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生涯学習通信
「風の便り」(第89号)
発行日:平成19年5月
発行者:「風の便り」編集委員会
1. 社会教育の視点で読む「改正教育基本法」 −新しい思想は何を、どう変え得るのか?−
2. 社会教育の視点で読む「改正教育基本法」 −新しい思想は何を、どう変え得るのか?−(続き)
3. 第26回生涯学習実践研究交流会総括 I 「現実」が先、「現場」が先、「問題」が先
4. 第26回生涯学習実践研究交流会総括 U 「選択」と「集中」と「複合化」
5. MESSAGE TO AND FROM
6. お知らせ&編集後記
第26回生涯学習実践研究交流会総括「U」 「選択」と「集中」と「複合化」 ここ数年の自分の観察からも、第26回大会で得た教訓も、事業効果の秘訣は、「選択」と「集中」と「複合化」です。これらは教育資源の乏しい時代に、社会の要請に応えるための不可欠のスローガンです。折から国の社会教育実践研究センターが実施する全国の生涯学習センターの交流会にお招きを受け、パネル・ディスカッションに参加することになりました。大会総括の「II」はそのための発言要旨として使うことにしました。 ◆1◆ 行政の惰性が止まらない これまでの社会教育行政は、意識的・選択的な個人参加者の生涯学習支援には大いに努力しました。しかし、生涯学習を選択しない学習者の支援はあきらめて捨ててきました。また、残念ながら、時代が緊急に求めた子育て支援にも、高齢者の学習成果の社会還元にも、男女共同参画にも、青少年の自立や鍛錬にも、ボランティアの養成にも、まちづくりにも、目に見えるような具体的な成果や貢献は少なかったことは明らかでしょう。それゆえ、社会教育行政に対する政治の評価は決して高くないのです。結果的に、予算も、人員も大幅な削減が続いています。もちろん、地方の政治家の方も、社会教育行政や施設の人材配置に十分な気を使っているとは思えませんが、今更、不平を言っても始らないでしょう。行政は所与の条件の下で仕事をするしかありません。政治も、行政も最終的な評価原則は公金投資に対する結果責任が問われます。公金を投資する以上、社会への貢献と成果が見えなければ、政治の上で軽んじられてもやむを得ないのです。 社会教育行政はこれまでの一般市民全体を想定した学習支援型の政策方針を思い切って転換すべきです。自己責任の時代に倣って、公民館や生涯学習センターの趣味・教養・実益・軽スポーツ講座など従来から手がけて来た一般市民のための生涯学習支援策は思い切って捨てるべきだと思います。「金もない。人も足りない」、という行政状況の中では、個人的な学習は「自分の努力と工夫でやってもらう」しかありません。「パンとサーカス」の楽しみと日常個別の「実益講座」はすでに市場にふんだんに提供されているのです。 公民館でも生涯学習センターでも、学習の成果が主として個人に還元される種類の学習支援は老若男女:対象に関わらず、個人学習者やグループサークルの自発的努力にゆだねるべきです。 過去の施策を単純に繰り返す姿勢を抜本的に変えない限り、生涯学習を「選択するもの」と「選択しない(できない)者」との「生涯学習格差」は広がる一方です。また、集中を徹底しない限り、乏しい「資源」を効果的に活用する方法はありません。具体的な社会貢献の成果を上げることが出来なければ、財政当局はもとより、政治を説得して社会教育行政に十分な支援を再獲得することなど出来る筈がありません。政策資源が不足している以上、発想の転換は「選択」と「集中」によるしかないのです。最大の問題は社会教育行政の発想が変わらず、施設運営の惰性が止まらないことです。 ◆2◆ 「選択」と「集中」の対象 一般市民に生涯学習と生涯スポーツ実践の自立を求める以上、社会教育行政が選択し、集中すべき対象は、「自立を要求出来ない対象」です。「自立を要求できない対象」とは、病人や障害者を除けば、高齢者と子どもと子育て中の母ということになるでしょう。 したがって、「選択すべき対象」はこの3者です。従来の青少年教育は「自立」を目標としてその中身と方法を抜本的に変えなければなりません。社会教育施設は子どもの「守役」として子どもを鍛え、家庭に子どもを鍛えることを「教え」、「説かなければ」なりません。また、従来の「野外活動」や「通学合宿」や日常の「子どもの遊び支援」は、「女性支援」と繋いで総合的な子育て支援システムの中の「部分プログラム」にすべきです。子育て奮闘中のお母さん方に対する支援も、共同保育や共同遊びや子育てサロンのような一時的なものに限定せず、母の苦労を社会が分け持てるような「養育の社会化」のシステムにまで作り上げることが必要です。例えば、せめて夏休みの半分ぐらいは朝から晩まで地域が子どもの日常生活を引き受けられるような仕組みを開発することです。「放課後子どもプラン」はそのような発想の下に生まれたのではなかったでしょうか?公民館は学校と組んでその一翼を担い、広域の生涯学習センターは協力的な特定市町村を選んでモデル事業を起こして「養育の社会化」のあるべき中身と方法を示すのです。母と子を同時に支援するシステムが出来れば、「共同保育」も「共同の遊び」も「子育てサロン」もシステムの一環として実施が可能になります。 高齢者の学習支援は、従来の老人学級や高齢者大学を廃止して、「「高齢者の社会参画のための学習支援と社会参加支援」プログラムに変革しなければなりません。「学習」がメインではなく、「社会貢献」をメインにするのです。定年熟年者の老衰の重大原因の一つは「社会との縁」が切れて、「世の無用人(藤沢周平)」となることです。世の中から必要とされなくなれば、熟年は生きる意欲も、気概も失い、自らの活力維持の努力を止めてしまうからです。子育て支援事業:「豊津寺子屋」では、「幼老共生」を掲げて、熟年のみなさんが放課後や休暇中の子どもの日常指導を担当し、ご自分の元気はもとより、子どもの元気と女性の元気を同時に生み出しているのです。 ◆3◆ モデルハウスの思想-「集中」の方法 住宅会社は販売促進の営業活動に「モデルハウス」を活用します。最も具体的で、最も効果的で、最も経済的だからです。多くの日本人は積極的で、賢いですから、「モデル」を見れば、その良し悪しも、コストも、作り方も素早く理解し、説明の手間が省けます。行政もこの手法に学ぶべきでしょう。資源を集中させるということはモデルプログラムを市民に提示するということです。行政の「公平」の原則やサービスの「均等性」にこだわり過ぎれば、全領域に「投網」を投げるようなこれまでのやり方になりますが、財政も人員も不足している現在「投網方式」ではほとんど効果のない「薄く、「浅い」施策しか打つことはできないでしょう。 モデルハウスは住宅の基礎工事も、土台も、骨組みも、内装も、断熱材も、屋根の太陽光発電も、水回りも、排水も、防犯も様々な要素を複合的に組み合わせて提示しています。「良い家」とは複合課題を解いた結果だからです。これからの社会教育行政の課題が応えるべき子育て支援も、高齢社会対策も住宅と同じく複合課題でしょう。複合課題を解くためには、たくさんの必要条件を組み合わせることが重要です。それゆえ、「子育て支援」は「女性支援」でなければならず、同時に発達支援のプログラムが不可欠であり、財源がない以上、そのプログラムの実行には熟年層のボランティアによる加勢が必要になります。ここで少年教育と高齢者の社会参加がドッキングします。これまで「青少年教育」とか「高齢者教育」とか対象別に分けて来た分業システムそのものが生涯学習支援事業の形態の「無境界化」によって、分業の意味がなくなって来たのです。「集中」と「組み合わせ」の必要は社会の仕組みも、社会教育のプログラムのあり方も変えつつあるのです。 分業の縄張り意識と袋小路に入り込んだ事業の実態を正すためには、まず事業目的を分業の制約から解き放って複合化することです。子育て支援は女性支援でなければならないということはそういうことです。子どものことを考えるときは常に、実質的に子育てを担当している女性の福祉を想定し、合わせて子どもの指導をお願いする熟年の活力維持を目的に加えるべきです。また、ボランティアを「ただで」活用するやり方を止めない限り、持続的な活動に参加できる人々は特定の層の人々に限られてしまいます。諸外国の実践に倣って、ボランティア振興法を制定することが理想ですが、まずは、ボランティアの「費用弁償」制度の確立に向けて多くの実践を積み重ねて行くことも行政の重要な役割でしょう。高齢者教育の担当者は、労働の季節が終わったあと、ボランティアの機会を知らずに社会との関係が切れて行く定年者は一気に衰える、という実態を知るべきです。 単一目的に囚われる「単眼」の発想は危険なのです。たとえば、福岡県の「アンビシャス事業」は子どもの遊びの支援を中心に発想し、国の「放課後子どもプラン」を吸収したため、結果的に、学童保育との組合わせは不可能になり、子育て支援と女性支援を組み合わせた多くの優れたプログラムをつぶしてしまいました。「単眼の発想」では現代の要請に応えることは出来ないのです。 「複眼の発想」をすれば、岡山県の「NPO法人子ども達とともに学ぶ教室シニアスクール」のように、高齢者を学校に入れることによって、学校を変え、高齢者を元気にし、世代間の交流を活性化しています。同じように福岡県飯恷sは本年2学期から全小学校に「熟年学び塾」を導入することを決めました。合併前の穂波町の実践の広域への応用です。学校に入って学び始める高齢者は自らの活力を維持するに留まらず、やがては学校の支援システムとして広がって行くことが期待されています。同じく福岡県旧豊津町の「豊津寺子屋」は県が設定した「放課後子どもプラン」の補助金の仕組みでは、男女共同参画と少子化防止の目的を組み合わせた、子どもの支援、女性の支援、高齢者の支援、ボランティアへの費用弁償を同時に実行することは出来ないので町の単独予算で進めています。 相談事業についても、先の大会総括「I」で紹介した通り、佐賀のNPO法人SSFの実績に見るように、クライアントの来訪型相談から「訪問型支援」に切り替えて、大きな効果を上げています。カウンセリングと生活指導を組み合わせる発想が必要なのです。しかし、電話相談や来訪型相談を主とする現行施設のサービスでは全く歯が立たないことでしょう。要は、優れた全国のモデルを発掘してまずはその「モデリング(模倣)」から初めて見ることだと思います。「手本に倣う」ことこそ生涯学習の基本ではなかったでしょうか?
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