「シリアスゲーム論」前回の授業

 シリアスゲームジャパンでも紹介したように、工芸大の「シリアスゲーム論」では、先週から来週までの全3回、ゲストをお招きしてゲスト講演シリーズを行っている。前回は柴田賀盆さんにお越しいただいて、シリアスゲームの企画の仕事の実際についてお話いただいた。授業の模様についてはシリアスゲームジャパンをご参照いただいて(記事リンク)、こちらでは担当講師としての個人的な感想を。
 柴田さんには4年前のCEDECで初めてシリアスゲームのパネルディスカッションを行った時にパネリストとして来ていただいて、当時できたてほやほやだった高校生向け金融教育ゲーム「私の夢&銀行」についてお話いただいた。今回もその「私の夢&銀行」の企画の仕事の話をしていただいたのだが、今回はそれだけでなく「ゼビウス」や「ドルアーガの塔」で知られる遠藤雅伸氏に師事した時の話や、今や伝説となって語り継がれている「エアーズアドベンチャー」の当時の話、そもそもなぜシリアスゲームの仕事に関わるようになったのかなど、一人のゲームクリエイターのキャリアの変遷の話を中心に話していただいたので、さらに興味深い内容となった。
 エンターテインメントゲームから入ってシリアスゲームに関わるようになった柴田さんの視線は学生たちからの目線に近いこともあり、シリアスゲームクリエイターを目指そうかと考え始めた学生たちにも、シリアスゲームにはそれほど本気でもない学生たちにも、自分の将来を考える題材を豊富に提供していただいた。
 シリアスゲームの企画は、クライアントをはじめとする関係者の顔ぶれがゲーム業界の中だけで仕事をする場合とは大いに変わることがあるので、コミュニケーションの仕方や仕事の進め方が従来のゲーム業界の仕事の仕方とだいぶ異なるところがある。これはアメリカのシリアスゲーム業界では常識になりつつあるが、日本ではそこまで一般的ではなくて、これから普及につれて直面する課題の一つとなる。「私の夢&銀行」の事例は、その課題の一つの乗り越え方を示している点が意義あるところだ。
 結局のところどんな業界でも、仕事上の摩擦を回避しつつうまく仕事を進めるためにやるべきことには共通するところがある。企画する側が内輪でしか伝わらない言葉でしかコミュニケーションできない場合は、外の人との仕事はうまく進められない。お互いの勝手がわかるレベルまで説明するのは面倒なことで、面倒なことでも乗り越えないと話が進まない。説明するための企画書の書き方や説明の落とし所の付け方は企画の仕事の基礎的なスキルとして磨いておく必要がある。うちはそういうことはやってないから、というのでは仕事は取れないのだ。それでビジネスが回るうちはそれでやっていけばよいが、回らなくなってからそのためのスキルを身につけようとしてもそれはなかなか難しい。クリエイターとクライアントでも、産業界と学術界でもなんでも、異分野の人間が仕事をする必要が出てくるところでは必ず付いて回る問題だろう。企画の仕事とは、多分にそのような状況で厄介な相手とのコミュニケーションのために汗をかく仕事だという要素が強い。
 今回、柴田さんにはその辺りの企画の仕事の実際についてこの授業で扱う機会を提供していただいたこととともに、クリエイターを目指す学生たちへ貴重なアドバイスをいただいたことに心から感謝しています(柴田さん、ありがとうございました)。