香川県の「ネット・ゲーム依存症対策条例」のパブリック・コメントに意見提出しました

 先日来,香川県の「ネット・ゲーム依存症対策条例」の問題が話題になっています。依存対策の必要性自体を否定するものではありませんが,目的に合致しない内容になっています。地方の条例だと見過ごしてこのような内容で制定されてしまうと,停滞した社会をさらなる停滞に向かわせる矛盾したルールが増えることになります。

 県議会はこの4月に急いで条例を通そうとしているため,何もせずにいるとそのまま通ってしまいかねません。このまま制定されてしまうと,香川県だけの問題ではなく,国民全体にとって他人事ではない重大な問題だと認識しています。このような規制を推進する人たちにはどのような意見を出しても伝わらないのでないかと無力感を覚えるところもありますが,この条例を止めようと活動している方たちのサポートとして,少しでも足しになるように論点を整理しました。

 パブリックコメントを募集しているので見てみると,「意見提出できる方」の「第11条に規定する事業者」というのは,ネットで何らかの事業活動に従事していれば誰もが事業者として意見できる定義になっています。ネット上でオンライン講座や学習アプリを提供している私も遠慮せず,非営利の個人事業者として以下のような内容で意見提出しました。


香川県議会事務局政務調査課 御中

「香川県ネット・ゲーム依存症対策条例(仮称)素案についてパブリック・コメント」への意見提出

 この度の条例案に関するパブリック・コメント募集について,教育分野でデジタルゲーム研究を専門とする大学の研究者として,本条例案には以下に示すような重大な欠陥があり,深刻な悪影響をもたらす内容であると指摘します。依存対策自体の必要性を否定するつもりはありませんが,現状の条例案が向かっている規制の内容は,わかりやすく例えれば,危険薬物を問題視するがあまり,医薬品全般の使用を規制するような誤った方向に向かっています。この内容での条例制定は期待される効果よりも悪影響の方が大きく,香川県にとどまらず,日本全体の家庭教育やネット産業全般に望ましくない影響を与えることが懸念されるため,大幅な見直しをお願いする次第です。

問題点1:定義の不適切さ

 まず,第2条(定義)に記載される下記の定義は不適切であり,対象範囲が無制限に拡大解釈されて,本条例が問題視している範囲外で規制する必要のない事業者まで規制の対象とされる内容となっています。

第2条 この条例において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。 
(1)ネット・ゲーム依存症 ネット・ゲームにのめり込むことにより、日常生活又は社会生活に支障が生じている状態をいう。 
(2)ネット・ゲーム インターネット及びコンピュータゲームをいう。 
(3)オンラインゲーム インターネットなどの通信ネットワークを介して行われるコンピュ ータゲーム

 「ネット・ゲーム」,「オンラインゲーム」という曖昧な記述の仕方では,あたかもゲームと名の付くものであればすべて依存を招くような誤解が生じます。医療従事者がゲームのどのようなところに問題があるか特定できていない段階で一律にゲームとネットの利用時間全体を制限する規制は,国民の日常活動の無用な自粛の助長や,過度な行政の介入を意図したものと受け止められます。
 また,ゲームと一括りに言っても,さまざまなジャンルや用途のゲームがあります。学校や地域で普及している囲碁や将棋などのゲームもネットで提供されています。私たちが研究開発をしている学習ゲームアプリや,ゲームを利用した学習活動についてもこの定義では範囲に含まれてしまいます。これらがどのような観点から規制される必要があるのか理解できません。

問題点2:問題とする事業活動と適用範囲の曖昧さ

第 11 条 インターネットを利用して情報を閲覧(視聴を含む。)に供する事業又はコンピュータゲームのソフトウエアの開発、製造、提供等の事業を行う者は、その事業活動を行うに当たっては、県民のネット・ゲーム依存症の予防等に配慮するとともに、県又は市町が実施する県民のネット・ゲーム依存症対策に協力するものとする。
2 前項の事業者は、その事業活動を行うに当たって、著しく性的感情を刺激し、甚だしく粗暴性を助長し、又は射幸性が高いオンラインゲームの課金システム等により依存症を進行させる等子どもの福祉を阻害するおそれがあるものについて自主的な規制に努めること等により、県民がネット・ゲーム依存症に陥らないために必要な対策を実施するものとする。

 「~等」という表現が無制限に繰り返されているため,この条例を根拠に,無用な規制が広がる根拠となることが懸念されます。実効性がなさそうな表現の裏に,規制の必要のない事業活動までも「自主的な規制」や「必要な対策」の実施のための行政指導が入ろうとする意図が疑われる表現になっています。何が依存症を進行させる原因なのかわからないままにこのような過剰な規制を行うことは,国民生活への過度な介入であり,この条例が目的とする範囲を大きく超えて,通常のネットを利用した健全な活動を阻害する内容になっています。

問題点3:県民の家庭への過度な干渉

第 18 条 保護者は、子どもにスマートフォン等を使用させるに当たっては、子どもの年齢、 各家庭の実情等を考慮の上、その使用に伴う危険性及び過度の使用による弊害等につい て、子どもと話し合い、使用に関するルールづくり及びその見直しを行うものとする。 
2 保護者は、前項の場合においては、子どもが睡眠時間を確保し、規則正しい生活習慣を 身に付けられるよう、子どものネット・ゲーム依存症につながるようなコンピュータゲー ムの利用に当たっては、1日当たりの利用時間が 60 分まで(学校等の休業日にあっては、 90 分まで)の時間を上限とすること及びスマートフォン等の使用に当たっては、義務教育 修了前の子どもについては午後9時までに、それ以外の子どもについては午後 10 時までに 使用をやめることを基準とするとともに、前項のルールを遵守させるよう努めなければな らない。 
3 保護者は、子どもがネット・ゲーム依存症に陥る危険性があると感じた場合には、速やか に、学校等及びネット・ゲーム依存症対策に関連する業務に従事する者等に相談し、子ども がネット・ゲーム依存症にならないよう努めなければならない。

 この第18条の2について,ここに具体的な時間制限を盛り込む必要性が理解できません。適切な利用時間は1の家庭でのルール作りの範囲で決めればよい話であり,条例によって一概に60分や90分で制限することの必要性を認めません。ルールを決めるための目安のような数値を条例で定めるのは,家庭教育への過度な干渉にあたります。このような不適切な基準の条例化は,行政による家庭教育への過干渉を県として容認するものと受け取れます。本来は家庭で決めるべきことを行政に決めてもらおうとする姿勢が横行して,他の家庭問題にも条例制定を求める事態や,家庭への無用な行政介入の助長につながりかねません。

 現代社会において,インターネットは基本的な社会インフラであり,子どもたちの日常の生活行動全般に関わっています。広範な教育コンテンツがネットで提供されており,利便性の高い学習アプリや健全な娯楽活動もすべてネットで提供される形で普及しています。子どもたちは日々ネットを使って学習しており,この規制により,午後9時以降や10時以降の学習時間まで制限することになり,かえって学力低下を招きやすくなります。

問題点4:規制を行う根拠が不十分

 このような社会的影響の大きい条例を制定するうえで,この条例に利害関係のある医療事業者が実施したアンケート調査のみを根拠とするのは不十分です。これまでの学術研究では,このような条例の根拠となる研究結果は出ていません。WHOの障害認定においても世界中の研究者から多くの疑問が提示されています(下記参照)。この条例の定義などの記載内容からも,具体的に依存の要因となるゲームを特定できていないことが明らかであり,検討が不十分なままに特定の関係者の主張に基づいて制定されようとしていることを伺わせる内容になっています。

参考:ゲーム研究者の国際団体「Higher Education Video Game Alliance(HEVGA)」によるWHOのゲーミング障害指定への反論抄訳:https://anotherway.jp/archives/hevga-who-translation-jp.html

 以上のような問題点により,次のような社会への悪影響につながることが想定されます。

  • 悪影響1:関連産業の成長阻害
  • 悪影響2:拡大解釈により悪法化する
  • 悪影響3:先例として意図せぬ形で悪用される
  • 悪影響4:香川県のイメージ低下と差別の発生
  • 悪影響5:過剰な不安を煽って,問題ない家庭まで問題を広げる

悪影響1:関連産業の成長阻害

 ネット利用時間の制限は,電子書籍を利用した読書や学習アプリの利用も含め,子どものネットを利用した日常活動を制限し,子ども向けに有用なコンテンツを提供する事業者の経済活動の停滞につながります。60分や90分の利用時間では,将来のデジタル社会に生きる子どもたちが必要とするデジタル活動のための能力開発機会の喪失となります。ゲーム事業者の役割として,子どもの成長につながる遊びを提供している側面があり,ゲーム事業者の社会に有益な側面も否定しようとしています。

悪影響2:拡大解釈により悪法化する

 このように適用範囲が不明確な規制や自主的な協力要請を行うことで,この条例を拡大解釈して,不当な要請や必要のない自粛を促すことにつながります。たとえ県の行政がそのような意向を持っていないとしても,この条例からはそれが読み取れません。定義の曖昧さを逆手にとって,悪意を持った主体が果てしなく行政の介入を働きかけて県民の自由を制限できるため,この内容で条例を通してしまうことで,香川県は逆に将来の地域振興を阻害する問題の種を抱えることになります。

悪影響3:先例として意図せぬ形で悪用される

 上記と同様に,この条例が先例化してしまうことで,他の自治体や国でも同様の働きかけをし易くなり,国民の自由な活動に無用な制限を加えることにつながります。現在ゲーム依存対策を推進されている医療従事者の意図とは関係なく,ゲーム障害を利権化させようとする悪意を持った主体が入り込んで悪用されやすい内容になっているため,そうした悪用を防ぐためにも適切な範囲での条例化を目指して慎重に検討すべきです。

悪影響4:香川県のイメージ低下と差別の発生

 このような条例で誤った形で子どものネット利用を制限することで,香川県の情報産業推進のイメージは低下し,これまでの産業振興策への投資に負の影響をもたらすでしょう。さらに,香川県で育つ子どもたちが情報化後進県出身者のような差別を受けやすくなることが懸念されます。以前,文科省のゆとり教育の失策によって,特定の世代が「ゆとり世代」と不当に揶揄され,長年にわたり偏見や差別を受けているような状況がありますが,この条例によって香川県民に対する偏見や差別を助長するような状況が生じやすくなります。

悪影響5:過剰な不安を煽って,問題ない家庭まで問題を広げる

 この条例の内容では,ゲーム全般を不安視する風潮を助長し,問題のない家庭の保護者の不安を煽ることで,かえって子どもへの親の過干渉による家庭環境の悪化を引き起こし,ゲームにのめりこむ子どもを増やすことも想定されます。ゲーム依存に対処する医療従事者の主張は,ゲーム依存者の周囲で生じている問題の要因をすべてゲームに押し付けているところが散見され,問題点を整理が不十分なままでゲーム規制を推進しているところがあります。 また,たとえ条例制定推進者が善意で取り組んでいるとしても,この条例案は,悪意を持ってゲーム依存の不安を煽り利得を得ようとする事業者の参入を後押しする内容になっています。現状では,依存者の社会環境や家庭環境にある他の要因以上にゲームが問題であるとは断定できない段階であり,より詳細な調査を行ったうえで条例の検討を行うべきです。

 以上のような問題を含んだまま,誤った方向で規制をかけても,条例が目指す問題の解決にはつながらず,むしろ関連産業の停滞や無用な行政介入への社会的批判,人材流出,不必要な社会保障費の増大を招き,困窮する地方経済をさらに厳しい状況に追い込む方向に作用することが懸念されます。

 ここで指摘したような問題点を残した条例案は大幅に見直すべきであり,このまま議会で採択されれば,香川県の停滞を招く失策であったと批判される事態を招くでしょう。そのようなことは誰も望んでいないと思います。このような条例案は県民のためにはならず,条例制定を推進する方々が意図しない形で日本国全体に深刻な悪影響を及ぼすことになることを危惧しますので,このような形でご意見申し上げる次第です。

香川県行政担当者,議員各位におかれましては,本条例案についての慎重な検討を,重ねてお願い申し上げます。

2020年1月29日
藤本 徹

2019年の振り返り

今年も振り返りのブログを書く年の瀬となりました。今年は所属組織の改組や異動など忙しなくイベントが続き,組織人として大きな変化を経た一年でした。無事に改組はひと山越えて,ここ何年か荒れて具合の悪かった組織の状態は改善に向かっています。年初の自分の状態を振り返れば,組織の事情から生じるさまざまなナンセンスに長いこと付き合いすぎて,だいぶ消耗していたのだなと思います。今年の後半は,専任の教員として研究を本務として活動できるようになり,調子も少しずつ戻ってきましたが,移籍先の組織でもさらにこじれた組織の問題に心を痛めつつ年末を迎えました。

個人的な出来事として,2週間ほど前に地元の高校時代の友人が癌で亡くなりました。高校で一緒にバンドを組んでいた仲間で,上京後も別の大学でしたが一緒にバンドを続けていて,彼はほどなく病気で地元に戻ることになりましたが,帰省すれば訪ねる数少ない地元の友人でした。もう長くないと連絡があり,年末の帰省を早めて11月末に帰省して,見舞いに行きました。家業をたたんで店を引き払うところだったので,見舞いついでに荷物の片付けを手伝ってきました。高校時代に入り浸って遊んだ彼の部屋の懐かしい荷物を片付けながら,生きていくことの大変さについて考えさせられました。そのような時間を経て,我々中年世代より上はともかくとして,もっと若い世代や彼の遺した子どもたちが生きづらくない社会にできるように貢献していきたいと思います。

今年の活動については,だいぶ研究の時間を増やせたこともあり,徐々に好転しています。論文を読む時間も以前よりも増えて,レビュー論文を書きながら,最近の研究を少しキャッチアップできました。何年もフォローできてなかった間にだいぶ研究が進展していて,とてもフォローしきれないような状態になっているので,とにかく自分の手持ちのネタでやれることをやってみてどこまでいけるかというところです。研究のアウトプットは,自分がファーストの論文は1本,あとは共著論文と国際会議発表が数本で,ここ数年のペースとさほど変わらずといったところでした。今の調子で進めても,年3本程度手がけて,順番に1本ずつ形になる程度にとどまりそうな感じが見えているので,今後は少しやり方自体を変えてみようかと考えています。

気がつけば,留学から帰ってきて10年経ちました。これまでの自分のその時々の選択が今の自分に至っているのだなと思うと,良くも悪くも感慨深くもあり,そう考えると,この先10年はどうなっているだろうかと楽しみでもあります。

今年もお世話になりました。皆さま良いお年をお迎えください。

MOOC「学びのゲーミフィケーション」gaccoで受講登録開始!

連日リリースのお知らせが続きますが,今度は藤本が講師を担当するMOOC開講のお知らせです。教育にゲーミフィケーションを取り入れるための知識を実践的に学べるオンライン講座「学びのゲーミフィケーション:ゲームフルな学習デザイン方法論」を「gacco(ガッコ)」で1月8日(水)開講します。本日12月3日から募集ページを公開して,受講登録開始しました!

この講座では,教育にゲーミフィケーションを取り入れるためのゲームデザインの概要や事例を学んで,実際にゲーム教材やゲーム要素を取り入れた学習活動の計画を立てるための基本的な知識を身に付ける内容です。

構成は,レベル1から4までの全4回で,毎回ミニレクチャー数本の視聴とミニワーク,教育現場のさまざまな問題状況でのゲーミフィケーションデザインのクエスト課題(ゲーミフィケーションデザイン演習の相互評価レポート)に取り組む内容で,実践的な知識を学べるようになっています。

講座の構成:
レベル1:ゲームと学びの接点に目を向ける 
レベル2:学習活動のゲーミフィケーション 
レベル3:教育システムのゲーミフィケーション 
レベル4:ファイナルチャレンジ(総合演習) 

前回5月にこの講座のプロトタイプ版「教育のゲーミフィケーション」を東大の運営するedX edgeで独自配信した際には,私一人でほぼワンオペMOOC状態で運営したのでかなり大変でしたが,今回は前回の修了者の皆さんがTAやコミュニティTAとして運営を手伝ってくださるので,とてもありがたいです(ガイド役のイワタニさんも前回より出番が増えて活躍してます)。 このテーマに関心のある方はどなたでも無料で受講できますので,どうぞご登録ください!

English Academia 3 本日開講!

私が東京大学の大学総合教育研究センターで担当している「PAGE(Professional and Global Educators’ Community)」プロジェクトが提供している,英語で教えるスキルを学ぶオンラインコース「English Academia」の新規コース「English Academia 3」が本日開講しました(祝!祝!)。

English Academiaは,現在は立教大学で活躍されている中原淳先生が東大時代に立ち上げたプロジェクトで,中原先生が移籍された際に私が引き継いで担当しています。最初のコース開講から2年以上になり、登録者数は2万2千人を超えて,多くの受講者の方々にご利用頂いています。今回のコース開講のために,長期にわたってPAGEプロジェクトのスタッフたちが尽力してくれました(ひとまずここまでおつかれさまでした!)。

今回開講したEA3は、English medium instruction(EMI:英語での専門科目教育)に焦点を当てています。EMI研究の第一人者である,エディンバラ大学のニコラ・ギャロウェイ先生を講師に,動画やクイズ,ディスカッション,エッセイ課題を通して,EMIが求められる背景や利点・課題を学ぶことができます。全11モジュールで,1モジュールあたりの学習時間は約30-40分で,忙しい方でもスキマ時間を活用してマイペースに学べるというEA1,EA2の形式をEA3も踏襲しています。

EA3の構成:
Module 1 Introduction
Module 2 What is EMI?
Module 3 Where is EMI conducted?
Module 4 Why is EMI conducted?
Module 5 How is EMI conducted?
Module 6 Teachers
Module 7 Students
Module 8 Administrators and Universities
Module 9 Policymakers
Module 10 Conclusion
Module 11 Final assignment

このテーマに関心のある方はどなたでも無料で受講できます。英語で自分の専門分野を教える必要性に迫られている方,英語で教えるスキルを向上させたい方にはとても役立つ内容を提供していますので,どうぞご登録ください!

音楽ゲーム「Rocksmith」でギターが弾けるようになる学習環境

ここしばらく,いくつかのプロジェクトでリリース前の追い込みが重なりつつ,所属部局のあれこれの対応もあってだいぶ立て込んでいますが,その合間を縫って新たなプロジェクトを進めています。

藤本研究室の研究テーマの一つ「遊びの中の学び研究」の新規プロジェクトとして,音楽ゲーム「Rocksmith」を使ってギターが弾けるようになる学習環境の事例研究をしています。先日は「Rocksmith」だけで高度なギター演奏スキルを身につけたことで知られる,Audrey & Kate姉妹の志田さん一家を訪問してきました。

私の講演などで以前からたびたび紹介していましたし,テレビ番組にもちょくちょく出演されているので,この分野の研究に関心のある方はご記憶にあるかもしれません。志田さん一家が運営している「audrey123talks」のYouTubeチャンネルは,登録者数27万人超,最近はライブ配信もよく行なっていて,音楽系YouTuberとして活発に活動しています。Rocksmithを開発したUbisoftの主催ライブやYouTube番組に招待されて姉妹で演奏したり,Rocksmithコミュニティでは知らない人はいない著名Rocksmithプレイヤー姉妹です。

Ubisoftのライブ番組でDreamtheaterやDragonforceを披露する二人の様子

オードリーさんは,8歳からRocksmithをプレイし始めて,もう16歳。お姉さんが演奏する横で遊んでいた妹のケイトさんも,だんだんと一緒にギターやベースを弾くようになり,まだ10歳ですが,ケイトさんの方が幼い頃からこの環境で育っている分,上達も早い様子です。

今回の訪問では,これまでの活動を振り返ってその時々の様子について語っていただきつつ,ご両親の教育方針や地域の学校教育との関係の話,YouTubeやTwitchでのファンとの交流の話など,様々な側面から話を伺うことができました(訪問の様子をオードリーさんがブログに書いてくれてます。「ねこあつめ」を紹介する東大の講師さん・・・笑)。どんな環境で活動しているかを楽しく拝見しつつ,姉妹の演奏するドリームシアターの「メトロポリスパート1」とRushの「YYZ」を生で観せてもらいました。オードリーさんは普通に弾くだけでは飽き足らず,左利き用で弾いたり,足でベースを弾きながら普通にスコア95%以上で弾きこなし(もはや曲芸の域),ケイトさんのベースはRushのYYZを普通に弾けるほどの腕前(指引きがカッコいい)。最近はオリジナル曲を作曲して音楽ビデオも自分たちで制作していたり,制作したオリジナル曲がRocksmithのダウンロードコンテンツ化されたりと,既にRocksmithのプレイヤーだけにとどまらない音楽活動を展開しています。

普通にRocksmithを子どもたちに買い与えただけではここまでのレベルになることはまず無いので,なぜ志田姉妹がここまで上達したのか,どのような支援環境や関係性の中で継続してきたかを学習環境的な観点から探る事例研究です。YouTube上にその成長の過程が掲載されていることも貴重ですが,今回お話を伺ったことでとても多くの興味深い知見を得ることができました(志田家の皆さんに大変感謝しています)。多分このような研究は私しかやらないだろうというニッチな題材ですが,そういうテーマだからこそやりがいがあります。これから資料整理やデータ分析を進めて,成果発表したいと思います。

情報学環・学際情報学府に移籍しました/冬季入試説明会のお知らせ

この10月1日付で、これまで所属していた東京大学 大学総合教育研究センター から、大学院情報学環・学際情報学府 に所属が変わりましたのでご報告します。4月からは大総センター本務で情報学環兼任だったのですが、今後は情報学環が本務で、大総センターを兼任することとなりました。これまで出向していた組織に転籍して、出向元の組織にも出向扱いで残るような形です。

居室もこれまでと同じで、両方の組織の仕事をすることになるため表向きにはさほど変わりはないのですが、今回の異動により、私の本務は教育研究を主とする教員として東大に在籍することとなり、これまで主として行っていた教育支援関連の業務が副となりますので、その点は大きな変化です。

同じくこの10月1日で大総センターの組織改組があって内部的な体制が大きく変わりましたので、センターの方の仕事もまだ多いのですが、今後は情報学環で立ち上げる藤本研究室でフルに活動できるので、気持ちも新たに仕事に励んでいるところです。


次に、研究室の活動に関連したお知らせです。学際情報学府の来年度入学の夏季入試が8月下旬に行われて、初めて入試業務に関わったばかりですが、もう冬季入試の準備が始まりました。今度は10月19日に私の所属する文化・人間情報学コースの入試説明会が開催されます。入学を検討されている方は説明会もどうぞご参加ください。

文化・人間情報学コース冬季入試説明会のお知らせ(10月19日(土)12:15-13:30)

入試説明会では会場で個別にお話しできる時間があるのでまず説明会に来て頂くのが確実ですが、日程が合わない方についても可能な限り面談の時間を確保していますのでご希望ありましたらご連絡ください(出願受付開始以降は対応できなくなりますのでお早めに)。


今回の移籍に伴い、今は良いことよりも苦労の方が多い感じで、たとえば獲得した科研費などの外部資金の管理や出張申請などの事務手続きをこれまでのスタッフに頼めなくなり、研究室の事務体制を整備しなおす必要が生じました。落ち着くまでは事務対応も増えて、むしろ研究時間は大幅減になっているのが悩ましいところです。

とはいえ、これからゲーム学習研究の拠点として活動を充実させられるように、良い研究体制を整備していこうと思いますので、引き続きご支援のほどよろしくお願いいたします。

近況などのお知らせ

気がつくともうすぐ9月ですね。お盆休みは溜まっていた査読を済ませたり、やろうと思っていて進んでいなかったデータ集計をしたり、夏休みの宿題のようなことをしているうちに過ぎて行きました。

大学での本務が変わったため、これまで担当していた日々の運営業務的な仕事は減ったのですが、その分大学院の入試など新たにやることが増えて、忙しさはさして変わらずというところです。

まず、直近のいくつか登壇や研究発表の予定などお知らせします。

1.ゲーミファイネットワーク第7回勉強会(8/29)
8月29日に開催される日本デジタルゲーム学会ゲーム教育SIG主催の勉強会で「教育分野のゲーミフィケーション研究の現在」というテーマでお話しします。

日時 8月29日(木)19:30~21:30(20:30~懇親会)
会場 ヴァル研究所(JR高円寺駅 北口から徒歩約3分)https://www.val.co.jp/company/access/
主催: 日本デジタルゲーム学会ゲーム教育SIG 参加申込:
https://peatix.com/event/1098399

2.日本教育工学会 2019年秋季全国大会(9/7-8)
今年のJSET全国大会は9月7-8日に名古屋で開催されます。5-6月に実施したオンラインコース「教育のゲーミフィケーション」の結果についてポスター発表しますので、参加される方はお立ち寄りください。

ゲーミフィケーションを取り入れた大規模公開オンライン講座(MOOC)の設計と開発
藤本 徹,荒 優,山内 祐平(東京大学) 9月8日(日) 12:30〜13:40 
会場:2F(2階会議室224) http://www.jset.gr.jp/taikai35/

3.朝日教育会議:東京工芸大学「ゲームが社会を解決する Game as Solutions」(9/21)
津田大介さん、東大の廣瀬通孝先生、東京工芸大学の岩谷徹先生の講演の後のパネルディスカッションでパネリストとして登壇します。東京工芸大学の遠藤雅伸先生も入られて、私以外は大変豪華メンバーのパネルで「世界はゲームで満ちてくる」をテーマに議論します。

日時:9/21(土) 13:00~16:00
会場:イイノホール(東京・霞が関)
詳細・参加申込: http://manabu.asahi.com/aef2019/tokyokougei.html


<最近の活動報告>
最近書いた論文のうち、JSETの特集号に投稿していたレビュー論文が採録されました。もう少ししたらオンライン公開されます。

藤本徹, 荒優, 山内祐平 (in press) 大規模公開オンライン講座(MOOC)へのゲーミフィケーション導入に関する研究の動向. 日本教育工学会誌 43(3).

少し前ですが、海外の研究者と共同執筆で最近の教育工学政策の比較研究をした論文がTechTrendsに掲載されました。こちらはオンライン公開されています。

Mao, J., Ifenthaler, D., Fujimoto, T., Garavaglia, and A., Rossi, P. G. (2019) National Policies and Educational Technology: a Synopsis of Trends and Perspectives from Five Countries. TechTrends. 63(3): 284-293. doi:10.1007/s11528-019-00396-0
論文PDF: https://rdcu.be/byQFj

あとは研究発表やパネル登壇などさかのぼってご報告します。先日、立命館大学で開催されたDiGRA International Conferenceで3件の発表をしました。

Fujimoto, T., Ikejiri, R., and Fukuyama, Y. (2019) Bridging Meaningful Play and Playful Learning – Supporting the Design Process of Gamification in Education. Proceedings of the 2019 DiGRA International Conference. Ritsumeikan University, Kyoto, Japan.

Fujimoto, T. (2019) The design and development process of an online course to support gamification design. the 2019 DiGRA International Conference Workshop. Ritsumeikan University, Kyoto, Japan. 18-19. Aug. 6, 2019.

SAKAI, H. and Fujimoto, T (2019) The Effects of Mental Health Education Games and Their Effects on the Prevention of Employee Stress. the 2019 DiGRA International Conference Workshop. Ritsumeikan University, Kyoto, Japan. 28-31. Aug. 6, 2019.

8月2日にCANVASさん主催で開催されたポケモンPRイベント「夏休み、子どもとデジタルゲームの上手な付き合い方」にパネルディスカッションに登壇しました。いくつもメディアの取材が入って、多くのメディアで記事掲載して頂きましたので一部ご紹介します。
https://resemom.jp/article/2019/08/19/52011.html
https://dual.nikkei.com/atcl/column/17/101200003/081300295/
https://news.mynavi.jp/article/20190806872467/
https://www.sankeibiz.jp/business/news/190809/prl1908091513115-n1.htm
https://www.4gamer.net/games/999/G999905/20190802127/

7月には日本イーラーニングコンソシアム主催のセミナーで、最近のゲーミフィケーション研究の動向についてお話しさせて頂きました。

藤本徹 (2019) 教育分野のゲーミフィケーション研究の現在. 日本イーラーニングコンソシアム月例カンファレンス. 日経BP社. 2019年7月22日

6月には北海道大学人材育成本部の吉原拓也先生が担当されている大学院生向け科目「キャリアマネジメントセミナー」で「発想法: 研究と社会をつなぐ創発思考」というテーマでゲスト講義させて頂きました。

藤本徹 (2019) 発想法: 研究と社会をつなぐ創発思考. 北海道大学キャリアマネジメントセミナーゲスト講義. 北海道大学. 2019年6月24日

今年度後半は、研究の一環でオンラインコースの配信やゲーミフィケーション教材を使った授業やワークショップの機会を増やしていく予定です。ワークショップやゲーム学習を導入したい授業への出張も、都合がつく限りご希望にお応えして行きたいと思います。ご興味ございましたらご一報ください。

藤本の研究指導をご希望の方へ

私が兼担教員として所属する東京大学大学院 学際情報学府文人コースの入試説明会が今週土曜に開催されます。開催日が近付いてきましたのでお知らせします。

来年度入学生より、私の研究室で大学院生を毎年2名程度受け入れて研究指導できますので、大学院進学にご関心のある方は入試説明会にご参加ください(大学院生として私の研究指導を受けるためには、まず大学院入試を通過する必要があります)。

この日は午前中に文人コースの入試説明会があり、午後に学府全体の入試説明会があります。午前の説明会後の懇談の時間と、午後の各研究室ブース展示と研究紹介コーナーの時間に教員と個別にお話しできる時間が設定されていますので、お越し頂ければ研究テーマなどの個別の質問にお応えできます。


東京大学大学院 学際情報学府・文人コース入試説明会

文人コース(文化・人間情報学コース)夏季入試説明会
日時:2019年6月8日(土)10:00-12:00
場所:東京大学本郷キャンパス・情報学環福武ホール地下2階ラーニングシアター
http://bit.ly/2KqNRmD

学際情報学府入試説明会
日時:2019年6月8日(土)13:30-16:30
場所:東京大学本郷キャンパス・情報学環福武ホール地下2階ラーニングシアター
http://bit.ly/2WnCi6Y

藤本 徹の教員プロフィール
http://www.iii.u-tokyo.ac.jp/faculty/fujimoto_toru

今年の誕生日の近況

今日で46歳になりました。メッセージくださった皆さまありがとうございます。誕生日を迎えたタイミングは、終電近い空いた電車の中で、Opethを聴きながらインスタでよその家のネコがごめん寝している画像をたくさんみて癒されていました(#ごめん寝とか#ネコをフォローしてるせい)。

今月はもっぱら、オンラインコース「教育のゲーミフィケーション」の開発と運営に研究時間を全投入していて、コース運営は最後の山場に差し掛かっています。連休を全投入してコンテンツ制作を終えるつもりで臨んだのですが、大学の業務もなかなか重い仕事が続いていることもあって予定通りには全く収束できずに結局、各週の公開予定日の前日に何とかセットアップを終えるというペースで進行しています。取り入れたいアイデアのうち実装できなかったものも多く、だいぶ絞り込んでようやくコースとして落ち着きました。

このコースは、個人的に10年前に博論研究のコンテンツ開発をしていた時に実現できなかったことや、その後非常勤で「シリアスゲーム論」の授業を担当した時に開発したクエスト学習の手法の未完成だった部分を改良できた感はあるので良かったです。一方で、今の自分のやり方でのベストはここまでかなという限界も感じつつ、自分の仕事の型のようなものを見直す必要性を再認識しました。やっているうちに次のテーマも見えてきたので、無理しただけの成果はありました。受講してくださっている皆さまに感謝しつつ、まずはとにかくこのコースの研究を一区切りさせて、落ち着く時間を取って先のことを考えようと思いつつ、今日の残りの数時間を過ごしています。

その他の近況や面白い話はまた機会を改めて。引き続きよろしくお願いいたします。

オンラインコース「教育のゲーミフィケーション」受講者募集のお知らせ

昨年度から時間をかけて準備していた公開オンラインコース「教育のゲーミフィケーション:プレイフル/ゲームフルな学習デザイン方法論」の受講者募集を開始しました。

このコースでは、教育にゲーミフィケーションを取り入れるためのゲームデザインの概要や事例を学び、ゲームを教育に取り入れる方法や、実際にゲーム教材やゲーム要素を取り入れた学習活動の計画を立てるための基本的な知識を身に付けることができます。

毎回の講義ビデオの視聴と、教育現場のさまざまな問題状況でゲーミフィケーションデザインのクエスト課題に取り組む内容で、実践的な知識を学べるように構成しています。修了基準をクリアした方へコース修了証を発行します。

あまり勉強っぽくなく楽しんで学べるように、通常のMOOCとは異なる仕掛けを用意しました。このテーマに関心のある方は経験の有無に関わらず、どなたでも無料で受講できます。受講ご希望の方は、下記の受講登録フォームからお申し込みください。

【↓受講登録はこちらのフォームから↓】
https://forms.gle/eoSiDF9vyd8J6kX57

このコースで学べること:
このコースを受講することで、次のようなことを学べます。
* 教育技法や学習理論についての基礎的な知識
* 学びの場のデザイン方法についての基礎的な知識
* ゲームやゲームデザインについての基礎的な知識
* ゲームと学びの接点に目を向ける考え方
* 教育分野のゲーミフィケーションの事例やデザイン方法
* 教育分野のゲーミフィケーションの実践方法

コースアウトライン:
レベル1:ゲームと学びの接点に目を向ける
レベル2:教室のゲーミフィケーション
レベル3:学校のゲーミフィケーション
レベル4:ファイナルチャレンジ(総合演習)

受講に要する時間:
標準的な学習時間として週2-3時間を想定していますが、経験や知識の差によって必要時間は異なるところがあります。

受講に必要な環境:
このコースは、MOOCプラットフォームのedX edge(エデックス・エッジ)で配信します。ネットに繋がったパソコンまたはスマートフォンのブラウザ環境があれば受講できます。
開講期間:2019年5月10日から開講(全4回)
受講登録締切:5月7日(火)
※受講に関する詳細は、登録締切後にご連絡します。
主な対象者(受講をお勧めしたい方):
ゲームやゲーミフィケーションの手法を導入したい教育者、教材開発者、教育の場でゲームデザインの経験を生かしたいゲーム開発者。教育経験やゲーム開発経験があると理解が進みますが、前提知識がなくても受講できます。

受講料:無料です!

受講方法:
東京大学が提供するコースページ上で学習します(受講方法の詳細は、コースページ公開後にご登録頂いたメールアドレスにお送りします)。

講師:藤本 徹(東京大学 大学総合教育研究センター 講師)

このコースについて:
このコースは、東京大学の研究者グループ(研究プロジェクト責任者:藤本 徹)がオンラインコースの学習効果に関する研究のために提供するものです(2017年度JSPS 科研費17H00824(研究代表者:山内祐平)、2018年度JSPS科研費18K02855(研究代表者:藤本徹)の助成を受けて実施しています)。
授業で収集された学習履歴データは、個人情報が特定されない形で慎重に取り扱い、論文や研究発表などのための研究用途で統計的に処理して使用します。授業への参加は研究データの提供に同意されたこととして取り扱います。
【↓受講登録はこちらのフォームから↓】
https://forms.gle/eoSiDF9vyd8J6kX57