者の観点の広がりを端的にあらわしていたように思います。何か典型的な事例や論点に絞って議論を進行するとか、もう一つ進行上の線引きがあればもう少し深まりのある議論ができたのかなというところではありました。
(こぼれ話としては、僕はその質問をされた水越先生の近くに座っていたのですが、セッションの間中、ヤジに聞こえなくもないようなつぶやきを発しておられたのが聞こえてきて、聞こえる範囲にいた参加者はヒヤヒヤしてました(笑)。その辺りに座っていた参加者には別の意味で刺激的なセッションでもありました。)
その後はポスターセッションに参加しました。ストーリー、教授エージェント、ゲームなど、自分の研究に関連する発表者の話を中心に聞いてきました。ポスターセッションの良いところは、発表者と聴講者が個別にかなり深いやり取りができて、講演発表ではできないレベルの個別対応化された情報共有ができるということです。たとえば講演の場では、「xxの論文にはこの研究と関連する説明ありましたよ」みたいなコメントはなかなかできないですが、ポスターの方はそういう細かい話ができるわけで、今回は自分の関心に近い研究をされている発表者の方たちと個別にディスカッションできたのが収穫でした。
ワークショップは「若き研究者の悩み」セッションに参加しました。コーディネーターの先生も含め、助教~講師くらいの若手研究者と、研究者としてキャリアを進めようとしている大学院生が参加してました。キャリアのことや仕事上の悩みをざっくばらんに話してネットワークを広げようという趣旨は意義のあるよいテーマ設定で、自分自身身につまされるテーマでもあったので参加しました。
5人の経歴の異なる研究者がこれまでの経歴と現在の悩みを語り、その後周囲の人とグループになって語るという進行でした。いろんな方のキャリアの話を聞いて、自分も含めて皆それぞれに自分のキャリアについて思うようにいかないところや弱みを感じていて、完璧に無敵なキャリア形成などあり得ないのだなということを今更ながら考えさせられました。
学位取得、就職先確保、上司や指導教員との関係、家庭の問題、教育と研究とのバランス、キャリアシフトのタイミングなど、それぞれに悩みを生む論点があって、個々の文脈が違うので完全には理解しきれないところの悩みの方が深いと思います。傍から見れば素晴らしいキャリアだなと思ってみても、本人にすればそう思えないところがあったり、今の時点だけみるとうまくいってないように見えても、少し経てば何かのタイミングで劇的に状況が改善されることもあるでしょう。みんなそれぞれに試行錯誤や苦闘を重ねて乗り越えていって、その後にキャリアが形成されていくのだなと考えさせられました。
進行の仕方については、司会の先生も様子を探りながらの進行だったので今回はこんな感じでもよかったんですが、いきなりざっくばらんに悩みを語ろうと言われても難しいところがあったのと、事例の話も焦点の置き方が少しずつ違っていたり、グループでも人によって話の整理の仕方が違ったりしていてやや話しにくい感はありました。なのでたとえば事例発表の時間を少し短くして、ディスカッションに入る前に簡単なワークシートや質問票のようなものを各自で記入してもらう時間をとって、少し論点を整理したり流れを可視化してもらうなどして、それをベースに話をするようにすれば少し議論がしやすかったかなと思いました。
というところで初日は終了。次回へ続く。