子育てお助け番組の教育的効果

 書こうと思ってたテレビネタがたまっているので、ここしばらくはテレビネタ。アメリカのテレビはほんとにくだらないものは徹底的にくだらないし、面白いものはほんとに面白いなといつも感心させられる。最近見ている中でもお気に入りなのが、「Nanny 911(訳すと子守り110番という感じ)」と「Super Nanny」という子育てお助け番組である。二つの番組は別の局なのだが、どちらも同じコンセプトで、フォーマットもほぼ同じ構成である。子どものしつけが下手で子どもが手に負えなくなった両親が助けを求め、イギリス人乳母が一週間でその家をハッピーにする、そのプロセスを見せるリアリティショーである。


 パターンは大体決まっていて、初日にまずイギリス人乳母が、しつけができてなくてサルみたいな子ども達がわめき散らしていて、親がろくでもないしつけをする様子を観察し、二日目にしつけのルールを導入して、三、四日目にそのルールに従うのに苦労して、五日目にしつけができるようになって、六日目に幸せな家族になって、七日目に感動のお別れ、という流れになっている。スーパーナニーの方は、乳母が途中でいったん離れて親だけにやらせてみて、うまく行かないところをまた戻って指導するという形になっている。
 見てていつも思うのは、子どものしつけというよりもこれは親のしつけの番組なのだなということである。子どもの不躾なのは親がしつけをミスった結果であって、それを修正するのはいつもすぐに片がつく。番組の一番の見せ場は、子のしつけではなく親のしつけの方で、しつけの仕方にいろいろ問題がある両親が、新しいやり方に抵抗したり、やってもできなかったりしてへこたれているところを乳母に説得されながらがんばってできるようになり、子どもがいい子になったその劇的な変化に親が感動するところである。出てくる家族の多くは両親の夫婦関係に問題があって、しつけの問題の多くは夫婦のコミュニケーション改善の問題だったりする。
 この二つの子育てお助け番組は、娯楽番組の顔をしていながら、とても教育的な番組である。いつも極端な家族が出てくるのだが、その抱えている問題はどこの家族にもありそうなありふれた話であって、視聴者は見ていて心当たりがあったり身につまされたりするんじゃないかと思う。乳母達が番組でやっていることは、実行支援のコンサルティングそのものであって、その家族の状況に合わせながら、「言って聞かせ、やってみせ、やらせてみせ、ほめてやる」というオーソドックスな指導をしている。その見せ方はテレビの演出の技術が活きていて、毎回示唆に富んだ内容を笑いあり感動ありの娯楽番組に仕立てあげている。しかも放送時間は、月曜午後8時からと10時からである(アメリカのテレビ各局は午後8時から11時の時間帯に主力の番組を投入する)。
 この番組は、下手な教育番組よりもずっと教育的価値が高いと思う。なぜなら、教育が必要な人のところに届いているからである。多くの教育番組は、そのスタイルからしてすでに本当に必要な人の目にはとまらない形になっている。それを見るのは、そういう退屈な番組を娯楽として消費できる人だけである。これはテレビに限った話でなく、教育として提供される多くのコンテンツに共通する話である。教育として提供されるものは退屈でいいということはまったくない。ほんとに届ける必要がある人のもとに届ける工夫こそが、教育者が一番力を入れるべきところである。その点はテレビ人の方がよっぽど上手であるということをこの子育て番組が示している。