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生涯学習通信

「風の便り」(第52号)

発行日:平成16年4月

発行者:「風の便り」編集委員会


1. 「学力」を巡る自問自答/学力の周辺

2. 地方政治の2大条件:「介護の社会化」による財政破綻と「養育の社会化」の欠如に伴う「少子化」の進行

3. 変化は「飛躍」する:「アンケート調査」の修正

4. 定年者の「地域帰還」歓迎オリエンテーション−新入生歓迎クラブ説明会のように!−

5. 第45回生涯学習フォーラム報告:「学力」とはなにか?「学力」向上の方法とはなにか?

6. お知らせ&編集後記

地方政治の2大条件:「介護の社会化」による財政破綻と「養育の社会化」の欠如に伴う「少子化」の進行

久々に珍しい友人が訪ねてきた。市会議員である。合併に伴う選挙が近いのである。多くの地方議員の反対を予想して国は合併後2年は議員の身分を保証する特例措置を講じた。しかし、2年の歳月などはあっという間に過ぎる。特例の救済措置が終われば、次の選挙は多くの議員が落選する。
合併に伴う議員の処遇の特例は異常な事態を発生させる。納税者の日常感覚とは懸け離れた処遇だからである。合併する市町村の数と規模によっては100人を越える議員数になる。学校の体育館でも借りなければ議会も出来まい。時には合併予定自治体の最も歳費の高いところに基準を合わせる。合併のための非常措置とはいえ、2年間の歳費の大盤振る舞いは何たる税金の無駄か!議員の甘えが露見し、常識が疑われる事態である。合併特例の議員の身分保証を当然としている地方議員に官僚システムの無駄を批判する資格などはない。
最近ではあまりの浪費に気付いた住民の声が厳しくなり、最初から議員数を制約する合併案も出てきている。当然の事ながら喜ばしい。


◆地球の視点とコミュニティの政策−「日経グローカル」創刊(4月19日)の精神−

  友人との議論は我が持論である生涯学習の窓を通してみた社会システムの構造改革論に行き着く。私が立候補するなら宣言書の中身はこうなる。以下はわが想像上の「立候補」宣言である。折しも日本経済新聞社は「日経グローカル」を創刊した。視点は地球的(グローバル)に、具体策と行動は日常の生活圏でローカルに、ということであろう。地方議員も世界を考えなければ、日本の課題は見えない。しかし、役割は地方の課題の解決である。あくまでも具体的に、あくまでも課題志向で活動するしかない。議員も「グローカル」で、ということになるだろう。


◆議会情報の公開と議員の説明責任                                 

  立候補宣言は「議会レポート」の創設宣言で始める。「風の便り」を書くと同じように「議会の風」を便りにして定期的に市民に公開する。市町村の議会便りがまさに退屈の象徴であるのは論理的な「批判と創造の精神」が欠如しているからである。
  もちろん、特定の政治的党派に所属すれば、政治レポートを書くのもそれほど難しい仕事ではない。党の方針を書き、党活動を紹介することが中身になるであろう。党の支えもあり、事務局の援助も受けることができる。しかし、組織に依存しない個人の議員が活動レポートを出し続けることは口で言う程簡単ではない。レポートを出す以上、書くことがなければ書けない。書くことがあっても表現力を磨かなければ、市民には届かない。書くことは勉強と批判力と表現力が必要で更に継続のエネルギーを要する。一度書いたことは記録として後に残る。地方政治家が市民への説明責任を果たし、己の言動に責任を持つためには活動レポートを書くことが一番である。この点は佐賀県川副町の白倉和子議員が先輩である。マスコミばかりが「知る権利」を振り回すが、記者クラブでの発表を真に受けているようでは政治についても、政治家についても、十分に「知らせる」ことにはならない。市民が政治に関心がなく政治家を信頼していないのは、彼等のニュースがスキャンダル以外には何もないからである。特に、個々人の活動の中身が分らない地方議員には「知らせるという説明責任」があるのである。
 


◆必需品は「衣食住学」                                      

  従来の必需品は「衣食住」であった。高齢社会?少子化社会の必需品は「衣食住学」である。「学」は生涯学習・生涯スポーツを意味する。必需品は、行政の中ではライフラインと呼ばれる。高齢社会が到来し、さらに男女共同参画が進むと「介護予防」と「少子化対策ー子育て支援」が不可欠になる。二つの課題は従来の「衣食住」政策では対応が出来ない。高齢者にも、学校外の子どもにも、生涯スポーツや生涯学習が不可欠になり、ライフラインの範囲が広がったのである。二つの課題は現行の行政上の分業では厚生労働行政の「福祉」の担当ということになる。しかし、現行の福祉行政のあり方では「介護予防」は解決出来ない。「子育て支援」も解決できない。福祉行政には教育・学習の発想と機能が欠落しており、教育・スポーツ分野の経験も蓄積も少ない。新聞発表で見た厚生労働省の介護予防プログラムには「痴呆予防教室」とか、「転倒予防教室」とかいう表現があった。まさかこのような名称で教室を展開するつもりではないだろうが、どちらも生涯スポーツや生涯学習の発想がなければ効果的な活動はあり得ない。しかし、見聞の限り、どこにも福祉と公民館をドッキングして課題に取り組もうという発想は存在しない。公民館の側にも福祉と連携して生涯スポーツや生涯学習のプログラムを開発しようという姿勢はない。
  子育て支援も似たような消極的保育に限定してきた。「学童保育」がその典型である。教育と連携する発想がないのでまず学校施設はほとんど活用できていない。文部科学省が打ち出した子どもの「居場所づくり」政策も似たようなものである。「居場所」の発想にも、学童保育の発想にも積極的に活動プログラムを開発したり、少年集団を育成する工夫が著しく不足している。何より具体的な場面で子ども達に接する「指導者が足りない」。福祉行政には市民のボランティアに協力をお願いする発想も、経験もすくない。前号でも論じたことだが、行政は未だに子育ては家庭の責任であるという発想に縛られている。介護予防にしても、少子化対策を視野に入れた子育て支援にしても、行政は問題の本質が分かっていないのである。


◆ 地方選挙の第1課題−財政破綻を回避できるか                        
熟年の活動促進、健康増進プログラムの創造

  介護の社会化は地方財政の死命を制する。昭和20年生まれの地域帰還まで後2年である。ベビーブーマー世代は昭和23年組から始まる。今でも赤字なのに大量の熟年が定年になる頃には「介護」の仕組みは破綻するであろう。厚生労働省は20年後の社会保障負担は現在の2倍、155兆円になると試算した(日経'04.4.28)。
  地方財政の破綻回避のキーワードは熟年の「健康」、「活動」、「生き甲斐」である。解決策は生涯スポーツと生涯学習にある。福祉と生涯学習のドッキングが不可欠になる所以である。公民館は「デイケア・センター」に、「デイケア・センター」は公民館にならなければならない。老人憩いの家は「公民館とボランティア・センター」をかねるべきであろう。中央政府の縦割りは変わらなくても地方自治体の縦割りは「プロジェクト方式」の導入によって総合的・統合的・ゲリラ的アプローチが可能である。首長が問題を理解していないのであれば、「介護予防」施策における福祉と教育を統合する行政改革提案こそが市会議員の任務である。


◆地方選挙の第2課題−学校施設と子育て支援機能の統合                 

  学校施設を開放して、放課後および休暇中の子育て支援・活動プログラムを拡充することは緊急の課題である。子育て支援を実行するため、地方政治は学校を生涯学習施設と認定し、子どもの活動のために放課後や長期休暇中の学校施設を開放させることから始める。これ以上文科省の悠長な決断を待つわけには行かない。学校は子どものために設計された施設であり、現状では最も安全で、活用にあたってもっとも経済的・効率的な施設・環境だからである。
  子育て支援における教育と福祉の統合は、結果的に、男女共同参画を推進する。子育ては「崇高な営み」であったとしても、女性の社会参画を妨げているのは子育ての困難と子育てに要する時間とエネルギーである。少子化が止まらないのも、現代の家族が「崇高な営み」の負担に耐えられないからである。現状では、「変わりたくない男」が女性と育児の苦労をわかち持つ気配はわずかである。それゆえ、少子化に歯止めをかけ、女性の社会参画を保証するためには、現状のレベルを遥かに越えた「養育の社会化」が必要になる。舌足らずの小論では、誤解を招くことを恐れるが、「風の便り49号」に書いた通り、「養育」の困難こそが女性と少年の複合課題の主たる要因だからである。「養育」を社会が引き受けることは、地域の教育力を回復する具体策であり、少年の危機の処方箋であり、男女共同参画を推進する政治課題であり、少子化防止の一助である。
  少子化対策でも、子育て支援でも、女性の社会参画の推進でも、課題の状況は、すでにこれ以上、「変わりたくない男」が変わることを待つ余裕はなくなっている。「女子は半天を支える」とは社会構成上の事実であるが、当然、選挙も女性が半分を支えている。にもかかわらず、共稼ぎの家庭であっても家事と育児は女性の肩にかかっている。女性の状況を理解する能力のない候補者は議員になるべきではない時代である。
多くの議員は女性の活躍する場を作ると公約する。しかし、何を、どのように作るのか?子育て中の女性には、社会的に活躍できる条件・状況はもとより、時に病院、美容院に行く余裕すらない。「養育の社会化」こそが選挙の第2課題である。

 

◆環境保全と産業振興                                          
 

  財政力の獲得には産業を振興しなければならない。しかし、市民は公害や乱開発には厳しい。環境を保全できなければ、産業の立地は許されない。未来の産業振興は環境の保全と両立させることが不可欠である。みどりと水に代表される自然は鍵である。地域の雇用能力の向上に繋がる企業の誘致も大切であるが、外部資源の導入と同時に、地元の自然、歴史、文化の産業化の視点も不可欠である。友人はまちの海岸線と漁業を生かして、"グリーンツーリズムならぬ『ブルーツーリズム』はどうでしょうか、と言う。まさに達見である。地方は自らが築いてきた歴史や自然条件だけに頼ろうとするがそれだけではまちづくりは出来ない。「ないもの」は「発明する」のである。江戸時代の加賀藩が京の都の様々な職人を移住させて新しい加賀文化を創造したように、地元に「ないもの」は外から移植してもいいのである。『ブルーツーリズム』の概念はまさに「発明」に当たる。彼のまちは古代史の宝庫である。海女の発祥の地であり、万葉集の歌枕の地である。弘法大師が当時の中国から帰国して寺を建立した地であり、神郡と呼ばれる神社の社領でも名高い。種田山頭火の愛したまちでもある。生涯学習は今、かつての「ユースホステル」運動に倣って「エルダーホステル」の旅を売り出し始めている。近隣にも大分県安心院町や福岡県立花町のように優れた「グリーンツーリズム」の先例もある。各地で始まった小泉「特区」構想はすでに324件である(日経4/22社説)、という。これらの実験を参照すれば、まだまだ知恵は湧いて来る。研究者としては地方議員の発想を聞きながら地方公共政策の勉強会を始めたいものである。筆者が提案している生涯学習の構造改革は教育行政の手には負えない。地方の政治家が理解してくれれば少しは前に進む。どこか議員研修で提案を聞くところはないか?議会事務局が議員研修のアレンジをしているのであろうが、そこがまた勉強が足りないのであろう。

 

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