料理人修行のリアリティショー

 今テレビ番組はシーズンの谷間で24とかアメリカンアイドルとかThe Apprenticeとかの人気番組はお休み中で、短めのシリーズや、目先の変わった番組をやっている。その中で二つ気に入って楽しく見ているのがあって、そのうちの一つが料理人修行のリアリティショー「ヘルズキッチン」(Fox系列)だ。イギリス人スターシェフのゴードン・ラムジーがアメリカでレストランを開業するために、その店を任せる弟子を12人のコンテスタントの中から一人選ぶという設定で、毎週チャレンジしながら一人ずつ脱落していく。番組の構成的には、ドナルドトランプのThe Apprenticeが一番近い感じで、それと違うところは、トランプはお題を与えたら最後に出てきて結果を判断するだけだが、こちらはラムジーが張り付いてガミガミ言いながらコンテスタントたちを鍛え上げるところ。この部分のテンションが番組としての面白さを増している。The Apprenticeでドナルドトランプとその部下がそうだったように、ラムジーと彼のスタッフのキャラクターが生きている。その道のプロというのは魅力があって、それに加えてテレビ映えするキャラはテレビにとって魅力的なリソースとなっている。


 番組のホームページを見ると、趣味が悪いデザインだが、毎週出てくるメニューの中から一品、スーシェフが出てきて作り方を教えるビデオがあったりして面白い。掲示板で視聴者がああでもないこうでもないと議論している中に「今日のフランベ、すげー作りたくなったlol」「今日負けたあいつは自分でレストラン出すべきだよ」などと、おそらく番組のねらい通りの反応が書き込まれていて面白い。
 この番組の効果はいろいろあると思う。まずイギリスの飯はまずいという一般的なイメージに対して、イギリスのシェフにもすごいやつがいてうまそうなもの作ってるんだなと認知させる効果は非常に大きい。ラムジーがアメリカで店を出すのに対してのプロモーション効果も高い。もう宣伝不要である。、また、市井の料理人たちの意欲を喚起させる効果もある。アメリカンアイドルが歌手志望の若者の支持を集めて盛り上がっているように、この番組が続くとすれば、料理人や料理人志望の人たちに対して直接的間接的に何らかの影響を与えるようになるだろう。
 教育的な観点から見ても、この番組は非常に興味深い。最初はラムジーが怒鳴り散らすのに縮みあがって泡を食うばかりだったコンテスタントたちが、短期間の間に着々と成長しているのが映し出されている。生易しいことは一切無しで、ものすごいプレッシャーの中で仕事をさせる中でスキルを磨くようにするため、ストレスで切れてしまうものもいる。できない人をできるように育てる「教育」ではなくて、ものになる人間を鍛え上げる「修行」である。この教え方は、本当にその道に長けた人でないとできないやり方であり、OJTというよりも、むしろ職人の徒弟制の世界である。そのやり取りをテレビ的な仕掛けで演出して、面白いテレビ番組に仕立て上げている。テレビ業界がいまだにコンテンツ制作力では圧倒的なノウハウを持っているということを見せつけられる番組である。おそらくこの番組も次のシーズンが組まれるだろう。ぜひこの手の番組の教師修行版も見てみたいものである。