9月にETC Pressから出版されたSabrina Culyba著「The Transformational Framework」がとても良い文献ですので紹介します。本書は多くのシリアスゲーム開発を手掛けたゲーム開発会社Schell Games(カーネギーメロン大学ETC教授でゲームデザイナーのJesse Schell氏が設立)でゲームデザイナーとして活動する著者が、同社のこれまでに蓄積してきた開発ノウハウを体系的に整理した解説書です。
教育/学習ゲーム、研修ゲーム、教育シミュレーション、シリアスゲーム、アプライドゲーム、ゲーミフィケーション、ゲームズ・フォー・ヘルス、ゲームズ・フォー・チェンジなど、さまざまな呼び方で広がってきた、娯楽を超えた用途や効果のためのゲームのことを「トランスフォーメーショナルゲーム」(変容を起こすゲーム)と総称して、そのデザインフレームワークとして8つの要素に整理して解説しています。
・上位目的:そのゲームの目指す変容
・オーディエンスとコンテクスト:そのゲームの対象者と利用される状況
・プレイヤーの変容:そのゲームを通して生じる変容
・障壁:なぜその変容が起きにくいのか
・領域概念:変容を起こすためにゲームが扱う知識
・専門知識源:ゲームに取り入れる知識をどこで手に入れるか
・先行事例:関連する先行事例から学ぶ
・効果測定:ゲームが起こした変容の測り方
ゲーム開発の基礎知識から、企画段階の心得的な留意点、ターゲットの絞り込み方、扱う知識の選び方、領域専門家との付き合い方、先行事例の調べ方や効果測定の方法の選び方など、シリアスゲームや学習ゲームの開発において役に立つ実用的なアドバイスが豊富に盛り込まれています。
これまでにも同様の開発ガイドブック的な文献は出てますが、「シリアスゲーム開発の参考書のおすすめはないでしょうか」と聞かれた時に、ちょうどよく勧められる文献は多くありませんでした。本書は、この分野の開発に着手したい方からそういう質問が来た時に、まずこれを読んでください、と力強くお勧めできます。
本書のPDF版は無料でダウンロードできますので、シリアスゲームやゲーミフィケーションデザインを扱う授業で参考文献にしたり、本書で輪読会をやってみんなで議論したり、ゲームジャム参加前の予習文献にしたりと、さまざまな用途で活用できると思います。
11/25 追記:”transformational” の訳語を教育学分野の定訳に合わせて”変容”に修正しました。