大規模公開オンライン講座(MOOC)におけるラーニング・アナリティクス研究の動向

日本教育工学会論文誌41巻3号に、査読付資料「大規模公開オンライン講座(MOOC)におけるラーニング・アナリティクス研究の動向」が掲載されました。

MOOCのコース開発と運営を続ける中で、少しずつ調べてきた論文などの知見を整理した論文です。J-Stage上で全文公開されていますので、このテーマにご関心のある方はどうぞご覧ください。

藤本徹, 荒優, 山内祐平(2017) 大規模公開オンライン講座(MOOC)におけるラーニング・アナリティクス研究の動向. 日本教育工学会誌. 41(3), 305-313.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjet/41/3/41_41037/_article/-char/ja

抄録
2012年以降,世界のトップ大学が一斉に大規模公開オンライン講座(MOOC)の提供に参入したことで,グローバルなオンライン教育プラットフォームとして急速に普及し,研究テーマとしての関心も急速に高まった.この動きの当初は,コース提供した大学による教育実践報告や,将来の可能性を展望する議論が中心だったが,近年では具体的な実証研究も進展しており,ラーニング・アナリティクスを取り入れた研究も見られるようになった.本稿では,MOOC に関するラーニング・アナリティクスの先行研究をレビューし,この分野の研究動向を概観したうえで,今後研究を進めていく上での論点や課題を検討する.

 

HEVGAによるWHOのゲーミング障害指定への反論抄訳

昨日、ゲーム研究者の国際団体「Higher Education Video Game Alliance(HEVGA)」が、先日WHOが発表した「ゲーミング障害」を指定する方針について、共同で反対声明を出しました。この分類指定の趣旨は理解するが、限定的な証拠をもとに早急な結論を出してゲームを不当に貶めることは、この問題への歪んだ見方を広め、問題の改善にはつながらないという趣旨の声明です。

https://hevga.org/article_writeups/higher-education-video-game-alliance-opposes-world-health-organizations-gaming-disorder/

国内メディアでもこのWHOの指定について報道されていますが、特に反論の動きもなく、またいつものゲーム批判かという冷めた目でスルーしている向きも多いと思います。とはいえ、こういう公的機関の動きはゲーム産業や関連分野にダメージにつながりかねず、反論すべきところはきちんと反論しておくべきところです。米国を中心とする研究者コミュニティのこの辺りの動きは速いところは見習いたいです。

声明のプレスリリースは短いものでしたので、正月休み明けのウォーミングアップを兼ねて抄訳を作成しました。ざっと訳したため、細かい用語の言い回しなど間違いがあるかと思いますがご了承ください。

(以下、前掲のHEVGAのプレスリリース訳)

高等教育ビデオゲームアライアンス(HEVGA)は、世界保健機関の「ゲーミング障害(Gaming Disorder)」指定に反対します。

WHOが提唱する「疾病問題の国際分類(ICD)」での指定は、十分な学術研究の証拠に基づかず、何の解決策や予防法も示さずに世界中の何十億人ものプレイヤーに不当な汚名を着せるものです。

ワシントンDC発-2018年1月4日
ホリデーシーズンのさなか、WHOがICDの分類に「ゲーミング障害」を新たに追加するという提案についての報道は、非常に落胆させられるものでした。既に、大手メディアはこの提案の分類について「精神疾患」や「精神衛生状態」といった表現で報道してます。WHOの提案は、この障害の性質を「ゲームをしたい衝動の抑制ができない」、「重大な問題が生じてもゲームを続ける」と明示して、「再発性のある」ゲーミング行動に限定した慎重な指摘であるものの、ゲーミングを依存障害分類に追加することは、個人的行動に根差した乱用への対策にはなりませんし、特定メディアでの症候ではありません。とりわけ懸念されるのは、ゲーミングを障害として分類することで、世界中で何十億人ものプレイヤーが何の問題もなく楽しむ娯楽に不当な汚名を着せる動きが広がることであり、偏見のない公明な研究が進まず、この分類を所与のものとして証拠を求める歪んだ研究が続けられることです。ゆえに私たちは、WHOのこの分類について最大限に強く反対します。

私たちは、ゲームコミュニティ、ゲーム産業、ゲームメディアの形態や効能についての学術研究コミュニティを代表して、WHOの責任ある計画やコミュニティへの関与、市民行動への関与の考えを強く支持するものの、WHOの提案した分類を支持する論拠となる研究結果は、ごく限られたものでしかありません。むしろ、このような動きは、存在が確認されていないゲームと他のメディアの消費行動(例:過度な視聴のような消費パターン)を区別するものです。さらに、「ゲゲーミング」という表現は、通常意味するギャンブル行動とデジタルビデオゲームのプレイ行動を混同させるものです。おそらく最も重要なことは、この分類は何の予防や改善策を提示していないことです。

何世紀もの間、私たちはこのようなゲームや他のメディアをスケープゴートにする動きを目にしてきました。デジタルゲームの前にも、チェスやソリティア、ペンと紙で遊ぶロールプレイングゲーム、他の形態のメディアや娯楽、放送がこのような扱いを受けてきました。18世紀から19世紀にかけて、性的不平等を維持するために、女性は小説の架空と現実の区別を付ける能力がないと見做されていました。それは今日のさまざまな特定の集団や市場が、社会を騒がす問題として扱われているのと同様です。これまでにもゲームは、暴力や子どもの肥満、教育政策の失敗などの現代社会の抱える問題の原因であると批判されるのを目にしてきました。しかし、ゲームがそうした社会的な問題状況を生み出しているという明確な証拠もなく、より重大で社会構造に内在する要因について慎重に検討することもないままに批判を受けているのです。多くの研究が相反する結果を示しており、科学や医学の専門家コミュニティにおいて統一見解が得られていないにも関わらず、ゲームには「依存性がある」と言われています。世界中で20億もの人々がゲームを楽しんでいるという事実があり、STEM教育や人文社会科学分野での良い効果が示されているにも関わらず、特定のグループや報道機関は、ゲームを名指しで危険なメディアであると意図しているようです。

この分類は保険の役に立ち、正しい名称で定義されればさらに有用なのは確かでしょう。しかし、懸命な集団を社会から分断させて被害を与えるおそれがある形で不十分な結論を性急に出すよりも、まずゲームが文化的、象徴的なメディアとして、私たちの生活に与える影響を明らかにするための研究を継続することを推奨します。現代世界におけるデジタルメディアの役割は次世代教育の政策面でも重要なことは明らかです。慎重で中立的でバイアスのない研究報告や、感情的な扇動への批判的な眼を持つことで、このメディアの私たちの生活への影響や、害となりうる行動を抱える人々へのケアについてより良く理解することにつながると考えます。しかし、最善のケアを真に必要とする人々へ提供し、誤りや過度な診断による被害を避けるためには、ゲーミングに障害という無用な汚名を着せることはあってはなりません。限定的な証拠をもとに、特定のデジタルメディアを名指しすることは不当であり、必要とする人々へのケアや対策の発展や、このメディアの社会的、文化的な役割や影響についてのより良い理解にはつながりません。

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HEVGAについて
HEVGAは、専門学校や大学におけるビデオゲーム教育の文化的、科学的、経済的な重要さを支持する高等教育分野のリーダーが集うプラットフォームを形成することをミッションに活動しています。鍵となるのは、21世紀の学習環境におけるこのコミュニティの影響を育てて活かすためには、統一見解の発信や政策立案への関与、メディア広報、外部資金獲得も含む堅固なリソース共有ネットワークを作り出すことです。詳しい情報は、hevga.org, HEVGA のFacebookページへのいいね、または@theHEVGA のTwitterページをフォローして参照してください。

2018年を迎えて

皆さま、新年あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。

今年の帰省はパソコンを持たずに帰って、温泉に入りテレビを見てゆっくり過ごしました。東京に戻ってもう少し休みがありますが、週明けから重い案件が続くので、そろそろ休みモードから頭を切り替えようかというところです。

昨年は組織人としての自分を考えさせられることが多い年でした。管理職的な役回りが多く、組織内での調整ごとも増えて、起案して話をつけて前に進めることの繰り返しでした。書いた原稿量より、業務的な提案書や報告書を書いた量が遥かに多いというのは研究者として望ましい状態とは言えません。よく研究できた一年とは言い難いものの、大いに悩みながら、よく働いた一年でした。

今年は早々に、組織人として大きな仕事の山場が待ち構えており、良い形で乗り切れるように手を尽くすことが第一のチャレンジです。無事乗り切ったところで、これまで任された役目は段階的に整理しながら、研究者として次のテーマに着手する一年にします。

自分の性分として、自分でなくてもよいことや自分がやらない方がうまく回りそうなことは、出しゃばってやりたくないし、さっさと他の人に渡したいと思って生きてきましたが、他にできる人がいないことや行きがかり上引き受けたことが積み上がってきて、大事なことに力を尽くせず残念な思いをすることが増えてきました。年齢的にも40代半ばになったこともあり、これから残りのキャリアや仕事の仕方自体を捉え直したい。この何年か考えてきたことを形にして、大事にしたいことに舵を切って前に進む一年を送りたいと思います。

2017年の振り返り

気が付けばもう今週で2017年も終わりです。昨年末も一昨年末も、年末は休みに入ったとたんに疲れが出て、振り返りの記事を書く気が起きなかったのですが、今日は仕事納めのスローペースな仕事の締めに、何か書ける程度の元気が残っていました。

例年通り、今年一年で書いた原稿や発表を整理しました。主なものは来年出版される年初に書いたレビュー論文が1本と、国際会議のフルペーパー発表2本、共著の書籍やその他発表などというところです。ジャーナル論文3本投稿を目標にしていましたが、3本いずれも詰め切れずに仕掛りのまま来年に持ち越してしまうのが反省点です。改稿や査読対応など急ぎの案件に少しずつ時間が削り取られて、ソロ作業が後回しになってしまうのが相変わらずの状況です。

年初に出したものは、今年のこととは思えないように以前のことのように感じます。9月の島根とナポリの連投も、ほんの3か月前とは思えません。良いことも悪いことも詰め詰め濃縮な一年でした。

私は今日で仕事納めで、明日から年末休みに入ります。冬休みの自由研究として、ようやく買えたニンテンドーSwitchのゲーム数本と、PS4の「サドンストライク4」を買い込んできたので、ゲームの時間を確保しながら、年明けから走り出すためにしっかり休養を取りたいと思います。

今年も多くの皆さまにお世話になりました。良いお年をお迎えください。

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JSET全国大会@島根大学での研究発表予定

今週末15日から島根大学で開催される日本教育工学会全国大会での発表予定をお知らせします。

私は大会最終日9月18日の午前の一般研究発表枠で、コーセラで東大が開講中のMOOC「Studying at Japanese Universities」の受講者の状況についての発表と、共同発表で同じく東大でMOOC開発を担当している荒さんの発表の2件を予定してます。

9月18日(月) 11:10〜13:10 会場:2号館603
3p-603-01
MOOCの学習パスの複線化に伴う学習行動の変化
荒 優,藤本 徹,一色 裕里,山内 祐平(東京大学)

3p-603-02
日本留学準備支援のためのMOOC受講者の参加状況
藤本 徹,高濱 愛,荒 優,一色 裕里,仲谷 佳恵,山内 祐平(東京大学)

同じく18日午後には、私が代表として参加している「SIG-05 ゲーム学習・オープンエデュケーション」のSIGセッションを行います。

 

また、今年で第3号になる「SIGレポート2017」の会場配布を行いますので、大会参加される方は受付近くのSIGブースへお立ち寄りください(PDF版も公開しました。下記のリンクからダウンロードできますのでご覧ください)。私は「デジタルバッジの研究動向」を執筆しました。SIGセッションでもデジタルバッジについて話しますので、このテーマに関心のある方は是非SIGセッションへお越しください。国内研究の展望を一緒にディスカッションしましょう。

日本教育工学会 SIG-05 ゲーム学習・オープンエデュケーション レポート2017
https://goo.gl/NwFcWa

目次
1章 両分野が交差するテーマ
デジタルバッジの研究動向
2 章 両分野の研究動向
学習ゲームにおけるログデータの利用動向
高等教育におけるゲーム学習の動向
世界におけるオープンエデュケーションの動向:Open Textbook の普及と
Open Pedagogy の提案に着目して
3 章 両分野の実践事例
学習ゲーム制作を題材とした産学連携による教員養成教育の試み
数学的ゲーム・パズル「碁石拾い」を題材とした数学的活動の実践
早稲田大学におけるグローバルMOOC への取り組み
早稲田大学におけるJMOOC の講座への取り組み
4 章 研究リソース集

SIG-05 ゲーム学習・オープンエデュケーション
9月18日(月・祝)14:10~16:10 会場:2 号館 603
コーディネーター:藤本 徹(東京大学),重田 勝介(北海道大学),福山 佑樹(東京大学),池尻 良平(東京大学)
本SIGでは,ゲーム学習とオープンエデュケーションの研究動向や研究リソースをまとめた「SIGレポート2017」発行に向けた調査と執筆を進めてきました.
本セッションでは,全国大会開催に合わせて公開するSIGレポートの内容をベースとして,この分野の研究動向やこれまでに取り組まれた研究を紹介し,今後の研究課題や議論すべき点について検討を行います.

では、全国大会される皆さま、島根でお会いしましょう。

「ジョブスタオンライン」アプリ公開のお知らせ

以前開発中ということでお知らせしました、キャリア学習カードゲームアプリ「ジョブスタオンライン」のiOS版とAndroid版をそれぞれ公開しました。どちらも無料でダウンロードできます。

iOS版(iTunesストア)
https://itunes.apple.com/app/id1228108402

Android版(Google Playストア)
https://play.google.com/store/apps/details?id=com.LudixLab.JobStar

プレイの仕方や楽しみ方についてはまた書きたいと思いますが、キャリア教育の授業やワークショップの場で、ゲームを通して楽しく将来の仕事について考える活動にご利用頂くと本領発揮します。

一人でプレイできますので、ちょっとしたすき間時間に,将来の社会状況で活躍できる新しい仕事を考えるアイデア創出ゲームとしても楽しめます。

Android版は4月には公開準備完了できていたのですが、iOS版は審査がなかなか通らず、何度か修正して再申請しているうちにだいぶ時間が経ってしまいました。チュートリアルなど作り切れずに反省点も多いのですが、ここまでどうにかたどり着きました・・・。

公開して早々に、九州大学の山田政寛先生の「教育基礎学入門」の授業でご利用いただきました(といっても、利用希望のお問い合わせを頂いて、バタバタと急いで実施日に合わせて公開準備を進めて、どうにか実施できたという状況でした・・。山田先生には,実施日の変更などご面倒をおかけしました。ご対応くださりありがとうございました)。

今回のアプリ開発はSwitch・エンタテインメントさんにご担当頂きました。ユーザーテストの実施に手間取ったりしているうちに予定していた開発期間を過ぎてしまい、プログラマの方が確保できない中で修正など無理な対応をお願いすることになってしまいましたが、丁寧にご対応くださり、どうにか公開できました。

これから各所でご利用頂きつつ、プレイ状況など評価していきますが、今度12月にニュージーランドで開催される International Conference on Computers in Education (ICCE 2017) でこのアプリの開発論文として書いた
「JobStar Online: Game-Based Learning on Smartphones to Promote Youth Career Education」
がフルペーパーで採択されましたので、第一弾の研究成果を発表してきます。

 

謝辞:本プロジェクトは公益財団法人中山隼雄科学技術文化財団からの研究助成を頂いて実現しました。重ねて御礼申し上げます。

VR英会話学習アプリ「英語でおもてなしガイド」記者発表会

英会話教室大手のイーオンさんのVR英会話学習アプリ「英語でおもてなしガイド(VR対応)」が7月18日にリリースされ、当日開催された記者発表会に出席してきました。

今回の学習アプリには、VR技術を使って、ゲーミフィケーションの要素を取り入れたいとのことで、VR開発に力を入れておられるゲーム開発会社のポケットクエリーズさんの開発で、私がゲーミフィケーション導入の監修をお引受けしました。アプリの詳細は下記のプレスリリースに記載されています。

【プレスリリース】イーオン初となる本格的VR英会話学習アプリが誕生!
「英語でおもてなしガイド(VR対応)」 2017年7月18日提供開始
http://www.aeonet.co.jp/information/newsrelease/170718.html

さすが大手企業さんの新サービスリリースだけあって、強力なPRチームによる入念な準備のもと、とても行き届いた発表会運営とメディア対応で、テレビ、ラジオ、新聞、雑誌各社が集まってとても賑やかな記者発表会でした。イーオンさんから掲載メディアリストをお送り頂きましたが、数が多くてすべてを追い切れないほどです。以下、ネット上で閲覧できるものからいくつかご紹介します。

テレビ東京系「ゆうがたサテライト」7/18
英会話に社員研修まで “VRレッスン”で教育変わる!?
http://www.tv-tokyo.co.jp/mv/you/news/post_136482/

TBSニュース動画 7/18
http://news.tbs.co.jp/newseye/tbs_newseye3108223.html

日本経済新聞 電子版 :2017/7/18 イーオンがVR英会話学習サービス アプリ提供
http://www.nikkei.com/article/DGXLASDZ18HLX_Y7A710C1000000/

英会話大手のイーオン、VRで現実感ある学習ができるアプリを公開 (Cnet Japan)
https://japan.cnet.com/article/35104368/

VRで英会話学習の理解度を向上、イーオンがアプリ開発(IT Pro)
http://itpro.nikkeibp.co.jp/atcl/news/17/071801925/

英会話のイーオン、VR対応英語学習アプリをリリース(Mogra VR:エキサイトニュース、ガジェット通信、Ed Tech速報、GAME OVERに転載)
http://www.moguravr.com/aeon-vr-english/

出だしとしてはとても好反応で、これからどのような展開になるか楽しみです。

公開セミナー「世界最大の『学び方を学ぶ』コミュニティ作り」を開催しました

昨日6月28日に、東京大学・大学総合教育研究センター公開セミナー 「世界最大の『学び方を学ぶ』コミュニティ作り」を開催しました。

今回は久々に200名規模の公開セミナーを企画から当日の進行まで担当しましたので、無事に終わって安堵しました。思えば福武ホールのラーニングシアターでのイベントは久しぶりで、以前BEATセミナーを担当していた頃からもう4年ほど経っていて懐かしく思えるほどです。

今回のセミナーでは、コーセラで190万人以上の受講者を集めて最も成功したMOOCの事例の一つとして知られる「Learning How to Learn」の講師でミシガン州オークランド大学のバーバラ・オークリー教授にご講演頂き、Q&Aセッションで日頃オンライン教育に携わっておられる教員の方々や、学習者の立場で来られた多様な職業・年齢層の参加者の方々からの質問にお答え頂きました。

講演は、「Learning How to Learn」で扱っている学習法の話や、MOOCで学ぶ意義、MOOCを作ることの可能性など、オンラインコースの作り手にも学び手にも興味深い内容でした。

作り手側の我々にとっては、オークリー教授がこのコースの開発にかけた費用がわずか5000ドルで、自宅のガレージを簡易撮影スタジオ化して、リタイアした夫のフィルさんが一から撮影や編集スキルを学んで制作したものだったということが深く感銘を受けた話でした。

地方大学の普通の大学教員だったオークリー教授が、まるで日曜大工のように材料を揃えて、自宅で夫婦で作った「DIY MOOC」とでも言うような手作りオンラインコースを公開したら、世界中からものすごい反響があり、瞬く間に世界的人気講師になって講演依頼が次々入るようになったという話です。これは大学の組織的な活動の成果というよりは、むしろ人気You Tuberのサクセスストーリーに近い印象です。

何億円も投資してMOOCに参入したのに、受講者が集まらずに撤退した米国の大学の話や、巨額の開発費をかければ質の高いコースが作れるわけではないという指摘もありましたし、世界の有名大学のようなリソースがなくても、コース開発の工夫と、講師の運営へのコミット次第で、世界で勝負できるオンラインコースを提供できるという、MOOC時代の可能性を象徴するような事例です。

実際、「Learning How to Learn」を受講するとわかるのですが、講師自身からのコメントや参考情報が豊富なメルマガが毎週届いて、継続的に学習者をサポートする講師の熱意や、ボランティアとして活動する学習者が学習コミュニティの核となっている様子が伺えます。

我々も東大で今後どういうスタンスでコース開発に取り組むべきかを考える上で、とても参考になる話を聴くことができました。

なお、このセッションの模様は、大学総合教育研究センターが運営する「東大TV」で公開される予定です。

今日が誕生日でした2017

今日で44歳になりました。誕生日のメッセージをくださった皆さま、ありがとうございます。

毎年ブログで年初と誕生日の所感を書くことを何となく続けて来たので、少し前の自分がどんな感じだったか、毎年このタイミングで振り返ったりしていますが、幸いにして、前年の自分が未熟に思える程度には成長して前進している感はあります。日々新しい気づきがあり、難しい壁に直面してどう乗り切ろうかと思案したりと、この年になっても相変わらずチャレンジの毎日が続きます。

個人的な信条として、任されれている役割はきちんと果たして、自分の持ち場を守ることは何とかやってきたつもりですが、そうは言ってもやった方が良いことや期待されることをあれもこれも全部はできないなと、ある程度のところで適当に諦めつつ進んできました。諦めが良すぎるのか、後でもうちょっと頑張っても良かったのではないかと反省することもあり、なかなか丁度良くはいきません。

人間、歳をとるごとに様々な問題を抱えていきますが、全てを期待値高く解決しながら生きていくのは無理な話で、自分の限界や人生の潮目のようなものに向き合いながら、ある程度のところで折り合いをつけて生きていくのだな、というのが中年になってからの教訓です。

ここ数年先を見据えて考えると、現状の延長線上で自分がやれることはかなりやり尽くした感があるので、次のフェイズに向かって、自分がやるべきことをやるための体制作りを進めたいと考えています。

もともとの私の教育工学研究者としてのモチベーションの源泉は、勉強好きの人が作る学びの場に息苦しさを感じる人や、提供される学びの場が通用しない人、学びから阻害されたまま人生を送らざるを得ない人を放置したような現代の教育の断絶状況を改善したいということにあります。それは以前から全く変わってなくて、考えを整理してそぎ落としていけばこの部分がいつもくっきり残ります。

そのような想いを持ちながら、今の職場で担当している業務には自分でも考えるところが多々ありますが、少なくとも優れた教育機会を広く提供することに貢献している点に意義を感じて仕事をしています。

もうこの辺りの年齢で、キャリア的な面で一つのアクセルの踏みどころな感がありますので、そろそろ自分が大事にしたいことに踏み込んでいく方向で時間を使えるようにしたいですし、そのための仕込みをこれまで地道に続けてきたわけで、後は何をやるべきか思案のしどころです。引き続きアウトプットの時間を増やしながら、時間を取って考えないと出せない成果を出せるように前に進みたいと思います。

そんなことをつらつらと考えながら過ごしています。皆さま、今後ともよろしくお付き合いくだされば幸いです。

Educational Technology Researchに論文掲載

先日刊行された日本教育工学会の英文誌「Educational Technology Research」に共著の論文が2本掲載されましたのでお知らせします。

1本目は、SIG「ゲーム学習・オープンエデュケーション」のこれまでの活動成果をもとにしたレビュー論文です。北大の重田先生、東大の福山先生との共著です。

2本目は、以前和文誌に掲載されたSoclaプロジェクトの継続研究論文の翻訳です。プロジェクト終了してからしばらく経ちましたが、早稲田大の高橋薫先生が筆頭著者として粘り強く進めてくださり形になったものです。

どちらもJ-Stageで無料公開されていますのでご覧ください。

Fujimoto, T., Shigeta, K., & Fukuyama, Y. (2016). The Research Trends in Game-Based Learning and Open Education. Educational Technology Research, 39(1), 15–23. https://doi.org/10.15077/etr.41038

Takahashi, K., Fujimoto, T., Araki, J., Takahashi, K., Yachi, M., & Yamauchi, Y. (2016). Assessing a Learning Environment that Uses Facebook to Support High School Students’ Career Learning. Educational Technology Research, 39(1), 65–82. https://doi.org/10.15077/etr.40071