延長戦折り返し~親方肌の指導教員

 10月に入り、帰国予定を延期した4ヶ月のちょうど半分が過ぎた。だいぶ寒くなってきた(朝晩は10度以下になる)のと、かなりの詰め込み日程でここまで進めてきて疲れやストレスがたまって体調に影響してきたので、少しスローダウン。
 今まで進めてきた仕込みがようやく形になり、指導してもらっている教授たちとの打ち合わせも軌道に乗ってきて、普通ここは士気が上がるところだろうというところなのにどうも気持ちが盛り上がらない。長丁場なので休み休みやってきたつもりなのだが、さすがにへたってきたらしい。早めの夕食後にラム酒をちょっと入れたミルクティ(とても美味い)を飲んで身体をあたためて、たまったビデオを見ていたら少し回復したので、とりあえずブログで頭の試運転。


 先日、同じプログラムの院生が研究計画をプレゼンしていたので、聞きにいってきた。普段はこの手の発表には数人しか集まらないのだが、発表者のアドバイザーの授業の時間だったらしく、10数人来て小さな会議室が満席になっていた。集まった顔ぶれを見ると、僕と同じアドバイザーの指導を受けていた院生たちがいた。最近ミーティングに出てこないなと思っていたら、アドバイザーを代わっていたのだった。
 僕のアドバイザーのDr. ブライアン・スミスは、面倒見が悪いことにかけてはプログラムの教員や院生たちの間で定評がある、というか非常に評判が悪い。他の教員たちは面倒見の良い教育者で、事務的なこともスムーズに進めてくれる一方で、彼はつかまえてサインをもらうだけでもひと苦労するし、ミーティングをセッティングするには細心の注意を払ってタイミングよく切り出さないと、メールしといて、とか言って逃げられて、そのままスルーされる。
 彼の指導は手厳しく、安易な研究にはまるで関心を示さない。面白いと思ったら乗ってきて、とても高度な指導を受けられるのだが、そこまで持っていくのが至難の業。彼の研究者としての経歴は結構なものなので、その評判を聞いて指導を受けたいとやってくる院生も多かったが、相性が悪かったり面倒見の悪さにねを上げたりでみんな去っていき、今はもうほとんど残っていない。
 
 僕自身、これまで何度もミーティングの場で他の院生たちの前で吊し上げられたり絞られたりしながら苦しんできた。修了試験をパスしてもう2年半ほどになるが、その間繰り返し研究内容を練り上げてきて、ようやく彼が本腰を入れて知恵を貸してくれるところまで来ることができた。
 ブライアンの指導スタイルは、ものわかりのいい教育者には程遠く、むしろ徒弟制の親方と言ったほうがしっくりくる。面倒な手続きは意に介さず、ノリやこだわりを大事にする。人にやらされるのが大嫌いで、その代わり自分の興味のあることには果てしなく没頭する。上から押し付けられた教育者モデルや業績稼ぎのためにする志の低い研究を毛嫌いする一方で、自分のイメージする教育者像や確固たる研究者としての美学のようなものを大事にしている。
 そんな親方にこっぴどく絞られながら修行を続けてきて、ようやくその成果が出せそうな研究ができそうなところまで来た。とはいえ、まだ仕込みが終わっただけで、本番はこれから。もう途中でやめて帰国しようと何度思ったことか知れないくらいの毎日だったが、何とかここまで来て、残りも何とかやれそうな気がしてきた。
 まだ越えないといけない難題がいくつかあるものの、あと2ヶ月で必要なデータを集めて論文が書けるメドを立てて、ようやく帰国の運びとなる。なので12月中には帰国しますよ、とここで小さく告知してみる。ここまで書いてふと気づくと、だいぶ体調も良くなっていて、また明日からがんばれそうな気がしてきた。疲れてなし崩し的に休むんでなく、休む意志を持って積極的に休んだ方が回復が早いらしい。