「MANSWERS」にみる日本のコンテンツ産業の活路

 今シーズンから、ケーブルTV局のSpikeTVで始まった「マンサーズ(MANSWERS)」という深夜番組がある。
 この番組は、日本で言うところの情報バラエティ番組で、世の男性が好奇心を持ちそうな疑問の答えを提供するというコンセプトの番組。30分番組で、一つの疑問につき3分程度のビデオクリップで答えを示しながら、テンポよく展開する構成になっている。たとえば、つぎのような疑問が取り上げられている。


・熊に襲われた時に身を守る方法は?
・バーでチンピラに絡まれた時に撃退する方法は?
・時間差で死に至る殺人パンチは存在するのか?
・日本刀と弾丸はどちらが強い?
・カージャックに襲われた時の防護方法は?
・エレベーターが落下した時に助かる方法は?
・女性のオッパイは水に浮くのか?
・豊胸シリコンはどれくらい丈夫なのか?
・大試合の前日にセックスしても能力は落ちないか?
・売春婦のふりをしたおとり捜査官を見分ける方法は?
・ネズミ捕りのアルコール測定器をだます方法は?
・どうすれば素早く酔っ払えるか?
・自動販売機に殺される人はどれくらいいるのか?
・尿の意外な利用法とは?
・便秘で死ぬことはある?
・手錠をかけられた時に抜ける方法は?
 これは最初の3回の放送で取り上げられたテーマの一部。こんな感じで、男性の興味をそそる「くだらない」テーマを扱っていて、男たちが日常の暇つぶしの話題にできそうなネタを提供している。この番組を放送しているSpikeTVは、プロレスやB級アクション映画など、一般男性向けのケーブルTVチャンネルで、この番組もTV局が対象とする男性向けのテイストに合わせたつくりになっている。
 下記のクリップ(内容は「手錠抜けの方法」)を見てもらうと感じがつかめると思うが、番組のつくりは日本の情報バラエティ番組的でとてもテンポが良く、見ていて飽きない。真面目に考えるのが恥ずかしいような性質の話題を、くだらないなと笑って楽しみながら見てしまえる勢いがこの番組のノリとなっている。深夜帯の番組としては、キー局の深夜のトークショー並みの視聴率をあげていたりして、かなり健闘している模様。

 番組の最後にフジサンケイグループのロゴが出てきたので、日本の番組のリメイクなのかと思って探してみたら、どうやらこの番組の元ネタは「トリビアの泉」のようだ。パッと見ただけではまったくわからないほどにテイストが違うのだが、「日本刀と弾丸のどちらが強い?」で出てきたビデオがトリビアの泉のもののようだった(ちなみに、日本刀が弾丸を真っ二つに割っていた)。元ネタの面影は全くなく、完全にマッシュアップされていてアメリカンテイストにあふれる番組になっている。日本の情報バラエティやクイズ番組も、ひな壇タレントを使わなくてよければ、こういうつくりになるのだなと感心させられるところだ。退屈なタレントのやり取りがカットされて、情報バラエティ番組がパワーアップしている印象を受けた。
 PTAからは低俗番組指定されそうな番組なのだが、実はこの番組、とても教育的なところがあって考えさせられるところが多い。まずテンポ良い展開で退屈させないこと。そして興味を持たせる話題を真面目に扱っていること。番組の終わりにダイジェストで学んだ内容をおさらいする構成になっていることがある。セックスや暴力の話題でも、専門家が出てきて真面目に解説している。護身術の話の時は護身術の専門家が出てきて状況にあわせた説明をしているし、エレベータが落下した時のことはその筋の専門家が「ジャンプしてはいけません。床に伏せて頭を守りましょう。でも生き残れるのはせいぜい5階までの高さまでです」などと解説してくれる(ちなみに一番素早く酔っ払うには、お尻からアルコールを摂取すると一番早く酔っ払うが、自覚症状が遅いので非常に危険なのだそうだ)。
 この番組以外にも、「料理の鉄人」や最近では「SASUKE」など、日本のTV番組のフォーマットが米国に輸出されている例はいくつかあるし、「TVチャンピオン」のような番組は各局で人気になっている。おそらくテレビ業界だけでなく、これは他のコンテンツ産業、アニメやゲーム業界においても考えておいた方が良い話かもしれない。
 この点は日本のゲームもアニメも、テレビ業界以上に海外での評価が高いのは間違いないのでなおさらだろう。日本国内だけを見ているとわかりにくい話だが、一歩外に踏み出してみると、日本のコンテンツ産業の制作力というのは標準値が高い。国内で平均点以上の力が出せるところは海外に出れば案外ブレイクする可能性は大いにある。言葉や文化のせいで内にこもるのは機会損失でしかない。言葉や文化の問題は、個々のノウハウの問題と同じで、わかる人を雇うなどして対応すれば何とでもなる問題なのに、むしろ心理的な障壁の問題で外に向いていないところがある。
 ゲーム産業については、今年のCEDECの様子からは、日本のゲーム産業の状況に危機感を持った人々が先導している様子が伺えるが、果たしてテレビやアニメ産業はどうなのか。一つ理解しておいた方が良いのは、日本のコンテンツ産業は、メイド・イン・ジャパンのアドバンテージにプレミアムが付いている現在の状況に乗じるべきだということだ。ゲーム産業では、韓国のゲーム会社はどんなにがんばっても、さすがは韓国のゲーム会社、というブランドを築くことができないでいる一方で、日本のゲーム会社は単に日本の会社だというだけで、マリオやゼルダや「カタマーリ・ダマシィ」みたいなゲームを作れる日本のゲーム会社のクリエイティビティに期待されるところがある。アニメやマンガはドラゴンボールやナルトやデスノート、みたいなという話になる。
 冒頭に取り上げた「MANSWERS」がヒントとなるのは、番組制作の方向性にある。元ネタのトリビアの泉の番組フォーマットをそのまま米国に持ってきても通用しない。ひな壇タレントがたくさん出てくるクイズや情報バラエティの類は米国ではまったく流行ってないからだ。ここは「料理の鉄人」の輸出と大きく異なる点だ。トリビアの泉のような番組は、日本の事情に合わせてクリエイティビティを先鋭化させた結果であって、日本の事情という制約がない状態で何ができるか、という話なのだ。実際、このMANSWERSの扱うネタやテイストは違えど、コンセプトはトリビアの「ヘェー」が基調となっていて、それがどういう対象に向けてどう演出されるかの違いになっている。
 日本の市場の複雑な状況に合わせながら発揮できるクリエイティビティは、おそらく海外の他の市場の事情に合わせて考えても通用する。要は制約条件の違いだけなのだ。そのことに気づいて海外に目を向けるクリエイターを増やすことが、日本のコンテンツ産業の活路の一つとなるだろうし、そのために何ができるかということがコンテンツ産業支援のための知恵の絞りどころだろう。