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生涯学習通信

「風の便り」(第37号)

発行日:平成15年1月

発行者:「風の便り」編集委員会


1. ある小学校への提案(1) 保護者調査 −「どんな子どもに育てたいか」

2. 保護者調査 −「どんな子どもに育てたいか」 続き

3. 保護者調査 −「どんな子どもに育てたいか」 続き

4. 第31回生涯学習フォーラム報告 「小学生を対象とした英語教育」

5. MESSAGE TO AND FROM

6. お知らせ&編集後記

ある小学校への提案(1)

保護者調査 −「どんな子どもに育てたいか」

1   振り向いた「学校」

   いよいよ福岡県教育委員会は、全県に、学校の達成度評価を導入する。生涯学習フォーラムで「評価」の問題を論じた時には、学校の自己評価、外部評価はほぼ絶望的であると書いたが、予想よりずっと早く実現した。嬉しい誤算である。構造改革は「上から」か、「外から」しかできない、と指摘をしてきたが、教育委員会の決意は思ったより何年も早い。学校への評価の導入は、子ども達のため、何にもまして目出たいことである。

   筆者は約1年前から、ある小学校のご依頼で少しづつ当該学校が引き受けたモデル事業の実施に関わって来た。失礼な言い方になるが、私の提案は、設計図に過ぎない。実際の施行・組み立ては学校側の御判断と実行力の如何にかかっている。これまで数々の教育的実践に関わったが、市民と一緒にやったものはほぼ成功した。中国・四国・九州地区の生涯学習実践研究交流会も、現在の生涯学習フォーラムも成功した。「宗像市民学習ネットワーク事業」、「釣川流域環境整備ボランティア事業」、「むなかた自由大学の創設」、三年間にわたった「離れ島キャンプの実験的研究」もできた。これに比して、学校とのかかわりはすべて、中途半端で失敗した。ライフワークとして取り組んだ大学改革の結末は悲惨であった。こうした経験から教員と学校というものの体質を知っている分だけ、はじめからそれほどの期待はしていない。学校は「酸っぱいぶどう」である、と思い定めた。届かなくても仕方がないか、思うようにした。人生を落胆や期待外れで暗くするのはもったいない。失敗の経験を通して、落胆の衝撃を緩和する術を身に付けたということである。しかしながら今回は、この小学校の皆さんのおだてに乗せられ、熱意にほだされて、またまた、性懲りも無く一連の「設計図」を書き上げて、学校へお送りした。その後は、しばらく音信が途絶えた。”やはり学校だよ、簡単にできるわけは無いさ”と教え子に愚痴ったものである。

   ところがである。数カ月ののちに、提案した「設計図」は学校の審議のテーブルに乗せられ、その幾つかはすでに実施したと便りが届いた。少年の日に、遠くから眺めるだけで、諦めていた好きな女の子が振り向いたような心境である。ここに先ずは保護者調査の「設計図」を報告する次第である。

2   どんな子どもに育てたいか?

    学校は保護者の付託を受けて初めて学校である。保護者の信頼を失えばすでに学校であって学校ではない。保護者の信頼を失って、形骸化し、保護者が教員の一挙手、一投足を監視するようになった「学校」は「学校もどき」であって学校ではない。学校は保護者の中に出て行くべきである。学校はいつでも、どこでも、保護者の来校を歓迎して、授業の参観をお願いすべきである。「どんな子どもに育てたいか」は原則として保護者が決めることである。学校はその支援者であり、時に助言者になるに過ぎない。ところが、学校の多くは「指導要領」や組み合いの方を向いていて、保護者を向いてはいない。学校の改革は保護者の理解と協力なくしてできるはずはない。

   学校には学校の教育方針があるが、それは保護者の願いと重なっているのか?保護者との連携は保護者の声を聞くところから始めなければならない。

3   保護者の願いは多様であった。

   多くの調査は、調査者にとっても、回答者にとっても、同時に「学習」である。調査用紙に回答を書込む過程で保護者は改めて、自分の子育てを意識化し、学校の方針を理解する。教員にとっては、そのような調査票を作成することが指導目標を意識化することに役立つ。調査票の作成、調査票への回答、結果の集計はそれぞれ教育活動にとっての教材となるのである。

    今回の調査は、さすが学校と保護者の関係である。調査の回収率は96.875パーセントであった。回答しなかったのはわずか三世帯に過ぎない。選択された数値が示しているように子育ての目標は分散している。多様化の時代なのである。

A   子育て目標の多様化

   圧倒的に重視されているのは伝統的な発想「気はやさしくて力持ち」である。選択肢は自由記述も含めて15項目である。上位5つの子育て目標は以下の通りであった。(調査票モデルは省略)

1  健康で体力のある子 23.2%

2  ひとにやさしくできる子       20.3

3  自分の意見がきちんと言える子  9.4%

4  自分のことは自分でやろうとする子      7.6%

5  感謝の気持ちを表せる子        7.2%

 

4   保護者の言行は必ずしも一致せず

     −家庭教育、家庭における重点指導の現状調査−

   わが子の子育て目標に照らして、家庭はどのような指導に力を入れているのか?指導の内容・方法は、各家庭が「育てたいと考えているわが子」の目標と一致しているのか?調査結果は、学校と家庭の指導上の連携に活用し、特に、学校から家庭にお願いする「重点指導」の根拠とするための調査である。

   指導の内容・方法は、各家庭が「育てたいと考えているわが子」の目標と一致しているのか?結果は、家庭の教育努力は「言行必ずしも一致せず」、であった。方法論の多様化も、目標の多様化と軌を一にしている。保護者は率直かつ正直である。「どんな子どもに育てたいか」;保護者の希望と期待は日常の指導のさらなる彼方にあると考えるべきかもしれない。日常の指導は「当たり前」のこと、子どもに託す希望は「願わくば」のことである。以下は結果の概要である。

B  目標と手段の整合性

1   子育ての目標と指導内容・方法が

   「一致している」、と考えられる家庭  2.2%

2  「大体一致している」、と考えられる家庭 16.7%

3  「あまり一致していない」と考えられる家庭 58.9%

4  「一致していない」と考えられる家庭 22.2%

C  保護者が選んだ上位5つの指導重点事項

1  自分のことは自分でやらせる   17.3%

2  ものは大切に使わせる  13.3%

3  世の中の決まりを教える        9.9%

4  家族を大事にさせる     7.8%

5  きちんとした言葉使いを教える 7.6%

   体力も、感謝も、がまんも、友だちも、勉強も上位には出て来ない。これらは学校の担当となるか?

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