オンラインゲーム世界で模索の日々

 この週末は、人生でも一番と言っていいほど長時間ゲームをプレイした。疲労がたまった。手もやや痛い。
 今研究フィールドとして取り上げているゲームは、MMOG(Massive Multiplayer Online Game)というジャンルで、何千、何万ものプレイヤーがバーチャルなゲーム世界で同時にプレイしている。プレイヤーたちが形成するコミュニティの中で起こっている学習と、そのゲームのデザインの関係に関心があって、前に別のゲームでやった研究をさらに推し進めるべく、今回は日本の大手ゲーム会社が出している海洋アドベンチャーなMMOG(と言えばどのゲームかわかってしまうけど、別に隠しているわけではないので)を対象にしている。
 この手のテーマの研究は、日本ではほとんど聞かないのだけど、欧米ではだいぶ数が増えてきた。他の研究者がカバーできていることと、できていないことがあって、そこは研究の視点の違いなのだけれども、自分的にはうまくいけば、かなりオリジナルな成果が出せるんじゃないかと期待しつつ準備を進めているところだ。
 熟練研究者の域には程遠いので、毎回研究のセットアップから最後のアウトプットまで試行錯誤が続くのだけど、今回もセットアップのところで難航している。これまで準備的にゲーム世界でテストプレイのようなことはしばらく続けてきたのだけど、ゲーム内での自分の立ち位置があまりに周辺的過ぎて、熟練プレイヤー同士のやり取りの意味が深いところで理解できないで推移していた。
 忙しさもあってプレイ時間も少なく、たまにしかやらないので、人々とのやり取りも少なくなりがちだった。一緒にプレイしている人たちとも、ジョギングしてて公園で出会う顔見知りのような関係でしかなく、「こんちは」「おつかれ」みたいな簡単なやり取りしか発生しなかった。しかも、研究のためにプレイ記録だ振り返りだと、プレイ以外のことにも時間を費やす必要があるので、何かと停滞しがちだった。
 あまりに埒が明かないので、研究作業は全部ほっぽり出して、とにかく他の人がやっているようにプレイしてみることにした。自動的に残るプレイログと、時々面白い場面でスクリーンショットを撮る以外は、完全に一プレイヤーとして、使える時間を全て投入してひたすらプレイしてみることにした。
 このゲームの特徴は、モンスター征伐や冒険ばかりの他のゲームとは違って、地域間交易や、調理、鋳造、縫製などの生産もプレイの主要な位置を占めているところで、ロンドンで仕入れたウィスキーをアムステルダムに持って行って売って、帰りにジンを仕入れてまた他所で売る、といったことを利益が上がるように考えながら進めていく。街の道具屋でレシピを買って、仕入れた材料を使って料理を作り、それをバザーで他のプレイヤーに売ったり、他のものと物々交換することもできる。職業もさまざまあって、軍人と冒険家と商人の3タイプから複雑に枝分かれした職業システムがあり、スキルも前提スキルや必要レベルが複雑に入り組んだシステムが構成されている。プレイヤーたちは、自分のプレイした職業を目指して、一番適切なキャリアパスを見つけて転職を繰り返しながら、効率よくレベルを上げ、必要なスキルを身につけていく。
 知識の蓄積の仕方もとても高度な活動が行なわれている。ネット上には、プレイヤーたちが自発的に制作した、さまざまな知識リソースが提供されている。初心者向けのガイド、交易品や名産品のデータベース、地域別の交易ルートと必要スキル習得場所の一覧、情報交換のための電子掲示板、作業支援ツール、など膨大な量のリソースが日々形成されている。
 それらのゲーム内外の情報は、ある程度その世界に慣れていないと、ありがたみもわからないし、深いところでその意味するところを解釈できない。ちょっとかじった程度で研究しようなどという当初の姿勢は相当に甘かったと反省した。
 ここひと月ほどで、総プレイ時間は100時間以上に達し、レベルもだいぶ上がってきた。最初の探検家から、食品商を経て薬品商になって、調理も工芸もスキルがあがった。個人的に冒険や海事活動よりも生産系の活動が好きで、魚介のピッツァを作ったり、小麦から酒を造ったりする作業を何時間も続けたりしていた。自身のプレイを振り返ると、リアルの自分の行動傾向にかなり重なるところが見えてきた点も興味深かった。
 この週末は、ゲーム内イベントで、月例の大海戦があった。開催時間が日本時間夜で、こちらは早朝からプレイする必要があるため、今までは敬遠していたのだけど、今回はがんばって参加した。最初の集合地点での艦隊結成から反省会まで全てフル参加したら、朝の6時起きで昼過ぎまでかかった。金曜から日曜まで、特に日曜はワールドカップの日本戦の影響で一時間繰り上がったので朝5時起きで参戦したおかげで疲労困憊だったが、面白い現象を山ほど観察できた。
 ここまで突っ込んでプレイしたおかげで、だいぶいろんなことを理解できるようになった。でもまだレベル的には初級からやっと中級に上がった程度なので、上級の熟練プレイヤーたちのやり取りでわからないところは多い。それらをどこまでフォローした上で研究の区切りをつければいいのかはまだわからない。同様のアプローチで行なわれた他の研究は、2年から3年かけてまとめられたものばかりなので、この調子で行くと、自分もそれくらいかかってしまいそうだなとやや途方に暮れつつも、適切な区切りとなる落としどころを模索している。
 部屋にこもって、資料を読み、ゲームをやり過ぎて運動不足になりがちなところを、また別のゲームが運動不足解消を助けてくれて、さらにはテレビを見て気分転換をする、という奇妙なルーチンで、隠遁生活のような日々が続いている。夏が終わる頃には、この模索状態から抜け出して一歩進んでいれば良いなと願うばかりだ。