ドナルド・トランプの弟子の座を競うリアリティショー「アプレンティス」(NBC)も先日4シーズン目が終わった。それに今シーズンは、監獄から出てきたばかりのマーサ・スチュワート版アプレンティスも初登場して、同じく成功裏に終了した。このアプレンティスは、数あるコンテスト形式のリアリティショーの中でも他にはない圧倒的な強さを持っている。それはこの番組自体が壮大な「インフォマーシャル」として機能していることで、スポンサーや仕掛ける側の満足度は、他の番組に比べて群を抜いて高いことが見てとれる。
番組のフォーマットは、挑戦者が二チームに分かれて毎週異なる課題に挑み、負けたチームのうちで敗因となったメンバーが一人ずつ脱落していって、最後に残った一人がドナルドやマーサに雇われる、というもので、この点はさほど他のコンテスト形式のリアリティショーと大差ない。大きく違うところは、挑戦者が取り組む課題の仕掛け方である。毎回、その週のメインスポンサーにちなんだ課題が課される。たとえば、大手電気スーパーのベストバイ店頭での新作ゲームのショーケース展示制作、ペプシの新製品ボトルのデザイン、M&Mの新発売チョコの街頭プロモーション、ピザハットの移動店舗営業、などである。また、非営利財団のチャリティオークション企画のようなものもあれば、トランプの新事業のプロモーションや、所有不動産のリノベーション、マーサの会社の出版企画のような自前企画も入ってくる。いずれの課題においても、番組中でそのスポンサー名や商品が露出し続け、CMも番組中で出てくる商品のCMを流すので、番組からの流れでCMへの視聴者の関心も高まる。このように他番組に比べて、広告への投資対効果の非常に高い番組となっている。なので、広告枠販売もやりやすいはずで、しかも番組内で使用するリソースもスポンサーから確保できる。
この広告効果を一番象徴的に現していたのが、マーサ版の最終回である。勝利した女性は、年収2000万円以上のエグゼクティブ待遇で雇われ、オファーされた仕事は、「ボディ&ソウル」というマーサの会社の健康系雑誌のビジネスである。この雑誌の露出はほんの数秒だったが、どんな広告媒体にコストをかけるよりもはるかに効果的な形でプロモーションすることに成功した。この雑誌の存在は全米に知れ渡り、アプレンティスで勝った彼女が手がけるということで、普段この雑誌を手にしない人も店頭で手にとって見させるだけのプレゼンスも得ることができた。ドナルドとマーサが喜々としてこの番組を引き受けているのは、自社と自身のプロモーションに大いに貢献しているためであることは間違いない。
単に面白おかしい番組を作るという発想ではこの番組のような仕掛けは作れない。プロデューサー、あるいは日本で言うところの放送作家たちの仕事の組み方が違う。スポンサーや関係者の満足度を高めつつ、視聴者をひきつける番組作りを行なう発想で企画している。単に人々を金で釣るのでなく、ドナルドやマーサを客寄せとして使うのでなく、過剰な演出に頼るのでなく、関わる人たちのお互いの利害の一致するところをうまく企画に落とし込んで番組化している。まさに、プロデューサーの仕事とはこういうものだ、というお手本を示しているような番組である。
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ボストン・リーガル
今日は大雪で仕事を切りあげて早く帰ってきて、少し予定外に時間ができたので、しばらく書いてなかったテレビネタをまとめて。
今定期的に観てるのは、弁護士ドラマ「プラクティス」の続編の「ボストンリーガル」(ABC)、マーサ・スチュワート版「アプレンティス」、元祖ドナルド・トランプ版の「アプレンティス」、フレンズのジョーイがスピンオフした「ジョーイ」、次期大統領戦で盛り上がる「ウェストウィング(ザ・ホワイトハウス)」(以上、NBC)といったところ。あとこの間第一シーズンが終わった刑務所脱走もの「プリズンブレーク」(FOX)も観てた。
当初「ボストンリーガル」は、前シリーズ「プラクティス」の番外編的な雰囲気で始まったが、今は完全に独自のカラーが定着した感じ。「プラクティス」の頃は弱小弁護士事務所を舞台に、アメリカの法廷の矛盾や葛藤をシリアス路線で描いていて、そんなに派手でない俳優たちがいい味を出しているのが売りだった。一方の「ボストンリーガル」では、前シリーズの後半に出てきたジェームズ・スペイダーが事務所をクビになって就職した大手弁護士事務所に舞台を移し、アメリカの政治システムや社会システムの問題点を軽妙なタッチで皮肉を込めて描いている。
ジェームズ・スペイダーと、彼の働くファームのシニアパートナー役のウィリアム・シャトナーの絡みが出色で、中高年の男同士の友情もストーリーのフックとなるテーマとして扱われている。出てくる俳優はみんな花があり、コメディタッチで展開するので全体的に華やかである。スペイダーとシャトナーのゆかいなやり取りをシチュエーションコメディを観るように楽しみながら、しかも法廷ものの醍醐味である法廷シーンも毎回きっちりおさえてあるシナリオと演出はさすがといったところで、作品のでき自体すでに前シリーズを凌いでいると思う。
「プラクティス」でもタバコ訴訟など社会問題が扱われていたが、今回もイラク戦争や宗教、銃規制、弁護士の倫理問題などをメッセージとして送り続けている。小ファームから大ファームに舞台を移すことで扱う案件が大きくなって、扱うテーマも変わるというのはうまい移行の仕方だと思った。いい作り手というのは、作ってるうちに次のテーマを見つけて、今の作品をフェードアウトさせながらうまく次の作品に展開させることができるんだなと感心させられる。そのおかげで、前のファンもうまく引っ張ってこれるので、余計なマーケティングの手間がいらない。アメリカのテレビ業界の持つノウハウの高さを示す一例である。
「ウェストウィング」についても書こうと思ったけど、長くなったのでまた次回。いずれもおすすめ。
奨学金獲得のリアリティショー
あともう一つリアリティショーネタ。「The Scholar」(ABC系)は、大学に行くてもお金がない高校生の奨学金争奪リアリティショーである。南カリフォルニア大学を会場に、10人の高校3年生が挑戦者となり、毎週、二組に分かれてグループチャレンジでパフォーマンスのよい3人が選ばれて対戦クイズ形式の試験に進み、最後まで残った一人がウォルマート財団提供の5万ドルの奨学金を手にする。それを5週間やって、5人が選ばれ、最終選考面接を経てただ一人だけ手にできる、24万ドルのブロード財団の奨学金を目指す、という内容である。
弁護士のリアリティショー
最近TVでは、リアリティショーラッシュでいろんなのをやっているが、また今週から新たにThe Law Firm (NBC系)というのが始まった。これは名前の通り、弁護士もののリアリティショーで、12人の若手弁護士が、有名弁護士のロイ・ブラックのもと、賞金25万ドル獲得とロイに有能であると認められることを目指して、毎週本物のケースで裁判で争い、ダメな人が脱落していくという形式のTV番組である。プロデューサーは「ザ・プラクティス」「シカゴホープ」「ボストンリーガル」で評判の高いデビッド・E・ケリーである。
料理人修行のリアリティショー
今テレビ番組はシーズンの谷間で24とかアメリカンアイドルとかThe Apprenticeとかの人気番組はお休み中で、短めのシリーズや、目先の変わった番組をやっている。その中で二つ気に入って楽しく見ているのがあって、そのうちの一つが料理人修行のリアリティショー「ヘルズキッチン」(Fox系列)だ。イギリス人スターシェフのゴードン・ラムジーがアメリカでレストランを開業するために、その店を任せる弟子を12人のコンテスタントの中から一人選ぶという設定で、毎週チャレンジしながら一人ずつ脱落していく。番組の構成的には、ドナルドトランプのThe Apprenticeが一番近い感じで、それと違うところは、トランプはお題を与えたら最後に出てきて結果を判断するだけだが、こちらはラムジーが張り付いてガミガミ言いながらコンテスタントたちを鍛え上げるところ。この部分のテンションが番組としての面白さを増している。The Apprenticeでドナルドトランプとその部下がそうだったように、ラムジーと彼のスタッフのキャラクターが生きている。その道のプロというのは魅力があって、それに加えてテレビ映えするキャラはテレビにとって魅力的なリソースとなっている。
ヒストリーチャンネル
遅めの晩飯を食べてて、いいテレビをやってないので久々にヒストリーチャンネルを見てみたら、「Modern Marvels(現代の驚異)」で、」日本のロケット技術の始まりの話をやっていた。日本産ロケットの父である糸川英夫博士が紹介され、糸川博士が第二次大戦期に設計した戦闘機の話、そこから日本が大戦末期に開発していたジェット戦闘機、オートジャイロの話に展開して、戦後のロケット開発に至るまでの日本の航空技術の歴史が紹介されていた。もし原爆投下で戦争が終結していなければ、1946年に米軍による本州上陸作戦が実施され、その際には日本のジェット機は実戦投入されていたはずで、そうすると米空母と戦闘機は太刀打ちできずに大損害を受けていたであろう、という話は興味深かった。
TVドラマ制作の技術力
質的データ分析の授業で、題材にDesperate Housewives (デスパレート・ハウスワイブス、意味は「堪えきれない主婦たち」という感じ)を見た。このドラマは今一番人気のあるTVドラマの一つで、郊外の住宅地に住む主婦たちの恋愛や不倫や家族問題をちょっとサスペンスっぽく、かつ皮肉な視線で描いたドラマだ。昼にやっているソープオペラの脚本をしっかり書いて夜にやっているようなイメージであり、アメリカの中流家庭の閉塞感あふれる日常を描いた映画「アメリカンビューティ」が醸し出す雰囲気によく似ている。あの映画もそうだったが、見終わった後味が悪いことこの上ないTVドラマである。このドラマを授業で題材に使うという発想もすごいのだが、今日はその話ではなくて、TVドラマについての話。
子育てお助け番組の教育的効果
書こうと思ってたテレビネタがたまっているので、ここしばらくはテレビネタ。アメリカのテレビはほんとにくだらないものは徹底的にくだらないし、面白いものはほんとに面白いなといつも感心させられる。最近見ている中でもお気に入りなのが、「Nanny 911(訳すと子守り110番という感じ)」と「Super Nanny」という子育てお助け番組である。二つの番組は別の局なのだが、どちらも同じコンセプトで、フォーマットもほぼ同じ構成である。子どものしつけが下手で子どもが手に負えなくなった両親が助けを求め、イギリス人乳母が一週間でその家をハッピーにする、そのプロセスを見せるリアリティショーである。
大卒VS高卒
ドナルドトランプの弟子の座を争うリアリティショー(視聴者参加型のドキュメント仕立ての番組)、The Apprenticeの3シーズン目が始まった。18人が二つのチームに分かれて、広告や販売やマーケティングなど、毎週違う課題で競って勝敗を決め、負けたチームの一番ダメな人が一人ずつ首にされていくという設定である。前回までは男女別のチームだったが、だいぶパターンができてしまったので、今回はブックスマート(学識のある人)対ストリートスマート(生きる知恵のある人)の対決という設定。一方は大卒エリート、もう一方は高卒のたたき上げに分かれて毎週勝負する。この高卒チームの合計年収は大卒チームのよりも3倍多いのだそうだ。ドナルドトランプが不動産屋で、勝利の後に任せされるビジネスも不動産業とあってか、18人のうちの半分近くは不動産関係の仕事を持っている。その次に多いのが弁護士や検察官といった法律系の人だ。
番組は2週目に入り、1週目は高卒チームが勝利、2週目は大卒チームが勝利した。いずれも視聴者が期待しているような展開で進んでいた。これまでのところは、3シーズン目でマンネリ化しそうなところを違った面白さを取り入れてなかなかうまくやっている。
G4TechTVの”Icons”
G4TechTVというパソコンとゲームの番組を一日中やっているチャンネルがある。前は中年のタレントを使った一般向けの番組もいくらかあったが、ちょっと前にコムキャストがTechTVを買収して以来、ゲーム関連の番組中心になり、若者向けの編成にシフトしている。最近気に入って見ているのがそのチャンネルの”Icons“という番組。
毎回、有名ゲームやデザイナーの歴史を紹介する30分番組だ。ウィルライト(Sim City開発者)やシドマイヤー(シビライゼーション開発者)はもちろん、ここ数日は鈴木裕(バーチャファイター)、小島秀夫(メタルギアソリッド)といった日本のゲームクリエイターや、SNK、セガの盛衰などを紹介している。再放送で毎日放送しながら毎週一本最新の番組を放映している。今週はファイナルファンタジーの歴史である。このボリュームはすごい。しかも紹介されるIcon(偶像、偉人)たちの多くが日本のクリエイターたちや企業である。日本ではSonetがこのチャンネルの番組をいくつかスカパーで流しているが、Iconsはやってない。まあSonetだからしかたない。スカパーの一チャンネルなどではもったいなくて、民法地上波局でこそやる価値がある。深夜帯にゲームメーカーのスポンサーつけて若者向けに放送すれば必ず当たる。しかもこの番組は教育効果が高い。純粋に日本のクリエイターがかっこいいと思える。今の日本には、税金使ってでも放映する価値のある番組だと思う。今政府が推し進めているような、クリエイター養成の大学院コースを1こや2こ作ったところで多寡が知れている(30コースくらい作る気でやればだいぶ違うが)。教育プログラムも大事だが、この番組を買ってきて若い視聴者の目に留まりやすいところ(ネットとかスカパーでなくて地上波)で放映すれば、労少なくして効果はずいぶん高いように思う。