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風の便り

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生涯学習通信

「風の便り」(第47号)

発行日:平成15年11月

発行者:「風の便り」編集委員会


1. コミュニケーションの原点−「発表会」を問う

2. 品質管理の思想

3. 「不登校」の処方箋

4. 第40回生涯学習フォーラムレポート

5. MESSAGE TO AND FROM

6. お知らせ&編集後記

第40回生涯学習フォーラムレポート

   第40回生涯学習フォーラムはいつも会場としてお世話になっている福岡県立社会教育総合センターの20周年の記念事業に参加することになった。特別プログラムはシンポジュームである。

テーマは「今こそ、体験活動の質と量を問う」である。今や体験ブームであるが、状況を見ればまさしくその「質と量」こそが問われるべき課題である。「質と量」を問えば必然的になぜその質を問題にするのか?なぜその量を問題にするのか?が問われる。そうなれば目的も、方法も問わなければならない。タイトルの選択は事務局の慧眼であった。

登壇者は大村璋子さん(環境デザイナー、世田ヶ谷プレイパークの創始者)、今井佐知子さん(大留蒲鉾取締役)、やまぐち子育て県民運動協議会会長、 日P会長)、正平辰男さん(東和大学教授)の三名。司会は三浦清一郎(社会教育・生涯学習研究者)である。

   話題は極めて多岐に渡ったが、筆者の関心の範囲でまとめれば次のようなことであった。

1   親には育成責任、製造責任があるが、その責任が十分に果たされていない。「子宝の風土」の親はいつでもそうである。特に、驚くには当たらない。問題は自分の子の「生きる力」の衰退に気付かない事であり、気付きながら助けを求めない事である。

2   現象的に「生きる力」は遊びや生活の基本技術・態度に現れる。それゆえ「遊育」が必要であり、「生活育」が不可欠である。今井さんは「蒲鉾作り」で、大村さんは「遊びを作れるプレイパーク」の実践で、正平さんは庄内町「生活体験学校」でそのことを確認している。プログラムのルールに従わない子どもは参加を拒否する。言って聞かせれば分かる時もあれば、言って聞かせても分からない時もある。言って聞かせただけで分かる子もいれば、そうでない子もいる。参加者の層によって生活やプログラム参加の前提となる基本能力が異なっている。志願してきたものは相対的に基本能力は高い。したがって、志願率が高まれば、基本能力にばらつきが出て来る。全員を引き受ければ、「少年の危機」のすべての問題が出て来る。

3   「子どもにとって遊びは生活である」と大村さんは言う。同じように、暮らしもある意味では遊びにできる。「生活体験学校」は遊びと暮らしの混合である。その暮らしの基本ができていないと正平さんは指摘する。したがって、子どもの自主性になど頼ってはいられない。「他律」から始める。他律の中で、次は「どうしたらいいと思う?」と、「自律」を促す。今井さんも両者をミックスして活用すると言う。プログラムへの参加は「納得と合意」が前提である。そこから外れれば「帰りなさい!」と言わなければならない。

4   子どもの指導にはそれぞれの信念がある。信念がなければ出来ない。子どもも指導者も最後の拠り所は自分の信念である。会員数1,100万人の日Pの組織でも同じだったと今井さんは言う。大村さんのプレイパークもそれぞれの賛同者の熱意が支えている。恐らく、生活体験学校も、「他律」8割、「自律」2割ぐらいであろうか?現代の「お子さま文化」にもかかわらず、指導者の指導意志が貫徹している。「他の子どもの体験の邪魔をするな!」、「ここは学校じゃないんだ」という今井さんの啖呵が小気味いい。しかし、学校では何と言うのだろう。「ここは家じゃないんだ!」ぐらいが言えたら合格であろうか?

5   遊びは「手順」を問わない。継続の責任を問わない。結果の成否も問わない。子どもの挑戦を遊びから始めるのは当然である。楽しみと主体性の素材は生活のあらゆる場面に遍在している。要は、本人の発想と指導者の工夫である。子どもの共感やエネルギーを成長のプログラムに組み込むことこそ体験プログラムが問われている課題である。失敗もいい、成功はもちろんいい。遊びもいい。仕事もいい。他律も必要で自律も不可欠である。そのためにはプログラムにおける体験の一定の量、一定の質が問われる。シンポジュームはそのことを再確認した。しかし、想定されるプログラムの「質と量」についての分析は必ずしも十分ではなかった。各論の具体的追求は異質の登壇者を招いたシンポジュームの形式に馴染まないのかも知れない。次は同質の登壇者の間で「質と量」の議論をしてみたい。

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