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風の便り

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生涯学習通信

「風の便り」(第63号)

発行日:平成17年3月

発行者:「風の便り」編集委員会


1. 『むなかた市民学習ネットワーク』の20年

2. 中・四国・九州地区生涯学習実践研究交流会第24回大会のご案内

3. 「アホな総合的学習」と「アホでない総合的な学び」

4. 第55回生涯学習フォーラム報告

5. MESSAGE TO AND FROM

6. お知らせ&編集後記

お知らせ 第56回生涯学習フォーラム

   フォーラム実行委員会では第25回中国・四国・九州地区生涯学習実践研究交流会を期して記念出版を行うため編集の準備を開始しています。そのため当分の間、各地の事例発表のお招きはお休みとし、代わりに、過去の「交流会」の発表の中から注目すべき事例を選び、その意義と内容・方法を実行委員の持ち回りによりそれぞれが小論文の形にまとめて発表する形式を取ります。

日時: 平成16年4月16日(土)15時-17時、
         のち「センターレストラン『そよかぜ』にて夕食会」

場所: 福岡県立社会教育総合センター

テーマ及び事例取りまとめ者:
        1 大島まな 熊本県阿蘇郡産山村?「子どもヘルパー事業」(九州女子短期大学)
        2 古市勝也 (発表事例未定)(九州女子短期大学)
        3 三浦清一郎 「地域の自立と自治公民館生涯学習まちづくり機能の可能性(仮)」

フォーラム終了後センターレストランにて「夕食会」を企画しています。ふるってご参加下さい。準備の関係上、事前参加申込みをお願い致します。(担当:恵良)092ー947ー3511まで。
 


◆◆ 編集後記  Carolina Blue-家族の風景 ◆◆

    South Portの町は、米国北カロライナ州の東の端に位置している。「恐れ岬Cape Fear」川が大西洋に流れ込む河口である。風変わりな川の名前の由来は大西洋の墓場と呼ばれた沖合いの難所と関係しているらしい。春爛漫の花の中を類いなく美しい風景をながめて歩き回った。街にはかつて河口に面して砦が築かれ、独立以前から守備隊が駐屯していた。歴史の浅いアメリカの中ではいろいろな物語を有した由緒ある土地である。歴史の古さを思わせるものは家々の庭の大木である。街中が天を仰ぐような樫の大木で囲まれている。櫟に似ているのもあれば、楢に似ているのもある。日本でこのような町にお目にかかったことはない。うらやましい限りであった。復活祭の休暇に便乗して妻の一族がこの町の別荘を借りて集まった。アメリカも核家族化の進展は著しいのであるが、南部の人々はかつての日本の農村のように拡張家族のつながりが強い。妻の両親・祖父母が生きていた頃は優に百人を越える一族が集まったものだが、次の世代はご多聞に漏れず少子化で人数が減り、家族の求心力も失われつつある。それでも3人姉妹に連なる20数名のメンバーが集まった。特別に何をするでもない。日がな一日集って、のんだり、食ったり、しゃべったりする。話題は家族の近況やスポーツやそれぞれの日常の小さな出来事が中心である。おしゃべりに飽きると自転車で散策に出かけ、カヌーに乗り、川辺、海辺を歩き、釣りに出かけ、カードやクイズ形式の家族ゲームに興じたりする。数日後にはそれぞれの日常に帰って行くわけだが、不思議なことにそれがひとびとのエネルギーを発電している。

    若い時代から私はこの種の会合が苦手であった。日常の些細な話題や家族の話題には興味がなく、スポーツや土地の出来事もまことにつまらない。だから話が途切れて続かないのである。私が興奮したのはいつも、政治、経済、歴史、社会システムに関する議論であったが、その種の話題は多様な家族の集まりの場には似合わないのである。さらに自立しようとする「個」にとって、家族関係の多くはしがらみであり、家制度は束縛以外の何者でもなく、事実、偶然ながら、国際結婚をした自分の最大の敵であった。しかし、年老いて今ようやく血族の感情だけでつながる人間関係にも多少の意義を実感するようになった。農耕民族も、狩猟民族も、人間がまだ無力で、自然の風雨や、夜の闇や、獣や、飢えの恐れにおののいていた頃、血族だけを頼りに、心貧しく肩を寄せあい、家の守りを固くして、火を起こし、灯をともし、助け合い、励ましあって何万年も生きて来たのであろう。大家族の一員と結婚して初めての集会に参加した時の事を思い出す。私はたった一人の日本人であったが、妻の祖父が新入りの私を紹介して仲良くするようにと宣言をしたあと、人々の私に対する処遇は平等になった。今回自分の子ども達が同じように親族の輪の中に入ってカードゲームに興じているのを見て妙に安心しているのは、自分の流儀だけで戦う事をやめた老いのせいなのであろう。

    South Portは今日も晴れ上がって、キャロライナブルーと呼ばれる透き通った青空である。ツグミが歌い、黒鳥がさえずり、ペリカンの群れが渡る。かつてよちよち歩きであった子ども達が、今は、配偶者を伴い、それぞれの子を抱いて大西洋をみはるかすバルコニーに立つ。驚いたことに集まった中でいつの間にか自分が最年長になった。アメリカにも多少の長幼の序はある。若い甥や姪が席を譲り、珈琲をもって来てくれたりする。二つの文化の間に立って、このように老いて行くことをありがたいと思わねばなるまい。

(留守中沢山の方々から地震見舞いをいただきました。当方無事です。ありがとうございました。)


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(代表) 三浦清一郎 E-mail:  kazenotayori@anotherway.jp

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