ペンステートの大学院オフィス主催のグラントライティングワークショップに参加してきた。今年は例年よりも内容を充実させているとかで、第1回目に大きめの教室で全体の導入セミナーをやって、あとは定員50人で分野ごとのセッションを行う形で企画されていた。対象は教員、ポスドク、大学院生で、初めてグラント申請を考えている人やあまり経験のない人向けの内容で設定されていた。
講師は、大学本部オフィスのストラテジック・イニシアチブ・アンド・リサーチ・プログラム・デベロップメントという部門で雇われているグラントライティングのスペシャリストの女性。認知科学で博士号を取得していて、現在はペンステートの外部資金獲得を強化するためのスタッフとして活動している。子どもの頃から細かいことに気づいて指摘するのが得意だそうで、これはグラントライティングに向いている性格なのだそうだ。
ペンステートには、大学院オフィスにも各カレッジにもグラントオフィスがあって、それぞれに申請に関するサポートスタッフがいる。今回のようなセミナーも定例になっているほか、プログラムによってはグラントライティング講座を授業科目として提供しているところもある。
今回のワークショップは、2時間の単発セッションで時間が限られている上に参加者数が多いためもあってか、申請書の書き方を詳しくやるというよりは、申請に当たっての心得や最近の動向、情報源のあたり方などが中心だった。参加者は留学生の方が多いくらいだったのだが、扱う情報は米国市民しか申請できないフェローシップや政府系機関のグラントの話が中心だった。留学生が申請できるものは非常に限られるので仕方のないところだが、この辺りは改善が必要な感じだった。
講師の話の中で、面白かったところをいくつか。
・社会科学研究のグラントは2000年頃は状況がよかったが、年々獲得が難しくなっている
・政府系の資金は近年枯渇してきているので、非営利財団のグラントをよく調べよう
・グラント獲得はゲーム。ゲームのルールを理解して獲得できるやり方ができるかどうか。こういう考えがいやな人もいると思うが、残念ながらそういう人はお金は取ってこれない
・サポートしてくれるメンターやスタッフを早い段階で確保することが重要。ギリギリにあわてて書いてもサポートが得られないし、つまらないミスで落とされるリスクも高まる。とにかく早く動くこと
・メンターのネームバリューが選考でプラスになることもある一方で、選考委員にメンターと仲の悪い人や敵対グループの人がいる場合もあって、そういう場合はまず通らない。これはアカデミズムの醜い現実。そういう時はその選考委員が入れ替わるのを待つしかない
・ペンステートのオーバーヘッドは47.5%。グラントの応募規程に上限が明記されている場合を除いて、基本的には獲得額の約半分は大学の取り分となる
こういう場で「グラント獲得はゲームだ」とか言い切ってしまうところはさすが米国というか何と言うか。当然、米国の研究者にもこういう言い方にけしからんという反応をする保守的な人はいるが、最近の流れとしてはゲームとして捉える向きの方が強い感じだ。
あと、受託研究などの成果責任の縛りがある資金と違って、グラントは「獲得してしまえば基本的には成果責任は問われない性質の資金」だと説明していた。チェックの仕組みが厳しいこともあって、変な使い方はされないものの、補助金が取れたらめでたしめでたしで、予算が余れば特に必要なさそうな備品購入で予算消化したり、終わりの方がしぼんでしまったりするプロジェクトが多いのも納得だと思った。僕が見てきた範囲では、外部資金に対する感覚の違いこそあれ、この辺は日米とも同じ感覚。日米の違いよりも、お金の流れ方が形成した大学という組織の文化の影響が大きいのだと思う。
そのほかには、グラント情報ウェブサイトや大学院生向けの代表的なグラント、申請書のお手本の入手の仕方などを紹介してくれた。米国の大学の外部資金事情は、提供主体がさまざまでボリュームも多いこともあって、情報提供サービスが充実している。前に英国の大学の事情を聞いたときには、外部資金の獲得機会は限られている様子で、もっと日本に近い感じだった。なので日本で語られている海外の大学の外部資金の話は、海外の事情と言うよりは多分に米国の大学の事情と言った方がよいのだろう。
それとこの辺りの事情は全然知らなかったのだが、間接費で47.5%を大学が持っていくというのは、まさに税金。もちろん大学ごとに事情は違うのだろうけど、この税率の圧縮のために大学本部とも交渉が必要になったりするのだろう。ぼんやり見落としてたり、交渉下手だったりするとそのまま持っていかれそう。施設の維持などでお金がかかるのはわかるけども、これでは数千万単位の予算を取ってきても、残ったお金でできることも見た目よりも限られてくる。獲得までのプロセスの大変さを考えると忙し損で、外部資金獲得で消耗してしまうのもわかる気がする。
優秀な研究者は段取りがうまかったり、作業を楽にする仕組みで対応したりするのだろうけど、なんだか研究費なくてもいいから適当にお茶にごしながら小さな研究やって平和に日々を送る方がよさそうな気もしてくる。でもいろんなプレッシャーがあって、そういうわけにも行かないのだろう。大学でいい研究をするのも大変だ。