Kinect発売へのシリアスゲーム研究者の反応

 すごく久しぶりのブログ更新。あまりに久しぶりで、ブログ登録作業のルーチンを思い出すのに少し手間取ったほど。リハビリも兼ねて、今回は軽めのネタで。
 先日、11月4日にマイクロソフトのXbox360用の新型モーションセンサー「Kinect(キネクト)」が北米で発売された。発売イベントでかなり盛り上がっている様子が紹介されている。下記はその様子を伝えるYouTube映像。
Kinect Delight – Inside Xbox

 


 このビデオの後半、ハリウッド俳優のマーク・ウォールバーグが登場して、彼がサポートしている子ども支援団体のBoys & Girls Club of Americaへ、Xbox360のKinectバンドル版を4000台寄贈したことが伝えられている。
 こういう慈善活動をミックスしたセールスプロモーションは、どの業界でもアメリカでマス展開する際の定石になっている(たとえば、日本でもやっているリフォーム番組の「ビフォー&アフター」は、依頼者が金払うけど、米国版の「Extreme Makeover: Home Edition」は、依頼者の選定のところが慈善活動的な設定になっていて、費用はすべて(大手ホームセンターや家電メーカーなどの)スポンサー持ちで、依頼者は負担なしで家を建ててプレゼントしてくれる)。有害問題で風当たりの強かったゲーム業界も、かなりのところこうした慈善的なアプローチを取り入れることで、イメージ改善を図りつつプロモーションにつなげている。
 さて、このキネクト、海外のヘルスケア関連のシリアスゲームコミュニティ「ゲームズ・フォー・ヘルス」のメーリングリストでも、さっそく話題になっている。このML参加者は40~50代で女性の割合もかなり多い、というかヘルスケア関連分野は女性研究者が多いため、米国東海岸で毎年開催されている「ゲームズ・フォー・ヘルス」カンファレンスの会場でも、むしろ女性の来場者の方が目立つほどだ。ゲーム世代の20~30代男性が中心の日本とは対照的に、シリアスゲーム研究に関心の高い層の構成そのものが海外では全く異なっているところがある。
 キネクトは日本でも11月20日に発売されるが、こちらはXboxが弱いこともあって、ゲームメディア以外ではほとんど話題になっていない。そもそも、Wiiやキネクトのようなゲーム機を医療用途で利用することを真面目に研究している研究者が何人もいないため、盛り上がりようもないのが現実だ。どうあがいても、この国内の現状から一足飛びに海外のような盛り上がりに至ることはありえない。それに研究の基盤がない状況で下手に盛り上げたとしても「セカンドライフ」ブームの二の舞になるのは見えている。
 もちろん、海外の研究者がみんな優れているわけでもなく、的外れなことをやっている人もいるし、ただ盛り上がっているだけの人も当然いる。ただそういう注目してくれる層がいなければどんな研究をしたところで状況は好転しないし、一部で頑張っていてもその人たちのモチベーションに頼るだけでは、いずれ立ち行かなくなる。なので国内でシリアスゲーム研究を軌道に乗せるためには、ただ関心のあることだけ研究していればよいという話ではない。展開の見取り図を描いて、地道にコミュニティ形成につながる活動を並行しつつ、そのうえで軸となる研究の基盤を作っていくことが不可欠となる。ここまでやってきてわかってきたこともあるし、ようやくこれからが始まりなのだと思う。