今年も東京工芸大学で担当している「シリアスゲーム論」が開講しました。この授業も3年目になるので、これまでのスタイルからかなりバージョンアップを試みました。
授業の構成はこれまで通り、シリアスゲームに関する講義とデザインワークショップ、グループプロジェクトを基本にしてますが、今回は「クエスト型授業」というコンセプトを新たに取り入れました。
クエストというのは、ロールプレイングゲームなどではおなじみの、プレイヤーがあちらこちらに行って、敵を倒したり、アイテムを集めたり、村人に頼まれてお遣いをしたりといった、ゲームシナリオ上の目的達成のための活動です。ゲームによってはミッションとかタスクとか呼ばれたりします。
クエストを授業の文脈で言えば、要は「課題」のことです。とはいえ、課題や点数をクエストや経験値と言い換えてるだけではなくて(そういう安易な迎合には学生たちは手厳しいです)、授業デザイン的にかなり込み入ったことをしています。下記にシラバスを抜粋して掲載しますが、特徴としては、
・課題(クエスト)の選択肢を大量に用意して、選択の自由度を高めている
・企画とデザインとプログラムの3つの専攻の学生がいるので、それぞれに合わせて課題の内容を調整している
・課題の達成と評価の透明性を高めて、自分や他の受講生の達成度を把握できる
などを意識して授業を組み立てています。せっかくゲームについて教えているのに、授業はオーソドックスな大学の授業の形式では面白くないので、授業での活動そのものからゲームを経験できるような作りにしたいと考えています。
これまでのスタイルを踏襲して、講義の時間を極力減らして、ワークショップやプロジェクトを通して学ぶことを重視していますが、教える側が慣れてきた分、もっと先鋭化させて、学習の密度を濃くすることに注力しています。それと今回は、あえてゲスト講師の力を借りずに、ソロでどこまで内容を充実できるか挑戦しています。
初年度からこういうアプローチでやりたかったんですが、いかんせん授業に不慣れだったのと、準備が追い付かなくて見送ってました。今年度実施に踏み切ったのは、米国でこの手の事例が出始めたので、勇気づけられたというか、背中を押されたところがありました。それと昨年から「ゲーミフィケーション」という言葉が一気に拡がっているのですが、数年前の「仮想世界」ブームの時のように、コンセプト先行で、実体が伴わずに失速しそうな感があるので、そうならないためにもここで「教育のゲーミフィケーション」の形を一つ示しておきたいという気持ちもあります。
準備と運営が落ち着くまでは普通の授業よりもかなり負荷がかかることもあって、まだクエストのラインナップがそろってないし、昨年度の内容のアップデートが追い付いてません。まだ骨組みだけで走りながら中身を作っている感じでかなり心もとないのですが、今までにない大学の授業の一つの形を生み出すことを目標に、7月末まで走り切ってみたいと思います。
またそのうち、どんなことをやっているかご報告したいと思います。
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東京工芸大学 芸術学部 ゲーム学科(2011年前期)
「シリアスゲーム論」 シラバス
時間:火曜5限(16:40~18:10)、
場所:042教室(厚木キャンパス本館4F)
★授業の趣旨と目的:
この授業では、次のような学習機会を提供する。
・従来のエンターテインメントにとどまらない社会的目的で開発・利用されるデジタルゲーム「シリアスゲーム」に関心を持ち、関連する知識をより深く学ぶ
・シリアスゲームに自らの見識を持ち、将来クリエイターとしての自身の仕事に役に立つ知識を身につける
・ゲームと社会のつながりへの関心を高め、社会のためになるゲームの開発を実際に経験する
これらの学習機会をより楽しく、より密度の濃い形で提供するために、授業全体をゲームデザインのアイデアを取り入れた「クエスト型授業」として構成している。さまざまなクエストを達成しながら、実際にシリアスゲームを企画・デザインする過程を通して、シリアスゲームが社会に果たす役割や可能性を理解できる。従来の授業とは異なる運営方法や評価方法を採用しているため、本シラバスをよく読み、担当講師の指示をよく聞いて授業に参加すること。
★ルール:
・クエスト:この授業は数多くのクエスト(課題)で構成されている。当初から示されているクエストのほかに、途中で開放される隠されたクエストも用意している。
・レベルと職業:受講生は全員「レベル1見習い」からスタートし、「職業選択クエスト」で自らの職業を策師、技師、絵師の3種類から選択する。各種クエストをクリアして経験値を貯め、レベルを上げていく。授業の最終期限までにどれだけレベルを上げられるかでこの授業の評価が決まる(詳細は後述)。
・クエストの選択の自由度:クエストには取り組み易い順序や期限付きのものが含まれるが、基本的に受講者の好みに応じてどの順番で取り組んでもよい。つまり、従来の授業よりも授業で取り組む課題の選択肢の自由度を高く設定している。
・前提スキル:履修の前提条件は特にない。プログラミング、グラフィック制作等のスキルはグループプロジェクトにおいて有用だが、必須ではない。
・授業外のコミュニケーション:担当教員は非常勤のため、キャンパスには授業時にしか来ていない。そのため授業のアナウンスや課題提出にはコウゲイ.netやツイッター等のオンラインツールを最大限に活用する。
★勝利条件(成績評価方法と基準)
・受講者の貯めた「経験値」は、最終的な成績評価に直結している。上位1割程度(人数は履修者数と全体のレベルによって変動)に最高ランク「秀」の称号を与える。同様に、下位1割には本授業の称号は付与されない(つまり「不可」)。
・経験値に対応してレベルが上昇する。各自のレベルは不定期にアナウンスされる。各レベル到達に必要な経験値は次のように設定されている。
0~700pt Lv01~10
701~800pt Lv11~15
801~900pt Lv16~20
901~950pt Lv21~25
951~1000pt Lv26~30
・レベル30が通常の上限だが、各クエストの達成度によって得られるボーナスポイントによって、レベル上限を超えることができる。
・レベル10以上で称号が得られるようにバランス調整しているが、受講者全体がハイレベルな場合は、下位1割ルールが適用されて称号が得られない場合もあるので注意すること。
★クエストで得られる経験値:
・当初から公開されているクエストと、各クエストから得られる基本経験値は以下の通りである。授業の展開に応じて、隠しクエストが解除されて公開される。また、各クエストの達成時間の速さや内容の充実度によって加算されるボーナス経験値が個別に設定されている。
◆ソロクエスト:
・授業出席:10pt×15回
・授業課題:20pt×15回
・ゲームレビュー:10-20pt/回
・文献レビュー:20-30pt/回
・ソロ企画:50-70pt
◆グループクエスト:
・ギルド結成:30pt
・プロジェクト企画書:70-100pt
・プロジェクトデモ:100-120pt
※上記に加え、達成度に応じて加点される
★ボーナス経験値の付与基準例:
A:自分の考えを詳しく丁寧に論じている、かつ独創的な視点やアイデアを示している (+10pt)
B:自分の考えを詳しく丁寧に論じている、または独創的な視点やアイデアを示している (+5pt)
C:課題で求められている最低限の基準は満たしている (標準)
D:課題で求められている基準を満たしていない (ポイントなし)
★授業スケジュール:
第1回(4/12)
・ガイダンス
・ワークショップ(1)ゲームトークバトル ・クエスト:リフレクション
第2回(4/19)
・シリアスゲームとは
・ワークショップ(2)ゲームクリエイター/ゲーマーの証 ・クエスト:リフレクション、職業選択
第3回(4/26)
・シリアスゲームの事例研究(1)教育への利用
・ワークショップ(3)シリアスゲームの発想 ・クエスト:リフレクション、選択クエスト
第4回(5/10)
・シリアスゲームの事例研究(2)社会問題とゲーム
・ワークショップ(4):ソロ企画グループ発表セッション ・クエスト:選択クエスト
第5回(5/17)
・シリアスゲームのデザイン(1)
・ワークショップ(5)企画トレーニングその1
第6回(5/24)
・オンラインクエスト(1)
第7回(5/31)
・オンラインクエスト成果発表セッション ・クエスト:相互レビュー、選択クエスト
第8回(6/7)
・シリアスゲームのデザイン(2)
・ワークショップ(6)企画トレーニングその2 ・クエスト:選択クエスト
第9回(6/14)
・シリアスゲームの企画各論(1)学習要素の理解
・ワークショップ(5)学習要素の整理 ・クエスト:選択クエスト
第10回(6/21)
・シリアスゲームの企画各論(2)目的とデザイン
・ワークショップ(6)経験から次の実践へ ・クエスト:選択クエスト
第11回(6/28)
・オンラインクエスト(2)
第12回(7/5)
・シリアスゲームの企画各論(3)成果の評価
・ワークショップ(7)評価項目の作成 ・クエスト:選択クエスト
第13回(7/12)
・オンラインクエスト(3)
第14回(7/19)
・グループプロジェクト成果発表会
・クエスト:プロジェクト成果、プロジェクト相互レビュー
第15回(7/26)
・まとめ、振り返りセッション
・結果発表
(※スケジュールは授業の進捗状況などの都合で日程や内容を変更する場合があります。)
「Games for Learning」カテゴリーアーカイブ
九州大学シリアスゲームプロジェクトシンポジウム参加報告と講演スライド
15日に開催された、福岡市委託事業 九州大学シリアスゲームプロジェクトシンポジウムに講演者として参加してきました。
シンポジウム参加者の皆さま、関係者の皆さま、おつかれさまでした。また、震災で直接被災された皆さま、さまざまな形で影響を受けて心を痛めておられる皆さまへ心よりお見舞い申し上げます。
今回は開催自体の判断が迫られる状況の中、もうひとつ福岡市で予定していたゲーム関連のイベントは中止となったそうですが、このシンポジウムについては開催していただいて本当によかったです。
シンポジウムでは、まずオランダのシリアスゲーム分野(オランダでは「Applied Games」と呼ばれているそうです)の動向についての講演に続いて、藤本の講演、そして九州大学のシリアスゲームプロジェクトの2年目の成果報告、最後にシリアスゲームのビジネスをテーマとしたパネルディスカッションが行われました。今回の目玉として、九州大学のシリアスゲーム開発事例としてリハビリゲームの「リハビリウム」、iPhoneアプリを利用した観光ARG「福ぶら」のこれまでの進捗と活動成果が紹介されましたが、とても興味深い事例が生まれており、3年目のプロジェクトの取り組みがさらに楽しみになりました。
藤本講演については、当初はシリアスゲームサミットGDCの話をもっと盛り込みつつ、ビジネス寄りの話をする予定でいたのですが、シリアスゲーム、さらにはゲーム全般の開発や普及に携わる立場の私たちが、この状況でどのような役割を担っていけばよいか、社会との関わりとして何ができるのか、といったことを考えるための話題を提供する内容に変更して話をしてきました。
拙い話でうまく自分の思いを伝えきれてないところもあると思いますが、ゲームに関わる人々に何か少しでもこのようなテーマで考えるきっかけを提供できたら幸いです。当日使用した講演スライドを公開しますのでご覧ください。またシンポジウムの模様は、Ustreamの録画を下記でご覧いただけます。
シリアスゲームプロジェクトシンポジウム; Ustreamアーカイブ
ゲーミフィケーションについて
DiGRA Japanの大会が終わってひと段落したので、シリアスゲームジャパンに「ゲーミフィケーション」の話題で記事書きました。こちらでも多少補足を。
海外サイトで “serious games” についての記事は日に1件あるかないかというところなのだけど、”gamification” についての記事は毎日数件ヒットする。リンクだけ放り込んだEvernoteの切れはしがたまってきて、チェックが追い付かなくなっているような状況にある。
ゲーミフィケーションは、考え方としてはゲームデザインの要素を社会的な活動に取り入れるものなので、シリアスゲームの延長線上にあるものの、シリアスゲームは従来のゲーム産業に近いところで取り組みが進んできたので、あくまでメディアとしての「ゲーム」の枠の中で考えられてきた側面がある。ゲーミフィケーションは、開発対象がゲームそのものである必要がないため、さらに適用範囲が広く、対象とするすそ野が広いと言える。昨今、ソーシャルゲームが新興勢力となって隆盛し、従来のゲーム産業の枠組みを変えつつある流れと同様に、ゲーミフィケーションがシリアスゲームのメディアの枠を拡張する動きとなっているという解釈ができる。
ゲーミフィケーションの手法自体は、個別にはあまり目新しくはないものが多いのだが、これからノウハウ開発が進んでいけば面白い展開になる期待はできる。ただ、やや懸念されるのは、以前の「セカンドライフ」ブームにやや似た動きをしている感がやや見られるところだ。セカンドライフの時も広く関心を集めたが、焦点が拡散してしまい、コンセプト先行で技術面での未成熟さや活動が期待においつかないまま推移したこともあって、残念ながらすぐに盛り下がってしまった。ゲーミフィケーションもノウハウ開発が追い付いていかないままに騒いでいると、「優れたゲーミフィケーション」が出ないうちに「ダメなゲーミフィケーション」が市場を覆ってしまってすぐにしぼんでしまうだろう。それに4Gamerの奥谷さんも指摘しているように、皆が同じようなことをやりだしたら目新しさがなくなってしまって付加価値がなくなってしまうことも考えられる。
最近のシリアスゲーム動向もボリュームが増えすぎて十分キャッチアップしきれてないというのに、さらに新たな展開が出てきて、この動きの速さには参ってしまうのだけども、日本の我々も遅れを取らないようにやれることはやって行こうと思う。
これまで集めた資料が豊富にあるので引き続きそれらを読み解きつつ、もう少し知見を深めたらまた解説します。
教育ゲームデザイン研究の進展
欧米、特に米国の教育工学分野にはGame-based learningを研究している研究者が結構な数いて、教育用途のゲームのデザイン枠組の研究を行っている。つい先日送られてきたTechtrends(AECTの学会誌)の最新号にも論文が出ていた。
Preparing Instructional Designers for Game-Based Learning: Part 1
Atsusi Hirumi, Bob Appelman, Lloyd Rieber, Richard Van Eck
http://bit.ly/aLABXE
教育現場で利用される教育ゲームや、シリアスゲーム(従来の教育以外の分野で利用されるゲームも含んだより広い用途のゲーム)について、ここ1~2年で取り組まれている研究の数がかなりのボリュームに及んでいるようで、分厚い論文集がいくつも刊行されている。
最近海外で刊行されたシリアスゲーム関連書 2009-2010(1)
http://seriousgames.jp/2010/06/20101.html
国内で同様の研究も数々行われているのだけども、海外のこれらの研究成果をレビューしたうえで取り組まれているものはそんなに多くないような印象を受ける。その印象があたっているかどうかは国内の研究をもう少しきっちり調べてみて確認したい。
今見えている研究課題がいくつかあるのだけど、あれもこれも独りではやりきれないので、少しチームで研究する体制をとりたいなと思うんだけども、今の本務の仕事との兼ね合いや何やらでいろいろと難しいところがあるのが悩ましい。
シリアスゲーム論文募集中
これまでも各所でお知らせしてきましたが、今度、日本デジタルゲーム学会の学会誌「デジタルゲーム学研究」でシリアスゲーム特集を組むことになり、不肖私めが特集エディターを担当してます。
現在投稿論文を大募集していますので、関連する研究成果を発表されたい方、どうぞご応募ください。〆切は来年2010年1月31日です。
「こういうネタがあるのだけど、投稿してOK?」「まだ・・・の段階なのだけども、これくらいでも大丈夫?」など、当募集に関するご質問やご相談等ございましたら、tfuji <at> anotherway.jp までお気軽にお問い合わせください。
募集の詳細は、シリアスゲームジャパンでご紹介してますのでご参照ください。
http://seriousgames.jp/2009/11/post-87.html
「シリアスゲーム論」プロジェクト最終報告会
東京工芸大学の「シリアスゲーム論」、試行錯誤しているうちに早くももう来週が今期の最終回です。
毎回の授業準備にだいぶ慣れてきた後半は、現状の学生のレベルに応じた学習支援をどこまでやれるかをチャレンジしてきた感じで進んできました。この辺のさじ加減の調整は事前設計だけで対応できないところがたくさんあると改めて痛感した一方で、事前設計がしっかりしてないとさじ加減のブレが大きくなるし、場当たり的な対応しがちで知見として蓄積しにくくなるので、やはりベースとなる設計はきちんとやっておく必要があると再認識した次第です。この3か月ほどの取り組みの結果、ねらい通りの手ごたえがあったところの何倍も反省点があって、次回担当する時には内容も構成もバージョンアップしてさらにhard funな授業にしたいと思います。
7月23日の最終回の授業では、これまで40数名の受講生たちがグループプロジェクトで取り組んできたシリアスゲーム企画の最終報告を行います。
当日は次のような企画発表が予定されています。
・動物愛護をテーマとした育成シミュレーションゲーム
・ゴミ分別をテーマとしたパズルゲーム
・就農をテーマとしたシミュレーションゲーム
・おせち料理の知識普及をテーマとしたアクション&クイズゲーム
・ファーストフード店の研修用ゲーム
・就職活動支援をテーマとしたクイズゲーム
・排気ガス削減をテーマとしたカーナビ搭載型ゲーム
・色彩の知識普及をテーマとした色彩コーディネートゲーム
どれもアイデアは良くて、あとはゲームの面白さや企画の質をどうあげていけるかが課題で、あと1週間でどこまでのものにできるかが楽しみなところです。この中の「カーナビ搭載型環境学習ゲーム」は、先週のNHK「おはよう日本」でゲームの話題が取り上げられていた中で紹介されていた、立命館のサイトウ教授とクラリオン社が実際に共同開発しているゲーム企画と全くかぶっていました。実際に採用されて開発が進んでいるゲームのアイデアを学生たちがどう料理して自分たちなりのユニークさを企画に盛り込めるかに期待しています。
本授業は学外の方も聴講受け付けていますので、シリアスゲームにご関心ある方、どうぞお気軽にお越しください。人数把握のため、聴講をご希望の方はメールにて、藤本(tfujimt <atmark> anim.t-kougei.ac.jp)までお名前とご所属(またはご職業)をご連絡ください。
日時: 2009年7月23日(木)16:40~18:10(5限)
場所: 東京工芸大学厚木キャンパス
(小田急線本厚木駅よりバスで約15分)
教室: 1121教室(11号館2F)※キャンパス正門入ってすぐ左手の建物です。
アクセス情報詳細:
http://www.t-kougei.ac.jp/guide/campus/access/#atugi
「シリアスゲーム論」の近況
シリアスゲームジャパンの方で軽く紹介したのみでこちらで語るタイミングをすっかり逸してしまいましたが、東京工芸大の「シリアスゲーム論」全3回のゲスト講演シリーズは無事に終わり、ホッとしました(最新の記事)。無事といっても、ネットがつながらなくて職員の方にイレギュラーな対応をお願いしたり、PCのトラブルでセガの馬場さんになんの資料もなくお話しいただくことになってしまったりと、運営面でバタバタする場面も発生したわけですが、ゲストや学内関係者の皆さんのご協力のおかげで無事に乗り切ることができました(皆様どうもありがとうございました。特にゲスト講師の皆様にはたいへん感謝してます)。
この授業は学部生の授業だからといって手を抜くところは一切なく、日本で一番のシリアスゲームの学習機会を提供しようと、担当講師は意気込んで授業づくりをしています(このようなテーマで教えている大学は現時点では他にないので、まあ必然的にオンリーワンなわけですが)。今後シリアスゲームを学ぶ場を広げていくためには蓄積が必要なので、時間が許す限り手をかけて教材や資料を準備しています。
ただ今、受講生たちはシリアスゲームの企画プロジェクトに取り組んでいます。シリアスゲームジャパンでも紹介してますが(紹介記事)、先週プロジェクトの中間報告を行いました。各グループ、テーマもゲーム案もバラエティに富んでいて、予想以上に幅の広がりがありました。学生たちはゲスト講師の方たちのゲーム開発にかける熱い想いに触発されて、プロジェクトにもいい気合いが乗って来ている感じです。中には手加減して中間発表に臨んだら、他のグループに遅れを取っているのに気づいて慌てて気合いを入れ直すグループもあったりして、学生間の相互作用から学ぶ要素も高まってきた感があります。あと1カ月でどこまで仕上げてくれるか楽しみなところです。
野球つく2やってます
先月セガから出た「プロ野球チームをつくろう! 2」をプレイしだして3週間ほど経った。このゲームは、GMとなって球団経営をして日本一を目指すプロ野球経営シミュレーションゲーム。今週、工芸大の「シリアスゲーム論」の授業にゲストで来ていただく馬場保仁さんがこのゲームのプロデュースをされており、予習も兼ねてプレイしている。
「シリアスゲーム論」前回の授業
シリアスゲームジャパンでも紹介したように、工芸大の「シリアスゲーム論」では、先週から来週までの全3回、ゲストをお招きしてゲスト講演シリーズを行っている。前回は柴田賀盆さんにお越しいただいて、シリアスゲームの企画の仕事の実際についてお話いただいた。授業の模様についてはシリアスゲームジャパンをご参照いただいて(記事リンク)、こちらでは担当講師としての個人的な感想を。
柴田さんには4年前のCEDECで初めてシリアスゲームのパネルディスカッションを行った時にパネリストとして来ていただいて、当時できたてほやほやだった高校生向け金融教育ゲーム「私の夢&銀行」についてお話いただいた。今回もその「私の夢&銀行」の企画の仕事の話をしていただいたのだが、今回はそれだけでなく「ゼビウス」や「ドルアーガの塔」で知られる遠藤雅伸氏に師事した時の話や、今や伝説となって語り継がれている「エアーズアドベンチャー」の当時の話、そもそもなぜシリアスゲームの仕事に関わるようになったのかなど、一人のゲームクリエイターのキャリアの変遷の話を中心に話していただいたので、さらに興味深い内容となった。
エンターテインメントゲームから入ってシリアスゲームに関わるようになった柴田さんの視線は学生たちからの目線に近いこともあり、シリアスゲームクリエイターを目指そうかと考え始めた学生たちにも、シリアスゲームにはそれほど本気でもない学生たちにも、自分の将来を考える題材を豊富に提供していただいた。
シリアスゲームの企画は、クライアントをはじめとする関係者の顔ぶれがゲーム業界の中だけで仕事をする場合とは大いに変わることがあるので、コミュニケーションの仕方や仕事の進め方が従来のゲーム業界の仕事の仕方とだいぶ異なるところがある。これはアメリカのシリアスゲーム業界では常識になりつつあるが、日本ではそこまで一般的ではなくて、これから普及につれて直面する課題の一つとなる。「私の夢&銀行」の事例は、その課題の一つの乗り越え方を示している点が意義あるところだ。
結局のところどんな業界でも、仕事上の摩擦を回避しつつうまく仕事を進めるためにやるべきことには共通するところがある。企画する側が内輪でしか伝わらない言葉でしかコミュニケーションできない場合は、外の人との仕事はうまく進められない。お互いの勝手がわかるレベルまで説明するのは面倒なことで、面倒なことでも乗り越えないと話が進まない。説明するための企画書の書き方や説明の落とし所の付け方は企画の仕事の基礎的なスキルとして磨いておく必要がある。うちはそういうことはやってないから、というのでは仕事は取れないのだ。それでビジネスが回るうちはそれでやっていけばよいが、回らなくなってからそのためのスキルを身につけようとしてもそれはなかなか難しい。クリエイターとクライアントでも、産業界と学術界でもなんでも、異分野の人間が仕事をする必要が出てくるところでは必ず付いて回る問題だろう。企画の仕事とは、多分にそのような状況で厄介な相手とのコミュニケーションのために汗をかく仕事だという要素が強い。
今回、柴田さんにはその辺りの企画の仕事の実際についてこの授業で扱う機会を提供していただいたこととともに、クリエイターを目指す学生たちへ貴重なアドバイスをいただいたことに心から感謝しています(柴田さん、ありがとうございました)。
「シリアスゲーム論」授業経過(第3~5回)
前の2回分サボってしまったので、3回分まとめての授業日誌。連休前の第3回授業では、前半に「シリアスゲームの対象と領域」について解説をして、後半に「シリアスゲームの発想」と題してのミニワークショップを実施。学生たちに「学校」の意味を考えてもらい、ワークシートを埋めながらゲームの企画アイデアの頭出しをしてもらうという内容。
どうもシリアスゲームというのは、一般的には「つまらなそうなゲーム」という印象を持たれるようで、学生たちの多くはつまらないのを覚悟してあまり期待せずに履修してくれたみたいなのだが、いろんな事例を知って、企画の練習をしていくにつれて、「遊ぶのも作るのも面白そう」という反応が返ってくるようになったのがうれしいところ。