「バーチャル遊園地」の閉鎖

 仮想世界「セカンドライフ」の後に続いて、最近次々と仮想世界サービスのリリースが発表されている。その一方で今月、大手企業が運営する二つの仮想世界のサービス終了が発表された。
 一つは、昨日発表された大手ゲーム会社のEAが運営する「EA LAND」。もう一つは、4月上旬に発表されたディズニーの「Virtual Magic Kingdom」。
EA-Land “Experiment” to Close Down; Ends Cycle of The Sims Online (Virtual Worlds News)
http://www.virtualworldsnews.com/2008/04/ea-land-experim.html
Disney’s Virtual Magic Kingdom to Close Doors (Virtual Worlds News)
http://www.virtualworldsnews.com/2008/04/disneys-virtual.html
日本のニュースサイトでも紹介されている。
EA-Land、早くも8/1にサービス終了… (The Second Times)
http://www.secondtimes.net/news/world/20080430_ealand.html
ディズニーの「Virtual Magic Kingdom」が5月21日に“閉園” (4gamers)
http://www.4gamer.net/games/042/G004287/20080410008/
 EA LANDは以前にサービス終了した「シムズ・オンライン」を拡張して今年新たにオープンしたサービスだが、わずか半年での閉鎖となる。MMOを含めて考えると、仮想世界サービスの終了は珍しいものではなく、ここ数年、数々のサービスが出てきては消えている。最初はどれも華々しく登場するのだが、終わりは静かに消えて行って、あれ、これも終わってたのか、という感じでいつの間にか退場していく。
 MMOや仮想世界(どちらもアバターを着飾って仮想空間を探索するという点は同じで、ゲームメインがMMO、ゲーム以外の活動がメインなのが仮想世界という程度の違い)のサービスは、ゲームのような見た目ではあっても、パッケージ売り切りのビジネスとは様子がだいぶ異なる。リアル世界の感覚でいえば、遊園地やゲーセンのような感じに近い。ディズニーのVirtual Magic Kingdomはまさにそういう感じでやっているわけで、アトラクションが賞味期限が来たら取り壊してリニューアルする感じで一つの仮想世界サービスを終了させて、ディズニーオンラインで提供しているToontownとか、他のサービスに利用客を流す動きなのだろうと思う。EAも他にいろいろな商品があるわけで、今いち伸び悩んだサービスを続けるよりは、早くたたんで他にリソースを投入すべきという考えも働くだろう。普通のゲームのように、売り出したらおしまいというわけではなく、運営コストが引き続きかかるので、当初の期待通りに人が集まらなければ、ビジネスを圧迫し続けることになる。なので運営企業としては閉鎖という判断はあながち悪いことではなく、調子が悪ければ早く手を打つのも一つの経営判断となる。
 閉鎖にあたり、リアルの遊園地であれば、土地や設備の処分にも相当のコストがかかるが、バーチャルのサービスはその辺の撤収コストがかからない。だがその分、利用客からの反応が全く変わる。リアルの遊園地であれば、ファンが閉鎖反対の署名をしたりもするが、最後にはみんなに惜しまれてさようなら、という感じで終えられるのかもしれないが、バーチャル遊園地はそうはいかない。ユーザーの作ったアバターや溜め込んだ資産などのデータは、そのサービスが閉じてしまうと消えてしまうため、ユーザーの投入したコストや労力も一緒に消えてしまうことが問題になる。
 上記二つのサービスでも、ファンがやめないでくれと署名運動を起こしているが、その性質はリアルのものとはやや異なる。「苦労して作ったキャラをどうしてくれるんだ、このやろう。」という怒りや嘆きがこもっている。コアなユーザーほど、その世界では相当に裕福な豪商だったり、英雄だったりするわけだから、サービス閉鎖による被害は大きくなる。サービスの衰退期に入れば、多くのユーザーは飽きて去っていくので大部分はそれでやり過ごせるのだが、上記のような大手のケースだと、まだユーザーもかなりコミットした状態でいきなりの閉鎖宣告ということなのだろうから、熱心なユーザーほど反発も大きいのだろう。この問題、コミュニティサービスのマネジメントという点では、面白い研究テーマだろう。

「シリアスゲームの現状調査報告書」

 シリアスゲームジャパンの方で紹介しましたが、念のためにこちらからもリンク貼っておきます。
 財団法人デジタルコンテンツ協会の実施した「シリアスゲームの現状調査」の調査報告書が同協会のウェブサイトで公開されました。下記のページからどなたでもPDFファイルの報告書をダウンロードできます。
 シリアスゲームジャパンの方に簡単な内容紹介など書いてますので、まずこちらからご覧ください。
https://anotherway.jp/seriousgamesjapan/archives/001063.html
 これだけしっかりまとまった報告書が一般公開されたことはとても意義あることだと思います。ちなみに、「欧米のシリアスゲームの現状」の章のGDCレポートのパートを除いた分を藤本が担当しました。手前味噌ですが、欧州のシリアスゲームの現状についてここまで詳しくまとめたものは今まで出てないので、この点でもお得な報告書になっています。

DS学習・実用系タイトルの販売状況

 iNSIDEに次のような記事が出ていた。
米大手ゲーム小売店、上位4メーカーで売上の65パーセント(iNSIDE)
http://www.inside-games.jp/news/282/28226.html
 ゲームソフトの販売が大手メーカーのタイトルにかなり集中しているようだが、ニンテンドーDSに絞ってみてみると、さらにその傾向は高まる。先日、「テレビゲーム産業白書」に寄稿するために、メディアクリエイト総研が出している販売データのうちのニンテンドーDSの学習・実用系タイトル分を調べたなかにもその傾向がはっきり出ていた。紙面の都合で準備したネタを結構ボツにせざるを得なかったのだが、2007年分までの集計のため、放っておくとネタが古くなってもったいないので、ここでそのさわりだけでも紹介しておく。

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我が家の Wii Fit

 少し前に日本版のWiiとWii Fitを一緒に買った。アメリカではたしか5月発売で、まだWii Fitは売ってないので、Wii Fitは今回初めてプレイした。
 パッケージとしてよくできていて、操作に変な混乱やストレスがない。まず製品としての完成度が高い。これがまさに、新さんの連載記事で解説されているような任天堂クオリティなのだなと思う。
 ゲームデザインの工夫の観点から見ても面白い。重さとバランスを認識するバランスボードのシンプルな機能とゲームのグラフィックの組み合わせで、これだけ多様なゲームが作れるところに感心させられる。このツールでゲームを考えろと言われても、「座禅」ゲームはなかなか思いつかないだろう。ほかにどんなゲームができるかを考えると、ゲームアイデアを考えるよいトレーニングになると思う。
 うちでは、もっぱら妻が利用していて(今も後ろで夢中になってやっている)、僕自身はたまに身体があまりにも鈍ったときの気晴らしか、体重量りついでに軽く遊ぶ程度で利用している。このソフトへの反応を外で聞いても、女性の方がハマっているようで、テイストや仕掛け的には女性の方にアピールしているようだ。ゲームとしては個人的にそこまでハマってないのだが、身体を動かすきっかけとしては重宝している。
 Wiiが従来のゲーマー層(最近自分はWiiのターゲット層ではないことを意識させられるようになった)ではなく、ノンゲーマーやカジュアルゲーマー層をターゲットにしていて、Wii Fitもその路線で成功していることがわかる。Wii Fitを前にした我が家の一コマもそんな感じである。発売前の評判では、デカイとか周辺機器は売れないとか言われる向きはあったものの、即座に100万本以上売れてしまった。
 どのような分野でも、イノベーションに対する下馬評というのは、あてにならないもので、WiiやこのWii Fitはそのようなイノベーションになっているのだろうと思う。たんに目新しいものを作れば売れるというわけではなく、よい製品の開発とそのよさが認知されるためのプロモーションに手を抜かないこともそのイノベーションの一部になっていることを見落としてはいけない。
 Wii Fitは、ゲームとしては本格的なゲームタイトルと比べると見劣りがするし、運動としても本格的にジムで運動するほどにはならない。なのでコアゲーマーにも、激しく運動したい人にも物足りない。だが、このソフトのターゲットは、その間にいるどちらでもない人々だ。時間のかかる本格ゲームをじっくりやるほどの気合いはないけど程よく楽しみたい、ジムに行くほどではないけど、運動するきっかけがほしい、という層がユーザーとなっている。セールスを見ればその層がいかに厚いかということだろう。
 ゲームもフィットネスも、まだ満たしきれていないユーザーニーズが広がっていて、そこにアピールする製品を投入すれば新たな市場が形成される。それも一朝一夕にできるものではなく、能力の高い人々がチームになってギリギリのところで試行錯誤を重ねてようやく生み出されている。次のインタビュー記事にそのような開発の苦労が紹介されている。
社長が訊くWii Fit
http://wii.com/jp/articles/wii-fit/crv/vol1/
 このWii Fitで家族のコミュニケーションが生まれ、身体のバランスへの意識が生まれる。体重管理や身体機能改善の補助として機能する。健康のための導入的ツールとしては、これ以上のものはないのではないか。だがあくまで導入や補助として考えるほうがよくて、これですべてを満たそうとしない方がよいだろう。本格的に運動したくなれば、広いスペースと専用の設備のあるジムに行く方がよい。すべての運動ニーズに答えようとするのでなく、どの範囲のニーズにこたえるべきかをはっきり意識して作られたものだということが、上の記事からもわかる。あれもこれもやろうとゴテゴテ盛り込むのでなく、目的をシンプルに設定して、設定した範囲のなかでいかによいものにするかを掘り下げて考えるというところに強さがあるように思う。

未来教育体験ワークショップ

 少し前に紹介した、「大航海時代オンライン」を研究ワークショップを利用した子ども向けワークショップの第1回を先日開催した。まずは概ねうまくいってほっとした。
 今回は、研究のねらいとするところがどこまで実践に耐えるか、運営上の課題がどこにあるかを洗い出して改善するための形成的評価のためのパイロット調査として行った。結果としてほぼ意図した通りに機能して、この調子でいけそうな手ごたえと、工夫が必要なところとが浮き彫りになった。教育現場での実践研究はやってみないと分からないことが多いので、机上の計画だけでそのまますんなり成果を出せるほど甘くはない。やってみないとわからないからといって計画なしに現場に飛び込んでも、現場の混沌に飲み込まれて研究にならない。そんなことを再確認するよい機会だった。
 個人的に、子ども向けのワークショップのデザインは、今回実質的に初めて取り組むので、なおのことやってみないとイメージがわかないことが多かった。それでも、過去に学習科学系の研究者が同様の研究を行っている例はたくさんある。それらの研究をレビューすることで、想定できる問題点やデザインのポイントのようなところを事前にチェックした部分が機能した(研究活動としては当り前)。まったく同じ文脈ではないにせよ、現場で目にした現象で先行研究が遭遇したものと類似のものは、すぐにある程度自分の知識の中で位置づけることは可能だった。今後のデータ収集のポイントを確認したり、やるべきことでやってないところややり過ぎのところや余計なことをしているところなど、一通り洗い出すことができた。このような研究の現場経験のようなものを一通り得たことと、設備上の制約は心配したほど生じなかったでだいぶ気が楽になった。今回得た手ごたえを成果につなげていくためには、これまでの関連研究のレビューをもう一段進めて知見を得ることと、ワークショップのデザインのバージョンアップを行うことが必要になる。
 現場実践型の研究を進める上で重要なのは、一緒に教育活動を進めていく教師やスタッフの協力で、研究チームとしての力を高めていくことが研究の成果につながる。この点はとてもありがたいことに、研究の場を提供していただいているフューチャーキッズ渋谷校の為田さんをはじめとするスタッフの皆さんの協力に励まされる思いがしている(お世話になりました!またよろしくお願いします!)。
 これまでにも、新しい教育メディアやツールを使った研究を行い「何かやれそうだ」という手ごたえを得るところまでいった研究はいくらでもある。だがほとんどの研究はその次のより具体的な成果を形にして、新しい教育方法として提案するところまではいきつくことができず、研究論文を何本か出して終了、というところにとどまっている。
 もちろん論文を出せるところまでいけば立派なものだし(そもそも学術研究とはそういうものだし)、この研究がそこまでいけるかもまだわからない。研究成果を狭い研究コミュニティの外の一般の現場レベルで役に立つレベルまで持って行けるのは、複数年予算の付いた大規模研究プロジェクトばかりで、予算のない博論研究をそこまで持っていったというのは教育分野の研究ではあまり聞いたことがない。学位が取れるレベルの論文を書けるところまで持っていくのが一つのゴールではあるけれども、どうせなら一つの新しい教育方法を実用化に近いところまで持っていきたい。そんな野心をもちつつ、研究を続けていこうと思う。

Guitar Heroの超絶プレイとMODコミュニティ

 当ブログでたびたび紹介している人気音ゲー「ギターヒーロー」の続編についての話。今度ギターヒーローIIIの収録曲として、イギリスのヘビーメタルバンド、Dragon Forceの「Through the Fire and Flames」のプレビューが先日公開された。映像はこの曲のプレイ画面。

 見ていただくとわかるように、この曲はプレイしているうちに鼻血がが出そうなほどの超ハイレベルで、上級者向けのボーナストラック曲として提供される。このプレビューが最初に公開されたのは、ギターヒーローのファンサイトで、MODコミュニティにもなっているScore Hero.com。ちなみにMOD(モッド)とは、市販のゲームを改変して新たなゲームを作ったり、ゲームのシナリオを作ったりする活動のことで、ゲームにエディターや開発キットをつけて売っているゲームを中心にファンがコミュニティを形成して、カスタマイズしたゲームデータを公開している。
 このギターヒーローは、欧米では非常に大人気のゲームで、MODコミュニティもかなり大きなものが形成されている。実は上記の曲も、ファンの間ではギターヒーローIIのカスタマイズ用のデータが出回っていて、下記の映像のようにコアなファンの間ではすでに楽しまれていた(こちらのビデオの方が人がプレイしている生々しさがあって楽しめる)。

 見ての通り、かなりの超絶変態プレイで、ファンの間ではかなりの話題になったらしく、この曲が弾きたいというニーズがこれで高まったことも、開発元がこの曲を選んだ理由になっている様子。その感謝の意を込めて、このファンサイトに一番にこのプレビューを提供したようだ。最近のゲームのマーケティングにおいては、このようなファンコミュニティとのリレーションの強化も一つの施策となっている。

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オンラインゲームを利用した学習ワークショップ

 今度、9月1日に下記のような子ども向けのオンラインゲーム学習ワークショップを開催します。募集人数は8名と少ないですが、お近くにお住まいで対象年齢のお子さんがいらっしゃる方はぜひご参加ください!
フューチャーキッズウェブサイトより転載)

ギターヒーロー続編の話

 以前にも何度か紹介した、欧米で大人気の音ゲー「ギターヒーロー」は引き続き好調で、XBOX360版が出たり、違う形のギターコントローラーやワイヤレスコントローラーが出たり、引き続き売れ筋商品として扱われており、すっかりメジャーなシリーズとなった感がある。
 売り出した当初は、ギターコントローラーの箱がでかくて場所をとることから、「ゲームショップの棚に並びにくいものは売れない」というこれまでのゲーム流通のセオリーから失敗を懸念する声もあった。だが、第一作がバカ売れしたおかげでそんな声も消し飛んでしまって、今ではゲームショップやスーパーのゲーム売り場には、ギターヒーローを置くためのスペースがしっかり確保されている。ビジネス上の些細な制約条件など、売れるものをきちんと作れば吹き飛んでしまうというよい例だ。

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ゲーム研究をすると優れたゲームが作れるようになるか?

 シリアスゲームジャパンで開催中のサイバー勉強会のテキストであるゲーム研究書「Half-Real: Video Games Between Real Rules and Fictional Worlds」の著者、Jesper Juul氏が最近手がけたゲーム、「High Seas – The Family Fortune」がリリースされている(プレスリリース)。
 このゲームは、テトリスやぷよぷよのような落ち物パズルゲーム、落ちゲーと呼ばれるジャンルのゲームで、カジュアルゲームパブリッシャーのGame Trustから発売されている。上記のゲーム紹介ページから無料デモ版がダウンロードできるので試してみてほしい。
 テトリス以来、さまざまな落ちゲーがリリースされていて、市場には類似のゲームはたくさんある。このゲームも見た目はビージュエルド風で、あまり目新しさはない。だがプレイしてみると、このゲームのルールがよく工夫されていて、ゲームプレイの心地よさを与えるためのさまざまなデザイン上の工夫をしていることがわかる。ゲームの面白さの基本となるメカニズム、すぐにゲームに入って楽しめるインターフェイス、心地よさを引き立たせる効果音やグラフィック、継続性を高めるための要素など、いずれも綿密なゲーム研究に裏打ちされたデザインとなって表れている。
 ゲーム研究者として知られる一方、Juul氏は研究だけでなく自らの会社Soupgamesで、10年以上もゲーム開発に取り組んでおり、数々のゲームを世に送り出している。そのため、必ずしもこのゲームの出来の良さは、ゲーム研究の知見から来るものではなく、これまでのJuul氏の経験からくるものでもあることがわかる。

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「テレビゲーム教育論」7月に出版

 出版準備中の翻訳書の校正作業が終わって、ようやく訳者の仕事はひと段落。
 原題の訳を副題にして下記のようなタイトルに決まり、7月10日発行予定で進行中です。お楽しみに。
「テレビゲーム教育論 - ママ,勉強してるんだからジャマしないでよ」
(原題:Don’t Bother Me Mom-I’m Learning!: How Computer And Video Games Are Preparing Your Kids for Twenty-First Century Success – And How You Can Help!)
マーク・プレンスキー 著/藤本 徹 訳
発行元:東京電機大学出版局
ISBN978-4-501-54230-6
発行 2007年7月10日