奨学金獲得のリアリティショー

 あともう一つリアリティショーネタ。「The Scholar」(ABC系)は、大学に行くてもお金がない高校生の奨学金争奪リアリティショーである。南カリフォルニア大学を会場に、10人の高校3年生が挑戦者となり、毎週、二組に分かれてグループチャレンジでパフォーマンスのよい3人が選ばれて対戦クイズ形式の試験に進み、最後まで残った一人がウォルマート財団提供の5万ドルの奨学金を手にする。それを5週間やって、5人が選ばれ、最終選考面接を経てただ一人だけ手にできる、24万ドルのブロード財団の奨学金を目指す、という内容である。


 出てくる利発そうな10人の高校3年生たちは、白人、黒人、アジアンなど人種的にはさまざまで、その配分に配慮があるところはアメリカらしい。それぞれに大学でやりたいことや将来の夢があり、成績がよかったり、何かの活動で活躍していたりする優等生たちである。番組の雰囲気としては、10人の共同生活の様子にある人間模様を映し出そうとする部分が教育テレビチックでややぬるかったりするのだが、毎週の課題で、コミュニティセンターの改善やビデオ制作などに取り組む過程の見せ方は、他のリアリティショーと同様にドキュメンタリー的な映像の力があって、見ていて面白い。インタビューや途中のやり取りで、高校生たちの真剣さを丁寧に追っているのがよかった。とても高校3年生とは思えないほど、自分のことをよく説明できるし、人とのかかわり方も成熟していてたいしたものだと思った。
 全体的に低予算番組っぽく、演出なんかも微妙にゆるい印象を受けるのだが、番組企画の組み方になかなかやるなという印象を受けた。スポンサーのブロード財団とウォルマート財団は、ただテレビ広告に金を出すのでなく、奨学金事業に直結した番組の中で、こんなに意義ある活動をやっているのだよと存分にアピールすることができている。CM枠を買って自前のインフォマーシャルを流したり、パンフを刷って配ったりする活動よりも格段に効果が高い。奨学金事業は、できるだけ質の高い奨学生に給付することが肝であり、この番組によって知名度は大いにアップし、応募者の裾野を広げることに成功したはずである。
 あと違った意味で面白かったのは、毎週勝ち残った3人によるクイズ対戦である。毎回のテーマは「アフリカ大陸の地理」「アメリカ独立戦争前後の歴史」など、学校の科目から選ばれる。出場する3人は、テーマが伝えられてからこもって必死に勉強して対戦に臨む。よくあるクイズ番組のように、並んで一人ずつ答えていって、間違えたら脱落という形式なので、内容は学校の科目でも、試験という感じではなく、クイズそのものである。学校でやらされてる勉強は、ちょっとフォーマットを変えれば、何だクイズと変わらないじゃないか、ということが演出側が意図していたかどうかに関わらず表現されていた。
 ではこの番組のコンセプトは日本でもそのまま使えるかというと、たぶん使えない。理由は何よりも、大学進学したくてもできないというリアリティを視聴者が共有できないからである。日本の高校生の多くは、大学に行きたくて行きたくてしょうがない、でも金がなくて行けない、という状況にはないだろう。そんなに行きたいと思ってるわけではないけど、まあとりあえず行く、という子どもたちでは気合が足りないし、ほんとに金がなくて行けない、という子を集めてきて番組をやっても、視聴者をひきつけられるかは微妙である。ただ、企画の組み方は応用可能であって、奨学金でなくても、何かの公募のプロセスを番組化するということは有効だと思う。日本でもアイドルオーディション番組はフォーマットとして定着しているので、それを他の分野に横展開すると考えればいい。「マネーの虎」を違うテーマでやると考えてもいい。人が一生懸命取り組んでいる姿は見る人をひきつけるのであって、筋肉番付でもテレ東の視聴者参加の競争ものでも、視聴者が見ているのはその部分である。日本のテレビ業界の構造だと、生ぬるいワイドショーやバラエティのようなものになりがちなのかもしれないが、もう少し作り手の気合が伝わってくるような、見ててよい刺激となるような番組が増えてほしいものである。