HOME

風の便り

フォーラム論文

編集長略歴

問い合わせ


生涯学習通信

「風の便り」(第36号)

発行日:平成14年12月

発行者:「風の便り」編集委員会


1. 「危機」を「危機」としない 2002年の総括

2. 「武器」としての概念

3. 365キロの日課  −生涯スポーツの効用−

4. 第30回生涯学習フォーラム報告

5. MESSAGE TO AND FROM

6. お知らせ&編集後記

第30回生涯学習フォーラム報告

 「土曜日の教育力」

   今回のテーマは学校週5日制に伴って議論が始まった「土曜教育力」である。
たまたま発表者の森本精造さんや重松社会教育センター長の知人の多田元樹さんがは
るばる千葉県から飛入り参加されることになった。多田さんは「学校支援ボランティ
ア」の仕掛人である。千葉県木更津市を拠点として1000名近くの教育ボランティ
アを組織し、しかも機能させたという”達人”である。せっかくの来福を機会に、手
がけられた事業の研究発表もお願いすることになった。折から福岡県飯塚市で人材派
遣事業に取り組んでおられる今中兵一さん、長崎県壱岐の島で「タフな子どもを育て
る」小学校のモデル事業を実践中の三浦小栄子教頭なども初めてのご参加で論議に花
が咲いた。師走の押し詰まった土曜日だというのに第30回記念研究会は満席となっ
た。
   恒例の忘年会は、遠くからお出でになる方々を配慮して金のかかる外部の宴席
を取り止め、それぞれに食べ物、飲み物を持ち寄る「ポットラック・パーティー」の
形式にした。結果は成功であったろう。センター食堂の支配人さんからも焼き立てパ
ンの差し入れもいただき心暖まる、豪華な忘年会になった。御欠席の皆様にも是非お
見せしたかった風景である。
  事例発表は穂波町で、「いきいきサタデー・スクール」を試行されて来た、同町
教委の上尾輝夫さん、森本精造さんと、上記の「学校支援ボランティア」を手掛けら
れた千葉県教育庁の多田元樹さんであった。。論文参加は「土曜教育力ー活動選択肢
の充実と少年における生涯学習格差の拡大ー」(三浦清一郎)である。「いきいきサ
タデースクール」の資料については穂波町教育委員会、「学校支援ボランティア」に
ついては、福岡県立社会教育センター事業課までお尋ね下さい。



   1   なぜ「土曜スクール」か?

   土曜日の自由時間を、「充実」のための「ゆとり」と想定した以上、教育行政
は「土曜プログラム」を準備するのは当然の措置であろう。従来の、学校の時間を削っ
た上で、なお、「ゆとりと充実」の学校5日制というのであれば、「ゆとり」が「充
実」に繋がる方法論を提示しなければならない。家庭と地域で「勝手にやってくれ」
と言うだけであれば「ゆとりと充実」のスローガンはほとんど詐欺に近い。
   穂波町の「いきいきサタデースクール」の特徴は、いまだメニューが制約され
ているとは言え、プログラムの選択制にある。余暇活動である以上、この点が学校カ
リキュラムとの最大の相違点である。学校のカリキュラムは、退屈であろうとなかろ
うと、社会の視点から構成される。学校外のカリキュラムは、主として、子どもの興
味関心の視点から構成されるべきであろう。それゆえ、「いきいきサタデースクール」
も、最終的には、子どもの注文に応えなければならない。現状の親や子ども会の実力
ではそこまでの対応は出来ないからである。教育行政が、公費を投入してまで「土曜
プログラム」を実施する意味は、第一に「モデルを提示すること」、第二に、「『格
差』の拡大を防止すること」である。人口の少ない地方都市では、メニューの”バイ
キング化”はほとんど不可能であるからである。
   全国的に子どもの人気を集めているプログラムを収集すれば、オーダーメイド
の見本メニューの作成はそれほど難しいことではあるまい。むかしから子ども達は、
「未知」のことに心を震わせる。冒険が好きで、探険が好きで、採集が好きで、仲間
との交流が好きである。もちろん、現代のやわな子ども達に、一気にこれらの事はで
きまい。「いきいきサタデースクール」の活動はその準備期間であろう。準備が整っ
たら、準備が整った順に、「奥山のキャンプと渓流の釣り」や「海辺の探険と無人島
への挑戦」や、他人の飯を食いながらの「ボランティア」への挑戦など、首都圏のク
ラブや私塾がやっているようなプログラムを受益者負担と公費補助を混合しながら提
示して行くべきであろう。

2   生涯学習格差の急拡大

   自由は格差を拡大する。これは自由の法則とでも呼ぶべき現象である。経済格
差も、余暇時間の格差も、選択能力の格差も、生涯学習格差を拡大する。時間の消費
の質は、子どもの人生の質に直結している。かくして、土曜プログラムは、必然的に、
格差を拡大する。土曜の塾も、フィットネスクラブも格差を拡大する。当然、「いき
いきサタデースクール」も、それを選んだ者と選ばなかった者との格差を拡大する。
危険性に気付いた親は子どもに自衛させる。それが塾の盛況に繋がり、フィットネス
クラブの繁栄に繋がっている。当然、格差が発生する背景には、保護者の危機意識の
程度、自覚の程度の問題がある。経済格差も、余暇時間の格差も、選択能力の格差も
大きな違いではあるが、「少年の危機」に対する自覚の違いが最大の違いである。自
覚がなければ対応策を考えないからである。親の自覚は、子どもが享受するプログラ
ムの格差に連続しているのである。教育は際立って「親の因果が子に報う」のである。


3   教育力の不在はプログラムの不在


   保護者が社会的に不利な条件におかれていれば、子どももそのとばっちりを受
けて社会的に不利な条件の中で成長しなければならない。しかし、保護者の方の社会
的・心理的条件を均等にせよといっても、それはそもそもが無理な話である。問題は
子ども達を、向上させるプログラムの不在である。具体的なプログラムがなければ、
子ども達は変わらない。日本の教育指導者は、子どもがおかれた「社会的に不利な条
件」の比較をすることを止めて、なぜ自らが教師として指導プログラムを提示・実践
しないのか?向上のプログラム無しに、いくら子どもがおかれた状況を論じたところ
で、子どもが学ぶ筈はないのである。「補習」であろうと、「適性指導」であろうと、
「適応指導」であろうと、内容と方法を伴った実践をしなければ、子どもの変革には
繋がらない。相変わらず一部の教師たちが、子ども達の「格差」の存在を教育行政の
責任であるとして、指摘するという。教育行政の責任者である森本さんは、”恵まれ
ない子ども達がいることは分っている。なぜ、あなたがたは、そうした子ども達の指
導の効果を上げることで教育の勝負をしないのですか?”、と反論する。要は、指導
プログラムも、指導の力量も、貧困なのである。森本さんの反論は正論である。


4   学校支援ー言うは易く、行なうは難し


    多田さんの報告をお聞きしていると「学校鎖国」の時代が終わったかのよう
な錯覚に陥る。しかし、報告後の議論からも推察しうるように、「学校鎖国」、「学
校自己満足」の時代はほとんど変わってはいない。そのことを忘れさせるくらいに木
更津市の実践は質量/規模共に抜きん出ていると言っていいだろう。市民ボランティ
アは約1、000名。この方々の支援活動は、市内全域31の小中学校に配置された
ボランティア・コーディネーターによって調整される。彼等コーディネーターもまた
ボランティアである。
   活動は、「環境整備支援」と「教育活動支援」の2領域に分類される。前者は、
学校のカリキュラムとは関係がない。当然、特別な知識や技術も要求されない。花壇
の手入れ、図書の整理、除草、挨拶運動への協力など誰でもが自由に参加できる。
   一方の「教育活動支援ボランティア」の方は、一芸に秀でた「有志指導者」で
ある。多くはカリキュラムに直接関係した内容である。
   多田さんにお尋ねすることを忘れたが、ここまでシステムが整備されている以
上、学校がその気になれば、穂波町と同じ土曜スクールを開校することも理論上は簡
単である。
   事業のキーワードは「開く」である。学校支援ボランティアは、人の心を開き、
学校を開き、地域を開くことに繋がるという。同じ意味で、やり様によっては、「い
きいきサタデースクール」も、地域を開き、学校を開き、ひとびとの心を開くことに
繋がる筈である。しかし、参会者の、議論の行方では、学校だけは「開国」の方向に
行きそうもない。「学校鎖国」と「学校自己満足」のシステムは相変わらず続いてい
るのである。
  閉鎖的運営についても、教員採用についても、問題教員の処遇についても、外国
人教員に授業を持たせない免許状制度についても、現状のシステムに欠陥があるので
ある。にもかかわらず、システム自体を変えようとせず、その中で”頑張っています”
、”われわれも忙しいのです”と繰り返しているのが学校である。それゆえ、熱意の
有無に関わらず、事態はほとんど改善されない。チャータースクールの実現、学校経
営への株式会社参入が待たれる所以である。もちろんそれは、学校の仕事ではない。
政治家の仕事である。無能な政治家をいただいた国民は確かに不幸であるが、彼等を
政治家に選出しているのも又国民であることを思えば、「因果は巡る」のである。

*  参加論文:「土曜教育力ー活動選択肢の充実と少年における生涯学習格差の拡
大ー」(三浦清一郎)は若干の予備があります。ご希望の方は90円切手を同封の上、
事務局までお知らせください。
 

 

←前ページ    次ページ→

Copyright (c) 2002, Seiichirou Miura ( kazenotayori@anotherway.jp )

本サイトへのリンクはご自由にどうぞ。論文等の転載についてはこちらからお問い合わせください。