合併戦略の方向
統合−焦点化−ネットワーク
広島県の二つの郡の社会教育の関係者の研究会にお招きをいただいた。テーマは「市町村合併と生涯学習の展望」である。どこにもモデルはない。関係市町村の社会教育関係者が自ら知恵を絞って努力するしかない。以下は編集者が考えた準備作業の提案である。
「施策調整会議」の設立と鳥瞰図の作成
合併は単純な「足し算」ではないが、「足し算」から出発するしかない。施策も、人事も、予算も、施設も先ずは足し算である。それは生涯学習も男女共同参画も同様である。それゆえ、社会教育や女性政策の関係者は公式、非公式を問わず、想定される合併対象の市町村の同僚と計らって当該領域の「連絡調整会議」を作らなければならない。生涯学習であれば、「生涯学習施策連絡調整会議」であり、女性政策であれば、「男女共同参画施策連絡調整会議」である。「会議」の最初の任務は、生涯学習や女性政策の施策の鳥瞰図の作成である。どこの町で何をやっているのか?対象はだれか?中身と方法は?回数・頻度、利用施設は?予算と住民の負担は?新しい施策の立案根拠は何か?
2 「調整会議」の作業内容
「調整会議」の作業内容を箇条書にすれば、以下のとおりであろう。
(1) 現状施策一覧の作成
−プログラムの数量、目的、対象、内容、方法、場所、予算など
(2) 生涯学習や男女共同参画プログラムのサービスマップの作成
(3) 「公平」・「機会均等」の観点からサービスマップの点検
重点施策の協議と決定
(4) 「関係施設ネットワーク計画」の作成
(5) 「関係施設職員配置計画」の作成
(6) 新施策・プログラムの「広報計画」の作成
当然、生涯学習の中には学校を含める。学校の非効率こそが財政的には最大の問題となる。学校は労働集約的産業であり、人件費の節約、施設の効率的経営は避けて通ることはできない。学校の「コミュニティ・スクール化」、「学校の統合」、「空き学校・空き教室」の活用こそが最大の課題になる。これらは生涯学習に密接不可分に関わる問題であるが、恐らくは社会教育がさわることのできない課題である。ここにもまた、「教育委員会」と「社会教育委員の会議」が二本立てになっている行政上の障碍がある。
鳥瞰図作成の目的
合併の目的は「節約」と「効率化」である。この2点を欠けば合併する意味はない。地方財政は苦しい。どのように言葉を飾ろうと、財政が苦しい中ですら、現行システムは的外れと放慢と非効率を多く抱え込んでいる。もちろん、的外れと放慢と非効率は教育以外の分野にも多く見られるが、だからと言って教育分野が免罪になるわけではない。それゆえ、生涯学習施策の鳥瞰図作成の目的は3点である。第一に施設や事業の統合、第二は事業や施設の焦点化、第三は利用者のための拡大ネットワークの創設である。それ以外に「節約」と「効率化」の道はない。
三つの危機対策と一つの実験
地域社会は三つの危機と一つの実験に当面している。三つの危機とは、これまで論じてきた「少年の危機」、「熟年の危機」、「男女関係の危機」である。「男女の危機」は少子化や老老介護に象徴される。進行中の実験は外来の「ボランティア」思想を日本という異なった文化土壌へ移植することである。これらの危機は各地に共通する一般論であるが、合併によって対策に偏りが生じれば、危機が不公平に分散する。それが公平と機会均等の問題である。
合併が揉める最大の理由は合併によって陽の当たる地域と当たらない地域が発生するのではないか、という不安を払拭できないからである。大きな町が、小さな町を吸収する時、上記の心配は具体的なものとなる。一極集中は日本の都市の特性だからである。しかし、商業やエンターテインメントの分野と異なり、生涯学習も男女共同参画も施設のネットワーク化を図る事によって学習や参画の機会を均等化することは不可能ではない。各市町村が開発した事業も「アウトソ−シング」や「出前」の方法によって、相互の補完・交換が可能である。事業やプログラムの基準は最も進んだところへ合わせればいい。問題はそのことが実現する人事が出来るか否かである。
「降格」を認めない人事の障碍
議員の任期の延長を特例として2年間認めたのは合併によって議席を失うことになれば議員が合併に同意しないからである。議員の過剰は2年間の猶予によって解決できるが、公務員の人事は定年によって余剰人員が退職するまで解決することはできない。また、公務員の人事は理由なくして「降格」を認めない。したがって、4つの町が一緒になれば、それぞれの分野の教育長ポストも、課長ポストも原則として一つである。組織の効率化が合併の目的であることは明らかであるからである。しかし、事はそれほど簡単ではない。残りの3人の課長の行き場をどこかに新しく発明しなければならないからである。大量のポストを発明できる分野は通常多くの施設を抱えている社会教育である。おそらく、もって行き場のない「課長」の多くが公民館を初めとした生涯学習施設の館長として発令されることになるであろう。彼らに生涯学習や男女共同参画事業の経験がない時、生涯学習施策は彼らの「無知」の分だけ停滞せざるを得ない。施策の基準は最高水準のところがリードすることになるが、問題は具体的な実行の段階である。生涯学習の役割が何も分かっていない管理職が座った時、危機の度合いは増幅される。部下も可哀想であるが、税金を払っている市民は踏んだり、蹴ったりである。
当分は合併に伴う研修を強化するしかない。
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