第62回フォーラムレポート
ことは「子育て支援」に限ったことではないが、プログラムの成否は担当者の「構想力」の問題に帰する。したがって、社会教育事業に見るべき事業が少ないのは構想力の貧困の問題である。すべての行政プログラムに知恵がないとまでは言わないとしても、「意欲」、「気力」に欠けることは昨今の状況から明らかであろう。既存の事業や施設管理を「指定管理者」に丸投げすることは危険だとしても、住民の中には、遥かに行政をしのぐ、多くの知恵と積極的な意欲と、挑戦の気力があることは実践の中から垣間見ることができる。今回のご報告は久留米市の子育て交流プラザ「くるるん」の岡部美貴さんと「熊本県阿蘇郡産山村の『子どもヘルパー事業』」を取り上げた九州女子短期大学の大島まなさんにお願いした。論文発表は別記記事の通り、「豊津寺子屋」事業を行政、保護者、子どもの視点でそれぞれに評価した「子どもの居場所の総合評価」(三浦清一郎)である。
* T * 久留米市子育て交流プラザ「くるるん」事業 ************
1 「くるるん」とは? *****************************************************************
平成14年10月、久留米市が子育て交流プラザくるるんを開設するにあたり、施設で活動する「子育て支援ボランティア」を養成する。受講したボランティア会員により結成された団体で、現在、20〜70才まで70名の会員を擁している。平成17年4月から施設の運営を久留米市より委託され、母親の自立を目標とした子育て支援活動を行っている。
2 「くるるん」レポート
****************************************************************
岡部美貴さんは7才と9才の2児の母である。子育てが面白くて、出産後に保育士の資格を取得し、現在では、久留米市の「子育て交流プラザーくるるん」の運営を委託されスタッフとして奮闘している。いただいた資料によれば、「くるるん通信」はすでに39号を発刊している。「風の便り」の編集に携わっている筆者としては、担当者の「意欲」と「気力」は通信を見ればおおよその判断はできる。プログラムの中身も豊富で変化に富んでいる。「音楽のひろば」があり、「エアロビ」があり、「子育てホットライン」があり、「親子の英語サークル」もある。「おしゃべりサロン」は住民に開かれており、託児もサービスもついている。その他、定例の「ふれあいベビーマッサージ」や「くるるん広場」には季節季節の小さなプログラムが付加されている。「子育てセミナー」や「母子健康相談」など現代の子育てに不可欠の学習機能も併設している。住民が住民に呼び掛ける「子育て支援ボランティア養成講座」も続いている。施設の開館時間は午前10時から午後6時までである。行政職員はフルタイムの高い給料を取っているが、とてもここまではやれないであろう。
3 「くるるん」情報
******************************************************************
(1) 住所:〒830ー0033 久留米市天神町8番地リベール5階
(2) 電話:0942-34-5571
(3) E-mail: kururun@ktarn.or.jp
(4)ホームページhttp://www3.city.kurume.fukuoka.jp/kurume-child/html/pre07-1.htm
* II * 「一人前」の予行演習ーふるさと貢献に挑戦する「子どもヘルパー」事業 *
1 子宝の風土は「子縁」の風土 *******************************************************
子宝の風土では子どもが一番大事である。それゆえ、子どもが変われば地域が変わる、子どもの「守役」たるべき学校が変われば地域の人間関係が変わる。子宝の風土は「子縁」の風土だからである。戦後教育の悲劇と滑稽さはこの事実に学校だけが気付かなかったことである。
子どもヘルパー事業は子どもの活躍が地域も地域の人間関係も変えることになった。本事業もまた構想力の勝利である。構想力は福祉部門と村長のリーダーシップによって支えられた。学校が全面的に協力したことによって「構想」の意味は倍加したのである。
2 事業の趣旨・内容
****************************************************************
子どもたちが、自分が生活している地元の地域にもっと目を向け、在宅の高齢者や障害者の生活や福祉問題を理解し、地域の一員として福祉活動に協力する機会を作り出そうという事業である。具体的には、小学校4年生以上の子どもたちが「子どもヘルパー」として地域の高齢者・障害者宅を訪問し、高いところの窓拭きや庭の草取り、室内の掃除など、相手の要望に応じて手助けを行う活動が中心である。学校が変われば地域が変わる実例である。以下は分析者の事業評価の要約である。
3 子どもヘルパー事業の意義と背景 *************************************************
(1) 子どもが地域社会に貢献するボランティア活動である。
(2) 福祉と教育との連携・協力事業である。福祉領域の部署が主管であるが、学校や社会教育関係団体に働きかけ、村内関係部局がうまく連携している。
(3) 事業は学校のカリキュラムに組み込まれている。
(4) 長期に渡る継続的な体験活動プログラムである。
(5) 小学校4年生から中学校3年まで継続して同じ高齢者世帯と交流する活動である。
(6) 地域の世代間交流を促進する結果をもたらしている。
(7) 子どもにとっても、高齢者にとっても交流と教育の価値がある。
|