第63回フォーラムレポート 「プログラムの意識化」と「意識のプログラム化」
● 1 ● 上質の試行錯誤
紹介を続けている「豊津寺子屋」は意識の産物である。寺子屋のすべての活動は筆者を始め、関係者の意識と構想をプログラムに翻訳したものである。換言すれば「意識のプログラム化」である。事業の青写真は事前に存在している。実行委員会が実際に実行出来るか出来ないかは別として、何のために何をどうやるのかははっきりしている。すべて意識されたものが実行できなくてもそれはそれで仕方がない。「理論と実践」、「構想と実行」の間には常に埋め難い溝が存在するからである。
これに対してプログラムの目標や構想が混然と入り交じって、はっきり意識化されていないプログラムがある。事前の青写真がないのである。実践は現実の必要に即して生まれ、始めから理論の枠組みに従っているわけではない。筆者がお聞きした限り、今回、山口県の白木美和さんが発表された「すろーふーど和(のどか)」の活動は明らかに後者であった。活動は時間を追って肉付けされ、付加価値を加え、方法が多様化し、参加者も増加している。しかし、その道筋は始めから決まっていたものではない。いろいろなことをやっていますね!、というのが第1印象であった。フォーラム参加者の質問が分散したのはそのせいであろう。「のどか」のプログラムには活動の「地図」がないのである。上質の「試行錯誤」が続いているのである。もちろん、「意識化されたプログラム」が優れていて、「意識化されていないプログラム」が劣っているということではない。何よりの証拠は白木さんの「のどか」の活動は多くの皆さんの支持を得て、参加者は常に増加し続けている。プログラムが進化し、その魅力が人々を呼び寄せていることは疑いない。
● 2 ● なぜ「地図」を作るのか?
研究者が「地図」にこだわるのは、事業目的と方法を共有するためである。活動の目的と内容・方法をきちんと連動させて、第3者の評価と点検を受けるためである。地図がないとどこへ向かって、進んでいるのか、進んでいる方法は間違っていないか、他者に説明することが難しい。企業人のいう『Plan-Do-See』のマネジメントサイクルを実行するためにも「Plan」が存在しなければ、評価基準を想定できないからである。他者と交流・意見交換するためには共通の基準を前提にしなければならない。自然科学分野ほど明確には割り切れないが、文明機器の普及のために「メートル法」を始めとした計測のための国際基準を定めることと原理は同じである。
恐らくは「すろーふーど和」の活動はその名前の示す通り食に関する関心から出発したが、活動の過程で食育の実践を通して「食」や「環境」の重要性の意識化、子を持つ保護者同士の交流、体験交流を通した子どもの基本的生活習慣の確立などに目的が次々連鎖・発展して行ったのであろうと想像できる。ここに「プログラムの意識化」の問題が登場する。余計なお世話は承知の上だが、筆者が「翻訳」すれば、「のどか」の総合プログラムは「食を見直す料理交流」、皆さんが集う「孤立化の防止と保護者の連帯の促進」、お泊まり保育による「子どもの共同生活の予行演習」と「基本的生活習慣の確立」に分類される。したがって、実践の評価もそれぞれの目的別に内容・方法の効果と適切性を問うことになる。活動プログラムを意識化して、「何のために、何を、どう行うか」を明確にする事は行動を目的別、機能別に分類して説明することである。そこから議論は進化・深化して行く。いかがでしょうか?
当日の論文発表は「熟年の生きる力」(三浦清一郎)である。論文のポイントは「生きる力」の構成要因には順序性・段階性があり、それはマズローの唱える「欲求のハイラ−キー」のように人間の「動物性」から「人間性」への進化の順序・段階を反映しているということである。巻頭小論をご参照下さい。
◆「豊津寺子屋」有志指導者健康調査 ◆
1 垣間見た「寺子屋」効果
3学期も半ばを迎え、「寺子屋実行委員会」は有志指導者の労をねぎらうかたわら、評価・反省会議をもった。筆者の気力と準備不足のため、本年度は指導者の健康・体力測定は実行できなかった。その代わり会議の時に簡単なアンケート調査を行った。集まったのは全体の3分の1ぐらいの方々だったが、調査票の提出者は20名に留まった。傾向を垣間見るに過ぎないが、報告をまとめてみた。質問は4つである。第1問は「調子はいかがでしょうか?」第2問は「体力は維持できていますか?低下していると感じますか?」である。第3問は「寺子屋」指導への気力・関心はいかがですか?」第4問は「寺子屋は心身の健康にプラスに働いていますか?」である。
(1) 調子は良い!
20名中16名は「調子は良い」と回答している。自覚症状の理由は「快眠・快便・食欲旺盛」であり、「心気充実」であり、「医者にかからなかった」である。
(2) 体力は維持できている!
「体力を維持できている」と回答したのは20名中17名である。体力低下者の自覚症状の主要原因は「故障が出た」ということである。「体力維持者」は「去年やれたことは今年もやれている」と答え、「身体の故障もない」と胸を張っている。
(3) 寺子屋活動への興味関心は増大している!
20名中18名が「興味・関心」は増大している、と回答している。「予習や準備に力を入れ」、「担当外でも見学にも出かけている」。「チーム内の打ち合せも活発である」と説明している。
(4) 寺子屋は心身の健康に有効である
20名中17名が「寺子屋」は心身の健康にプラスに働いている、と回答した。しかも、大部分の方は「大いに関係している」と答えている。
2 限定調査の限界
想定した通り「寺子屋」の指導体験は熟年の健康を大いに促進している。心理的な充実についても疑いない。チーム制を採っているのでお互いの交流の促進に役立っていることも明らかであろう。しかし、心身の健康に与える高すぎるプラス効果は次のような制約を想定して理解する必要があるであろう。
(1) お元気な指導者だけが会議に出席した可能性がある。量的に分析したり、その意味を解釈するのは時期尚早である。
(2) 「寺子屋」活動に熱心な人々だけが回答した可能性が高い。効果が高すぎることは注意すべきであろう。
(3) 医療記録や体力測定の結果を参照して、結果が同じように出た時、はじめて「寺子屋」の指導効果が熟年自身を支えている、と断定することができる。 |