大卒VS高卒

 ドナルドトランプの弟子の座を争うリアリティショー(視聴者参加型のドキュメント仕立ての番組)、The Apprenticeの3シーズン目が始まった。18人が二つのチームに分かれて、広告や販売やマーケティングなど、毎週違う課題で競って勝敗を決め、負けたチームの一番ダメな人が一人ずつ首にされていくという設定である。前回までは男女別のチームだったが、だいぶパターンができてしまったので、今回はブックスマート(学識のある人)対ストリートスマート(生きる知恵のある人)の対決という設定。一方は大卒エリート、もう一方は高卒のたたき上げに分かれて毎週勝負する。この高卒チームの合計年収は大卒チームのよりも3倍多いのだそうだ。ドナルドトランプが不動産屋で、勝利の後に任せされるビジネスも不動産業とあってか、18人のうちの半分近くは不動産関係の仕事を持っている。その次に多いのが弁護士や検察官といった法律系の人だ。
  番組は2週目に入り、1週目は高卒チームが勝利、2週目は大卒チームが勝利した。いずれも視聴者が期待しているような展開で進んでいた。これまでのところは、3シーズン目でマンネリ化しそうなところを違った面白さを取り入れてなかなかうまくやっている。


 1週目のお題はバーガーキングの新商品販促。ニューヨークのど真ん中の店舗を各チーム一店ずつ任されて、それぞれに新商品の販促キャンペーンを練って、1日だけ店舗運営し、売上の多い方が勝ちというルール。大卒チームのプロジェクトリーダーは、チームを店舗運営担当とマーケティング担当に分けて準備させ、自分はデスクに座って計画を立てながら、それぞれの進捗をチェックするという、いかにもマネージャー的な進め方をしていた。一見、マネジメントのセオリー通りで、これでも悪くは無いような気がしたが、結果は惨憺たる物となった。レジ担当のトレーニングを受けたのが二人だけで、しかも経験不足なため、ラッシュの時間にレジ係が足りなくなって店内は大混雑、リーダー自身が手伝おうにも自分はなんら運営のトレーニングを受けていないので役立たず。マーケティングの方も任せた二人がいい知恵を出せず、効果のある販促はできずじまいとなった。
 高卒チームの方は、9人中8人がレジのトレーニングを受けたのでラッシュ時間も難なくこなし、しかもたたき上げの強みで、みんな顧客対応も手馴れたものである。販促もうまくかみあっていた。結果として、高卒の勝ち。大卒チームのプロジェクトリーダーは、リーダーシップの欠如と判断ミスの多さを問われてあえなく首となった。このリーダーも自分のビジネスを成功させてここに参加しているので、ダメな人材ではないはずだが、状況に応じて自分のマネジメントスタイルを変えることができなかったことと、販売のスループットをあげるのがこの課題のキーファクターであるということを見抜けなかったことが敗因となった。高卒チームの方がそれを理解してやっていたようには思えなかったが、そこはストリートスマートの嗅覚のようなものが働いたのだろうと視聴者が解釈したくなるわけで、制作者の思惑通りの筋書きができあがっていた。
 二週目のお題はモーテルのリフォームをして、一日営業し、泊まったお客の満足度アンケートの結果がよかった方が勝ちというもの。こちらは一週目と反対で、思慮の浅い高卒チームのリーダーが我流を通し過ぎてチームワークを乱して散々な結果に終わるという話だった。大卒チームの方もメンバーの一人が過度のストレスでキレてしまい、荷物をまとめて帰ろうとするというハプニングで盛り上げていた。そんな感じで、視聴者が大卒はこれだから、高卒はこれだから、とやいのやいの言って楽しみそうなネタをふんだんに盛り込んだ内容となっていた。これは前2シーズンで女はこれだから、男はこれだから、というのを描き出していたのとテーマを変えた同じ流れになっている。
 この手の番組では、制作者側の意図どおりの筋書きになるように、ある程度仕掛けはしてあるのだろうが、挑戦者はいたってマジでやっている。どこまでマジなのかはわからないが、その素さ加減がリアリティショーの面白さを引き出している。しょうもない番組もあるが、面白いものも次々に出てくるし、細かな演出の工夫もうかがえる。少し昔ほどの影響力は無いにせよ、やはりコンテンツの制作力としてはテレビ業界が一番高く、テレビ番組制作者の創造性の高さはバカにはできない。
 先日、定性的研究デザインの授業で講師のAliが「最近のリアリティショー見たことある?エスノグラフィ研究のネタになるような面白い実験をいろいろやっているのよ。エスノグラフィ研究をやるものとしてはああいうのはうらやましいと思うわ。でも、私たちの手は大学に縛られてしまってああいう面白い研究はできなくなってしまってほんとに残念よ。」というコメントをしていた。大学は被験者の権利保護に過敏なため、ちょっとでも人権侵害で訴えられそうな研究を自主規制する厳しいガイドラインと審査機関をもうけていて、研究者のやる気を削いでいる。そういう環境からはなかなか独創的な研究は生まれにくい。そのような中ではあっても、視聴率を取ることに集中して知恵を絞っているテレビ制作者のパワーに負けないような独創的な研究アイデアを出していきたいものである。