国立大学行政法人化の話はたしか来年からスタートだったと思うが、最近どうなっているのだろうと思っていたら、面白い記事を見つけた。ジャーナリストの櫻井よしこさんのウェブサイトに、国立大学行政法人化の問題点を批判するコラムがあった。それによると、文科省は法案が可決されるまえから、あれこれと国立大学に対して通達を出していて、人件費の基準までも細かく規定しているのだそうだ。学長や理事の年収は1700~1900万で、教授は850~950万円だとか。監事とかいうお目付け役のポストが新たに付け加わって、1300~1500万円ももらうんだそうだ。監事ってどういう人がなるのか、というと大学行政の専門性に長けた人、ということなのだろうが、日本の大学における大学行政の専門性というものが確立されていないことから、たいては学内政治の中枢にいる人か、そうでなければ官僚出身者というのが主要な候補になってくる。監事なんて、真面目にやれば高い給料払う価値のある大事なポストだが、専門性も意欲もない人がやれば、たいした仕事をしなくても文句も言われない、体のいい閑職になってしまう。学長に権限を与えて、企業のような組織体にした場合、監事のような目付が必要だというのは正論だが、役所文化のままでやっても形骸化するだけだろう。道路公団等の特殊法人問題なんかを見てしまうと、ここでもそういう正論を振りかざしつつ、自分たちの方へ利益誘導しているように見えてしまう。
こんなことまで文科省が細かく決めるんだったら、以前と何が違うのか。国立大学の教職員の身分が国家公務員でなくなることくらいか?中期計画なんて今まで作らなくてよくなったものを作らされて、しかも内容が気に入らなければ修正できる権限を文科省に握られてしまっている。自治を望むといいながら、国立大学もよくまあこんなに抵抗なく素直に通してしまったものだ。教職員の反対グループが署名だ抗議だと活動していたようだが、結局、大学内でも政治力のない人たちが集まってやめろというだけで、効果はなかったか。民主主義だなんだと大義名分を押し出しても、自分の身分保全のための活動だというのが透けて見えてしまう。安全なところから出てきて、しっかりリスクをとってやればもっと賛同を得られただろうに、国立大学にはそこまでのガッツがある人はあまりいなかったらしい。
これで、この法案に沿って行政法人化が動き出したらどうなるか。あまりよくはならないけど、言われているほどたいして悪くもならないのではないか。今までも社会的に不可欠な機能を果たしていたというわけでもないのだから、社会における大勢にはさほど影響はないじゃないか、という考え方もできる。国の予算の重点配分に与れない大学にしてみれば、予算は減るし、官僚に細かく指導されるわで、いい迷惑だろう。しかしこの点は、行政法人化賛成論者の言うように、自助努力を求められていた時にぼんやりしていたんだから仕方がない。
この件は、推進側も反対側もどっちもどっちで、日本の教育をよくするというのを建前に、結局は自分のことばかり考えているようでならない。もし本気なら、学生も市民も企業も、周りはみんなこんなしらけムードでいられるはずはない。もっと身体張って、しっかりリスクとってやれ、といいたい。
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8/17(日) 断絶の時代
今日は11時に起床。どうもここ数日寝起きが悪い。運動不足もあるな、これは。
朝はシリアル、昼はサンドイッチと、いつもの定番でとりあえず飢えをしのぎつつ、昨日の作業の続き。
Position Paperへの引用を探している途中で、ドラッカーの「断絶の時代」を読み返した。この本は、教育の仕事に携わる人は第4部「知識の時代」だけでも一度読んだ方がいいと思う。1969年に書かれているが、教育の問題は今も当時から何も改善されていないということがよくわかる。教師はみんな、この本で述べられている認識を共有して、もう一度自分たちのキャリアのあり方を見直したほうがいいんじゃないか。
「今日学生は、いたるところで学校に反旗を翻している。そもそも教室で教えていることが無意味であるとしている・・・。小さな子どもたちまでが、学校に飽き飽きしている。彼らは、学校を占拠したり、バリケードを築いたりはしない。もっと強力な武器を持つ。勉強をしなくなる。これが今日の子どもたちのしていることである。彼らは最高レベルのコミュニケーションに慣れており、教師の生産性の低さには耐えられない (pp.365)」
30年前に書かれたこの記述よりも、今の教育の状況がよくなっているといえる人はいないだろう。もう普通に現在の教育システムを維持するための仕事をするんじゃなくて、システムを変えるための仕事をしていかないとだめでしょう。おそらくみんな、自分がやることとは思ってないのだろう。やれることはたくさんあるのに。
Law school ウェブ調査
日本の大学から依頼を受けて、アメリカのロースクールとMBAスクールの調査をしている。日本では各大学でプロフェッショナルスクール開設の動きがようやく具体化し始めたというところだが、アメリカの大学院で提供されているプログラムの数は膨大なので、とにかく全体像を把握することを優先して、駆け足で各校のサイトをレビューしている。その中で感じたことをいくつか。
・ロースクールの教員プロフィールに載っている教員の顔写真は、美醜に関わらず、みんないい面構えをしている。日本の大学のWebサイトには、何もそんなのを載せんでも、と言いたくなるようなお粗末な写真をたまに見かける(写真がないことのほうが多いが)。人前でものを教えるプロの教員としては、外向けに公開された教員紹介の写真くらいはきちんとしたものを載せるのがマナーだろう。この点はアメリカの大学を見習ってもなんら不都合はない。
・アメリカのトップクラスのロースクールは教員層が厚い。日本でも来年からロースクールがスタートするそうだが、今まで教員を育てる教育機関がなかったのだから、最初の数年は教員不足で苦労するだろう。教育の質もばらばらで、卒業生の質も法曹界からクレームが出たりするだろう。だからといって、質を高めるべく、意図的に校数を絞って、エリート教育化するような対応は望ましくない。日本の専門家教育の最大の課題は層の薄さをどうやって解消するか、ということだ。層が薄い限りは、いかに質を高めようとしてもすぐに頭打ちになる。少数の専門家ががんばったところで、実際には専門家の言うことを理解できる準専門家層が増えないことには、社会へ十分な影響を与えることはできない。その意味では、量が質を凌駕するということを意識して、とにかく初めは法曹教育の裾野を広げることに重点を絞るべきだろう。
・日本の学校でよく見られる、「ごく数人の意欲の高い教員がいるかどうかでオンラインリソースの充実度が変わる」という事実は、アメリカのロースクールでも同様だ。シラバスや授業用のマテリアルを載せている教員は各校に数人いて、彼(女)らの提供しているリソースのおかげで、ロースクールのプログラムでどんな教育をしているのかが理解できる。組織として立派なWebサイトを構築しているところは多いが、組織として、教育内容まで載せるというインセンティブは持ちにくい。それをやるかどうかは教員個人の意欲に依存する。たまたまそういう意欲のある人がWebコンテンツの構築に関わっているところはしっかりしたリソース集などを提供していたりする。アメリカの大学がオンラインで提供している学術情報は膨大なものがあり、言葉の壁を乗り越えられない日本の大学が抱えるハンディの大きさを意識させられる。
おすすめの本:留学関連・その他
「研究計画書の考え方―大学院を目指す人のために」 妹尾堅一郎(著)
私の師匠妹尾先生による、大学院入試の研究計画書ガイドのベストセラー。多くの大学院で教科書として採用されており、早くも名著の風格が出てきています。大学院を目指す人には必読の一冊です。私も研究計画書のサンプルを執筆で協力しました。
「The Goal: A Process of Ongoing Improvement(英語CD版)」 Eliyahu, M. Goldratt (著)
この本の書籍版は日本でもベストセラーになっているので紹介するまでもないのですが、このCD版は書籍版を忠実にCD化していて、英語のリスニングにとても役立ちました。英語の勉強が必要なビジネスパーソンにおすすめです。(スクリプト付属ではないので、書籍版もあわせて購入した方がよいでしょう。)
「アメリカ留学 公式ガイドブック〈2007〉」 日米教育委員会 (著), フルブライトプログラム= (著)
アメリカ留学の準備から渡航後の必要情報が細かく紹介されていて、とても役に立ちます。後半は同じ内容の英語訳が載っているので、渡航後に使うときに、日本語での知識をいちいち英語に訳す手間が省けて便利です。これが一冊あれば、中途半歩な留学情報本にあれこれ手を出す必要はありません。
「 断絶の時代―いま起こっていることの本質」 P.F. ドラッカー (著), 上田 惇生 (翻訳)
1969年に刊行されたドラッカー著作の新版。書かれてから30年以上経っているとは思えないほど、指摘されている内容は新しさを失っていない。教育に関してもかなりのページを使って言及されていて、基本的に30年前からほとんど進歩していないことがよくわかります。教育関係者は普段あまり手に取らない類の本ですが、読むと得られることが多いと思います。
「組織の不条理―なぜ企業は日本陸軍の轍を踏みつづけるのか」 菊沢研宗 (著)
太平洋戦争での日本陸軍の不条理な行動はなぜ起こったのかを、「組織の経済学」の枠組みを用いてわかりやすく分析した本です。理論的枠組を用いて社会の現象を分析するという点からもよい手本といける研究です。古典「失敗の本質」が掘り下げ切れなかったテーマをさらに掘り下げて分析しています。戦史研究や組織論に興味のある人にはもちろんのこと、日本の企業や官僚組織がなぜ愚かな過ちを繰り返すのかという疑問を持っている人にも良い知見を与えてくれると思います。
おすすめの本:高等教育・教育学関連書
「子どもが熱くなるもう一つの教室―塾と予備校の学びの実態」 佐伯 胖 (著)
予備校がなぜ子どもたちをひきつけるのかについてを教育学的な観点から論じています。教育学者はこういう仕事どんどんやっていくべきです。
「教育への問い―現代教育学入門」 天野 郁夫 (編)
東大教育学部の教授陣による教育学入門書。日本を代表する教育学者たちが現代の教育の論点を判りやすくまとめています。残念ながらこういう優れた情報発信ができる教育学者の層が薄いのが日本の現状です。教育の分野に進もうという人にはぜひ読んでほしい本です。
「学びへの誘い-シリーズ学びと文化 (1)」佐伯 胖、藤田英典、佐藤学(編)
学習の概念を問い直し、新たな「学び」のあり方を論じています。「学びの共同体」の考え方を理解するのによい本です。
「状況に埋め込まれた学習―正統的周辺参加」 ジーン レイヴ, エティエンヌ ウェンガー (著), 佐伯 胖 (訳)
「学びの共同体」の基盤となる考え方を提示した論文です。この本で提示されている理論は、構造主義の学習理論の中でも主要なものとして認知されています。本著はやや難解なため、入門書としては適していませんが、専門家を目指す人には読むべき本と言えるでしょう。
「教育改革をデザインする(シリーズ教育の挑戦)」佐藤 学 (著)
混迷する日本の教育改革の問題点を指摘して、それじゃダメだからこういう考え方を取り入れなさい、と論じている本です。佐藤教授のような実践する教育学者が増えていかないと、日本の教育もよくなりません。
「教育方法学」佐藤 学 (著)
教育方法学の教科書。教育方法に関する体系的な知識を得るのによい本です。
「大衆教育社会のゆくえ―学歴主義と平等神話の戦後史」 苅谷 剛彦 (著)
学歴社会に関する一般的なイメージには誤解が多いということを、データを示しながら丁寧に解説した本です。 教育学者の仕事のお手本のような著作です。
「未完の大学改革」(中公叢書) 永井 道雄 (著), 山岸 駿介 (編集)
日本の高等教育界の巨人、永井道雄氏の著書を教育ジャーナリストの山岸駿介氏が再編集した本です。国立大学の独立法人化は、この本にあるように30年以上も前に永井氏が文部大臣を務めたときに提案されていました。しかし文部省(当時)が自己の権益を失うのを嫌がって検討すらせず、そのツケが今頃になって回ってきているのが実情です。歴史に「たら」はないのですが、この永井氏の案が実現していたら、日本の大学は今ほど凋落していなかったことでしょう。
「「できる人」はどこがちがうのか」 斎藤孝(著)
最近ベストセラーを量産中の著者による名人論。教育関係者は必読です。
「三色ボールペンで読む日本語」 斎藤孝(著)
読書の技法を実際に手を動かして線を引きながら体得しようという趣旨で書かれた読み方本。三色ボールペンまで本のおまけにつけて、誰でも習得できるレベルまで技法を簡素化して提示されています。