図書館と生涯学習
おれが若しこの新聞の主筆ならば、
やらむーと思いし
いろいろのこと(啄木)
図書館への怨念
友人が公立図書館長の公募に応募することになりました。その時の彼との問答の一部は、振り返ってみると、図書館に対する我が長年の愚痴と憧れの綯い混ざった心情の吐露のようでした。筆者は国立社会教育研修所に勤務した時代、図書館司書の研修を担当する専門職員であったことがあります。
司書という「専門職業」(?)人に対する幻滅と怒りはその時から今に至るまで引きずっています。私の体験した司書たちは、専門性は低く、プライドだけが高く、図書館は「文化施設」であるという幻想の上にあぐらをかき、「成熟した市民」だけが自分たちのサービスの対象であるとうそぶき、当時の社会教育をも、図書館を利用しない一般市民をも見下していました。
結果的に、研修の受講態度はいい加減なことが多く、Worst2でした。(Worst1は、突然に学校を"追い出されて"泣く泣く社会教育主事の資格付与講習の受講を命じられ、はるばる東京まで送られて来た先生方でした。西も東も分からない行政システムの中で右往左往する先生方には同情を禁じ得ないところがありました。)
司書の大部分は女性で、その彼女たちの多くは研修を息抜きと勘違いし、勝手に欠席し、気ままに遅れて来て、気ままに早退し、当方が契約した人気講師を囲んで、研修の一こまを絵本のサイン会にしてしまうことなど朝飯前でした。(もちろん、図書館司書講習の講師もたるんでいたということです。)若かった頃の筆者は彼女たちのあり方を「税金泥棒」と呼んで、市民の現場を知り、社会教育の関係者に倣って利用者の拡大のため「営業」にでもでかけたらどうですか!と毒づいたものでした。
これまでの図書館の特性
● 1 ● 利用者層の特定化
図書館の最大特徴は利用者層の特定化です。リピーターの多いこと、図書館に優るところはないでしょう。図書館人は、「成熟した市民」だけが自分たちの顧客であり、自分たちは一段高い文化施設の職員で、公民館のような通俗を相手にする教育施設とは一線を画しているつもりですから、利用者の来館を待っているだけで、「営業」に出ることは稀です。当然、新しい客を呼び込む企画もほとんど立てたことはないでしょう。当時の群馬県が図書館に社会教育主事を配置して、新規事業の企画立案をてこ入れしようとしましたが、こちらも教室に「お客の待っている」教員上がりの方々ですからなかなかうまくは行かなかったようでした。
結果的に図書館は今でも多くの市民に日常の「必要施設」として認知されていないのが実情でしょう。公民館に行ったことのない人もいますが、図書館に行ったことのない人はさらに多く、図書館の所在すら知らない人も多いのです。図書館という名称からしてすでに時代に取り残されているのではないでしょうか?現代のメディアは「図書」に限定される筈はなく、各種情報とその媒体を網羅したメディアセンターに変革すべきことは明らかではないでしょうか?図書館に高い給料を払って公務員をおく必要はない、と政治が判断し、人件費節約の為に指定管理制度を活用して、外部にアウトソーシング(委託)をするのは決して間違ってはいないのです。しかも、我が友人のような地方政治も、民間企業のトップも体験している意欲のある民間人が館長職につけば図書館は新しいメディアセンターとして生涯学習の一大拠点になり得るのです。残念ながら結果的に友人の夢は果たせませんでした。小賢しい行政が公平を装うために彼を募集の「当て馬」に利用したのではないかとひそかに心配していました。
● 2 ● 「参考業務」機能の停滞
図書館司書のあるべき専門性はほとんど活かされていません。本来、司書の役割は参考業務(資料の検索、情報の案内サービス)が主要任務であると思いますが、現状ではコンピューター検索やインターネット検索で従来の司書機能の大部分は機器がカバーしています。それ以上のことを町の図書館の司書に聞いてもまずは分からないでしょう。司書の主要機能は図書資料の貸し出しと整理屋に過ぎないのです。にもかかわらず図書館法によって法律上の配置が義務づけられていて人件費上、誠に無駄が多いのです。本の分類は、納入の際に、すでに出版社や販売専門業者が手がけています。整理のできた図書を分類するだけであれば、素人が少しの研修を受ければやれるようになります。図書館に関わる人々は、運営側の人々も、利用者側の人々も、長い間図書館に付着して来た「エリート意識」と「専門性」の幻想を捨てなければ新しいメディアセンターへの変革はできないのです。
● 3 ● 身近な図書館: 生涯学習施設としてのメディアセンター
総合的に判断して従来の図書館は行政による税金の投資効果を十分に果たしているとはいえません。機能を多様化、複合化して図書館のアカウンタビリティ―:『税金の投資に見合った効果』を向上させなければならないのです。図書館は市民の生涯学習をどのように手助けすればいいでしょうか?以下は友人に提案したあまりお金をかけないでできるいくつかの案です。
●1● 図書資料の寄贈運動を展開する
市民における図書館の認知度の向上を図るためには、市民の参画が不可欠です。図書館を市民の中に位置付けるためには関係者の会議を積み重ねても、口先だけのアンケートをとっても到底不十分です。以下は「寄贈運動」作戦の要点の箇条書きです。
* 寄贈者は必ず図書館を認知します。
* 寄贈図書コーナーを作って、寄贈者を認知します。図書館通信にお名前を掲載してお礼を申し上げることも重要でしょう。
* 寄贈図書は「備品」でなく、「消耗品」登録をします。そうしておけば、万一、紛失、破損などの場合にも会計報告などの対象にならないからです。
* ごみとして捨てられる図書の中に有用なものがあることは周知の事実です。図書資料リサイクルは「分別収集」より簡単なことは明らかでしょう。
* 「積んどく」だけの図書は図書館に来れば活用されて真価を発揮します。
●2● 「一坪図書館運動」のモデル
図書館サービスの認知度を向上させるためには、図書館を市民の身近に移動させなければなりません。モデルはかつてのアメリカのシアトル市や山梨県の「一坪図書館運動」にあります。「一坪図書館運動」(山梨県)とは、寄贈図書など「消耗品」に分類のできる図書を待合室サービスのある公共施設や企業の協力を得て市民の身近に配置し、貸し出し自由として、配本をサイクル化することです。
●3● 図書館サービスの最大の課題は開館時間の延長です。
フレックスタイム制の導入によって、開館時間を延長し、特定「学習・閲覧」部屋の利用時間を延長することなどはすぐにでもできることです。図書館がフレックスタイム制を導入したということをお聞きになったことはあるでしょうか?地方公務員に運営を任せている限り不可能でしょう。公民館の部屋がなかなか確保できないような町では、学習会や受験生の需要は極めて大きいはずです。
●4● 公民館との連携
公民館事業に施設を提供して図書愛好家のための講座を開設することもできます。例えば、「注目の新刊紹介」、「市内読書会交流会」、俳句の本をそろえた「句会」、短歌の本をそろえた「短歌会」、茶の本をそろえた「茶会」などです。貸し出し册数が上がることは請け合いです。
●5● 小規模の展覧会、コンサート、ブック・トークなど他分野の生涯学習プログラムを導入して、従来の図書館利用者以外の市民をお招きすることもできます。
●6● 学校、公民館、福祉関係の団体などに呼びかけて小規模のバザー会場を提供することもやろうと思えばできます。要は、図書館に足を運んでいただくことが先決なのです。筆者がかつて勤務した米国、シラキューズ市の図書館はバザー、映画会、室内楽、コーヒーサービスなどがあって常に市民のいこいの場所になっていました。
●7● 研修室、会議室などがある場合は夜間などの自己管理制を導入して、会議室として市民に提供することができます。市民の側にとっても、責任を持って公共施設を利用することは重要な生涯学習です。かつて東京都の水元青年の家は閉館時間後の自主管理制を導入していました。
●8● 学校の先生と協議をして、図書の単元(5年生だったと思います)が出て来た際に、「図書館遠足」を企画し、終日子どもに図書館を開放するという案はいかがでしょうか?東京都武蔵野市立図書館の有名な企画でした。
●9● 華道教室と連携したもちまわりの「華活けボランティア」で館内を飾ることはすでに多くの社会教育施設が実践しています。
●10● 郷土史の日、絵本の日など特別プログラムを企画し、喫茶店などと協力して「ブランチサービス」を催すなど新しい企画で新しい市民を集めてはどうでしょうか。
●11● 図書館に「熟年寺子屋」を開催してはどうでしょう。熟年期の活力は、読み書き体操ボランティアの活動にかかっています。共通素読、寺子屋通信の発行、自分史の執筆、業間体操、館内奉仕など熟年者にとって図書館はさまざまな可能性に満ちた施設なのです。図書館に欠如しているのは社会教育の発想なのです。
●12● 放課後や休み中の子育て支援プログラムを創設することも可能です。児童サービスは参考業務と並んだもう一つの図書館機能です。
* 乳児期の交流サロン―本を素材とした保護者の交流サロン
* 幼児期の発達支援-年齢別、発達段階別定例読み聞かせ・紙芝居・みんなの歌・折り紙など
* 学童期の宿題サポート
●13● ボランティアの発掘と養成と協働の仕組みづくり
* 図書館ボランティアを分野別に募集・要請する
* 人気は「読み聞かせ」です
* 図書館「実践・ご意見拝聴モニター」選書から運営まで提案したことは自分たちが参画して実行するボランティアです。
啄木ならずとも、若し自分がこの図書館の館長であれば「やらん!」と思いしいろいろのこと、です。
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