「効率が10倍アップする新・知的生産術」を読んでみた

 帰宅途中に駅の本屋に立ち寄った時、売れ筋本のコーナーで「効率が10倍アップする新・知的生産術―自分をグーグル化する方法」が大量に置いてあって目立っていたので買って読んでみた。この本だけでなく、売れ筋本のコーナーには、勉強法やライフハックなどの自己啓発本が並んでいたのだが、特に最近話題の勝間本ということで入口に専用コーナーができているほどだった。
 勉強法や知的生産の本には軒並み10万部以上売れているヒット作が多いようなので、日本人の向上心や仕事へのモチベーションの高さは捨てたものではないなと思う反面、多くの人が仕事や生活がうまくできてない不全感を抱えていることの表れにも見える。
 このジャンルの本は、著者も述べているように、一つ二つヒントになる気づきが得られれば十分だと思うし、全部真似しようとしても到底続かない。本に書かれているのは、著者自身の仕事や生活のコンテクストの中で積み上げられたノウハウであって、異なるコンテクストにいる人がそのままやっても無理があることが多い。
 勉強の仕方や生産性向上の仕方というのは、何か必然性や目指すところがあって初めて生きてくるし、ノウハウとして積み上がっていく性質のものだと思う。本書の最初のところで、著者が自分にとってどんな必然性を抱えていて、どんな制約の中でノウハウを身につけてきたかを説明している。この点は本書の評価すべきところだと思う。
 ただ、基本的にこの本はすでにたくさんついている「勝間本」のファンのための本のような印象を受けた。内容的には、以前の著作の「無理なく続けられる年収10倍アップ時間投資法」などの方がざっと見た感じではまとまっていたのでそちらを読んだ方がよくて、この本は勝間本のファンになった人へのフォローアップ的な位置づけでとらえた方がよいのかなと思った。というのも、以前の著作よりも成功者としての著者本人にフォーカスされているため、普通の人が段階的に学べるような構成にはなっていない。「技術」として整理されている項目の多くは、著者自身のコンテクストでしか実践しても意味がないようなことが並んでいる。
 言ってみれば、「料理の鉄人」を見ているようなもので、料理がうまくなるわけではなくても多くの人が楽しんでいたように、この本はあるレベルまで到達してしまった著者の技を見て楽しみつつ、自分でもやってみようかとモチベーションを高めるための作品。あるいは、わかる人にしかわからないたとえをすると、ポールギルバートやイングヴェイのような名人のギター教則ビデオを初心者が買って見ても何も学べないけど、買ったファンは買ってそのビデオを見ることで満足するというような状況に似ている。
 
 一つ短所をあげれば、ページ数の割には(以前の著作はよく読んでないのでおそらく)以前の著作の内容を繰り返しつつより著者自身の経験を語る感じになっているところがあり、書かなくてもよさそうなことを書いて作品の価値を下げているところが散見された。著者の固定ファンにはそれでよいのかもしれないが、余計なことは書かずに3分の2くらいに原稿を削った方がよいかなという印象を受けた。
 これは斎藤孝あたりにも共通の問題点だと思うのだが、いったん売れて支持層が広がってしまうと、多少内容が粗くても売れてしまうので、多作化傾向のなかで質より量を追う形になってしまい、一作あたりの価値が削がれてしまっている。原稿の依頼が次々に来て忙しくなるなどの著者側の事情もあるとは思うけども、もう少し内容を吟味して、不要なことは書かないようにした方が結局は読者を大事にすることにつながると思う。
 そういう課題のある作品ではあるけれども、知的生産性を上げることに関心のある人、特に勝間本のファンのツボにヒットする一冊ではあると思う。