DS学習・実用系タイトルの販売状況

 iNSIDEに次のような記事が出ていた。
米大手ゲーム小売店、上位4メーカーで売上の65パーセント(iNSIDE)
http://www.inside-games.jp/news/282/28226.html
 ゲームソフトの販売が大手メーカーのタイトルにかなり集中しているようだが、ニンテンドーDSに絞ってみてみると、さらにその傾向は高まる。先日、「テレビゲーム産業白書」に寄稿するために、メディアクリエイト総研が出している販売データのうちのニンテンドーDSの学習・実用系タイトル分を調べたなかにもその傾向がはっきり出ていた。紙面の都合で準備したネタを結構ボツにせざるを得なかったのだが、2007年分までの集計のため、放っておくとネタが古くなってもったいないので、ここでそのさわりだけでも紹介しておく。


 ニンテンドーDSのタイトルはすでに800本以上がリリースされていて、そのうち約4分の1の210本程度が学習・実用系タイトルである。
(注:2007年末時点。またどこまでを学習・実用系に含めるかが問題になるが、ここではまったくゲーム性のない実用ソフトや学習などの何らかの効能をタイトルに掲げているものに限定している。「レイトン教授」や「クッキングママ」などはカウントしておらず、右脳なんとか、といったタイトルのついたパズルゲームはカウントしている。この選定基準によって数値は若干変化する。)
 学習・実用系タイトルの販売実績を見ると、任天堂タイトルが約76%を占めており、この時点で学習・実用系タイトルは任天堂のひとり勝ちになっていることがわかる。何しろ、販売本数トップ10のうち8本が任天堂タイトルである。そして任天堂に続く上位5社(IEインスティテュート、ロケットカンパニー、バンダイナムコゲームス、小学館、スパイク)を任天堂の分と合計すると販売シェアは約93%になる。このジャンルのタイトルは2350万本以上売れていて、一見大きな市場のように見えるが、脳トレ、えいご漬け、英検、漢検、お料理、百マス、などの一部のヒットタイトルがその9割以上を占めていて、わずか1割たらずのパイの部分に残りの各社がひしめき合う状況となっている。
 この状況はポジティブにもネガティブにも捉えられるが、販売上位50社と下位50社を比較すれば、売れる/売れない理由はかなり明確に現れている。まず間違いなく言えることは、製品として質の高いものを、きちんと販促をして売るのでなければまず売れない、ということで、これはデータがはっきり物語っている。
 任天堂タイトルより質の低いフォロワータイトルを販促もせずに売っているところはまずうまく行っていない。マイナーなタレントの起用や、雑誌とのタイアップなどで話題性だけに頼った企画もことごとくハズレ。奇をてらったニッチなテーマのタイトルもことごとく見込みをはずしていて、「面白いけど、こんなのいったい誰が買うんだろう?」という印象のタイトルは、その印象通り売れてなくて、ことごとく売り手の期待を裏切る結果に終わっている。
 テーマ的に見ると、ビジネス系や健康系タイトルは軒並み苦戦。漢字や英語のようにDSのメディア特性に合ったものはそこそこ好調な一方で、身体を動かす系のそもそもDSのメディアに合わなそうものはことごとく厳しい結果に直面している。ゲーム流通以外でプロモーション手段を持たないメーカーも苦戦中。他の事業の余裕部分をまわしてきて一発当ててやろう的なポジションでこのジャンルのタイトルを乱発しているように見えなくもない会社は総じてうまく行っていない一方で、(ここではカウントしてないが)レベルファイブのように単なるトレンド追随ではなく、独自のひねりを加えて高い品質のタイトルを出すことで大成功してステップアップにつなげている会社もある(ここでカウントしていない扱いになるところに、案外ヒントが示されているようでもあるが)。エデュテインメント時代からこの手のタイトルを出していたおかげで脳トレブームに素早く乗れた感のある会社も、需要が一巡して別の路線を打ち出さないと厳しくなりそうな状況がある。
 いくら開発費が抑えられるといっても、1万本程度しか売れないのではどうにもならないのではないかと思うのだが、そんなタイトルがすごく多い(このジャンルの約半数のタイトルは1万本に達していない)ので心配になってしまう。それでもやっていけるから今後も出続けるのか、それとも当てが外れて採算が合わなくて撤退するところが増えるのか、そんな動きは現在進行していることだろう。1年くらい前には、大学関係でもあちこちで、うちでもDSで何かやりたいんだけど、みたいな話をよく耳にしたが、そういう関係ない人たちまでが浮き足立つような過熱した状況はさすがに落ち着いてきた感がある。
 ふたを開けてみれば、プロダクト、プライス、プレイス、プロモーション、みたいなマーケティングの基本のところをはずさず、きちんとビジネスとして手を打っていないとうまくいかないことがデータとして示されている。幸運はほんの数社にしかもたらされておらず、それも限定的。流行りものに飛びついて市場を消耗させるのはやめにして、せっかくの開発力を無駄遣いせずに、いい物を作ってきちんと売ってくださいよ、というメーカー各社への市場からのメッセージだと捉えた方がよいかもしれない。