今日はインターンの出勤日だったが、Radical Thinkersのセッションがあったので、オフィスを抜け出して参加。今日のスピーカーはインストラクショナルデザイン研究の大家、デビッド・メリル博士。司会のJoshがMonumental, Elder Merrill (記念碑的な大長老メリル)と紹介していたが、まさしくこの分野では並ぶもののいない大学者であり、大実践家のメリル博士である。Instructional Transaction TheoryやFirst Principlesなどのインストラクショナルデザイン理論を編み出すばかりでなく、自分で教育ソフト開発の会社をやったり、大手企業の教育コンサルを数々手がけたりと、たいへんな人である。
メリル博士は、現在Brigham Young Universityハワイ校の教育工学アウトリーチセンターに在籍していて、今日はハワイとビデオカンファレンスでつないだ遠隔セッションだった。「そっちは雪降ってんだって?こっちも今日は寒い方でね、華氏76度(摂氏24度くらい)だったよ。ハワイでは75度以下になるとみんな寒い寒いとセーターを着込むんだよ。」などと切り出しつつ、ユタ大からBYUへ移った経緯や近況などに触れた。やはりユタ州という土地柄なのか、ミッショナリーとか教会サービスの都合が絡んでの移籍となったそうだ。
今は学部レベルのインストラクショナルデザインのコースを教えつつ、遠隔教育コースの開発指導などをしているとのこと。今ならハワイで大メリル翁の授業が受けられる。これはすごいことなので、ぜひ日本から大挙して押し寄せてメリル博士直弟子となって、インストラクショナルデザインを学んでほしいものである。ハワイでメリル博士から直々にインストラクショナルデザインを学ぶ、二流の旅行会社あたりが企画しそうな機会がすでにそこにある。どこか変なところに視察に行くよりは、常夏のハワイでメリル博士のコースを受けた方がよほど力がつくだろう。博士はかなりじいちゃんだから、そのうち引退するかもしれないし、この機会を逃す手はないぞ。
今日のセッションでメリル博士が述べていたことは基本的には彼が長年に渡って口をすっぱくして言ってきたことである。「ただの情報伝達は教育ではない」「e-learningと称して売られているコースはほとんどが学習を意識して作られていない」「インストラクショナルデザイナーの使命は学習効率を最大化することであり、その一番のチャレンジはいかに意味ある練習機会をデザインできるかである」「インストラクショナルデザイナーがデザインを効率的に行なうためのツールが必要であり、それを開発するという方向は正しい」「研究者は何か効果がありそうだ、というところで研究を区切るんじゃなくて、その発見を活かしたインストラクションの開発までやりなさい」というようなことをエネルギッシュにたいへんな早口で語っていた。頭の回転の早い、しゃべりの達者なじいちゃんである。日本人だったら、加藤寛とか永六輔をイメージすれば当たらずとも遠からずである。
メリル博士は、「今日はラディカルシンカーのセッションだから、ラディカル(過激)にならんといかんな」と何度か冗談を言いながら、率直な話をしてくれた。このラディカルシンカーというお題があるおかげで、スピーカーの一番率直なところを引き出すことができるので、普段聞けないところまで聞けたりする。セミナー企画のつぼを押さつつ継続的に行なっているため、院生のボランティアグループが主催しているとはいえ、教員達も一目置いてくれている。そのため、メリル博士のような大物も、何の謝礼もなしに喜んで協力してくれる。こういう環境下で学ぶのはすばらしいことであり、日本でもただコースを作るだけでなくて、学びを促しあうような環境作りを以下に行なっていくかが重要になってくる。