9月のこの時期のTVは、米ネットワーク各局の主要TVドラマが開始されてにぎやかになる。全部はカバーしてない(できない)が、とりあえずは「ヒーローズ」、「プリズン・ブレイク」、「ターミネーター・サラ・コナー・クロニクルズ」をチェックした。
ネタばれは嫌だと思うので中身について細かい話はここではやめておくが、いずれも新たな展開を取り入れて、初回はとてもよい滑り出しといったところ。いずれも開始前に再放送やスペシャル番組を投入して、固定ファンの維持や新規視聴者の獲得にものすごく気を使っている様子が伺えた。
一番盛り上げに力を入れているのは「ヒーローズ」だった。ウェブと連動したキャンペーン、開始前のプレミアイベント番組、開始後の視聴者参加キャンペーンと、他の番組にはないマーケティングの力の入れようだった。
各シリーズの初回を見て思ったのは、登場するキャラクターが育っていることだ。最初はうだつの上がらない感じで登場した脇役にストーリー上重要な役割が与えられたりして、レギュラー格になっていたり、前シーズンまでとはストーリー上の役割が変わっているキャラクターが出てきている。これは、おそらく最初の時からそのような展開を考えていたのではなく、脚本上のキャラクターと、俳優の個性が組み合わさって、企画当初には存在しなかったキャラクターが生まれて回を重ねるごとに成長し、視聴者の支持を得て存在価値を高めてきているというところなのだろう。どこか途中で死んでいてもおかしくないような脇役(プリズン・ブレイクのべリックやマホーンみたいな)が生き延びて、新たな役割を得て活躍している。これは演じる俳優がさえなければ起きないことだし、ストーリー上の都合やその俳優本人の都合(昔の「太陽にほえろ」のように)で途中で死ぬこともある。
このようなキャラクターの成長は、映画のシリーズものでは表現しにくい面白さだ。映画の続編はいかんせん作品間の空白期間が長い。作品一本あたり2時間程度で、それが数年おきの上映になると、TVシリーズよりもキャラクターの成長は遅いし、継続性の表現や脇役の成長の描写も難しい。それに演じる俳優自身が歳をとってしまうという問題もある。TVシリーズは1シーズンに1時間×20数本分のストーリー展開があり、映画にすれば1シーズンで10本分以上になる。たまに映画を見に行くに付け、この差の大きさを感じる。
キャラクターの成長という点では、上記3シリーズの中で「ヒーローズ」が一番面白い展開をしている。このシリーズは登場する主要キャラクターの数が尋常ではない。毎シーズン、何人か死んでいなくなるが、次のシーズンにはまたさらに濃いキャラクターが補充され、同時展開されるストーリーも他のシリーズに比べて多いため、見ていていつも忙しい。
ちなみに、通常この時期に新シーズンが始まる「24」は、脚本の書き直しとか諸事情で冬シーズンに延期になったそうだ。当初はずば抜けてインパクトのあった24も、今では他のシリーズに追いつかれた感がある。キャラクターの成長の面で言うと、24の一番の弱みは、毎シーズン育てたキャラクターを犠牲にしながらストーリーの緊張感を演出してきたことにある。ジャックの身近な人はほとんど死んでしまったし、毎回出てくる敵キャラもシーズンごとの使い捨てだ。
かたやヒーローズもプリズンブレイクも、主要キャラクターが生き延びることで次の展開につながるという構成にしている。24は映画的なストーリーテリングの手法が残っているところに限界があって、後発のシリーズは24が生み出した映画的なテンションを保ちながら、TVシリーズ向けの持続可能な手法が確立されたという捉え方もできる。
脚本のライティングスキル的には、このヒーローズが一番高度なのだろうと思う。これだけ壮大な話を複雑に展開させてよく破綻しないものだと感心させられる。これもハリウッドのライターたちが大勢かかってアイデアを出していることにもよるのだろう。
この点は、日本のマンガ家のストーリーライティングの技術の高さにも感心させられるが、時に一人のマンガ家のチームでは手に負えないところまで展開させすぎてストーリーが破綻してしまう人気漫画も多く見られる。ハリウッド製のTVシリーズにもそういうところは当然出てくるのだが、上記の人気ドラマシリーズのように、プロダクションがうまく機能した時のインパクトは各段に大きくなる。
米国でもTVが産業として肥大化しているため、主要ドラマは大ヒットを狙ったものにせざるを得ないという事情はあるのだろうが、そのなかから生まれる作品のパワーは衰えていない。むしろ最近の映画よりもパワフルなところがあるし、毎シーズン新たに投入されるシリーズの勢いを見ると、米国にはTVメディア産業の持つコンテンツ制作力に並ぶ存在は出てきていない。
このほかにも「フリンジ」、リメイクの「ナイトライダー」など今シーズンから始まったシリーズがあるのだが、これらについてはまたの機会に。