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生涯学習通信

「風の便り」(第77号)

発行日:平成18年5月

発行者:「風の便り」編集委員会


1. 拝啓 市町村長殿、『保教育課』の新設はいかがでしょうか

2. 生涯学習実践研究交流会第25回記念大会報告

3. 第25回大会記念出版および実行委員会

4. 第66回生涯学習フォーラムレポート

5. MESSAGE TO AND FROM

6. お知らせ&編集後記

拝啓 市町村長殿、『保教育課』の新設はいかがでしょうか

―『少子化を防止し、高齢化に対処し、合わせて男女共同参画の条件を整備することを目的とし、「保育」と「教育」を同時に推進するためのボランティアを主力とした「子育て支援」事業の担当課』の新設についてー

1 複合問題には行政部局の統合で対応

  以下はこの数年、「子育て支援」事業の立ち上げと展開で陰に日向に苦労を共にした担当者への応援のために書いた小論です。最終的に子育て支援のような複合問題には行政部局を「総合化」して対応しなければなりません。第25回の「実践研究交流会」を終ってみたら、「総合化構想」は鳥取県大山町の山田教育長の実践にも、新飯塚市の森本教育長の構想にも合致していることが判明しました。しかし、問題の性格と処方の具体性を真に分かっていただきたいのは政治であり、市町村自治体の首長です。子育て支援はすでに行政の課題を越えて、政治の決断を待つ問題になったからです。
  合併後の混沌はよくいえば「未整理」、悪くいえば混乱のどさくさです。機構改革も新規事業の立ち上げも、混乱のピンチをチャンスに変えることができます。生涯学習の関連行政が打つべき緊急の施策は少子高齢化対策以外にはありません。しかも、少子化も、高齢化も単一の問題ではないのです。子どもの問題も、年寄りの問題も、女性の問題も、諸要素が極めて複雑に絡み合った複合問題なのです。それゆえ、分業化された現行のシステムで取り組めば、複合化した問題の多面性を認識できず、対策も行政部局間の縄張り争いになってしまいます。縦割り行政がマイナスに働くのはこの時です。

  少子化防止に有効な手が打てないのが何よりの証拠ではないでしょうか。少子高齢化対策がきちんとできれば子どもは元気になり、少子化は止まり、熟年は生き生きと社会に参画することができます。また、自ずと男女共同参画の中核条件たる就労支援の条件が整備されるはずです。現状の施策ではどの課題への対応も極めて中途半端に終っています。それゆえ、新設の機構の最低条件は福祉と教育を統合することです。想定される事業の中身はいささか欲張りですが、言葉にして表現すれば、「副題」のようになります。新設すべき「課」の名称に、全部の意味を盛り込もうとすると行政の看板にはなり得ないので、通称は「保教育課」くらいが妥当なところだと考えました?
  折から県レベルで厚生労働省所管の「子育て支援」課が発足したという案内を読みました。当然これまでの事の成り行きから、このまま放置すれば「子育て支援課」の事業は、再び教育活動を含まない支援プログラムに終始することになることを心配しています。子どもの成長や発達に留意しない子育て支援はどこまで保護者の理解を得られるでしょうか?学童保育を顧みれば、発達支援を伴わない保育だけで少子化を止められない事は火を見るより明らかではないでしょうか。「保育」も「教育」も同時に行なわれた時、初めて保護者も安心して、次の子どもを生んでみようかとお考えになるのではないでしょうか?それが「養育の社会化」です。文部科学大臣と厚生労働大臣が「子育て支援」を一緒にやろうと合意した事はどこへ行ってしまうのでしょうか!?「縦割りは縄張り」、「国益より省益」は今も変わらないのでしょうか。政府はいったい何のために少子化対策担当大臣を任命したのでしょう。彼女は何を考えて仕事をしているのでしょうか?

2 市町村自治体における少子高齢化対策のための『保教育課』の設置について

  子どもを安心して産むことのできる条件は、その子の安全な成長と健全な発達を同時に保障する「保教育」の環境です。「保教育」とは筆者が提案した新語で、「保育」と「教育」を同時に推進することを意味しています。それゆえ、現行の行政システムのように「保育」と「教育」を行う部局がバラバラでは総合的かつ一元的な「保教育」は実現できません。最善のケースですらも、政治の主導による部局間の緊密な連携が不可欠になります。しかし、行政の縦割りを「連携」させることは現状では至難のわざでしょう。中央や県レベルの行政システムが縦割りになっている現在、唯一「保教育」を統一的に実施する方法は市町村レベルにおける福祉部門の「幼児保育」・「学童保育」機能と教育部門の「健全育成・子育て支援」機能を統合することでしょう。具体的な名称をあげれば、少子高齢化対策のための『保教育課』ということになるでしょう。
  行政ではシステムさえ出来上れば、その枠の中で仕事も予算も流れます。それゆえ、システムを作らないままに保育と教育の総合化・統合を目指そうとしても沢山の困難・障害に当面せざるを得ないのです。福岡県の先進自治体が様々に格闘した結果の結論はシステムとしての少子高齢化対策のための『保教育課』を設置しなければ先へ進めないということだったと思います。もちろん、『保教育課』の中には、副題に説明したように、男女共同参画の推進機能も含めば、高齢者の活力の回復機能も含みます。ボランティアの発掘・活用の機能も、学校のコミュニティ・スクール化機能も含みます。少子化対策が複合問題である分、その対策も複合的にならざるを得ないからです。

3 「幼児教育課」(鳥取県大山町)の衝撃 −『少子対策保教育課』の仕事−

  簡潔に申し上げれば、「保教育」の仕事は「保育」と「教育」の同時遂行です。いまだその衝撃の大きさは自覚されていないと思いますが、鳥取県大山町における「幼児教育課」の創設は子育て支援機能を複合化:「コンビニ」化できる第1号です。ようやく福祉機能と教育機能の一元化が始まったことを意味しています。特に、幼児期の子どもの発達支援は行政の担当部署がなんと強弁しようと、保育と教育の役割を分けられる筈はありません。当然、幼児期の子育て支援の方法は年齢の垣根をとっぱらい、「幼稚園」と「保育所」を一体化した「幼保一元化」構想です。目的は「養育の社会化」です。進行中の少子化傾向を少しでも抑制するため、保護者の子育てをできるだけ社会が肩代わりしようというものです。
  幼児教育課を機能させるためには、もちろん、これまでばらばらに仕事をしてきた幼稚園教諭の保育研修、保育士の教育研修は共に不可欠です。仮に、大山町が乳幼児の預り時間を可能な限り弾力化した「保教育」のプログラムを実施することができれば、保護者の子育て負担と不安は大幅に軽減することが出来ます。また、学童期の子育てについては、学校の放課後と休暇中に「学童保育」と教育分野の「健全育成」プログラムを統合した「保教育」のプログラムを学校施設を活用して実行することです。鍵は毎日行われる「学童保育」に教育的な活動プログラムを導入することです。そうなればプログラムの指導者が不可欠になります。これまで学童保育を担当してきた少数の人々の勤務を再編成しなければなりません。従来の限定された「子守り」(見守り)の機能から、子どもの成長と発達を見据えた「活動の企画と展開」の機能を引き受けてもらうことになります。「学童保育」の正式名称は児童福祉法の第6条で「放課後児童健全育成事業」となっている訳ですから、教育委員会に統合しても法の精神の上では全く違和感はないはずです。もちろん、表記の担当課は首長部局に置いたとしても全く問題はありません。要は、何のために、どこが何をするかを明示した行政部局の確立が重要なのです。為すべきことは長い「副題」のとおりです。当面は、教育行政も、男女共同参画行政も、児童福祉行政もこの問題だけに取り組めば十分役割を果したことになると思います。行政機能の統合の波及効果は大きいでしょう。幼稚園教諭と保育士の機能を統合できます。「保教育」概念で説明すれば、幼稚園は保育所をかね、保育所には教育的発想に支えられた活動プログラムを導入することが出来ます。
  学童期の場合は、従来のいわゆる「学童保育」に教育及び集団活動のプログラムを導入することができます。学校を拠点とした放課後や休暇中の「保教育」システムができれば、「安全の確保」と「発達支援」の効果を同時に発揮して「学童保育」事業に倍加する「保護者支援」効果が得られると思います。
  その時、財政的にも、従来の内容に比して必ず「費用対効果」の効率性も向上します。住民の中から子どもの指導をお願いできる「有志」の「指導者」を発掘・登用できれば、ご本人はお元気を取り戻し、結果的に医療や介護の経費の削減に繋がります。また、子どもと高齢者と保護者の交流は活性化し、地域の活力の向上に繋がると思います。是非、お試し下さい。

4 事業展開の拠点は「学校」です

  少子化が続いて人口が縮小すれば、女性の応援を得なければ日本の経済は支えられません。女性の就労が進めば、子育て支援を充実しない限りますます少子化は進むことでしょう。少子化と男女共同参画は当然連動しているのです。女性が就業すれば、当然従来の「学童保育」の拠点は手狭になります。これから「保育」拠点が不足し、増築などのお金の要求が出て来ると思いますが、財政難の折から、決して予算は付けないで下さい。税金の無駄だからです。地域には必ず公共施設としての学校があります。学校こそが子育て支援の最適の拠点です。理由はすでに何回も書きましたので省略します。しかし、学校施設の開放は決して簡単ではありません。教育行政も教職員もその重要性をいまだお分かりになっていないからです。それゆえ、優れた教育長が子育て支援に噛むことの意味は極めて大きいのです。
  学校がたとえ消極的にでも地域の子育て支援に関わるようになれば、学校と地域との協力関係は飛躍的に向上します。結果的に学校の役にも立つのです。
  まちづくりのリーダーは基本的に首長であって、教育長ではありません。従来の生涯学習まちづくりは基本的に住民の学習促進の論に終始し、一時的な「フェスティバル・祭」の類いは作りましたが、少子高齢化のような地域が当面する複合問題解決の具体的な役には立ってはおりません。現行の分業システムでは、少子化対策も高齢者の活力保全も基本的に一般行政の責任であって、教育行政の任務ではありません。それゆえ、教育や子どもの活動を絡めて少子高齢化対策を進めるためには生涯学習を首長部局へ移管することも政治の意志を明確にする一つの手段なのです。
 

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